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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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唐突な告白

 そうやって、ドヤ顔でふんぞり返りそうになったムラタだが、その表情が引き締められた。


「……あ、さっきの間違いかも」

「怖い事言いだしたね」


 ノラが薄く笑みを浮かべた。


「あ、いや、無茶な欲求するつもりなのは間違いないんですけど、多分あれじゃ釣り合いが取れない」

「君の方が損をしたという話かな? だが今更……」

「そうではなくて逆」


 何を言い出すのかと、ノラが笑おうとした次の瞬間、そのまま凍り付いた。

 ムラタの言葉の意味の意味に気付いてしまったらしい。


「その短剣ぐらいじゃ、とてもとても」

「待ってくれ」


 今度は間違いなく、ノラがムラタを制止しようとする。


「もう十分だ。これできっちり仕事は……」

「ルシャートさんが恋人だって事は誰にも告げません」


 しかつめらしい表情でムラタがそう告げると、逆にノラが停止してしまった。

 その停止で、今更何をどうしても無駄である事は明白だ。


 ノラが慌てていたタイミングで、繰り出されたムラタの言葉によるカウンター。

 精神的には、完全に“切って落とされた”状態に陥ってしまう。

 

 ムラタは特に変わった風も無く、懐からタバコを取り出した。

 そのままノラの再起動を待っていたが、彼女は一向に復活しない。

 ムラタは、軽く首を捻った。


「もしかして、俺からの説明があった方が良いですか?」


 その言葉に、ノラの全身が震える。

 そして、ようやくのことで大きく深呼吸した。


「……そうだね」


 ゆっくりと告げる。


「どうしてその結論を導き出したのか、知っておきたい」

「ああ、その辺りはハッタリです。6割方の見通しで、言ってみました」

「……君ね……だが6割か」


 何とも微妙な数字である。

 ムラタは、独り言めいたノラの言葉に対して一服して間を取った。


「ノラさんだって、俺に気付かれてると思っていたんでしょ?」

「ある程度はね」


 ノアは潔く頷いた。


「だが、その辺りもまとめて教えてくれると有り難い。それにこれは君からのサービスなんだろう?」

「そう言えばそうでした」


 今度はムラタが頷く。


「最初はもちろん、古書肆で会った事ですよ。あれは違和感がありすぎました。すぐ忘れるとかそんな事はあり得ない」

「……ああ、それは後から話を聞いて頭を抱えた」


 ようやくのことでノラがグラスを傾けた。


「目的は俺の偵察ですか?」

「そんな上等なものじゃ無いよ。あれは単純に好奇心。よく言ってもせいぜいが“女の勘”だね」

「ま、確かにあの頃は王宮なんぞに行くつもりは無かったですからね」

「それで……?」


 ノラが先を促した。


「あとはそんなに難しくないですよ。そこから入ってくる情報と、お二方の立場を照らし合わせて、当てはまりそうな状況を想像する。まず、ノラさんはリンカル侯と対立関係にあった――」


 何故そんな状態になったかと想像する。


 裏社会にいるノラと、リンカル侯が直接対決状態にあるというのがまずおかしい。

 つまり宮中で対立状態にあるリンカル侯と何処かの勢力。

 その勢力の派閥に組み込まれているのが、ノラ一党。


 こう考えた方がしっくりくる。


 となれば、リンカル侯と対立しているのは誰か?


 メオイネ公の可能性もあるが、コンタクトを取ってきた段階で弱小と考えられる勢力なれば――近衛騎士、という答えが自動的に導き出されるわけだ。


「――それで決め打ちで、アレコレの事象を考えてみれば、概ねしっくりします。ルシャートさんが何やら情報を提供してくれる人物、あるいは組織と繋がりがあることも……むしろ明け透け?」

