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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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3人娘+1

 そもそもマドーラ達はどういう話し合いを行ったのか?

 そこから振り返る必要があるだろう。


 まず相談を持ちかけたのはアニカにである。

 パーティーの知恵袋として指示を出すことが多いアニカに頼るのは、メイルとしては当然の展開だった。

 中庭で盛り上がったマドーラとメイルが急襲を掛けたのである。


 ただ寝こけているアニカを訪ねていったのは、とことんまでタイミングが悪かった。

 ムラタがでっち上げた人を廃棄状態に追い込む寝具が、アニカに抜群の仕事をしていた事も問題がある。


「~~~~~ん~なに………?」


 低血圧だから寝起きが悪いなどと迷信に引っ張られるはずが無い、この世界の人間アニカであるから、これは単純に――ひたすら眠かっただけだろう。

 リビングに出しっ放しのゲーム機を見れば、その理由は推して知るべし。

 しっかりベッドに潜り込んでいた分、まだまし、であったかも知れない。


 キッチンでメイルに手ずから、一向に向上が見られない紅茶を入れて貰いながら、アニカはマドーラの説明を黙々と聞いていた。

 殊勝なようにも思えるが、途中で差し込まれてくるクラリッサの言葉にも無反応であったから、本当に半分以上寝ていただけかも知れない。


 アニカは、ひたすら頷き続け、羽織っていたカーディガンを引っ張り上げた。

 もちろん、その下に着ているのはクリーム色の寝間着である。


 仮にも次期国王に対して、この出で立ちには問題があるが、そういった状況を作り出したのは、その次期国王マドーラであるから、ここで四角四面に文句を言っても始まらないであろう。


