表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
第一章 ノウミーにて
7/334

疑心暗鬼が異世界で踊る

 俺のスキルの陰謀によって、格子越しに話をすることも出来ない。

 それに地下だから、ジメジメしてるし寒い。


 そんな場所に女の子2人を長らく留めるなんてことはできない。

 早めに用件を済ませ、2人にはお引き取り願うのが常識ある者の採るべき選択では無いか。


 だが現実には、さほど広くもない部屋に3人入り込んでいる。

 この場合、常識が無いのは――俺のスキルだな。


 それからアーサーさんも予想外の動きをした。

 堅実だと思っていたのに、あっという間に女の子2人に籠絡されてしまったのだ。


「牢の中に2人を入れるのはおかしいでしょ?」


 俺は真っ当に抗議を行ったつもりだが、


「今さら、そんなこと言っても通じるわけ無かろう」


 と、即座に返された。


 その後も、


「密室に男女が――」


 と訴えてみるが、


「そんなもの、俺がここに居るのにか?」


 と返されておしまい。


 そして格子の代わりのガラスは普通のガラスであった。

 それが成果といえば、成果だろう――この部屋がマジック○ラー号ではなかった事が判明したのだから。


「もちろん、依頼は受けたのよ。でも、それが取りやめになってね。騎士団がでばってるとかなんとか」

「へぇ」


 と、相づちを打てただけ幸せなのかも知れない。

 何しろ話を聞く状態まで持っていくのが大変だったのだ。


 この部屋は2人の好奇心を刺激する物で溢れかえっているのだから。


 一通りの電化製品の紹介が終わり、2人の興味を引きつけたのは、やはりというべきかゲーム機――というかゲームだった。

 視点的にはファーストパーソンのRPG。


 流石にガンアクションはどうだろうと思った選択だったが、これがツボ。

 2人は先を争ってコントローラーを奪い合い、やれ右だ、左だ、あの丘を登ってみたい、この森凄いね、あ、この場所知ってる、知ってるって何よ、街の南側だよ、ほら川が流れてて、ああホントだ似てるかも、でも他が全然違うじゃない、あれおかしいな、あ、でもここなんか、森なんて入ったら大体同じよ――


 2人しかいないのに、何とも姦しい。


 昨日までは、ここまでやかましくは無かったんだがなぁ。

 その後、簡単な短剣での攻撃を教えたらアニカがさらにのめり込んでしまった。

 剣を使う職業クラスでもないのに。


 ……欲求不満なのだろうか。


 結果としてアニカがコタツに陣取り、メイルが寝台ベッドの上。

 そして俺は、部屋の隅で立ち尽くす。


 女性に近付いたら、冤罪被害を受ける。これ俺の知ってる日本の常識。


 おかげでこの部屋は、牢屋としての機能を回復したようなものだ。

 俺が決してその場所を動かなかったので、メイルも諦めて尋問――じゃなかった話を始めることが出来たのだから。


「それでイチローの方は、何があったの?」

「どんな風に聞いてる?」


「ヨハンたちが、やたらに怒鳴ってた。イチローが何かしたんだって。で、マスターがそれをかばってる感じ?」

「マスターって言うのは、レナシーさんのこと?」

「ああ、そう。そんな名前だった」


 相変わらずアクセル踏みっぱなしの会話術だ。


 俺はざっとこうなった経緯を説明。特に嘘を混ぜようとか、誇張したりは考えていない。

 出来れば2人には俺寄りの姿勢を取らないで欲しかったが――


「何それ! マスターも情けない」


 やはり、こうなってしまうか。

 どうも2人――1人はゲームに夢中だが――は相変わらず俺を贔屓状態らしい。


 会ってまもなくの男にここまで肩入れするとか、彼女たちは自分たちがおかしくなっているとか気付かないものかな。


「……おかしいな。マスター、そんな印象なかったけど」


 ――何?


 俺の考えにシンクロしたかのようなメイルの発言。

 もちろん“おかしい”の対象が違うのは承知の上だ。


 だがこれは……


「メイル、レナシーさんの印象ってどんな?」

「え? あーっと、えっとね。優しい人だよ、うん」


 どうも奥歯に物が挟まったような物言い。

 ここはもう一押ししてみよう。


「つまり強引に俺のスキルを確かめたりは……」

「うん。しない感じ。別の言い方なら事なかれ主義かなぁ」


 容赦が無くなってきた。

 しかし実際、そういう印象だった気もする。


 俺はさらに、自らの利益を追求する場合もあ、強欲な小心者と考えていたが、これじゃ確かに上手く繋がらないな。


 もっと単純に“異邦人”が特殊スキルによってもたらす利益を、その立場上知悉しており、目がくらんだ。

 この可能性も十分ある。


 いや、レナシーさん自身が、そんな風に考えているかも知れない。

 だがしかし世界システムが――


 ――()()()()()()


 とすれば?


