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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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立つ鳥跡を濁すだけ濁す

>BOCCHI


 カンカンカン……


 こういう建築途中の効果音って、漫画だと「カンカン」という描き文字が多かったように思うが、いざそれを説明しようとしても、なかなか難しい。

 やはりコンセンサスを獲得している、カンカンカン……、に全てを任せてしまうのが無難であろう。


 ここは元・貧民街東部地域だ。

 再開発が進んでいる。


 ……ギンガレー伯にはご苦労なことだと思うがバイナム杉で結構な利益を与えたはずだ。

 それに加えて自領での立場回復も。


 今しばらくは、調子に乗ってくれることだろう。そうでなくては困るしな。


 ここから先は加減が難しいが、その辺を担当するのはレイオン商会だ。

 あっちにも充分見返りがあるはず。

 そして将来的な展望も。


 あとは……まぁ、当人が妾を好むならそれもまた良し良し。

 行き着く先は地獄のはずだが。


 その地獄への案内人を手配してくれるのがノラさんである。

 こっちへの見返りは、先払いしてるしな。


 だが、それだけにここは賭けの要素が多分にある。

 一番、不安を抱えてるのはこの分野だが、もうどうにもならない。


 いかな女神(あのバカ)でも、この辺りには介入して来ない――あるいは出来ない。


 ……と推測されるんだが、どうだろう?


 だがとにかく!


 面倒な仕事は、人に任せられる環境を整えることが出来た。

 何とも喜ばしい。

 そして今は、順調に進んでいる浴場建設の視察に来た、というわけだ。


「兄ちゃん、何しに来たんだ?」

「ん~、そうだな。ただ単に楽しみに来ただけだな。物が出来ていくのは見てて面白いし」


 傍らに居るのは「ガーディアンズ」のブルーだ。

 この子が、この場に居るのはそれなりの理由がある。

 順番に説明すると……


 まず浴場建設のための建材――さらに限定すると石材――は、もちろんリサイクルだ。

 ここの住人達が、なし崩しで住んでいた住居を取り壊し、再利用。

 まず建設予定地の整地をしなければならなかったので、それらを別の場所にまとめると同時に、形を整えた。


 ま、ここまでは予定通り。

 だがここから先が問題で、どうにも能率が悪い。

 

 建設に関しては、当たり前に職人主導になるわけだが、どうもそれが一種の特権階級になっている事に俺は気付くことが出来た。


 こういう時、暴力で無理矢理言うこと聞かせても、さほどの効果は望めない上に危険でもある。

 妙な仕掛けをされても、こちとら素人だからな。

 気づけない自信は溢れんばかりに持っているぞ。

 

 そこで、昔の学習漫画で読んだ豊臣秀吉、つまりは木下藤吉郎のやり方を導入してみた。

 

 建築区画をざっくりと三つに分けて、一番に目標を達成出来た組に報償金を与える。

 もちろんやっつけ仕事をされてはたまらないので、他の二組からのチェックはクリアする必要があるわけだが……この辺りは木下藤吉郎はやってなかった気がするな。


 基本的に、子供向け漫画だからな。

 人間は真面目に仕事はする――そんな前提で話を組み立ている気がする。


 社会主義ぐらい甘い見通しだ。

 人が真面目に仕事するなら、そもそもこんな風に競争させるというアイデアが出てくるわけが無いから、根本から話がおかしくなるのに。


 ちなみに報奨金を出したのはギンガレー伯だ。

 伯爵ともなれば、さほどの出費では無いが、これだけで職人達からの覚えもよくなる。

 そして、自分が仕事をしているという自覚も出てくるわくだ。


 ……決して、俺が自由に出来る金が少ないとかそんな理由では無い。


 いや実際、少ないというか“無い”んだよな。

 身近にいる王宮の貴族達は金を持つという感覚からして無いような気がする。

 マドーラは言うに及ばず。


 ……恐らく要求すれば、何かしらの予算から貰えるとは思うんだけど。


「なぁ、本当にそのお風呂凄いのか? 木で出ててるんだろ? ジッちゃんが楽しみにしてたんだけど」

「ああ。やっぱり知ってる人はいるんだな。リンカル領の人だっけ?」


 双子の師匠に当たる人は、今王都にやって来ている。

 当たり前に魔法使いであるのだが、別に観光に来てもらったわけでは無い。


 建築、それれから浴場の建設に当たってアドバイスを貰うために呼び出して貰った。

 それに実働にも。


「うん、そう。出不精で王都ここまで出てて来てもらうのも大変だったけど、このお風呂の計画知ったら途端に乗り気になった」

「お前達も、利用すれば良いのに――料金は貰うけど」

「ま、その辺はその内な。ジッちゃんにはタダなんだろ?」

「それも聞いたのか」


 ブルーの発言は事実である。

 浴場建設に協力してくれた魔法使いには、そういう特典を設けたのだ。


 実際、老いて戦いの場に出るのが難しいと言うだけで、その魔法は如何様にも使う事が出来る。

 王都に限らず、他にいくらでも利用価値があるはずで、これが放置されていたのはある意味で“異邦人”の怠惰だと思う。


 本当に今までの“異邦人”は、戦うことだけが魔法の価値だとでも考えていたのだろうか?

