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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
第一章 ノウミーにて
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俺のスキルとは?(確認編)

 俺がこの世界――そう言えば聞いてないな――に現れてからおおよそ三日というところだろう。


 その三日間の記憶と 昔からの記憶が繋がらない。

 自分が誰で、何をしてきたか、という記憶はある。しかし日本からこの世界に現れるに至った理由も経緯もまったく思い出せない。

 思い出せないか、あるいは()()のかも知れない。


 “異世界”に居るという理解は大きな枠は外していないと思うが「転移」はあまりにも唐突だ。かと言って己が死んで「転生」したと仮定しても、いきなりこの年齢から始まる記憶なんて不自然にも程がある。

 今ひとつの可能性も考えてはいるが、明らかに情報不足だ。


 そう――情報。


 俺はそれを欲してやまない。


 この世界に現れてまもなく、俺はメイルとアニカに遭遇した。

 二人はとても親切で、俺の話を聞いて“異邦人”だとあたりを付け、街に引き返すと、宿の手配、食事の手配、服の調達とお世話になりっぱなし。


 言葉が通じたり、見覚えの無い記号が「言語」だと認識出来たり不可解な現象も体験させていただきました。それから自分の姿形の確認等、基本的なところを抑えて、いよいよ冒険者ギルドの話題になった。


 ――ここが一つの転機になったのだろう。

 

 冒険者ギルドの話を聞けば聞くほど、俺の中に疑念が広がった。


 ギルド登録の際に判明する“スキル”なるものに全責任を負わせるつもりは無い。しかし、それを「冒険者カード」なるものに記してしまう仕組みとはいかなるものか。スキルだけで無く、その他あらゆる個人情報を血の一滴でつまびらかにする、壊れ性能。


(オーバーテクノロジーと言わないか?)


 魔法というものもあるらしいが、どうにも胡散臭い。

 だが、ここまでは見知らぬ世界での仕組みだ。喉に詰まった魚の骨を無理矢理飲み込むように、受け入れてしまえば、やがて馴染むのかも知れない。


 だが、そんな風に目に映り、耳に入る何もかもが疑わしくなった時、どうしても看過出来ない、事象がある事に気付いてしまった。

 

 ――何故、彼女たちはこんなにも親切なのか?


 自慢になるが俺のボッチ歴は長い。

 何しろ、こんな疑いを持つ前に、すでに偽名使用済みだ。結果的にボッチであるのでは無く、むしろ積極的にボッチになっていくスタイル。


 そのようなスタイルを身につけたのも、


「絶対に自分は人に好かれない」


 という確信があるからだ。

 

 だからこそわかる。

 彼女たちの行動はおかしい。


 異世界だから、何かが違っているのかも知れないと考えるのはただの甘えだ。

 それに彼女たちの親切心に曇りは無いように思う。

 だとすれば、結論はこうなるしか無い。


 ()()()()()()()()()。  


 世界に俺に関わるように強制するシステムがある。


 そこまでたどり着けば、何もかもが疑わしい。冒険者ギルドに代表されるような世界のシステムが。

 何を為すために構築されたシステムなのかもわからないが、そう考えた方が腑に落ちる。


 俺は今にも「パーティー結成よ!」と言い出しそうなメイルを牽制して、一日猶予をもらった。

 自分の疑いを、さらに深めるために。

 それほど難しいことをするつもりはない。そもそも出来ることも限られている。


 ――ただ“観察”した。

 

 おかしな所、不自然なものは無いか。知識と想像を駆使して、街で繰り広げられる光景に理屈を貼り付けていった。

 そして不自然な所ばかりを見つけてしまう。


 ――当たり前だ。


 この世界には魔法があるのだから。俺の知識も想像が及ぶところでは無い。


 いざ、世界がおかしな証拠を見つけたと勢い込んでも、肝心なところは魔法もしくはスキルのせい。


 これではざるで水をすくうようなものだ。疑いの残滓が心のひだに引っかかり続けるばかりで、いつまでたってもスッキリしない。これは魔法やスキルの勉強が必要で、そうなると当座の生活費が必要になってくる。であるなら「冒険者ギルド」に頼らざるを得ず、見事に因果が逆転してしまう。