 俺は思わず口元を抑えていた。

 まるっきり中二病の妄想そのものだが、今陥っている状況(異世界)が妄想そのものと言っても過言では無い。


「イチロー、どしたの?」

「マスターの話?」


 メイルの声に被せるようにしてアニカの声がする。

 それを思考を中断させる合図にして、アニカに目を向けるとようやくのことで、ニワトリを短剣で殴るのに飽きてくれたようだ。


 実はステータス画面を見せよう、という腹案もあったのだがここは止めておこう。

 いつまで経っても次の駅にたどり着かない電車に乗せるような真似は、ここまで繋がりが出来た二人を相手にするべきではない。


「マスターの話だけど、聞いてたの? ここのマスターって……要するにあんまり頼りにならないって言うか――」

「き、聞いてたよ。でも、事なかれ主義とはちょっと違う……」

「そう?」

「だって、時々私の方じっと見てる時あるもの」


 これは、いけない。

 俺は何となく漂っていた視線を、安全極まりないメイルへと向けた。

 そしてメイルと眼で会話を交わし、お互いにニコッと微笑み合う。


「それが事なかれ主義と何の関係があるのよ!!?」


 メイル、突然の爆発。

 確かにアニカの発言は意味がよくわからん。


「だ、だって、本当にトラブル嫌がる人って、そういうの見ないようにするもん。女の子のこういう視線って鋭いのわかってるから……例えばイチローみたいに」


 いきなり流れ弾が飛んで来た。

 しかし無理に反応するのは止めておく。


 それよりもアニカの発言。


 確かに自分の視線に気を付けてはいるが――周囲視がお勧め――これと事なかれ主義が結び付くとは思わなかった。


 だが、それがアニカの考えとい言うなら無理に否定も出来ないだろう。

 それに、色んな意味での“色気”を出すことがあるということなら――


 いや、それにつけ込んでのコントロール?


「……ね、イチロー」


 訴えかける声音にふと顔を上げる。

 メイルが何だかモジモジしながらこちらを見ていた。


「色々あるけどさ、やっぱ、ギルド入らない?」


 しまった。

 一旦は振り切ったはずなのに、またこの話か。


「ここじゃ、問題あるかもしれないけど別の街で登録しても良いんだし……」


 ……ここまで執着されるとは。

 アニカも頷いているのを気配で感じる。


 これはあれか。


 日本で女性から身を守るため――というか、俺の『人と関わり合いになりたくない』が妙な具合に働いたのか。


 二人は女性で、もしかすると下品な絡み方をされてきたのかも知れない。

 この“異世界”は俺が考えていた中世よりも性差ジェンダーが激しくは無いが、生活する上ではなんの慰めにもならないだろう。


 そこで出会ってからこっち、まったく大人しく、今みたいに距離感縮めようともしないおれが、貴重だと考えた――というあたりだろうな。


 俺は返事を考える振りをして、会話に持ち出す事柄の順番を考える。


「……俺が登録しても二人の助けは出来ないよ」


 まずこれから始める。


「でも、このスキル!」


 そう来たなら、話は簡単。

 俺はそうそうに片付けにかかった。


「うん。そこも問題だ。ギルドでカード作る時は、どこでも同じなんだろ? 俺のスキルはどうなると思う?」


 実際、ここがどうなるのかまったく未知数のままだ。

 二人も、答えられないのだろう。言葉が出てこない。


「結果としてカードが作れない、つまりギルドに登録出来ない俺はずっと二人の世話になるしか無い。情けないよ、これは。それにこのスキル、俺も無茶苦茶だと思うけど戦いには向かない」


 これは嘘。だけど断るにはちょうど良い。


「そ、それでも――」


 アニカが口を開こうとした時、キィ、と扉が開けられた。


「おい、そろそろ帰んな。もう随分と遅いでな」


 ナイスタイミング――は果たして俺を二人に同行させまいとする世界の選択か?

 それともただの偶然か?


 アーサーさんの呼びかけに、俺は便乗するでも無く、ただ無言で二人を見やり、それはアーサーさんも同じだ。

 二人は尚も抵抗するような構えを見せたが、結局肩を落として部屋をあとにしてくれた。


「二人ともごめんな。心配かけて悪かったよ」


 あまりの意気消沈ぶりに、思わず声をかけてしまった。

 二人は力なく微笑むと、部屋を後にする。


 アーサーさんもそれを見送りながら、最後にカシャンと鍵を掛けた。


 ――さてこれで縁が切れてくれればいいのだが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