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影には光

 ドシューーン!!


 甲高く、それでいて身体全体を揺さぶるような音が響く。


 銃口から打ち出されたエネルギーの塊が、光を発しながらハミルトンさんの頭上を通り過ぎていった。

 そのまま光塊は練習場、それを取り囲む城壁を飛び越えて、青空に飛び込む。


 ああ、やっぱり左手じゃ狙いが定まらないな。


 俺は懐から取り出したビームライフル……という程でもないな。

 つまり“ビームピストル”で、なんとなくハミルトンさんの頭上当たりを狙ったはずが、随分とずれてしまった。


 だがこれで、ハミルトンさんと近衛騎士達の度肝を抜くことには成功したようだ。

 完全に、開いた口が塞がらない、状態だもの。


 俺はその隙にビームサーベルを元に戻して腰の後ろの鞘に収めると、改めてビームピストルを右手で構え直した。


 そして連射。


 このピストルの光で、影自体が消失してくれる可能性に期待もしていたが、そうも都合良くは行かないらしい。


 今まで以上のオーバースペック武器で、影を狙うしか無い。


 引き金を引く度に、6体あった影は破れるようにして千切れ飛ぶ――だが、これで消え失せたわけでは無いらしい。

 実際これと戦うとなったら、難儀なことこの上ないな。


 そしてこれは他人事でもない。


 だが確かに影達も、すぐに戦線復帰とは行かないらしいから、この隙に――


 ドシューーン!!


 今度は右手しっかり狙いを定めていた。

 もちろん人を狙ったわけでは無い。


 俺たちが出てきた扉の横辺りを、丁寧に狙ったつもりだが……おお、狙い過たず。

 石壁は一見、焦げたぐらいの様だが、余波を食らった扉が砕け散り炎に包まれていた。

 

