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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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当方に自信あり

「あ、それは却下で」


 ノラの決意を込めた申し出を、ムラタはあっさりと躱した。


「い、いや……それは――」


 流石にノラが追求するが、ムラタは首を振った。


「例えば俺がその話を伺ったとします。そこから想像される未来、それはノラさん達から向けられる期待――あるいは絶望」

「絶望だって?」


 ノラがたまらず言い返した。

 恋人のことであるので、いつもより感情的だ。

 ムラタは構わず、先を続けた。


「事情を俺が知っている。その事実を以て、自然とこういう感情が出てきてしまう可能性があるんですよ」

「可能性」


 オウム返しにノラが応じた。

 それによって、自分の心を静めようとしているように。


「“この人は自分と同じ想いを抱くに違いない”――とね。だが同じ状況になっても、他人ひとが同じ感情を抱くかどうかはは確定していません。つまりこれは期待だ」

「……」

「が、同じ感情を抱いていないと知った時、期待は絶望に変わる」

「しかしそれでは」

「だから最初から接触は最小限に。相手に期待してはいけない。お互いに利用し合う」


 ムラタは淡々と告げる。


「……おかしな事に、そういう関係であった方が結果上手く行く事が多い」

「だが、それでは……」

「ええ。反論も多々あるでしょうし、もっと立派な論理が持ち出されることであろうことも、認めましょう。だが俺は“異邦人”なんですよ」


 ああ……


 ノラは天を仰いだ。


 確かにその条件の存在を軽く考えすぎていた。

 どこまでいっても、ムラタが抱えている背景バックを理解することは出来ない。


 そんな中で、こちらだけが「理解してくれ」と詰め寄るのは、卑怯ですらある。


「そんなわけで、それは却下で。代わりに他の条件がありますか?」


 ムラタはあくまで淡々と応じることに決めたらしい。

 そんなムラタを、ノラは攻撃する事を決意した。

 別に暴力的な手段に訴えようとしたわけではない。

 

 これから行うのは、精神的な攻撃。

 いつの間にか、ムラタに弱みを見せてしまっていた。

 この会合を有益なものにするためには、攻撃することで立て直さなくては。


 そのための材料が――実はある。


「……代わりという程のことは無いけどね、ちょっと確認したいことがあってね」

「確認ですか?」

「ああ。『ガーディアンズ』についてだ」

「それはロームさんのことなのでは?」


 ムラタが首を捻る。

 ノラはグラスに蒸留酒を注ぎながら続けた。


「随分、彼らに踏み込んだらしいね。彼女の態度が随分変わったと聞いているよ」

「ははぁ」


 ムラタはニヤリと笑った。


「なるほど。では言い訳よろしいですか?」

「聞こう」

「あれはもう、利用することも出来ない有様でしたから。だから適当に立て直しを。結果として、何故にあんな状態だったのかよくわからないロームさんに踏み込むこと無く状況は好転した……んでしょう。こうしてノラさんに会えましたし」


 どうやらノラの意図は伝わったらしい。

 ノラとしても、ここから「だからこっちの話を聞け」とやるつもりは無い。


 距離感の再設定。


 それがこのやり取りの目的だ。


 それにムラタがしっかりと次に繋げるための足がかりを残してくれていた。

 ノラは有り難く、それに乗っかることに決めた。


「『ガーディアンズ』を利用するのかい?」

「そうせざるを得ない、事も無いんですが、彼らが適役であることは確かなので」

「……説明してくれるのかな?」


 ノラが慎重に申し出てみると、ムラタはあっさりと頷いた。


「ノラさんは、ヒロト・タカハシの正確なところを知っていますからね。俺としても説明しやすいですから」

「……“異邦人”? ……いやこれは」

「そうです。ここから先の推測には女神アティールが絡みます」


 ノラの片眉が上がった。


 脳裏に浮かぶのは貧民街を中心に流布している、ある噂。

 ムラタが絡んでいるのは間違いないはずなのだが、その噂の内容がどうにもノラが知るムラタとは矛盾しているように思えていたのだ。


 そのため一端保留として引き続き情報収集あたらせていたわけだが……


「これから先を説明すると、不敬の極みですからね。かと言って不敬にならないように説明するのも面倒ですし。それに、これから先はノラさんの協力が不可欠になりますから」

「君ね……これは僕の条件に君が応える話じゃ?」

「では、必要無いですか?」

「……聞こう」


 ノラとしてはそう告げるしか無い。

 いや、それはこの場に限ってだけの話ではない。

 