「明け透けか……そう言われてしまうと返す言葉も無い」


「隠すおつもりがあったとは思えませんでしたよ。だが、それだけにどうにも釈然としなかった」

「何かミスがあったかな?」

「ミス……それもどうでしょうねぇ」


 ムラタの説明が続く。


 ノラとルシャートの繋がりは、かなりわかりやすかった。

 それでいて、ルシャートのマドーラの忠誠心はまず確かなように思える。


 となれば、ムラタがマドーラに対して益がある状態でも、将来的に不利益な存在になる事が見込まれたとしても、それをマドーラに告げない理由が無い。


 益があるのなら、情報組織と繋がりがある事でより能動的にマドーラの役に立つ事が出来る。


 ムラタに胡散臭さを覚えるのなら、マドーラにそれとなく情報組織と繋がりがあることを示しておいてもいい。

 ムラタもそれだけの隙は見せてきたつもりだった。


「それがまぁ、だんまり決め込んでますんでね。これはちょっと俺とあまり関係ないのかもしれない、と」

「……そうだね。隠す事が――習性みたいになってしまっているから」


 ムラタの顔から表情が消えた。


「君達の世界でも……」


 それを見てノラが誘い込まれるように尋ねる。


「……君達の世界でも?」

「何とも難しいところですね」


 ムラタがタバコを燻らせた。


「社会的には、それによって排斥する事は“格好悪い”というような風潮はありますね」

「“格好悪い”?」


「他に表現のしようが無いので。多分一番近いと思いますがね。ただこれは、何というか目標みたいなもので、実際には忌避する風潮もまだまだ根強いでしょう」

「そうか……いや、待ってくれ」


「“例のアレ”でしょ? それでよりややこしくなってます。その辺、俺の解説に期待しないで下さい。どちらかというと……」


 ムラタの目が一周した。


「尊敬して畏れ多いからあまり近付かなかったんです」

「君が?」

「ああ、これは嫌味ですよ。けど尊敬の気持ちがあるのは確かです。これは覚えておいて貰いたい」

「覚える? 何を?」

「そうそう。“例のアレ”の騒動も、お2人の関係に気付いたきっかけですね」


 ノラを無視するように、ムラタは続ける。


「基本的に斜に構えていたノラさんが、騎士団の危機に関してはやけに親身でしたから。隠したいのならあれもマズい」

「ああ……あの時は本当に危機だった。正直、君を恨んだものだ」

「過去形なんですか?」


 ムラタの問いかけに、ノラはグラスを呷る事で応じた。

 それに対してムラタも、しつこく追求したりはしない。

 タバコを再び、携帯灰皿に放り込むだけに留まった。


「……確認したい事が2つある」

「なんなりと」


 双方が間を取った事で、自然と仕切り直しという雰囲気となった。


「君がここで、僕たちの関係について言及したのは何故だい?」

「ここで、その情報を抱え込む事での益がないからです。むしろ害があると判断したからですね」

「……詳しく」


「俺がその情報を独占して、どのように活用すれば良いんですか? 俺は別にお二方に恨みは無いですし、むしろこれからも協力願いたい。となれば、この情報を抱え込む事で連携の齟齬がでてしまう事の方が問題です――お互いに腹芸状態であるのは心地よかったんですけどね」


 そんなムラタの言葉に、ノラが笑みを浮かべてしまう。

 いや笑みだけで無く喉の奥から、僅かに声が漏れていた。


「……心地良いんだ?」

「これについてはルシャートさんも同意見の可能性がありますよ」


 それを聞いたノラがさらに笑みを深めた。


「ああ、そうだね。彼女は喜びそうだ」

「……となるとあれはわざとか」


 ムラタの声に感情が滲む。


「何かやられたのかい?」

「やられたという程の事はありませんが……」


 ムラタの煮え切らない態度に、ノラは肩を揺らし始めるが――それがピタリと止まった。


「君――これはサービスじゃ無かったのかい?」

「スッキリしたでしょ?」

「それはそうだが、裏返せばそれに構ってる暇は無いという事になりそうだが」


 ムラタは黙秘権を行使した。


「どうにも、悪い予感だけがするね」

「あ、それ予感じゃ無くて現実になります」


 ムラタは自白した。


「君ね……」

「それだけの材料は渡したはずですが。ノラさんのバックには、王宮で好き勝手に振る舞い、貴族をも黙らせる“異邦人”がいる」


「そして、僕も異邦人の血を引いている。それが繋がりだと考える者が出てくるだろうね」

「“考えさせる”んでしょ?」


「そう思わせたら、負けだよ……何を今更」

「では、適当に使い潰して下さいよ。俺がお願いするのも、()()()()話なんですから」


 互いに刺し合うようなやりとりから一歩引いたのはノラであった。

 ノラは自身の不利を悟る。


 自分に“甘さ”がある事は自覚していた。

 「身内」という者が存在している。


 それ自体が“甘さ”だ。


 だがムラタは違う。


 ムラタは1人――そう1人なのだ。

 こうまで大胆に協力を求めているからと言って油断しては……


「それで確認したい事のもう1つは?」


 タイミングよく響くムラタの声。

 ノラは覚悟を決める。


「――ルシャートの事情を聞いて君がどう思うかだよ」


 ノラは踏み込まねばならなかった。

    

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