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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
第一章 ノウミーにて
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ここは断じてマ○ック○ラー号では無い

 実りの無いレナシーさんとの会合は終わった。


 そして部屋の外でレナシーさんは老人を呼び、俺を恐らく牢屋へと案内させる。

 牢屋が本当にあるのかは疑問が残るとこだが、老人は階段を降りていき、一階にたどり着くと、そこからさらに廊下を進む。


 この辺りは受付を行うホールの裏手に当たるようだ。

 何せ結構な音量の喧噪が聞こえてくる。老人はそれから離れて行くように廊下を進み、木箱の向こうに覗いていた暗がり――下へと続く階段に進んでいった。


 しかし、この人、全然俺を見ないな。簡単に逃げれるんじゃ無いか? ――しないけど。

 一階のその下なのだから、当たり前に地下室だった。そして鉄格子付きの部屋が二つ。


 ホントにあるんだ牢屋。

 もしかすると喧嘩騒ぎを起こした奴を放り込む用かな?


「んじゃ、ここがあんたの部屋だから」

「あ」


 今、この老人はなんて仰いましたかね?


「なんだ?」


 白髪頭の老人は、無精髭を振るわせながら牢屋のガシャンと開ける。

 このまま“俺の部屋”に入ってしまうと……俺は説明を試みた。


「……あの、俺はスキルがちょっと特殊らしくて」

「聞いちょる」

「それが勝手に仕事をするかもしれません。驚きすぎないようにお願いします」

「何を言っとるんじゃ?」


 出来れば俺も穏当に済ませたかった。しかしここで拒否すると牢屋に入るのに抵抗したことになる。さっきの今で、これはあまりにも格好が付かなすぎるのが考え物だ。


 仕方なく俺は覚悟を決めて、牢屋に一歩踏み込んだ。


 その瞬間、部屋全体が発光する。一応手加減を思ってはいたが具体的にどうすれば良いのかさっぱりわからない。部屋全体の変化なんて……


 覚えている限りでは、冷たそうな石造りの部屋に粗末な寝台ベッドがあったきりの部屋だ。

 その寝台ベッドが真新しくなってることまでは許容範囲としよう。


 それがさほど大きくないのは、俺の願いが通じた――わけでは無く他の理由がある。

 何せ部屋の中央にコタツがあるのだから。そして壁にはテレビ。その下にはゲーム機。奥には小さめの冷蔵庫。そして床はフローリングでその上にホットカーペットが敷かれている。


 ああそうだ肝心な事を説明するのを忘れてました。

 こたつの上にはみかんが盛られたかごがちゃんと置かれてます。


「電気は!? っていうか俺の部屋?」


 ……思わず口に出してに突っ込んでしまった。


 流石にここまでの変化を見せつけられては、内々で処理も出来ない。

 老人はそれにも驚いていたが、部屋の変化にももちろん驚いているようだ。惚けた表情で部屋の中をあっちこっちと見渡している。


 そうだ鉄格子は……


 ぐるりと振り返ってみると、鉄格子のあった面が一面のはめ殺しのガラス。

 それが出入り口だけがサッシで区切られて、開くように出来ているらしい。


(これは……マジック○ラー号?)


 思わず俺がそう考えても、誰も責めまい。

 外に回って、確認したかったがその内わかるだろう。


 老人が、しみじみと呟く。


「あんたのスキルが起こした騒動って、こういう事だったのか」


 いや、違うんですけどね。 


 ……でも説明する方がもっと厄介そうだ。


                     □


 老人の名はアーサーと言った。

 やはり元・冒険者らしい。詳しくは聞いていないが、随分実直な性格であるようだ。


 俺がコタツに潜り込んで、ゲーム機を接続しながらみかんをつまんで、一緒にどうですか? と誘ってみても突っぱねるぐらいだ。だからこそ牢番みたいな仕事を任されてるんだろう。


 俺は我慢しないのかって?


