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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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1人だけの所信表明

>BOCCHI


 思わず鼻歌が漏れてしまう。

 奏でるのは「快傑ズ○ット」のエンディング――「男はひとり道をゆく」


 今の浮き立った気分に最適な歌詞で、相応しい事この上ない。

 何しろ……


「ひとりだーーーーーー!!」


 ……この村に来てから何度目の叫びであったろうか。


 もうすぐ日が暮れるな。

 この村とも明日でお別れだ。

 準備し終わったからなぁ。


 取りあえず用意したのはまず青々と茂る麦畑。

 個人用の家屋が複数に、集会所みたいな大きな建物ハコ。それに物見櫓。

 あとは近衛騎士団の――派出所? とにかくそういう建物もの


 ……こんなものじゃ無かろうか?


 井戸は三基設置したし、それとは別に川から引いた用水路も準備してある。他は……


 ……やはりこんなものでは無いかな?


 どうにもリアルでminecraftやってるみたいで、ゴールがわかりづらい。

 しかもMOD乗せ乗せで、一つも苦労しないと来た――壊れスキルめ。


 核融合炉搭載耕耘機とか、正気の沙汰とは思えなかったが――これがあるわけだ。

 その他、大体思いついた物がオーバースペックで出現する。


 家屋に関しては今までの“ねじろ”作成と変わらない。

 むしろ、この調整が一番難しかったかも知れない。まったく朽ちない壁とか、割れないガラスとか、そんな仕様になっていたら責任は取れない。


 責任をとるべき相手は他にいるからな。

 そう――あの女神(あのバカ)だ。


 あのバカのやり口は実に露骨だ。

 誰も彼も男がハーレムを好むとでも思ってるのだろうか。

 今の状態がおかしいと思わないだなんて、実に舐められたものだ。


 まず女性だけのパーティーに拾われる事、事態が異常な確率。

 それがまたしつこく現れるし。

 

 ――過去が追いかけてきた。


 とか、エッチなのはいけないアンドロイド気分に浸る事も無く、ただただ鬱陶しい。

 何を考えてこんなことをやらかしてくれちゃっているのか?

 しかもノウミーにいた……ええと、なんて名前だったか、あの女も追加注文されてるし。


 元々、王都だけでもゲップが出るほどの品揃え。

 幼く不幸な生い立ちのお姫様。

 不遇な騎士団長がこれまた女性。

 さらにギルドの顔役が、これまた女性というね。


 エロゲーか!!


 何度ツッコミを堪えた事か。

 

 まったく“異世界”の全てに唾を吐きかけたい有様だ。


 これで俺がニコニコ笑って、全て受け入れるとでも?

 俺は何にも考えない馬鹿とでも思われているのか?

 実に屈辱的だ。


 ただ何処までが作為で出来上がっているのかはよくわからない。

 これだけの役者を最初から揃える事が出来るなら、俺を“出現”させる必要も無いだろう。


 特にマドーラ。


 あの子は、俺から見てもイレギュラーに過ぎる。

 これが計算なら――それは無いな。

 だってバカだもの。

 これだけは確信をもって言える。


 だが、あのバカにとっては格好の状況が揃ったように見えたのだろう。

 喜び勇んで、俺を“出現”させた。


 俺はなんとか、バカに落とし前を付けさせるために行動してきたわけだ。そして現在は女神バカの思惑に乗る形で現在、行動指針を定めているわけだが……


 ……上手くいってるのかなぁ?


 ここの連中を全滅させるのは簡単だけど、それも面白く無い。

 せめて自分が面白いと思うように、行動したい。


 それだけが俺の揺るぎない行動指針。


 だから上手くいっているかどうかはともかく、方向性は間違いないはずだ。

 女神バカの思惑に乗って、調子に乗せて……


 俺は麦畑の向こうに沈み行く夕陽を見ながら、セブンスター(セッタ)に火を点ける。

 今日の出で立ちは、作業着という事でつなぎ……それもピンク色を採用した。


 ……採用したが、これはこれで危ないな。


 見る人が見れば、異常性愛者ロリコンそしりも免れない。


「僕はロリコンじゃ無いよ!」


 よし、これで大丈夫だろう。


 何しろしばらくは女の子(マドーラ)に付き合わ無ければならないからな。


 もっとも、見る人など誰もいない事は間違いない。

 何しろここは“異世界”。

 それがこのテンション。


 やはり久方ぶりの1人(ボッチ)に心が浮き立っているのだろう。

 本当に1人(ボッチ)って良いものだなぁ。


 唇の端に咥えたタバコをじっくりと燻らせる。

 空の色は茜色から濃紺への鮮やかなグラディエーションを魅せた。

 そして輝く星々。


 それは俺の知っているものとは違う。

 当たり前と言えば当たり前なのだが……俺はさらに目を凝らしてみた。

 俺の壊れスキルが仕事をすれば――そんな事を考えながら。

 