「な、な、な、む、ムラヤマーーーー!!」

「どうです? “これ”に関してはかなり練習したんですよ――“大密林”で」


 ハミルトンさんの叫びに意識的に、的外れな答えを返す。


 俺が、どういう場所で練習してきたか――それを告げることが、何よりの脅しになると思ったからだ。

 流石にこの“手合わせ”にも、いい加減むかついてきたことだしな。


 ハミルトンさんも、即座に冷静さを取り戻してくれた。

 言わずもがなではあるが、このまま続けたら大惨事……では無く大虐殺になりかねない。

 もちろん、俺が殺されることは無いだろう。


「……それも、その“スキル”の影響か?」

「そうです。このように――」


 俺はビームピストルを、元となったクロスボウに戻した。

 これが元になっているからなのか不明だが、ライフル形態への変化も可能だ。


 ルコーンさんの仲間に釘を刺す時には、もっと大振りな物を使った……あのでっかいムカデって、急所がわからないから、結局穴だらけにするしかなかったからな。


 俺がハミルトンさんとの会話に応じたのは、この時間を使って恐慌を起こしかけているだろう、近衛騎士の頭を冷やすため。

 ハミルトンさんにリーダーシップを発揮して貰うため。

 俺が交渉可能な状態であることを示すため。


 色々な意味合いがあるが――謂わばクールダウンという表現が一番近いのかも知れない。


 そういった俺の思惑を読み取ったのか、ハミルトンさんは額に手をかざしながら、


「……アハハハハハハハ!」


 と身体を反らしながら高笑いを決めた。

 実に芝居がかってるが、これが“おしまい”の合図のつもりなんだろう。


 俺は肩をすくめて、クロスボウをピストルに戻し懐に戻す。

 ちなみに、ホルスターに収めるつもりだ、と強く意識するとちゃんと拳銃サイズに収まってくれる。


 壊れスキルとの付き合い方に……うん、やっぱり慣れていないな。


「……いや失敬。これにて“手合わせ”を終わりにしたい。こちらの降参とも言えるが」

「とんでもない。1対1での戦闘など、現実に起こることでは無いものでしょう。俺は、そういった特殊な状況に乗っかっただけですよ」


 そして俺が想定しているのはまさに1対1なので、これで十分練習になった、ということにもなる。


「――お気遣い痛み入る」


 ハミルトンさんが、剣を収め姿勢を正して一礼。練習場の周りの近衛騎士達も、それに合わせてしっかりとこちらに頭を下げてきた。

 ……うわぁ、いたたまれない。


                      □


 それからほとんどすぐに、俺とハミルトンさんは近衛騎士の詰め所を出て馬車にゆられている。

 その行き先は、リンカル侯の屋敷。

 当然と言えば当然の成り行きなきもするが、どうにも馴染めないな。


「……本当に食事は要らないのか?」

「タバコさえ吸わせてくれれば」

「空腹では無いのか?」

「空腹ですよ」


 座席は流石に座り心地がよく、なかなか贅沢な造りだったが、如何せん狭すぎるな。

 会話が途切れると、差し向かいに据わったハミルトンさんとの間に奇妙な空白が流れる。


 ……こういう状態を「天使が通る」とか言うんだっけか。


「……空腹なら、食事を摂れば良いだろう」

「はい。用事が終われば戻ってから摂ります」


 元々、侯爵の伝手の伝手ぐらいで居着いているねぐらだから、当然知っているだろう。

 冷蔵庫には豚肉があったし生姜焼きを山盛りにして、白米をかき込みたい。


「それなら、こちらの用意した食事を摂ればいいだろう。どうにも貴方の言うことは上手く繋がらない」

「……そうですか? 礼儀正しいと思いますが」

「こちらの都合になってしまうが、こちらとしては他に手段が無いんだ」

「手段?」


 何かおかしなこと言っているような気がして、繰り返してみる。


「そう手段。今回かなり強引な手を使ったからな。お詫びとお礼を兼ねた、こちらから差し出せる物――これが食事ぐらいしか無い」

「……食事、がですか?」


「私だって、おかしいとは思っている。しかしまず貴方は金を有り難く感じるとは思えん。女も無理だ。出世させれば逆に恨まれそうだし――あとは食事ぐらいしか」


 まるで俺を仙人みたいに扱いたいみたいだが……金は一応喜ぶぞ。

 だが、そういう心づもりであるなら、ハミルトンさんには差し出せる物がある。


 ……結局、俺と差し違えになりそうだけどな。


 ま、それも良いだろう。

 久しぶりにぶっ放したせいか、多少はハイになっているようだ。


「それではいくつか聞きたいこともあるので回答いただけませんか。無理な物は無理で構いませんが」

「そんなことで良いのか? しかし私は下っ端だからな。そもそも答えを知らない可能性だってある」


 ま、それは薄々ながら気付いていた。

 だからこそ詰め所から、屋敷に向かっているのだろうし。

 我ながら素直なことだと思うが、一応理由はある。


「――今日の“手合わせ”、俺へのモヤモヤを取り除くことだったんでしょう?」


「わかるか。とにかく例の騒動を調べていくと、無視できないのが“ナベツネ”という男だ。これがまったく正体不明だったが、ヒョンな事から正体が判明してな。それは良いが、この人物、早々に手を引いたらしいから、特に今の事態を引き起こしたわけでは無い――だが釈然としない」


 うん、大方予想通り。

 つまり、今日の出来事はハミルトンさんの厚意の元に繰り広げられたということになる。

 だからこそ、俺も珍しく素直に応じている次第だ。


「……体育会系、と言う奴ですね」

「何? タイイクカイケイ? どういう意味か?」


 これは当たり前に翻訳されないか。

 つまり――


「理屈を並べて説得するより、一度競い合った方がわかりあえる……そういう意味合いの言葉ですよ」

「なるほど。まさにそういう効果を期待しての“手合わせ”だった。途中から気付いてくれたようだが、上手くいったようだ」


 ええ。

 体育会系の馬鹿の相手は結構しているので。

 もちろん、それの言葉は脳内だけで、実際の返答はこちら。


「……ええ。実に助かりました。俺はどうにも落とし所がわからなくて、引くタイミングがわからなかったんですよ」

「そうかな? それに引いてくれたのは実に絶妙なタイミングだった。あれ以上やられたら、今頃笑い話になってない」

「いえ、あの影の……技ですか? あれは本当に危険でした。そうだ、あれが一体何なのか教えていただけませんか?」


 ここまでの展開を脳内シミュレートして、同じ展開まで持ってくることができた。

 この先のフローチャートは、ハミルトンさんが、


 話すor話さない


 の2択。

 もっとも、こんな斜めな外見なのに体育会系と判明したハミルトンさんだからな。

 実際には、2択だろう。


「ん? ああ、それぐらいなら簡単だ。あれは“影切法師シャドウ・オクシデア”という名のスキルだ」


 そんなわけで思った以上に簡単に教えてくれたが……


 ――ネーミングセンスに中二の香り。

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