 どこに問題があっても、現状俺は理不尽な目に遭っている。それなのに禁欲生活を積極的に送りたいとは思わないな。実際、この牢……というか部屋、石壁で冷えるからね。


 それでも、いささかは罪悪感が湧く小心者なので、アーサーさんに無理を言って、みかんだけは受け取って貰った。


 それを、


「どうぞどうぞ」

「いやいや」


 とやってる内に食事が届けられてしまったのが誤算といえば誤算。


 持ってきてくれたギルドの関係者が、トレイに載せられていた食事ごとひっくり返してしまったからだ。

 原因は説明するまでも無いだろう。


 その後、代わりの食事と共にレナシーさんも現れて、同じように目を見開いて固まってしまった。

 俺はもう遠慮をするのを止めたので、受け取った食事を一人鍋セット――やはり水炊きが至高――に変換。

 ホットプレート鍋をリクエストしたのは火気を気遣ってのこと。


 電源?


 細かいことは気にするな。

 レナシーさんは気にしたようだが、誰が説明出来るわけも無い。


 なんだかフラフラした足取りでギルドの関係者と戻っていったが、俺は別に暴れたり、出たいと訴えたりしてないわけで、これも俺のせいじゃ無いな。


 ……しかしスキルの暴走が酷くなっているような。


 今朝はギリギリこの世界の規格に合わせた変化だったと思うが、これは確実に逸脱している。

 それとも遠慮を止めておけば、今朝からこんな状態だったのか。


 今朝と現在いまで違うところ――


 ――全力で使うことを避けてきたからデータ不足にも程があるな。


 俺は鍋をつつきながら、思考を巡らせた。

 しかし少ないデータであれこれひっくり返す内に、妙な予断が働いて見当違いな結論に飛びつく可能性もある。


 アーサーさんは相変わらず律儀に、廊下の壁際の椅子で腰掛けたまま動こうとしないので、こちらも無理に話しかけるのは止めておくか。


 さっきは気がつかなかったが、すでに天井には蛍光灯が設置されている。


 持続光コンティニュアル・ライトでも同じ事が出来るから、この辺りはさほど注目を集めなかったが、無茶は無茶だな。


 取りあえず適当にゲームをして、あと寝るか。

 三人組の内、二人がやって来た場合は……

  

 俺はぐるりと部屋を見渡した。


 ……完璧に煙に巻く自信がある。


 ロランという人の治療法が見つかるのが、解放される一応の目安だな。


 両手を合わせて、頭の中で「ごちそうさまでした」と唱える。

 ゲームをするために、こたつの上を片付けたい所だが、どうしたものか、とホットプレートに手を伸ばしたら、一瞬で元のトレイに変わってしまった。空になった食器付きで。


 流石に一瞬、固まったがもうこのスキルのやることにいちいち驚いていられない。


 俺はトレイを持って、アーサーさんに合図をすると、


「ん」


 と動じること無く、受け取ってくれた。

 もしかしたら凄い人なのでは無いだろうか。


 しかし、これで色々な現象に後始末――ロランさんに対してはどうなんだろう?

 とりあえず思いつく問題点が二つ。


 俺はロランさんに対してスキルを使った感覚が無いと言うこと。

 もう一つは、どのようにすれば先ほどのような“元に戻す”ことが出来るのか、確かなやり方がわからないということだ。


 様態が深刻であればあるほど、失敗した時の落胆、それから怒りへの道は直通コースだろう。


 失敗覚悟で試すにしても、もう少し後だな、と結論づけてゲーム機をこたつの上に持ち上げた。

 流石にテレビ局は存在しないようで、テレビはテレビとしての機能を果たすことは無く、ゲームのモニターとして使うのが健全だろうな。


 リモコンで電源を入れ、ゲーム機を起動。


 さて、何をするかな……


 と、そこで悩んだ隙に、というのもおかしな話だが、階段を駆け下りてくる音がする。

 アーサーさん、片眉を上げて誰何すいかの構え。

 俺の尋問、にしても……いや、この世界の常識はわからないからなぁ。


 それに、残り二人組がやって来る可能性もある。


「イチロー! 大丈……って、何よこれ!?」


 メイル?

 この世界の文明レベルからして、一回冒険しごとに出たら泊まりになると考えていたのだが。


 彼女は数日、俺の面倒を見てくれていたのですぐに出ていったはず――全部推論だけだったか。

 事実、彼女はここにいる。


「メイル、そんな急いで――え!?」


 似合わぬ大声と共にフリーズしたのは、もちろんアニカだった。


 ――さて、どうしたものか。

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