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冒険ハリウッド

 ハイ! 僕の名前はコーネル!

 パーティー「鋼の疾風」のリーダーさ!


 ブラウンの髪に、ブラウンの瞳。そして職業は戦士。

 何だか普通だって? それで良いのさ。だってリーダーに求められる物は、何と言っても統率力。

 派手な個性で輪を乱したりはしないよ!


 今日も僕の号令一下、個性的なみんなが縦横無尽の活躍してくれる!

 君も「鋼の疾風」に期待してくれ!


 ……目の前でガントレットの具合を確かめているコーネルを見ながら、脳内で勝手にアテレコしてみる。

 ちなみにほとんど嘘と妄想で出来上がっているから、あまり信用しないように。

 さて次は――


 俺の名前はショーン。

 「鋼の疾風」のサブリーダーだ……ほとんどリーダーのパシリだけどな。


 だけど良いんだ。それが俺の生きる道だし、そんな自分も好きだから。

 アッシュグレーの前髪が長いからかな? そんな自分がわかりにくくてゴメン。


 それでも髪の下のスミレ色の瞳に掛けて誓うよ。

 コーネルや「鋼の疾風」に忍び寄る脅威は。絶対に見逃さないって!


 ……次の俺のアテレコの犠牲になったのはショーン。

 やっぱり斥候職だけあってガントレットよりもブーツが気になっているようだ。

 意図的に大きめな奴をあてがってるからな。


 だけど、元々斥候の仕事は必要ないし、見栄えを優先させて貰う。

 前髪枠はある程度、数字が見込めると思うのだが、どうだろうか?

 念のためだが、嘘と妄想で以下略。


 で、次の標的は――


 オイラ、ワーニー、よろしくお願いしますだ!

 田舎から出てきたばっかりだども、一生懸命頑張るっす!

 体だけは頑丈だから安心してけれ! 


 何だかオイラの金色の髪と、真っ青な瞳の色が凄く目立つから「お日様みたいだ」とか言われるだども。オイラ照れっちまうよ……


 でも、戦いになったら照れてる暇はないだ!

 「鋼の疾風」のみんなはオイラが守る!


 ……何となく方言枠をお願いしてみた。

 最萌え候補だが、実際どうなんだろう? ワーニーは体格ガタイも良いし、割と威圧感があるんだよな。

 それを和らげるためにも、方言はともかく、もう少し癒やし要素が必要だ。


 とりあえずガントレットとブーツはもう一回り大きくても良いかもしれない。

 今のままだと普通に装備しているだけじゃないか。


 もう一度説明しなくては――そして、もちろんの話、嘘と妄想で以下略だ。

 ワーニーは別に方言を使いこなしたりはしないしな。


 で、どんじりに控えしは――


 私はアティール女神に仕えし神官ビルツでございます。

 神聖術を駆使して「鋼の疾風」のみんなに安心力を届けます。

 私自身も、もちろん戦いますよ。


 それでも神官であるから身だしなみにも気を付けます。

 リーダーと同じブラウンの髪を切り揃え、ヘイゼルの瞳も涼やかでしょう?


 どんな時にも平静でなければ、パーティーを支えることは出来ませんからね。

 さぁ、「鋼の疾風」のみんな。行きますよ!


 ……ネタ切れ感が酷い。


 男性アイドルってこんな感じだろうか、と思ってアテレコしてみたが俺の限界は早々に訪れた。

 何というか「Aチーム」で推した方がよかったかも知れん。


 ――「でも、説法講師のウェステリアは勘弁な」


 みたいな。


 そもそも俺はアイドルについて、何にも知らないからな。

 思いつきで行動しているから、思わぬところに落とし穴がある。まさか、俺のアイドル方面の知識が試されるとは……


 だがきっとパッツン枠も需要があるはず。

 ビルツは聖印ホーリーシンボルも外して、覚悟完了なのか粛々と着替えを終えていた。


 その姿を改めて確認。

 そして、4人全員を視界に収めてみる。

 

 ――うん、それっぽくなったんじゃ無いかな?


 揃いの装備で、武器屋で並ぶ4人の姿はなかなか見応えがある。


 ……これって軍服に対する“異邦人”独特の感性なのかな?