 例えば、この場で自分がムラタへの協力を拒否したとする。

 そうすると、何ら繋がりを持とうとしなかったムラタは、いきなり消え失せてしまうかも知れない。

 その場合、よりダメージが大きいのは――“こちら”側だ。


 何しろムラタのスキルの名称は「孤高」。

 そもそもが、1人であっても問題がない存在なのだ。

 

 となれば、ムラタがその気である限り、こちらもそれを利用し続けるしか無い。

 あわよく、ムラタの“こだわり”を見つけられれば、さらに状況は有利になる。

 となれば、この不敬な説明を聞き続けるという選択しか選べないのだ。


 ムラタのいう「お互いに利用し合う」という状況に持ち込まれている部分に忸怩たるものを感じるが……


「一番わかりやすいのは、この前の鷲頭獅子グリフォンですね」

「ああ、君達が退治したとか。なんにしろ君が手伝ったんだろ?」


 伝えられている話ではムラタの姿はなかったが、ムラタの手伝いがあったであろう事は間違いない。


「ええ。ですがそれは重要では無くて、何故グリフォンは()()()()出現したのか? という部分です」


 ノラの眉根が寄せられた。


「……君が何を疑問に感じているのか分からない」

「俺がこっちに現れた時にも、変異種の巨人ジャイアントが現れました」

「だからそれは……」

「俺はこれを()()とは考えません」


 ムラタが、強い口調で断言した。


「俺の出現に合わせて襲いかかるジャイアント。休暇先にたまたま現れるグリフォン。そんな偶然、俺は認めません。では偶然で無ければ何なのか?」

「……神の意思、になるね」


 ノラは結論を口にした。


 元々、伝えられているヒロト・タカハシの言葉から、神に対しての不審感を抱いていたノラである。

 その結論に到達するのは早かったし、心理的なハードルも低かった。


 だからこそ、ムラタはノラに話をしたのだろう。


 だが、そこから「ガーディアンズ」には繋がらない。

 それに、貧民街に繋がる噂にも。


「基本的に女神はバカの極みなんですが……」


 ムラタはノラの疑問には構わず、さらに女神を冒涜した。


「……厄介なことに神のような力を持っていることは間違いないでしょう」

「神の“ような”?」

「はい。一見、神の様に見える力は持っているでしょうね。これは推測の範疇なんですが……」


 ここで神学談議を繰り広げるのは無益だ。


 ノラはそう判断した。

 問題は、そういう前提でムラタが動いているというところだろう。


「では『ガーディアンズ』は?」

「ゴードンの手助けをお願いしたいと思いましてね。謂わば予備兵力としての役割を期待してるんです」


「それは……グリフォンが出現すると? リンカル領に?」

「そうなりますね」

「その推測の根拠は?」


「ゴードンとは縁が出来てしまいましたからね。彼は攻撃される可能性があります――それに、そもそもリンカル領が目的かも知れませんし」

「ああ、それはあるかも知れない」


 ヒロト・タカハシの後始末、と言うことで女神が動く可能性は確かにある。

 そもそもが、ムラタのスキルの不具合程度で女神が“影向ようごう”するのもまた異常事態ではあるのだ。

 

 だが、スキルの不具合についての対処がムラタと同じという部分がノラには引っかかった。


(ある程度は、女神の行動を読んでいる?)


「そんなわけで『ガーディアンズ』には立ち直って貰った方が、手間が少なかったんですよ」

「わかったよ。ちなみに『ガーディアンズ(彼ら)』に何が起こっているのかという推測はあるのかな?」

「その場で、簡単に考えたことですが……」


 あの家に籠もりきりになることで、パーティーがの心がバラバラ。

 そして要の役割もあったルコーンが離脱――あるいは見放したか。


 パーティーという形に、一番こだわっていたのがローム。

 何とかつなぎ止めようとして色々動いていたが、まったく成果が上がらない。


 ついには、ロームもまた引き籠もりに。


「……という感じですか。これに俺への憎しみがあるわけですね」

「なんだって?」

「女性に嫌われることに関しては自信があります」


 ムラタはそういうとニッコリと笑った。 


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― 新着の感想 ―
[良い点] ムラタの異邦人としてのメンタルがドライで、掴みどころがないというか…… そこが、この話の特徴の一つでもあるんでしょうが。
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