 もっとわかりやすい方法をとるのはカウンターを食らいそうで、今進行中の計画を阻害する可能性がある。

 それに、もっとわかりやすく制限が掛かっているのかも知れないし、俺の想像力が及んでいないだけかも知れない。

 

 タバコの煙とため息を同時に吐き出す。

 そして、たっぷりと楽しんだタバコを携帯灰皿に放り込んだ。

 周囲はすでに宵闇に包まれ始めている。


 ――取りあえず“ねぐら”に戻るか。


 この村での“ねぐら”とは、家屋の1つ――の、屋根裏だ。

 広い部屋とかまったく必要無いしな。


 流石に風呂場とトイレはこの家屋の別な場所にでっち上げたが、それ以外はさほど改造はしていない。

 何しろ真っ直ぐ立てないぐらい天井が低いからな。

 この低さが良いんだよ。


 わっかるかな~わっかんね~だろうな~


 ……といにしえの芸人のフレーズを呟いてみる――本当にテンションがおかしいな。


 まず飯だ。

 夕飯にしよう。


 今日は……ラーメンと炒飯、それに餃子で良いか。

 そう決意した瞬間に、トレイに乗せておいた朝食(洋食風)が変化する。


 ……そうか俺。


 そんなに豚骨な気分だったか。

 自分の心には逆らえないよな、と言う事で麺を啜った。


 それと同時に、広げてあったモンスターが潜みそうな場所での記録――そのまとめを眺める。


 実は、モンスターにDNAを変化させる毒を注入して、種族を根絶させる計画もあったのだが……モンスターはいなかった。


 いや、実際に遭遇してたら普通に殺し尽くすだけで、この方法は実行に移すかどうかはわからなかったな。

 人体への影響が、どういうことになるのか見当がつかないし、それになんだったか。


 ……そうだ特異種。


 あんな遺伝子異常とも思える個体もいるわけだし根絶に繋がるかわからないしな。

 そんなわけで、何者かの痕跡は発見出来たものの、決定的な行動には移れないでいる。


 痕跡については、


「消毒だーー!!」


 とばかりに焼き尽くしたわけだが。

 

 さて、となるとやる事も無い。

 ラーメン、炒飯、餃子を健康に気を配って「三角食べ」を心がけ、終わったら……何を見ようかな。

 ちょっとアカデミックな番組をストレージから探ってみるか。


                  □


 ……と言うわけで夜が明けた。


 もしかすると俺には睡眠要らないんじゃ無かろうか、とも思うがあまり試したくは無いな。

 “寝るに勝る楽はなし”と、よく言うではないか。


 その楽を放棄したくはない。


 朝食は簡単にシリアルと、苺にしておく。

 ミルクを使い回そうとするのが、我ながら貧乏くさいが、構いはしない。


 その後、資料をまとめて“ねぐら”をたたむ。

 後は、風呂場とトイレをたたんで……これで帰る準備は整った。


 はぁ……王都に帰るのか……


 このまま逃げ(フケ)たいなぁ……


 それも選択肢の1つだとわかってはいるが、それと同時に理解している事もある。

 と言うか信じている事も。


 自分の徹底的な運の無さを、俺は信じて止まない。


 だから逃げるためには、徹底的に運命を――そんなものがあるのなら――カタに嵌めて、身動き出来ないようにしなければ。

 

 そこまでやり切れば、究極のボッチ状態へと導かれるだろう。

 ……恐らく。


 家屋を出て、朝の光の中青々とした麦畑を見る。


 うん。


 やり過ぎのような気がするな。

 これって無駄に終わるような気もするが、荒れたら荒れたで何かしらいい感じに解釈してくれるだろう。


 ――ここをキチンと作り直して、新しい生活が始まるんだ!


 みたいな。


 そんな風にやくたいもない事を考えながら佇んでいると、聞こえてくるのは馬のいななき。

 ルシャートさんの騎士団の掌握具合は尋常では無いな。


 俺はズボンをつまみ、ピンク色のつなぎを“異世界”風に変更して、最後の1本とばかりに、セブンスター(セッタ)を取り出す。


 ――ああ、名残惜しいボッチ生活よさらば。 

 



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[良い点] 男は一人、往くものさ~的なw
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