「……ん~どういう状態にしたいのかが……」

「それはお風呂だよ。寝ぼけてて、わからなかった?」


 アニカの反応に、素早くメイルがツッコんだ。

 マドーラも、もう一度説明しようかと口を開きかける。


「……お風呂はわかったよ。問題はイチロー……じゃ無くてムラタをどうするかって話」


 どうやら再度の説明は必要無いようだが、どうにも話が見えない。

 メイルとクラリッサが揃って首を傾げる中で、マドーラもアニカの言葉の意味を掴みかねていた。

 そんな3人の反応を見て、アニカは紅茶を啜った。


「……最後まで騙して、お風呂を作ってしまうのか、ある程度まで話を進めてムラタを巻き込む形にするのか、っていう話なんだけど……」


 それでも尚、同じパーティーの2人は首を捻り続けたが、さすがにこの段階でマドーラはアニカの言いたいことに察しがついた。


 つまりは、ムラタに対抗するのを優先させる場合。

 だが、こちらを選ぶとお風呂入手までには多大な時間がかかるだろう。

 というか、入手できないかも知れない。


 一方でムラタを巻き込む形であれば、途中でこちらの計画をバラすことになるが、やりようによってはムラタという“駒”を有効に使える可能性がある。

 そして、お風呂入手までの時間は短縮されるに違いない。


 ムラタを出し抜くか、お風呂にこだわるか。


 どう考えても、優先すべきは後者であろう。


 ムラタを出し抜く、という事に興奮してしまい、その勢いのままアニカの所に押しかけてしまったが、アニカはそれに冷静に対応したわけだ。

 やはり、頼りになる知恵袋である事は間違いない。


 マドーラも改めて、休日に押しかけてしまったことを詫びた。

 もちろん、メイルとクラリッサもそれに続く。


 アニカはゆっくり頷くことでそれに応え、改めて口を開いた。


「……ムラタに対抗するのは、面白そう。だけどそれだけに慎重にやらなければ。最終的にはお風呂を作らせれば良いんですか?」

「いえ。何とかムラタさんには頼らないように……あのスキルに頼らない形でお風呂を手に入れたいです」


 マドーラが迷い無く答えた。

 すでに、この場合の“お風呂”がラクザで使ったようなタイプが欲しいと言うことは説明してある。

 その答えに、アニカは目を伏せた。


「……うん。かえってその方がやりやすいかも」

「ほんと!?」


 上半身を前に乗り出すようにしてメイルが反応した。


「そうだろうか? 何かより困難になったような……」


 逆に疑問を覚えたのはクラリッサだ。

 確かにムラタのスキルの出鱈目さ加減を知ってしまうと、それを使わないでいかほどのことが出来るのか? と、不安を覚えても仕方ないだろう。

 だが、アニカはかぶりを振った。


「ムラタにその気が無いんだもの。それを直接に説得するのは大変。最終的には、お城の中にああいった感じのお風呂が出来れば良いんですよね?」

「はい」

「と言うことはそれを可能に出来る職人が必要……う~ん」


 アニカが、そこで首を捻った。


 不安げに、アニカを見つめる3人。

 随分とアニカの知恵に期待している。

 それもアニカに着替える時間も与えぬままに。


 それに気付かないのだから興奮状態からは冷めたように見えても、アニカも含めてやはり熱に浮かされた状態である事は間違いない。


「……これは話を大きくした方が良いのかも」


 やがてぽつりと呟いたアニカの言葉に、再び首を捻るメイルとクラリッサ。

 だが、この時はマドーラがすぐさま理解の色を浮かべた。


「わかりました。今、行っている改革の一つにお風呂を組み込むんですね」


 そのマドーラの言葉に、アニカが頷いた。

 だが、首を傾げていた2人はついていけない。


「え? え? よくわからない」

「私もよく……」


 それに応じたのはマドーラだった。


 つまりは、お風呂を手に入れるための準備として、より大規模なお風呂を作ってしまおう、という考え方が根本にある。


 これによって、ムラタに頼らないで永続的に使えるお風呂を作るためのノウハウを獲得するわけだ。

 大きなお風呂を作ったわけだから、それをスケールダウンさせれば良い。


 もちろん、そんな単純な話ではないだろうが、そのための知識が蓄積されるであろうことも確か。

 単純に“お風呂を作る”という結果を得られるだけでは無く、その過程で王都の水道に関しても詳らかになるからだ。

 あるいは、それ以外の事情に関しても。


「何だか話が大きくなりすぎてない?」

「確かに……浪費と言うか何というか――スケールが尋常ではないな」

「……そこが狙い」


 クラリッサの言葉こそ、アニカが望んでいた展開であったのだろう。

 カップを両手で包み込むように持ったアニカが、ぽつりと呟く。


「……お風呂を作る、というこちらの狙いに建前を用意するの。王都の改造にお風呂を組み込むことが出来たら、最高」

「それは……」


 今度は考え込むメイルとクラリッサ。


 実は、このアニカの思惑には続きがあって、話がうまく進めばムラタにスキルを使うように“おねだり”できるかも知れない、という周到さだ。


 アニカは、ムラタがマドーラに随分甘いと感じていた。

 それも、それもマドーラがその才幹を示した時は特に。


 最初はムラタを出し抜こうという考え方に驚いたが、ある意味では、それもまた目的(お風呂)を果たすための行動として成立していた事に、アニカは気付いていた。

 やはり、マドーラにはある種の才能がある。


 そう感じながら、アニカはあれこれと相談を始めた2人をジッと眺めた。

 ほとんどお湯と変わらない紅茶を飲みながら。


 マドーラもまた2人の相談を熱心に聞いている。

 今は検討のための時間帯なのだろう。


「……お風呂、では無いが“浴場”というものは聞いた覚えがあるな」


 クラリッサが記憶の奥から、ついにその言葉を引っ張り出した。

 その説明を求められ、クラリッサがそれを説明していくと、説明を続けて行く内に彼女自身が驚きに目を見張った。


「……これは、ほとんど私たちが求めるものではないか?」

「どうしてすぐに思い出さなかったの、クラリッサさん!?」


 と、メイルが叫んでも仕方ないだろう。


 だが巨大なお風呂、という発想にたどり着いたのは、つい先ほどの事である。

 流石に、これでクラリッサを責めるのは酷というものだ。


 それにマドーラが求めるお風呂とは明らかに違う部分がある。

 言うまでも無く、大きな窓、の有無についてだ。


「……殿下。浴場についての資料を見てみたいんですが大丈夫ですか?」


 これ以上は、相談ばかりでは話が先に進まないと判断したアニカがマドーラに尋ねる。

 マドーラが顔を伏せる。

 

 確実にここから先は未知の領域だ。


 理屈で言えば、次期国王マドーラの閲覧を止める者など存在しないはず。

 それにムラタの存在もある。

 閲覧に関しては、何ら問題が無いように思えるが……


「その辺は任せてよ、お姫様! よし明日から忙しくなるよ。まずはイチローに隠れて“浴場”を調べないと」


 躊躇うマドーラの背中を、メイルが景気よく押した。


「待てメイル。別にムラタ殿に内緒にしないでも……」

「お風呂絡みだとわかったら、絶対イチローが邪魔するよ。だからアニカは巻き込もう、って言ったんだし」

「あ……」


 メイルが聡いことを言った。


「ある程度調べがついたら、またアニカにお願いするからね。建前を考えなくちゃ」

「……わかった」


 やはりメイルはパーティーリーダーであった。


 その後、ノウミー3人娘+1はバレバレながらも、浴場建設計画という建前を作り上げ、御前会議の前にムラタにそれを見せつけることに成功した――


 ――と強弁することになった、と言うわけである。

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