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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
第一章 ノウミーにて
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短縮される会合

 窓から見える町並み。そして広場は僅かながら朱色に染まりはじめている。

 俺は内心で溜息をつきながら時間の経過を実感していた。


 ここは冒険者ギルド。


 外郎ロランが倒れて後、俺は事実上連行され、ここに軟禁されている。

 朝に見当を付けた建物が本気でギルド館で、今いる場所は三階。


 調度品が整理されて並べられ、元々広いだろう部屋の大きさを印象づけていた。

 部屋の主が使うであろう重厚な執務机。緋色に似た暗紅色の絨毯、ローテーブル、そして四脚の革張りソファ。俺が想像していた「社長室」とはこんな感じなのだろう。


 それが当たっているとするなら、ここは恐らくギルドの責任者の部屋。軟禁するにしても“丁重な扱い”になるような予防策に思える。


 何に対する予防かというと――


「お待たせして、すまない」


 扉が開けられ、中年の男性と二十歳前後かと思われる女性が現れる。


 男性は金髪を短く刈り込んでおり柔和な笑顔を浮かべている。ただ鍛えられた体つきをしており、それが少々アンバランスな印象だ。それはネクタイを締めたライトブラウンの礼服に近い出で立ちが、それを助長しているからだろう。


 女性は室内だというのにブレストプレート。長大な剣を佩いていた。

 性別の判断は無表情ながら、その顔つきと長いダークブラウンの髪に因る――男性の可能性も十分あるな。


 俺は二人の様子を扉のある壁に背を預けて、じっと観察。

 すると金髪の方が、不思議そうに首を傾げなら話しかけてきた。


「……どうしてソファに座らないんだい?」

「トイレ良いですか?」


 俺は即座に切り出した。


                      □


 そして、トイレから戻ってくるとすぐにソファを薦められる。

 俺とローテーブルを挟んで男性と差し向かいの座席。女性は男性の背後に立っていた。


「まずは自己紹介からはじめよう。僕はレナシー。レナシー・クアダント」

「俺はイチローです」


 どうやら、事実上犯罪者扱いにするようなので、俺は即座に答えておく。どうせ、何処かに閉じ込められるなら苦痛でしか無い会話はさっさと終わらせたい。


 ……それにしてもこの世界にもファミリーネームはあるらしい。名乗る名乗らないに、いかなる意味合いがあるのかは、もちろん不明だ。


「イチロー。うん、ファミリーネームは?」

「お断りします」


 返答の合間を二段階ぐらい飛ばしてしまった。

 適当にでっち上げれば良いものを、まるで子供のような受け返し。


 自覚しないように気を付けていたが、やはり俺はかなり怒ってるらしいな。

 こうなったら、こちらから仕掛けた方が良いだろう。


「このギルドに牢かそれに類する設備は? あるなら、そこに俺を閉じ込めて下さい」


 この答えは俺からの拒絶に面食らっていたレナシーというおっさんに、さらに追撃を食らわす形になった。

 だが、もう仕方ない。


「そ、それではロラン君が昏倒したのは……」

「それはわかりません。俺は自分のスキルがどんな物か知らないので。ましてや見たら倒れるなんて想像もつかない。俺が逆に聞きたいぐらいですよ」


「では、牢になんて――」

「その方が丸く収まるんじゃ無いですか? ()()


 一時的な処置である事を希望を込めて強調してみる。

 レナシーさんは、棒を飲んだような表情を浮かべた後、さらに尋ねてきた。


「それは一体……」


 腹芸か? とも思ったが面倒くさい。

 一から説明するしかないか。


「――まず彼ら、昼付近に現れました。そして、その時のやりとりで俺のスキルについての情報を伝聞でしり、かつその詳細を知りたがる。しかもご丁寧にそれに適した人材を同行させている……まではわかっています」


 ここでいったん切る。


「だがどうも、これらを彼らの自発的な行動と考えるには無理がある。となると、誰かの使いによって俺のところに来た。そう考えた方が筋が通る。しかも自らを冒険者であると答えギルドに所属していることも教えてくれました。そうなればギルドの上層部から使いを頼まれた――レナシーさん、貴方の役職は?」

「……冒険者ギルド(ここ)の責任者を……」


 当人はともかく、後ろの女性が剣呑な表情になりつつあるが、知ったことでは無い。


「ここからは想像ですが、彼らが選ばれたのは単純にロランさんの特殊スキルを欲しての事でしょう。かといって日頃、連んでいる彼らに『ロランさんだけ別行動で』という指示はあったのか? 結果的には『彼らにまとめて指示が出された』と想像します」


 冒険者であるならパーティーを組んでいた可能性も高い。


「しかし事件は起こった。当然、彼らは納得出来ない。状況的に彼らが俺を疑うのも仕方が無い――俺の立場では聞くのも憚られますが、その後、彼は?」

「あ、ああ、それが、あまり良くないんだ。今のところ小康状態だが高位の神聖術が必要になるかもしれない」


 振ったタイミングが良かったのか、流れるように返事してくれたが――神聖術?

