人は皆、後悔する
メイルとアニカの目覚めを待っている「ガーディアンズ」とクラリッサ。
彼らも漠然と、2人が帰って来るのを待っていたわけでは無い。
……と言えば正確に事実を説明したわけではないだろう。
本来なら、ただ2人を待って居るつもりではあったのだ。
いきなり2人が訪れたことによって、慌てふためくムラタ。
そんな未来を予想して、そしてそれ以上の目的があったわけでは無い。
強いて言うなら、
――むしゃくしゃしてやった。反省はしていない。
この辺りが、事実に一番即しているのかも知れない。
双子に関しては未だに“ゲーム”に固執していたが。そのためペルニッツ子爵を「説得」するにあたって、かなり協力的だった。
そして、実働にはムラタとの因縁の深いノウミー組が中心的に動くこととなったのも打ち合わせ通り。
それにギンガレー伯について、相談したいこともあった。
だがそれならそれで、彼らは別のアプローチを考えるべきだったのだ。
待つだけのはずの彼らの状況をさらに悪化させたのは、ムラタによる騎士団との訓練だ。
これがこのタイミングで実行されたことが、状況をさらに悪化させたのだ。
今まで漠然と伝え聞いていたムラタの武力――というか暴力を、ペルニッツ子爵は直接に見てしまい、そしてギンガレー伯は信頼度の高い情報に接することになってしまったのだ。
そうやってストレスが掛かってしまうと、貴族はこういうリアクションになってしまう。
「いいから説明せぬか」
と。
説明という名の気休めを、どうしても求めてしまうのだ。
「ガーディアンズ」は本来、縁が無かった相手ではあるが憂さ晴らしのためにペルニッツ子爵を利用したという負い目がある。
クラリッサに関しては、元々ギンガレー伯に従って王都に赴いている。
それぞれに無下にも出来ず、適当な言葉を並べるしか無い。
その点に関してだけは、クラリッサは適役であったのかも知れないが……
そうやって「クライスワン」に戻ってきた面々。
だが、2人は帰ってこずそのまま夜が明けた。
ヤキモキしながら待ちわびていた皆の前でメイルとアニカは眠り込んでしまい――ようやく、お昼前に目を開けた。
「大丈夫か!?」
付いていたクラリッサが、すぐさま声を掛けるが、覚醒間もないアニカがこう応じた。
「……大丈夫じゃ無い」
案の定というべきか、爽やかな目覚めとはならなかったらしい。
そして食事を運んで貰うのと同時に、時刻を確認するメイル。
「……マズいぞ」
そして深刻な表情で呟いた。
「一体何があったんだ?」
「簡単に言うと、侍女に採用されてしまったの」
クラリッサの問いかけにアニカが本当に簡単に説明してしまう。
だがそれは、完全にクラリッサの――そして「ガーディアンズ」の予想を裏切っていたのだ。
何しろ、メイルとアニカには侍女としても素養は全く無い。
木っ端貴族の屋敷なら、行儀見習い、ということで採用されることもあるだろうが、使えるべき相手は次期国王。
普通なら、採用されるはずが無い。
そう――普通なら。
自ら“埒外”と言ってしまうようなムラタが相手である事が、彼女たちの失敗の一因であろう。
だが寝室から出てきた2人が「ガーディアンズ」に語る説明の中には、ムラタだけでは無い、別の人物の驚くべき報告が含まれていた。
言うまでも無く問題の次期国王――マドーラについてである。
ここに来て彼らの思い込みに修正が加えられることとなったのだ。
特にマドーラに対して同情的なルコーンの衝撃は計り知れない。
「そ、それではまるで共犯者のような……」
「あ、それ一番近いかも」
ルコーンが動揺して発した言葉にメイルが追撃を繰り出す。
そう。
メイルとアニカを、追い込んだのは事実上マドーラが主体となったものだったのだから。
「しかし君たち2人を側に置くことで、殿下は何を……?」
ザイルが、いよいよ肝心なところを確認してきた。
そこでメイルとアニカは頷き合って、マドーラの――いやこれは確実に、ムラタの発案であろうがこれから王国で行われるであろう、変革についてざっと説明した。
その説明は、何とも耳に心地よい言葉で飾られてはいたが、すぐに彼らは本質に気付く。
「ま、待ってくれ、それじゃ王都の冒険者は……」
冷静であったはずのザインがうろたえた。
ムラタが考えている事が実現して行けば、冒険者稼業は難しくなってしまう。
だが、それは悪いことではないはずで、その上冒険者救済の道も残されている。
抵抗を続けるのはむしろ「ガーディアンズ」のような最高位者の冒険者隊かも知れず、それに関してはムラタも手を出すつもりは無いようだった。
