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分の悪い賭けを

 「鋼の疾風」による衣装合わせは、概ね終わった。


 身体の中心部を覆う鎧は身につけない。その代わり派手目なガントレットとブーツで飾るのがミソだ。

 手や足など身体の末端部分にアクセントを置くことで、ちょいと変わった印象になる。


 もしかしたら、手足が長く見えるんじゃ無かったかな?


 この辺を熱く語っていたのは漫画家志望――志望じゃ無くなったはず――だった奴の受け売りだからな。

 つまり、あくまで二次元ベース。


 いい感じだと俺は感じたが……所詮、俺の感覚。

 上手くハマるか否か。


 ……やはり、服も何とかした方が良いか。

 いや、鎧を着けないままにサーコートみたいな布地で身体を覆っても良いかもしれん。


「ランディ、どっちが良い? 俺は()()だからこっちの感覚がわからん」


 小声だったが、念のため“異邦人”という言葉を使うのを控える。


「そうだね……」


 ランディも眉を潜めて考え込んでしまった。

 俺は、さらに後押ししてみる。


「別にこの2案から決めることも無い。何かあるなら言ってくれ」


 なにしろ俺はデザインとか見た目とか関係なくサーコート案に傾きつつあるからな。

 とことんまで、ファンションセンスが欠如している。


 ……そんな奴が用意したサンダーバード帽を気に入るウェステリアさんはやっぱりおかしいんじゃないか?

 これから先の計画に暗雲が立ちこめるな。


「……サーコートを重ねる案で良いと思う」


 ようやくランディから答えが返ってくる。

 俺は頷きながら、確認してみた。


「そっちの方が見栄えが良いんだな?」

「それもあるけど、サーコート案の方がすぐに用意出来るしカ……ナベツネが考えているやり方にあっていると思って。サイズ関係なく着れるから」


 思わず俺は目を剥いてしまった。

 するとランディが慌てて手を振りながら、


「い、いや、ちゃんとこっちの方が見栄えが良いと思ってるよ。大丈夫」


 言い訳を始めた。

 俺は慎重に呼吸を整えながら、


「……そうか。じゃあ、そっちの方向で固めよう。武器屋で揃うものかな?」

「聞いてくるよ」

 腰も軽く、ランディが主人へと話しをしに行く。


 ……本気で驚いたぞ。


 これは覚醒と考えて良いのか?


 その後「鋼の疾風」の面々に前金を渡して、拘束料代わりに食費を渡す。

 ついでにランディが晩飯にも付き合うらしい。

 俺も誘われたが、もちろん断った。


 ――これがボッチの生きる道である。


                     □


 で、翌日――


 ランディ達は置いて、俺は聖堂へと向かう。

 順調にいっているところで、まったく申し訳ないが、ここから先は半分ぐらい賭けの要素があるんだよな。

 思いつきで立てた計画だし、ここら辺は脳内シミュレーションでも詰め切れなかった。


 何しろ相手はフィフス・ウェステリア――異次元からの刃を持つ男。


 やはり臨機応変という名の“行き当たりばったり”に賭けるしか無いだろうな。

 ……僅かばかりのTRPG歴――そのほとんどがGM――は役に立つのだろうか?