 ……この辺、どうにも気持ちが悪いのだが、俺が利用するには中々都合の良い状況である事も確かだ。


 「念動テレネキシス


 なんて魔法、どれ程建設の助けになるか。

 それに――


「お前達も手伝ってくれたんだから、少しはサービスしたいんだけどな」

キリー()が世話になっているから、別に良いよ」


 この2人には、固有スキル「共振レゾナンス」で、バイナム杉運搬に力を貸して貰った。

 そのおかげで、どれ程建設計画が前倒しできたのか、見当も付かない。

 で、前倒しついでに王宮内部にマドーラが渇望していた、お風呂を作ることにした。


 元々、城に生活用水を巡らせるため、風車で高い場所に水を組み上げるシステムは出来上がっていた。

 そこから風呂場のための経路ルートを作ることが問題だったわけだ。

 だがこれに変更を加えるのはさほどの難事では無い。


 問題は場所だ。

 これについてはマドーラの話を聞いた瞬間に閃くものがあった。

 何か毒されているような気もするが、目指すべきはオーシャンビュー。


 元々この城は海に面している。

 これを活用しない手は無い。

 そしてどうやっても露天は諦めるしか無い――何よりもキルシュさんが許さない――という条件を加味すれば……


 海沿いの壁面にこそ風呂場を作るべき。


 ……という、答えが導き出されることになる。


 これなら窓を広く取っても、そもそも覗きようが無い。

 また防備もやりやすい――気を付けるべき順番が入れ替わっているような気もするが。


 ただ、壁面にそんなものをつくって強度がどうなるのかは見当がつかない。

 流石に、強度計算は出来ない。

 まぁ、姉歯的なことにはならないと思うけど。


 で、風呂場のための空間スペースを作ることに関しては、壊れスキルを活用することにした。

 あと壁面に組み込むアクリル板も。

 この辺りは、海遊館のニュースを見たことがあるので、


 ――そうあれかし


 と、壊れスキルに言うこと聞かせたら、多分そんなようなものが出来上がった。

 あとは水路の製作と、バイナム杉で湯船や内装を拵えてしまえば大体終わりだ。


 マドーラは自分がラクザであれほど自分が感動できた理由を正確に分析できてはいなかった。

 あの時の風呂に感動した要因には必ず、香りが含まれているはずなのに、それがマドーラの計画には含まれていなかったのだ。


 ……まぁ、こればっかりはなぁ。

 ……多分、すぐに気付くの無理だろう。


 と、俺はその辺はサービスして、バイナム杉を使った風呂場を完成させてしまったわけだ。

 確かに壊れスキルは使ったが、中々上手くやってのけたのではないかな、これは。


 完成したマドーラの表情と言ったら、まさに年相応、という名称が相応しいものだった。

 それから毎日、ウキウキとして日々を過ごしている。


 ……源○香(しずかちゃん)か!


 と、絶対に伝わらないツッコミを入れながらも、それを暖かく見守っている俺。

 次期国王となれば、これぐらいは贅沢の範疇にならないだろうし、時には別の者が風呂場を使うことにもマドーラは抵抗を示さなかった。


 これによって、浴場のたたき台としての名目も手に入れ、さらに次期国王マドーラの行為によって使うことを許された者たちによって、バイナム杉による風呂の素晴らしさを流布させることにも成功。


 この辺りは上手い具合に事象が噛み合っている。

 PR効果については正直考えてなかったけど、何だか上手くいってしまっている。


 キリーが、あの風呂を気に入り、将来的には冒険者ギルドの嘱託になっている魔法使いを招くという心づもりも、これまた前倒しで行うことが出来た。


 これを一言で言うなら、やはり――順調。

 これに尽きるだろう。

 そんな風に頷く俺の横で、ブルーはこう言ってのけた。


「とにかく、僕も何だか浴場完成が待ち遠しくなったよ。ゲームをして、疲れたらお風呂に行く。想像するだけでも、いい感じだと思わない?」

「……思う」


 それこそまさに人をダメにするルーチンのような気がする。

 特に「ガーディアンズ」は金もあるしなぁ。

 下手すると、ゴードンの手助けには行かないかも知れない。


 この辺りが順調では無い部分だ。


「で、出発明日なんだって? お姫様大丈夫なの」


 さらに痛いところを突いてきたブルー。


 そう。


 とうとう、マウリッツ子爵領へ向かうことになった。

 当然、それには兼ねての予定通りマドーラにも同行させる。

 つまり……


「お風呂が無い状態で、耐えられるのかなぁ?」

「それはまぁ……」


 俺としても言葉を濁すしか無い。

 いざとなればでっち上げることが出来るし、マドーラは聞き分けが出来ないほど幼くはないはずだ。

 やはり、俺のやることが何もかも順調であることなどあり得ないのだろう。


 強いて良いところを探すならなら――好事魔多し。


 この有名な経験則にはハマらないだろうという部分。

 それで自分を慰めつつ……


 さぁ、出発だ。


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