それどころかこう言ったらしい。
「ゲーム機で遊びたいんだって? いいともいいとも。今すぐは無理だけど、必ず出来るよう段取りを整えようじゃないか。気にすることは無い。俺は君たちの“友達”じゃないか」
ムラタの口調を真似するメイルの横で、アニカが唇を噛みしめながらこう言った。
――あれほど「友達」という言葉を冒涜した奴はいない。
これには流石の双子も真っ青になって黙り込んでしまった。
いつの間にか彼らは引き返せない場所に入り込んでしまったのである。
それを今になってようやく気付いたのだ。
逃げる――。
当然このことも選択肢に含まれている。
だがここまで、明かした以上ムラタがただで逃がすとも思えなかった。
ムラタの武力はすでに証明されたようなもの。「ガーディアンズ」に至っては、それ以上の攻撃力まで目撃しているのである。
要らぬちょっかいを掛けた以上、それ相応の代償が求められるのは、あるいは公正な振る舞いであるのかも知れない。
「こうなったら、ちゃんと協力した方が良いのかも知れない」
ロームが呟くようにそう告げた。
消極的ながら、これもまた選択肢に入れるべきだろう。
すで巻き込まれているのならば、出来るだけ自分のコントロール下においていた方が、まだまし、という理屈だ。
これはある程度説得力があったが……
「もう……戻らないと」
「行かないと、自動的に逃げ出したことになっちゃう」
逃げ出すにしても、時間が稼げる状態にならないと……、とアニカが取り憑かれたように呟いた。
どうやら侍女稼業にも休みが貰えるようなので、逃げ出すにしても機会を待つべき。
そんなアニカの主張に、全員が不承不承頷いた。
そう彼らは甘い夢を見たのだ――“保留”という名の甘い夢を。
□
>BOCCHI
何もかもが上手く行かない。
どれもこれも中途半端になってしまった印象だ。
いや、まだ目標達成のための下準備段階だし、そこまで深刻がる必要は無いはず。
女神の思惑に乗ってる部分だけ、上手く行ってるのがどうにも気にくわないが、これも“腐っても神”ということ――あーーー!!
「マドーラ! 俺がコンボ作ってる最中だっただろ!?」
せっかく作っていた連鎖だったのに、おじゃま○よが!
しかも俺の退廃的な自省タイムが、打ち破られてしまった。
今は、昨日の慌ただしさも一端落ち着き、比較的余裕があるわけだが、ぷ○ぷよをやることは無いよな。
俺もマドーラも昼飯を済ませて、来るのならばメイルとアニカがやって来るまでのまったりタイム。
……そうまったりのはず。
2人でジャージに着替えて、テレビの前で土星さんのコントローラーを握っているわけですが。
「対戦になれば、やることは変わってくる」
それはそうなんだが、そもそもマドーラの連鎖構築スピードが尋常じゃないんだよ。
細かく連鎖させて、おじゃま○よを送り込んでもすぐに排除されるし、それを防ぐためにある程度の連鎖を構築しようとすると、すぐさまおじゃま○よが送り込まれるし。
これはあれだな。
マドーラのコントローラーだけ、下ボタンをカットさせよう。
「SK○T D○N○E」で、そんなコントローラー見たことある。あのコントローラーの出番は、ここにあったんだよ!
壊れスキルは壊れスキルらしく、壊れたコントローラーをひねり出せよ!
……そんな、俺の叫びも空しく勝敗は決してしまった。
「……マドーラ、追い詰めすぎるのは良くない」
精一杯、負け惜しみを言ってみる。
マドーラは小首を傾げた。
「俺が嫌がったら、対戦する相手がいなくなるだろ」
「それは……そうですけど」
何とも煮え切らないが、良いタイミングだから釘を刺しておくか。
「あの2人を解放したから、わかっていたものだと思ったんだがな」
「そ、そうです」
見事に吊り出されたな。
「嘘をつけ。これで2人が来なかったら、キルシュさんにずっとお願いできると考えたんだろ」
「…………」
わかりやすく沈黙したな。
もっともこれぐらい、ワガママ言ってくれた方が良いような気もする。
子供が物わかり良すぎるのも問題があるらしい。そういうようなことを聞いた覚えが……
ま、今は取りあえず次期国王としての覚悟を確認しておきたい。
「これで2人が来なかった場合は?」
「おまかせします」
……こういう姿勢も貫くのも覚悟と言えば覚悟かも知れない。
「さぁ、準備できましたよ。やはり礼儀作法から……って、2人ともそんな格好で!!」
怒られてしまった。
確かにジャージがそろい踏みではなぁ。
……やはり御前会議のために、それらしい格好をでっち上げるか。