 まずは昼食の約束を取り付けることにしよう。

 さて、今日は閲覧室に――いた。


 この辺りも、実は賭け。他に接触方法知らないから、ここでウェステリアさんに会わなければ、かなり時間を無駄にすることになる。

 取りあえず、その危険は去ったようだ。


 俺は、一昨日おととい途中まで読んでページを閉じた、


『太陽があまねく我々を照らすように、女神の御心も広大無辺』


 をカモフラージュに持って来てはいた。

 だが、今日も読み進められないだろうな。


 読むふりだけでも――と書見台の一つに腰掛けながら、用意していたメモをウェステリアさんに差し出した。

 メモには“貸し”にしていた頼み事を聞いて欲しい、と書き記してある。

 これで昼食までは……


「すぐに向かうぞ、ムラヤマ殿」


 ……ゆっくり出来ないらしい。


 雰囲気に飲まれて、聖堂ここは学校だ、みたいな錯覚を覚えてしまうが当然そんなはずも無く。

 つまり授業中のような縛りは無く、俺とウェステリアさんには自由が保障されているのだ。


 だから後ろめたさを覚える必要は全く無い……はずなのだが。

 ガラガラの食堂を見渡すと、どうにも胸がうずくな――なんて小心者なんだ俺は。


「では、頼み事を伺おうか」


 それに比べて、なんて堂々としてるんだウェステリアさん。

 肩口から腰に至るまでの法衣の左半身が、モスグリーンで染め上げられている。


 俺がちょっと口出ししてアシンメトリーに目覚めたウェステリアさんだが……う~む俺には、これが上手く行っているのかどうか、よくわからないんだよな。


 恐らく中二テイストには至っていないと思うのだが、何より本人が自信満々なこともあって、その迫力に押されて煙に巻かれている感もある。


 というか、自信満々というより単純に態度が大きいのか。

 “頼み事”に対するスタンスが俺の想像と180度違う。


 ……これはこれで助かるんだがなぁ。


 窓の外に目を向けて「あ、お花が咲いてる~」みたいに現実逃避とかしてみても許される気がしてきた。


「ムラヤマ殿?」


 心があらぬ方向をむきかけたところで、重ねて声が掛けられた。

 ウェステリアさんの声に少し焦りを感じる。


 その感触を信じるならウェステリアさんにとっても、俺からの“頼み事”は、待ち望んでいたチャンスと言うことになるな。


 つまり――制約ギアスはしっかり仕事をしていた。


 ……ということになる。

 逃避している場合じゃ無いな。このアドバンテージを生かしつつあくまで下から。

 “賭け”の要素を出来るだけ削らなくては。


「――失礼しました。大したことは頼まないと言っておきながら、もしかしたらウェステリアさんに多大なご迷惑をおかけするでは無いかと……」

「そ、そうであるか」


「しかし、ウェステリアさんしか頼めないのもまた事実」

「とにかくお話を伺おうではないか。とにかく聞いてみなければ――もちろん吾輩としては、ムラヤマ殿の手助けを成し遂げたい所存」


 ……前振りとしてはこれぐらいかな?

 俺の予想では負担どころか、俺の頼み事をウェステリアさん喜んで引き受けそうなんだよな。

 だからハードルを上げておいて頼み事を告げれば、


「簡単じゃん!」


 と最終的にはノリノリになってくれるだろう……というのが俺の目論見。


 ただ、真っ向から断ってくるか可能性も、もちろんある。

 その時は、この前振りが予防線として機能してくれれば良いのだが。


「ウェステリアさんには講師を引き受けていただきたい」


 まず、肝心なところから切り出してみる。


「講師? いや、それは……」

「もちろん“説法”に関することではありません」


 俺はここでためを作る。


「俺が講師をお願いしたいのは別の事についてです。その点についてウェステリアさんには素晴らしいセンスがある。俺の“異邦人”としての感覚がそう告げている」

「ほう」


 ウェステリアさんが身を乗り出してきた。

 が、ここで持ち上げない。

 というか、このタイミングで、でたらめ部分の説明を挿入しておかないとな。


 俺は、王都に来てから知り合った相手――ランディのことね、念のため――に並々ならぬ恩がある。

 その恩人が、王都ここで新しい商売を始めたいという。


 何かアイデアは無いか?

 “異邦人”らしい、斬新でそれでいて人のためにもなるような、そんな商売は無いか?


 ……と俺は頼られたことにする。


 いい感じに、ウェステリアさんの興味を惹いてないのが手に取るようだ。

 この隙にドンドン嘘八百で設定を並べていこう。

 あとで、ウェステリアさん自身が言い訳を組み立てやすいように、聞こえが良い単語を交ぜておくのも忘れない。


「……そこで俺は思い出したんですよ。ウェステリアさんの事を」

「何と」


 そろそろ登場していただこう。


「俺の世界では、各分野の専門家を講師に招き、その見識を多くの方々に広めていく手伝いをする――そういう仕事があるんですよ――ウェステリアさん」

「う、うむ?」


「ウェステリアさんの見識があれば、見事に講師を任せられると、俺はビビっときましてね」

「ビビッとか」


 ちなみに、そんな仕事が本当にあるかなんて俺は知らない。

 ただ、どうも“ある”らしい事は知っている。


 手持ちの武器が無くても、ハコと人手が全部借り物でも、企画する、という一点だけでそこそこ金が回ることを。

 これがランディの店構えを見た時に俺が思いついた“商売”の大体のところ。


 もちろん俺の“実験”も含めてだ。


「……して、吾輩は何の講座を行えば良いのだろうか? 無論、説法についてはお役目上難しいぞ。その辺り、考えてくれていたようだが……」

「もちろんです」


「されば吾輩はいかなる見識を有しておると、ムラヤマ殿は考えておられるのか?」

「それは――」


 さあ、ついに来たぞ。

 最大の“賭け”が始まる。


 ここから先は、俺にとって全くの未知数。なにしろ今までは避けて通ってきた分野に踏み出さなくてはならない。

 しかもそんな分野について、わかったような顔で言及しなければならないのだ。


 つまり、ウェステリアさんに講師を頼む分野とは――


「――ファッションについてです」

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