 魔法の存在の理不尽さに、思わず街角で「ぐぬぬ」となってしまったことは、人目を気にしなければならないボッチにあるまじき目立つ行為だった。


 だが――それが突破口になってしまう。

 

「兄ちゃん、何だか知らないがリンゴお食べよ」


 突如、リンゴを差し出されながら話しかけられてしまった。

 もちろんフリーズしてしまうボッチ

 その上、リンゴにまで疑いの目を向けてしまう。


 異世界のはずなのに植生が地球と同じなんて事がありうるか、などと眉根を寄せてマジマジとリンゴを見つめてしまう。


「そんな顔してないでさ。美味いよ」


 再度、声を掛けてもらえたことで、ようやく俺の視界が広がった。

 辛抱強く声を掛けてくれたのは、恰幅の良いご婦人だ。


 俺は慌てて礼を言いリンゴを返そうとすると、こう告げられる。


「それはもうアンタのもんだよ。何だかわからないけど元気だしな」


 ご婦人は快活に笑うと、手を振りながら背を向けて歩き出した。こうなると固辞もかえって失礼になる。俺はその背に「ありがとう」とだけ告げると、手の中のリンゴを口に運ぶ。


 ――それがやけに美味いのである。


 日本で普段口にしてるリンゴは、様々な品種改良の果てに作り出されたものであることは知っている。


 ――それと同じものがこの異世界で?


 また魔法によるものか? とも疑ったが俺にはこの時、もう一つの違和感があった。

 リンゴを食べる直前、僅かにリンゴが発光したような気がしていたのだ。

 魔法と同じく、この世界を異常たらしめている。もう一つの要因。


 スキル。


 結果として、この推測は的を射ていたらしい。

 道ばたの小石から始まって、壊れた玩具、使い古されたぼろ布、そして半分壊れた柵。

 これらを、どうにかしようとしている内に、法則らしきものがわかってきた。


 まず、効果を及ぼしたと思っている物の所有権を確立する。


 物を拾ったぐらいなら簡単だったが、ここで役に立ってくれたのが半分壊れた柵だ。

 中々変化が訪れないので、柵の周りをウロウロしていたのが幸い――いや家の人にとっては災いだっただろう。その後、壊れた柵について家の人とやりとりがあり、所有権が無事俺に移譲された。

 そこで改めて、手で掴んでみる。


 ……もう説明はいらないだろう。


 俺は引っこ抜かれ綺麗になった柵に、これまたぼろ布から見事に復活を成し遂げた布を貼り付けると、


『壊れ物修繕します』


 と看板を出し――酒場で起きた顛末になる。


 だから俺のスキルはもちろん「刀研ぎ」ではない。

 恐らく、一種の時間遡行では無いかと考えている。これなら大体の現象に説明は出来る。

 所有権の有無がネックなのだが……


 そう言えば昼の観察で、もう一つ重要な情報を手入れた。


 この街は「ノウミー」と言うらしい。


 流石に街の名前に作為は無いと信じたい。どういう由来があるのかと聞いてみたいところだが、判明したのは聞き耳をずっと立ててただけだからな。

 人に話しかけるのはハードルが高いぜ。


 流しの刀研ぎ商人、とか“看板”があればコミュニケーションを取ることも可能だが、いきなり“自分”では厳しいのだ。


 明日も“刀研ぎ”で小銭を稼ぐ予定だから、上手く会話が転がるように今晩シミュレートしておこう。

 運が良ければ、それ以上に進展があるかも――さて俺は一体どこに“進め”ば良いのやら。

 俺は結局、異世界でもこうなるらしい。


 とにかく……今日の寝床を探すとするか。

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