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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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ムラタの提案

「やりたい事?」


 引き込まれたようにメオイネ公が尋ねてしまう。

 ムラタは小さく頷いて話し始めた。


「王都の側に小さな耕作地をでっち上げようかと思いましてね。商業的にはあまり発展しないでしょう。何せ王都のすぐ側だ。やはり農村をこしらえるという目標が良いと思います」


「そ、それは……」

「労力に関しては俺がやりますよ。“大密林”で似た事やった事がありますから」


 一番の問題だと思われる部分にムラタが、その“壊れスキル”でもって挑むという。


 だが、あまりに漠然としすぎてはいないだろうか?

 そんな会議室の空気を読み取ったのか、ムラタが相好を崩して、こう告げた。


「疑問については、答えられるものなら何でも答えますよ。ダメ出しも大いに結構。そのための会議ですから」


 なるほど、一つの計画プランに対して意見を戦わす。

 これもまた会議の形であろう。


 だがそれも出席者の能力が十分であれば、という条件が付いてしまう。

 今まで貴族たちが行ってきたのは、会議という体裁を整えるための会議であって、中身は何も無いのだ。


 有意義な会議になればなるほど、身動きできなくなる。

 何とも皮肉な有様となってしまった。


「……ま、まず、そうじゃな、候補地はあるのか?」


 それでも何とかメオイネ公が絞り出した。

 公の領地は豊かな穀倉地帯でもある。


 逆に言うと、穀倉地帯であるから「公爵」なのだという強弁も可能になるかも知れない。


 もちろん、公の血統が王家に近い事は言うまでも無い事だが、王国の中でも良い立地を押さえているのは、やはり「公爵」が後ろ盾になっているのだろう。


 場所は、王都から南東に進んだ平野一帯で牧畜も盛んである。

 結果としては、重農主義に近い形を採っているようにも思える。


 そんな領地を抱えるメオイネ公であるから、いち早くムラタの訴えを脳裏に描き出す事が出来たのであろう。


 農村を拵えるとなればまず第一に、地形の確認になる。

 どのような産業であっても地勢を考慮しないなんて事はあり得ないが、農村ともなればまず平地、水運などが重要になるだろう。


「そうですね。南方に伸びるコニュン街道から少し離れた場所です。王都ここからはそうですね1日ほどですか」


「それは、随分と近いな」


「元々は集落というか、キッパリと村があったわけですが。そのため新たに開発すると言うよりも、再開発というのが一番近いでしょう」


 だから各種設備なんかは問題ないはず――と、ムラタは締めくくった。

 そうなると次の疑問が出てくる。


「なぜ、その村は……」


 無くなってしまったのか?

 メオイネ公がそう言い切る前に、ムラタが反応した。


「言ってしまえば“見切られた”という事になるんでしょう。従来のシステムならば」

「見切られた? 土地が痩せすぎたとか、そういう問題か?」


「その辺りがわかるほど俺は農業に明るくありませんよ。もっと単純な話です。その村では損しか生み出す事が出来なかったんです」


 メオイネ公の眉根が寄る。


「……損?」

「ええ。その村の程近い場所に、小高い丘、森と言っても差し支えないだろう広葉樹の群生地があるんです」

「それが――どうかしたか?」


 メオイネ公は首を捻る。

 ムラタは、目を細めながら薄く笑い……ある人物の変化を見過ごさなかった。


「――ギンガレー伯」

「そうですな。そういった場所があるとなると、恐らくゴブリンやコボルドなどが発生する可能性が高くなる」

「ご明察です」


 ムラタが大きく頷きながら、ギンガレー伯の言葉を肯定した。

 そしてそのまま続けた。


「近衛騎士がそういった下級のモンスター相手に出張る事はまず無い。そのための余力も無い。ここで重要になってくるのが“冒険者”となるわけですが、彼らもタダでは仕事を請け負わない。だが農村で自由になる資金はさほど多いわけでは無い――結果、バランスが崩れれば住む事も難しくなる」


 こういう絡繰りです――。


 ムラタは訳知り顔でそう言ってみせるが、そんな事は当たり前なのだ。


 平地を多く領土内に抱えるメオイネ公にはいまいちピンとこなかったようだ。


 急報を受け、即座に兵士を差し向けることが出来るほどに、見通しが良いメオイネ領では安全保障の苦労の割合が他領とは異なってくる。


 逆に“大密林”が近いリンカル領や、ほとんど辺境伯じみた領土を持つギンガレー領ともなれば――やはりムラタの言う事は当たり前過ぎる。


「例えば丘をならして、森を焼き払う。これも1つの手でしょう。多分俺にはそんなに難しくは無い。ですがこれから先、すべからく俺におんぶでだっこでは、この国自体の未来が見えてこない」


 当たり前の事を語った、次の瞬間にはとんでもない事を言い出したムラタ。

 だが、それもまた当たり前の結論に戻ってきてしまった。


「では……どうにかして他の手段で、開拓を進めますか?」


 焦れたようにギンガレー伯が尋ねるとムラタは笑顔で首を振った。


 否定する意図はあるようだが、伯の発言自体は先に言ったとおり、咎めるつもりは無いらしい。


 そのためギンガレー伯も身を乗り出したまま、ムラタの言葉を待った。

 そしてそれは、他の出席者も同じだ。


「……最終的にそこまで至れれば御の字ですが俺の意図は単純に、その村に戦力を配備する事です」

「だがそれは……」


 経済的に難しいのでは無かったか?


