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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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対ギンガレー伯作戦会議

「ですが、その前に説明をさせて下さい」

「ああ、そういう慎重な姿勢はいいな――これランディも知ってるんだろ?」


 ロデリックがそう切り出したところ、ムラタがまたもや即応した。


 途端、ロデリックが棒でも飲み込んだような表情になる。

 どうやらランディへの説明は為されていないらしい。


「……お前なぁ。ちゃんと部下から報告されるような頼りがいを見せろよ」


 通常であれば、責められるのはロデリックになるはずだが、ムラタの中では「悪いことは全部ランディ」、という図式が揺るぎ無く聳え立ってるらしい。


「そういうのは僕が知っちゃうと、ヘマしそうだからね」


 それに対するランディは、実にあっけらかんとしていた。


 嫌味も何も無く、ただあるがままを受け入れている。

 あるいはこれこそがムラタに対してもっとも有効な対応であったかも知れない。

  

 そんなランディの様子を見て、ロデリックは覚悟を決めた。

 ムラタを怒らすようなことになっても、ランディ(上司)がきっと何とかしてくれるだろうと。

 つまり最初に行うべきは――


「――ムラタさん、先ほどの閣下に提案する講座の内容。まずこれが良くない」

「そこからか」


 言いながら、ムラタは苦笑を浮かべる。

 そんなムラタの様子を見て、ロデリックの脳裏で、


(誘われた……いや、()()()()?)


 という想いが湧き上がったが、今更引っ込めるわけにも行かない。


「現在、閣下はご領地との関係があまりよろしくないようでして。そんな状態の閣下に田舎……“スローライフ”でしたか? そのような講義をするようにお願いしても色よい返事は返ってこないのでは、と思われます」


 ムラタはそれを聞いて、顎をさすった。


「……そうか。そんな状態にな。確かにそれだと『田舎暮らし』はちとマズいか」


 そのままタバコを取り出して口に咥えた。


「にしても、そういう情報入手できたのか」

「はい。冒険者ギルドにもコネがありますから」

「冒険者ギルド? 何故その名前が出てくる?」

「それはですね――」


 もちろん、その情報はムラタも掴んでいる。

 これはロデリックが一瞬考えたように、レイオン商会、つまりはロデリックの力量を試しているのだ。

 今のところ、ロデリックは試験に合格しているようだが……


「なるほどな。確かに王都ここで仕事してるんじゃ、領地にも帰れないだろうさ。だけど、それってあの男が望んだ未来だったはずだが」

「閣下がお役目を望んだ時とは、王都の情勢が変わってしまっておりますから」

「俺のせいだな」


 ムラタは特に感情を見せずに、タバコをふかす。


 ランディは完全に蚊帳の外であるが、ロデリックの説明にいちいち感心していた。

 確かにランディはあまり内情を知らない方が良かったも知れないが、後の祭りである。


「で――ここからどう繋がる?」

「冒険者を育てて、それで閣下がお力を蓄えた話は?」

「ああ。流石にそれは聞いている。というか、ランディが俺に教えてくれたんじゃなかったかな?」

「そういえばそうだったね」


 蚊帳の中に入ることを許されたランディ。

 だが特に気負うことなく、ムラタの言葉に頷くだけに留まった。


「それは確かにそうなんですが、その分専横も激しくなったとか。肝心の冒険者の扱いに関しても露骨な贔屓が見られるようになったとか」

「へぇ」


 ここから先はムラタも掴んでいない――と言うか掴もうとしなかった情報だ。

 メイル達の様子を見れば大体のところは推測も出来る、と言う事情もある。


「この改革のごくごく初期に、手を貸したのは間違いないようですが、どうも最初から……」

「弁護するつもりはないが貴族なんてそんなものだろ? 如何に上手く使うか。よくわかった貴族なら、むしろ如何に上手く“使われるか”という部分にも心を砕きそうなもんだ」