 異世界ここって軍服はあるんだろうか? 確かフランスが作ったんだよな軍服。

 ――これ考え出すと、ツボにはまるからやめよう。


 それに、いくら俺の目でよさげに見えても、それが“正解”かどうかはわからないんだよな。

 それがイタい。


 あの時、ショーンがギルドの意向を確認してきたら、話は早かった――


 その後、コーネル達「鋼の疾風」――こういうパーティー名であるのは本当――と一緒に受付に声を掛けて、ギルドをあとにした。

 俺たちがギルドの受付から丁寧な応対をされているところを見て、さらに信用度が増したらしい。


 連中、あれだけ大騒ぎになったリナと俺たちの騒動は気付かなかったのか? と疑問に感じるところだが、無理につつくのはやめておく――腹が減りすぎて動けなかった、なんて理由だったら悲しすぎるしな。

 で、取りあえず飯、となって4人をランディに任せた。


 何だかわからないが、ランディが意欲を見せていることだし、何と言っても代表者はこいつだ。

 一時的とは言え、雇い主としてしっかり認識して貰うと良い。

 俺はあれだ――もう、なんだかんだでヤニが限界。


 で、俺はねぐらに戻ってカツ丼食べながら、ここのところハマっている「俺はハマーだ!」を見て、ウカウカと笑う。

 そして立て膝で、思い切りだらしなくプカーっと、セブンスター(セッタ)を弄ぶ。


 何という至福。


 これで充電出来たので――出来たと無理矢理納得して――連中が食事をしてるだろう店に顔を出してみる。


 何となく、5人が仲良くなって違う店ではしご酒……もとい、はしご飯みたいな事になっている未来図を想像をしていたが、予定通り、この店で落ち合うことが出来た。

 即座に出るのも何なので、俺もとりあえず紅茶を注文。改めてランディの成果を確認してみる。


 すると、はしご飯はともかく、結構仲良くなったらしいことが確認出来た。

 なんと「鋼の疾風」が、困窮している理由が判明しているのだから。


 何でも、依頼自体は無事完了したらしい。

 依頼は王都から出て、さほど遠くも無い草原での薬草の採取。それなりのモンスターが出るので、駆け出し冒険者にうってつけの依頼らしい。


 ただ、集めてくる薬草が過剰供給状態になると……当たり前に取引の値段が下がる。


 こういう場合、発注元が責任を負うべきなんだろうが、見込みが甘かったらしくて回転資金もそこを突きかねない有様。

 俺なら、契約不履行でさっさと実力行使か冒険者ギルド(バック)に出張ってきて貰うところだが、「鋼の疾風」の面々は、発注元の哀れさに絆されて、一時的に待つことにしたらしい。


 しかも「鋼の疾風」には、元が生ものの薬草を保存する術も無かったらしく、採取してきた薬草は発注元に全部渡したそうだ。

 あまりに人がよすぎる対応に言葉が継げないでいると、4人ともがこう言うのだ。


「そこの子供達が可哀想で」

「4人もいるんですよ?」

「それなのに礼儀正しくて……」

「でもお腹が鳴ってるんですよ?」


 俺なら間違いなく仕込みを疑う――どころか、確信する。

 薬草の相場が下がってるという話も、どこまで信じて良いのやら。


 子供達の代わりに、いい年の男達パーティーが腹を減らして、可哀想な状態になっているが、それは良いのか?


 ……なんて親切な説教はもちろんしない。


 こっちが雇う分には、これぐらいお人好しの方がやりやすいのは事実。

 せいぜい飯を食わせて、見栄えの良い装備貸して、キチンと日給払って、ご縁がありましたらまたよろしく~、といったスタンスで臨みたいところ。


 ……あれ?


 これもしかして、端から見たら俺たち善人に見えるのだろうか?

 ランディの表情を窺ってみる。

 何だか、やり遂げた感が伝わってくる充実感溢れる表情だ。


 4人からも十分に敬意を払って貰っているらしく――ここの支払いのスポンサーだとしても――ランディを中心に輪が出来ている。

 だから俺が感じる気持ち悪さは、この際、無視することにする。


 何せ俺は“ナベツネ”だから。


 ――一種の社会還元事業だと思うことにしよう。


 で、ついでに「鋼の疾風」が世話になっているという武器屋で装備という名目で“アイドル衣装”を揃える予定。

 あとは商工会議所に挨拶しに行って……ええい、やることが多い。

 自分でやりだしたこととはいえ、面倒になってきたぞ。


 ――と、そんなわけで武器屋ここから気怠い気持ちと共にお送りしました「鋼の疾風」の面々によるアイドル風自己紹介。


 いかがだったでしょうか?

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