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乱闘は為らず

 すまない。

 申し訳ない。

 だが、これは二度以上繰り返すだろうな。


 二度と致しません、とは保険のためにも心の中でさえ宣言できない。


 つまり――


 ――今、俺の足下にはリナが寝転がっている。

 

 色々心配したが、結局いつもの具合で終わってしまった。

 誰に謝ればいいのかよくわからないが、とにかく「ごめんなさい」という気持ちで一杯です。


 いや、ここからリナが奇跡の復活。逆転はこれからだ――みたいなこともないみたいだ。

 手加減が上手くいったのか、いつぞやのように血の泡を吹き出してはいないが、かえって苦しいんじゃ無かろうか。


「お……き、きさ――な、に……を――」


 頑張っているが、やはり体格的にハンデがあるな。

 肺の中の空気が、ほとんど残ってないのだろう。

 緩めることも出来るが、その前に降参させておかないとな。


「――別に謝罪の言葉も要らん。すぐにね。ほんで2度と近づくな」

  

 別にしゃがみ込んだりせずに突っ立ったまま、文字通り上から告げる。


「見とったらわかるやろ? ワシは何もしとらん。ヌシが勝手に転んだだけじゃ。()()()()()()()()()()()()()()()

「ぐ……」

「今やったら、ヌシの面目も立つやろ。それがイヤ言うんやったら。しゃーない」


 俺は半歩だけ、踏み込む。

 狙い通りなら、リナは潰される感覚を味わっているはずだ。


「――不幸な事故、っちゅうことで逝ってもらおうか」


 “死”を脅しに使うのは下の下なんだがな。

 もっともこの女ぐらいなら、このぐらいで十分だろう。


「ほら、さっさと頷かんと、エグいことになるで」


 とどめに優しく語りかけると、リナは苦しそうに、それでも何度も頷いた。

 一応、これで契約完了。


 俺は、圧力を緩めて、


「すいません。どうも彼女、足がもつれたみたいです。その時に打ち所が悪かったみたいで……神官職の方、お手間ですがお願い出来ますか?」


 と、朗らかに呼びかけた。


 リナのパーティーに神官職がいるだろうけど“足がもつれた”を周知させるためにも、あえて大声で周囲に呼びかける。


 狙い通り、


 ――何だよ、だっせぇな

 ――ああ、単純に転んだだけだったのか

 ――拍子抜け~


 みたいな声が聞こえてくる。


 狙い通り、というのは言い過ぎだが大半はこれで納得しようとするだろうな、と思っていた。


 説明出来ない力が働いていた、とするよりも、転んでこけた、の方がはるかに受け入れやすい。

 中庭を取り囲んでいた連中の中には、俺の壊れスキルの余波を感じていたものがいるかも知れない。あるいは鑑定スキルで、見てしまうものが出てくるかも知れないが――


「カ……ナベツネ、今のは?」

「何かあったか?」


 ――知らぬ存ぜぬで押し通す。


 ランディはもちろん余波を感じていただろうが、どちらにしろ俺のスキルを知らなければ、これ以上追求のしようがない。それに追求することに意味は無いだろう。


「相手が勝手に倒れたが、結果オーライだ。少なくとも俺たちの宣伝にはなっただろう」

「そ、そうかい? いやけど……」

「受付の人が呼んでるから――あとでさっきの席でいいか?」

「あ、ああ」


 これで、この話はおしまいだ。


 あの女のおかげで、俺の印象はよくなり、ギルドの立場は悪くなった。

 ギルドの構成員たるリナが、依頼人候補に勝手に喧嘩を売って、その挙げ句に自滅だもの。

 そして俺は全くの無抵抗――に見える。


 ギルドとしても、顔に泥を塗られた形になるのだろう。それどころか、質の悪い冒険者の管理も出来ていないと、ねじ込まれたら反論のしようが無い。


 ――喧嘩は俺から売ったんだけどな。


 とにかく平身低頭謝りだしたギルド職員。受付は元より、その上司まで出てきたようだが俺は笑顔でそれを受け入れた。

 無論、俺たちがカツカツの冒険者に声を掛ける事にも目を瞑って貰うことになった。


 もちろん冒険者を雇う際には、キチンとギルドにも声を掛けることも申し出る。

 またも畏まるギルド職員。


 よし、いい感じの関係が結べそうだ――ランディとナベツネが。

 ああ、無責任って素敵。


 あとは席に腰掛けて、受付にやって来る冒険者を物色するつもりだった。

 一応、依頼の達成なり失敗なりを報告に来た、肩を落とした集団パーティー、という目安は付けてある。


 他にも条件はあるが、それよりも朝から報告に来る、ダウナーな雰囲気を漂わされている集団が良いのではないか?