 この際、それで治るなら何でも良いか。


 俺はそのまま続ける。


「――つまりギルドとしては俺を捕縛してしまえば話が終わる。しかし善人を以て知られる、その上層部は公平に事に運びたい。実際、容疑者が積極的に何かを仕掛けたという証言は得られない。だが、ここで放免しても誰も納得しない――それに何より指示を出したのは自分だ」

「貴様っ!」


 剣に手を掛ける――女性。声でまず間違いないだろう。

 俺は彼女に目を向けた。

 そして尋ねる。


「斬るか?」


 と。


「――ッ!!」

「俺は“異邦人”と言うらしいですね。死んだところでしがらみは無い。それはそちらの理屈になり得るのと同時に()()()()()()()()()()


 女性は動きを止めた。悔しそうな表情で。


 チンピラ紛いと同じ理屈で行動していることにようやく気付いた――いやダメだろうな。

 俺は視線を元に戻す。


「実際、かなり葛藤されたのでしょう。一方で俺を客人扱いしていると言わんばかりに、この大層な部屋に通してはいる。一方で食事の手配の不備、遅くなってから放たれても宿の手配は間に合うのか? 等まるで見えてこない。ロランさんがどうなったかも伝えられない。事実上の軟禁だ。この扱いのチグハグさ加減が、そのまま上層部の心情を語っているように思われますね」

「こ、これは……いや参ったな」


 それでもなお、笑い続けるレナシーさん。


 ハイ、俺の大嫌いなタイプ決定。


 とりあえず笑顔、それでいて剣を佩いた部下が側にいるのは当然、そして初対面の相手に上から語りかける。そんな傍若無人を“明るさ”で周囲が許してきたんだろう。


 だが、残念。ボッチには意味が無い。


 ボッチはただ、このような人間を無視をしているだけ――相手から無視されることを願ってだ。


「これは僕のミスだ。確かに君に礼を失した行動をしてしまったようだ。ただ理解して欲しい。君のスキルが特殊であることは間違いなくてね」


 俺は笑みを浮かべてそれに応じる。


「それで対応が後手後手になってしまった。そうだ、すぐに食事の手配を。それからゆっくりとお話を……」

「そうですね。飯ぐらいは牢屋に持って来てもらってもバチは当たらないでしょう」

「バチって、君――」


「俺は最初から、そう言ってきたつもりですが。ここで俺を賓客扱いしてしまえばロランさんも、仲間の二人も納得しないでしょう。そして彼らは貴方が庇護すべきギルドのメンバーだ。俺と彼ら。貴方がどちらを優先すべきか自明の理かと思いますが」

「それは」


「また俺もあなた方を信用出来ません。俺は丸腰。それなのに最初から帯剣したまま。一度はそれを指摘したにもかかわらず、なお改善が見られない。レナシーさんから指示が出ない」

「…………」


 やっとレナシーさんの笑顔が引きつってきた。後ろの彼女も唇を噛んでいる。


「俺が危険であると。あるいは犯罪者だ。そういう認識であるのに、笑みを浮かべて『話をしよう』? まったくもってお断りです」


 やっと薄ら笑いを引っ込めたな。


「結果、俺は牢に入り、ほとぼりが冷めるのを待つ。その後、時期を見計らって、この街を追放ぐらいが俺と、そちらの“正義感”のちょうど良い塩梅でしょう」

「いや――」

「俺は処刑の方が良いですか? 確かにその方が簡単……」

「わかった」


 レナシーさんが俺の言葉を遮った。

 俺は肩をすくめ、立ち上がった。


「では牢屋への案内をよろしく」

「しかし君は本当に良いんですか? このままでは無実の罪で――」


 言いかけて、そのまま黙り込むレナシーさん。


 もうそんな話し続けても、内実が伴っていないことが証明されてしまっている。

 結局、俺のスキルを強引に調べようとしたことが間違い――いや、もしかしたら俺がギルドに入ることを拒んだからかも知れないな。


(結局、いつものことか)


 ――窓の外の光景は、いつの間にか朱に染まっていた。 

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