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弾け、波打つ

 俺が火球を消失させて――


 もしかすると当然の帰結かも知れないが、何ともいたたまれない空気が漂う。

 まるで、ギャグが大事故を引き起こしたような錯覚。


 ……いや、俺じゃ無いよ?


 確かに俺の行動によって、こういった空気になってしまったが、別にウケを期待したわけは無い。

 そうこれは――“世界”が悪い。


「……な、何をした? それにその“剣”は何だ?」


 あ、ようやくのことでハミルトンさんから反応が。

 流石に俺が剣圧で火球を捌いたのでは無いことには気付いてくれたようだ。


 だが、俺はこれに対する答えは持ち合わせていない――ということにする。


「だから言っているでしょう? 俺にもこのスキルは扱いきれないんですよ。それに“魔法”に関しては全くの門外漢。むしろ教えて欲しいのはこちらです」

「……その割には落ち着いてようだが?」


「“大密林”で、先ほどの魔法を使うモンスターがいましたから。もちろん威力は違うんでしょうが……」


 もっともあの頃は、


「魔法は魔法」


 と、思考硬直起こしてたからな。

 対応策も、今とは随分違っている。

 ま、これは口にせずに“攻撃は最大の防御”作戦継続。


「それはそれとして、一体何が起こっているのかわかりましたか?」

「……いや、それは」


「ロード・ハミルトン。自分が行きます」


 何やら声が上がった。

 今まで聞いたことがない声だ。


 この練習場――と呼んでおくことにする――の端でオールバックの厳つい容貌の男が手を上げている。

 俺とハミルトンさんの後ろにくっついていた奴らでも無いな。


 ただ、周囲の反応からして、そこそこの重鎮っぽい。

 ハミルトンさんはそちらに目を向け、一吠え。


「クインツ! 不遜だぞ!!」

「ハッ!! しかしながら……」

「……確かにお前の懸念もわかる。私も確認したい事がある。ムラヤマが許してくれるなら……」


 もの凄い茶番感。

 俺は思わず笑みを浮かべてしまった。

 それをハミルトンさんも見てしまったのだろう。斜めに笑みを浮かべ、


「これは貴方のためにもなるはずだ。付き合ってくれると助かる」


 言葉の意図はよくわからなかったが、この茶番に付き合うことに否は無い。

 何しろ一番の目的は“練習”だからな。


 俺はこくりと頷きながら、


「それではそのように。ただ一人ずつでお願いしますよ」

「無論」


 と答えたのは、クインツと呼ばれた男だ。

 そうしてハミルトンさんと入れ替わるようにして、練習場に上ってくる。

 自己紹介しながら。


「――自分はカミル・ミコワイ・クインツ」


 ああ、長い名前の方ですね。なかなか良いお宅でお生まれになったのでしょう。

 ノリ的には俺も名乗り返すところだったが、はて、俺は……何と名乗っていたんだっけか。


「俺は――カケフ・ムラヤマです」


 そうそう。

 確かこんな感じ。

 クインツさんはゆっくりと頷きながら、


「突然の申し出を受けてくれて感謝する。自分は氷の魔法でお相手したいと思うが、構わないだろうか?」


 氷……?

 俺がこのビームサーベルを使うことは見ていたはずなのに?

 いまいち本意が見えないが、俺の方には練習ができるというメリットは必ずある。


「そちらの良きように」

「感謝する」


 と、言うが速いが自らの頭上に氷塊を形成し始めた。

 ああ、次の試験は冷たさでは無く、対応できる質量か。

 あまり意味があ……るとは……大きすぎない!?


 氷塊と言うより、すでに氷山クラスにも思えるが――これ、俺の安全は考えられてるのだろうか?


「アイス・デ・セパレトネ!」


 叫んだ!

 それも小っ恥ずかしい何かしらを!


 巻き込まれたら、あらゆる意味で怪我しそうだが、その叫びと共に氷塊がこちらに迫り来ている。

 避けたいところだが、ここは根性で錨を下ろし、何とかこの場で迎撃しなくては。


 幸いなことに壊れスキルは、間違いなく稼働している。

 緩慢に近付いてくる氷塊を、ビームサーベルで炙ってやれば……


 ピキンッ!


 その時、俺の判断をあざ笑うかのように氷塊が細かく分離した。

 そして無数にさえ思える氷塊が、速度を上げて俺に殺到する。


(クラスター爆弾かよ!?)


 と、俺がここで慌てても仕方ない。

 ゴチャゴチャ考えるのは――後回しだ!