 メオイネ公が言いかけた言葉に、出席者の賛意が集まる。


 そんな中、ムラタは名残を惜しむようにして、ほとんど吸う事も無く灰に帰したタバコを携帯灰皿に押し込んだ。


「経済的に立ちゆかないとなれば立ちゆくように知恵を絞るべきです。それが出来ぬようでは国が国たる意味は無い」


 ムラタは苦い表情で、それでもキッパリと断言した。


「安全保障が出来ぬようでは、税金を取る大義名分が無いというわけですね。それに安全保障は増収に繋がるわけですから」

「……それそうかも知れぬが、具体的な方策が無いと……」


 ムラタに付き合うかように、リンカル侯が苦虫を噛み潰したような表情で応じた。

 そうするとムラタは頭を掻きながら、こう告げる。


「俺の腹案をいきなり大規模なスケールで初めてしまっては失敗しても引き返せなくなってしまう――つまり最初は小さく試してみるんです。試験の意味も含めて」

「う、うむ?」


「具体策を説明していけばおいおいわかるかと。まず安全保障の件ですが――ルシャートさん」

「はい。ムラタ殿が仰っていた『従騎士スクワイア』についてですが、数名確保する事が出来ました」


 待ちわびていたルシャートが、即座に応じる。


「『従騎士』……うむ、何やら聞いた事があるような」

「近衛騎士団で使われていたいにしえの呼び名を復活したものですから……そうですね。メオイネ公のご記憶にあるのはそのためでしょう」


 ルシャートが柔らかく応じる。


「して『従騎士』とは?」

「有り体に言えば、騎士見習い、といったものですがムラタ殿の考えは少し違うようでして」


 そこで再び、視線がムラタへと戻った。

 

「違うのは少しだけですよ。見習いは見習いで間違いありません。ただ庇護の元で正規騎士へ導かれるだけでは無く、実地で経験を積ませ見込みのある者を見出す――ま、これは建前ですね」

「建前?」


「実際には、正規騎士の下部に実働部隊を設立する構想ですね。正規騎士への道を閉ざすわけではありませんが……」

「構想のままだと、全員を騎士に任命するわけにもいかないでしょうね」


 ルシャートが無情な事を言うが、それは現実を見据えての事だろう。

 つまり――


「近衛騎士団のあり方を大きく変えるという事か」


 リンカル侯が憮然として呟いたが、その短い言葉が事実を一番的確に表していたのだろう。

 ムラタの構想が、会議室に浸透していく。


 そのムラタも頷いたものの、今までの強引さはなりを潜めていた。


「大きく変える、まで行く事になれば良いのですけれど、今はあくまで規模を小さくして試験テストしてみよう、というのが主旨です」


 ムラタはそのまま、正規騎士1人に対して従騎士3名ほどで村に駐留させるつもりだと説明する。

 もちろん危急の時だけ動き出すのでは無く、周辺の巡回もルーチンに組み込んでいた。


 これは村人たちに安心感を与えると同時に、将来的にはもっと広い範囲をカバーさせる心づもりがあるからだ。

 今は小さな村だけの話ではあるが、せっかくのテストだから色々やってみたい、と。


 こう下手に出られては、反対する者も居ないかに思われた。


 何よりあくまでこれはテストであり、この変化が本決まりでは無い事も大きかったのだろう。

 なんとなく、会議室の空気が緩む。


 だが――


「確認したい事が――」

「お主、もしや……」


 あろう事かギンガレー伯とリンカル侯が同時に発言した。

 するとムラタは嬉しそうに、近くに座っていたリンカル侯から話を促す。


 それを受けてリンカル侯は片眉を上げながら、こう尋ねた。


「お主、冒険者の仕事を奪うつもりか?」


 突飛な言葉に思えた。


 だが、その言葉が意味するところを噛み砕いて理解しようと努めると、あながち的外れではない事に気付く。

 考えてみれば、ギンガレー伯も同じように声を上げていたのも納得できた。


 どちらも領内に、多く冒険者を抱えている。

 だからこそ、ムラタの計画に気付く事が出来たのであろう。


 そうなれば必然的に――出席者の視線がメイルとアニカに注がれる。 


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