 というわけで、朝からギルドに乗り込んだ次第。


 今のところ、その狙いは正しかったようで、受付にはトボトボと歩いている連中が群れをなしているが……


「僕にやらせてもらえないか?」


 突然、ランディが妙なことを言い出した。


「へ?」


 いや、よくよく考えるまでもなく言っている意味はわかる。

 ここで二人並んで見物してないで、こちらから能動的に動いてみよう――多分、そんなことだろう。

 念のために確認してみると、


「少しは知ってる顔もあるし、ここで動き回るなら僕の方が適役だと思うんだ」


 またも適切なことを言い出したぞ、このランディ。


 ……本当にランディか?


「それじゃ、任せてみるか。条件はわかってるよな?」

「ああ。仕事に失敗して、途方に暮れてる感じの、男ばっかりのパーティーだろ? 出来れば魔法職がいない方が良い」

「ああ、鎧着込めるぐらいの体力があれば良いんだけどな」


「わかってる。それも含めて、見繕ってみるよ」

「じゃあ俺は――」

「ここに居てくれて良いよ。今度は僕が動く番だ」


 そんな順番があっただろうか?

 ……とも思うが。二人してウロウロ動く必要も思いつかない。

 受付を見張る人員は必要だし、鷹揚に頷いておくとランディは弾むように飛び出していった。


 ……大丈夫か?


 それから約1時間後――

 見事に釣り上げたのはランディの方だった。


 何というか波止場で腰を据えている俺に対して、釣り船でポイントに乗り込んだランディの勝利という気がする。

 いや、勝負はしてないけれど。


 ランディはギルドに報告にきたけど、受付に並ぶ気力も無く、テーブルでうなだれて水をしがんでいた集団に声を掛けたらしい。

 それもジョッキ一杯で。

 水がタダというわけでは無いだろうが、それにしても困窮すぎるだろ。


 ランディは、自分の経験から本当に追い詰められている冒険者は受付に顔を出さない。だから、色々聞き込んで、このパーティーに“あたり”を付けたそうだ。

 その行動方針を、見事だ、と素直に讃えてみると「えへへ」とはにかんだ笑みを浮かべる。


 やっぱり子供なんじゃないか、こいつは。


 それと真逆の反応を見せているのが、パーティーの方だ。

 何しろ、いきなり声を掛けられ、随分ひどい方法で見出されたことが目の前で語られたわけだからな。

 この辺りの空気の読め無さがやっぱりランディ――安心したぞ。


 とにかく俺からフォローを入れておくか。


 パーティーメンバーは4人。

 リーダーはコーネル。職業・戦士。

 で、斥候職のショーン、重戦士のワーニー、神官職のビルツ、という構成。


 全員男で、魔法職がいない。何という、うってつけの面子だろうか。

 身長タッパはワーニーが一番かな? それでも全員なかなか背が高い。


 ちょっと小柄な感じのメンツが欲しかったところだが――そこまで求めては贅沢だろう。

 俺は4人に席を勧めると、早速仕事の話を振ってみた。

 こいつらがダメなら、また探さなきゃならないし。


「――これって、ギルド関係ないんですよね?」

「最初にも説明しましたが、その通りです」


 コーネルがリーダーらしく、肝心なところを確認してきた。

 ここは不安に思うのも無理の無いところなので、根気よく付き合うつもりだ。


「確かにギルドとしては、この仕事を受けたからと言って評価が上がるということは無いでしょう。でも我々の求人活動を否定しているわけでも無いんです。そちらからお1人、ギルドに確認されては?」

「それでは――」


 おや思ったより、行動が素早いパーティーだな。

 コーネルの指示でショーンが受付へと向かった。

 俺はショーンが帰ってくるのを待たず、話を先に進める。


「即物的なお話ですが、お話としては単純なんです。我々はごく短い間の労働力を求めている。そちらは金が得られる。ギルドとしては目を瞑る代わりに、若い冒険者が道を違えるのを防ぐことが出来る」


 こいつら若いのかなぁ?

 と、疑問に覚えたが、芽が出てないのは確かだろう。

 しかし、のんびりと同情もしていられない。


「――お返事は早くにお願いしますよ。もちろんショーンさんの報告が届いてからで構いません」


 そして結論はすぐに出て……コーネルをリーダーとしたパーティーは、俺たちに雇われることになった。

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