 ロデリックが前屈みになりつつ、ムラタの言葉に頷いた。


「そういう見方では、閣下は中々見所があったようですよ。別に吝嗇ケチでもなかったようですし。ただまぁ、見切りが早かったんでしょうね」

「見切り?」

「つまり、援助する冒険者と見限る冒険者の判断が……伝え聞く限りにおいては早かった」


 語尾を濁しながらロデリックがそう告げるが、ムラタは首を捻る。


「それは当然じゃ無いのか? エリミネイト……ああこれじゃ多分ダメだな。つまりは見切る事もまた重要じゃ無いか? ギンガレー伯はそれで結果を出してるようだし」


 冒険者達が“お友達ごっこ”で、ギンガレー伯を逆恨みしている。

 ロデリックの話を聞く限りにおいては、その可能性も捨てきれない。


「私もある程度の見切りは重要だと思います。ですが閣下の場合、たまたま上手く行っただけのような……」


 ムラタが眉を潜めた。


「つまり贔屓にしている冒険者がたまたま成長したと?」

「と言うより、十分成長した冒険者だけしか相手にしなかったというか」

「ははぁ」


 ムラタにも段々、メイルたちがギンガレー伯を忌避している理由が見えてきた。


 つまり初期には、庇護者として懐が広いところを見せた。

 だが、ある程度まで行くと“美味しい”部分だけ攫うようになってきたわけだ。


 それはもう庇護者とは言わない。


 後進の育成すらも出来ないようであれば――がだ、そうなると……


「……最初に金を出したのが、おかしく思えるな」

「そこがどうも……私も重ねて聞いてみたんですがね」


 ロデリックは声を潜める。

 ムラタが上半身を前に乗り出した。

 そのついでにランディも。


 確かにここまで来て、ランディだけを爪弾きにするのも変な話だ。


「……どうも女、が絡んでいるらしくて」

「……何とも普通な話に落ち着いたな」

「……普通なのかい?」


 三者三様の反応であったが、ムラタの言うとおり“普通”の話なのだろう。

 ロデリックも上半身を起こす。


「この辺り、流石に詳しいところは。ただ何人かの冒険者が閣下の妾となっているそうで」

「……確認するが、それは女性か」

「いや……それは……」


 ムラタの目が細められる。

 事のついで、ではあったが“例のアレ”を、レイオン商会が認識しているのかをはかったらしい。


 もちろんランディはよくわかっていないらしく、反応がロデリックのものとは対照的だ。


 ムラタは、しばし沈黙。

 そして、タバコを携帯灰皿に放り込んだ。


「ま、その辺りも普通だな。お前の父親(リンカル侯)もそんな感じだろ?」

「貴族ってそういうもの……ああ、そうだね。普通だね」


 ここでランディが“普通”であるという評価に賛同した。

 もとより“閣下”呼ばわりされる大貴族なれば妾の1人や2人いて当然だろう。


 だから、この辺で改めて顰蹙買うような事は無いはずだ。


 何せそれが世の常識であるのだから。リンカル侯が妾を幾人抱えていても、それによって侯爵としての役割に支障を来さない限り、文句は出てこない。


 その辺りは、侯爵なりの“節度”があってこそだが「妾を抱える」事自体が非難されることは、まず無いだろう。


 その辺りは、ギンガレー伯も同じことのはず。

 それなのに文句が出ていると言うことは――


「何か無茶をやったな、あの髭面」


 愉快そうにムラタが決めつけた。

 それに対してロデリックは何も言わない。


 ここから先は、噂話のレベルでしか情報収集が出来なかったのだろう。


 自分の言質を取られることを嫌がったのか……何にしろ、その慎重な姿勢はムラタの好みである事は間違いない。


 ムラタは、上機嫌に肩を揺らしてこう告げた。


「これで前提条件の説明は終わりだな? で、そこからどんなアイデアが出てきたんだ? 髭面に何の講義をさせる?」


 確かに元々は、ギンガレー伯を調子に乗せるには何の講義が最適か? という観点で話し合いが持たれたはずだ。

 ギンガレー伯の醜聞スキャンダルを集めても、そこから発展性が見られない。


 その辺りはロデリックも心得たもので、一つ頷いた。

 どうやら本筋に戻ることに否はないらしい。


 ムラタも新たなタバコを引っ張り出しながら、ロデリックの言葉を待った。


「実は……講座の内容についてのアイデアでは無いんですよ」


 だが、ロデリックの言葉はまずムラタの意表を突くことから始まった。


「……どういうことだ?」

「閣下の性質はご理解いただけたと――それを踏まえて私が考えている事はその環境を変えることです」


「環境……すまん。話がよく見えない」

「警護のために配置する冒険者を、女性限定で行いたいのです」


 ムラタの動きが停止した。


 ロデリックの言葉が理解できない――と、いういう様子でも無さそうだ。

 だが事実、ムラタの動きは止まってしまった。


 ランディが、この“空白”に不安を覚え、キョロキョロと様子を窺い始めた時、ようやくムラタは動いた。

 引っ張り出したタバコを、箱の中に戻すために。


 そして独り言のように呟いた。


「……スカウトキャラバンか」


 ――どうやら、まだまだ話は脇道にそれそうである。


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