 分かれた氷塊の全てが、俺の身体に向かってきているわけでは無い。

 つまりこの魔法は、対個人ではなく対集団用の面制圧を目的とした仕様なわけだ。


 迫り来る氷塊を剣の切っ先と考え、体幹を維持したまま順次対応。

 何、全てを躱す必要は無い――ビームサーベルで払えば、かなり余裕を持って対処できる。


 ……という理屈を考えながら、ビームサーベルを右に左に忙しく動かす。

 いや、これ先にハミルトンさんと練習できなかったら、悲惨なことに――なりませんね。

 何しろ壊れスキルには、まだまだ余裕がありそうだし。


 そして俺は、アイス・何とかという魔法を凌ぎきったらしい。

 クインツさんは驚いた表情を浮かべていたが、やはりこのビームサーベル相手に、氷では分が悪すぎるんではなかろうか。


 それを口に出すべきか否か――と、迷っている間にクインツさんは練習場を降り、代わりに別の人物が現れた。もちろんハミルトンさんではない。


 今度もまたオールバックの男性? ん? どっちだ。


 とにかく細面な人物だ。クインツさんもそうだったが、髪色はごく平均的なブラウン。

 この人物の方が、少しばかり明るめだが……ま、細かいところだ。


「私はキャリー・マクガフィン。引き続きになるけど、よろしいかしら?」


 女性か。

 俺は再び頷きながら、簡潔に答えることにした。


「はい、よろしく」


 何度も自己紹介はしなくても良いだろう。

 正直、自己紹介は苦手だ。


「……どうも貴方は――そう、物わかりが良すぎでは無いかな?」


 そんな俺にキャリーさんは、不審感を覚えたらしい。

 確かに俺には“練習したい”という目的があるが、だからといって、この状況を積極的に歓迎したくも無い。


 つまり抵抗せずに、近衛騎士むこうの思惑を受け入れた方が面倒が少なくなる。

 ……と思うというか、経験則的に()()()()()からだ。


 それで、こういう対応になっているわけだが、そもそも俺の機嫌を伺うのであれば、最初から拉致しなければいいわけで……ん?


 練習場から降りて上半身しか見えないが、ハミルトンさんの表情は窺える。


 笑ってるな……


 この状態が彼の望む方であるようだが――うん、わからん。

 俺はただ、練習道を突き進むだけ。

 ……というわけで、当たり障りが無いように返事をしておこう。


「慣れぬ戦いの場ですから、緊張しているんですよ」

「とてもそうは見えませんが」

「そこは人それぞれ、ということで」

「ふん」


 どうやら納得いただけなかったご様子。

 もっとも俺には相手を納得させる義務なんかないからな。

 その件は同意見であるのか、キャリーさんが表情を改めた。


「――私はいかずちの魔法でお願いするわ」

「なるほど」


 ……と一応返事をして見せたが、正直なんでもいい。


 それよりも騎士だって言ってるのに、誰も彼も魔法使うんだな。

 侍みたい――だと考えるのは、ウィ○ードリィに毒されすぎか。


 キャリーさんは右手を高々と上げ、叫ぶ。


「サンダー・スピナム!」


 ええい、この中二発声はどうにかならんのか?


 そのキャリーさんの右腕が、いきなり発光をはじめバチバチとなっていた。

 これは帯電?

 何か思ってたのと違うが……と!


 キャリーさんの右腕が振り下ろされ、その先から稲妻がほとばしる。

 ……わけだが、やはり速度が制限されている。


 やはりこれは電位差による“落雷”ではなくて、電気エネルギーに何らかの形で指向性を持たせた魔法――いやこれは?

 俺は慎重に、大袈裟すぎるほど大きく横にスライドして稲妻を躱す。

 

(やはりか)


 スライドしながら、通り過ぎたはずの稲妻が依然として存在していることを確認。

 これで間違いないだろう。

 この魔法は――


(稲妻を操り、鞭のように操る)


 ――と仮定する!


 と、決めつけながら稲妻に最接近。

 視界の端で、稲妻の先端が弧を描いているが見えたが、もうこっちの方が速い。


 俺は、伸びた稲妻に横合いから切りつける。

 一度だけでは無く、何度も、何度も。


 ――何しろ手応えが全く無いもので。


 だが、これによって“稲妻を焼き切る”という摩訶不思議現象が周囲の目にさらされたわけだ。


 俺は、振り払うようにビームサーベルを翻し、再び青眼に構える。

 すでに、稲妻は全てが消え失せていた。


 もはや背後は気にしなくてもいい。ただキャリーさんからの追撃に気を配ればいいわけだが、彼女は呆然とした表情を浮かべて停止してしまっている。

 恐らく、彼女はこれで手仕舞いだろうが――


 ――理屈としては魔法無効化、あたりが落とし所かな?

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