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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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挙げ句の果てに

 謁見の間で行われている、ギンガレー伯、面会の儀は粛々と進められていた。

 面会にあたって、献上された数々の品々についての目録が読み上げられる。


 一般的と言うべきかはわからないが、金品を始めとする宝石がちらばめられた装飾品は当然のごとく押さえられている。

 それにしてもかなりの規模ではあったが。


 それに加えて“大密林”からもたらされたとしか思えない珍品。

 本来、ギンガレー領からは産出されないであろう物だ。

 謁見の間に居合わす、群臣達のヒソヒソ声に抑えが効かなくなってきた。


「オホン!」


 と、実にわざとらしくメオイネ公から咳払いが一つ。


 それを合図に、再び静けさを取り戻す中、目録の読み上げは続き、今は隣国である「シャフル帝国」との交易でもたらされて品物が読み上げられている。


 隣国とは言っても国境が接してるわけでもなく、本当に遠き地の交易相手、ぐらいの存在だ。

 諍いが起こったことも無い。


 2国の間には深い森があり、山嶺が有り、その向こう側へ行くと乾燥した荒野がある。

 もちろんその間には、モンスターが闊歩しており、人類の居住区域では無い、という点ではノー・マンズ・ランドという表現も、ある程度は許容できる状態だ。


 もちろんそういった状態であるからこそ、交易がもたらす富は莫大な物ではあるが、いまいち分の悪い賭けという辺りが本当のところだろう。


 ギンガレー領では、その交易の際に“護衛”として冒険者を同行させているという噂だ。

 ここ最近、ギンガレー領で特殊な冒険者育成が行われているという情報と合わせると、色々と頷けることも多い。


 珈琲豆をはじめとして、青色の染料の代わりとなる宝石など、こちらも珍品が並ぶ。

 今度はざわめきでは無く、ほぅ、というようなため息が漏れ出していた。


 やがて目録の読み上げが終わり、一同が今度は自然と静寂を取り戻す。

 何故なら、今度はマドーラの手順で有り――ムラタの手順でもあるかもしれないのだから。


 傍若無人、と一言で片付けられなくなってきた存在ではあるが、噂になっていたギンガレー伯をどう扱うつもりなのか?

 どうしても、群臣の興味はそこに向けられてしまう。


 それを何とか読み取ろうと、同じ“仲間”であるはずのメオイネ公には動きが見られない。

 すでにマドーラ達との打ち合わせ済みなのか、それともここ最近、公に見られるような投げ出したような心持ちで、この場に臨んでいるのか。

 それでは改めてマドーラ達はどうか?


 と、皆の興味が移ったところで、


「大義でした」


 と、ギンガレー伯に声が掛けられる。

 言うまでも無くマドーラの声だった。

 相変わらず小さな声だったが以前よりも明瞭で、あのおかしな椅子に座る姿も堂々としている――様に見える。


 その後を、引き取ったのが目録を読み上げていた侍従だ。


「今宵、伯爵閣下をお招きしての歓迎の式典が催されます」


 これもまた手順通り。

 マドーラは小さく頷くと、


「楽しんでいって下さい」


 と、淡々と告げる。

 そしてメオイネ公に目を向けると、


「後は良いように、お願いします」

「ハッ」


 と、こちらも淡々と答える。

 ギンガレー伯を前にしてあまりに感動が無い様子に、一同の訝しげな視線が、伯とマドーラの間を行き来する。

 それに何より、ムラタがまったく動きを見せない。


「――殿下」


 ギンガレー伯が声を出した。

 通常の手順では無いが……謁見を許されたのであれば、ここで王と親しく話すというのも、普通に起こるべきイベントではある。


 臣下の側から声を発するのが、不遜と言えば不遜だが、これも王の胸の内一つだ。

 そしてマドーラは、


「なんでしょうか?」


 と、ごく簡単に応じた。


 これでギンガレー伯に発言の自由が与えられた。

 マドーラのこの対応が意外であったのか、ギンガレー伯は少しばかり間を置いた後、こう告げた。


「――殿下の傍らにおられる御仁を、ご紹介いただきたく」


 確認するまでもなくムラタのことであろう。


 というより、ムラタとギンガレー伯の間でどのような言葉が交わされるか――?

 これが今日の謁見の間でのメインイベントになると、一同は目していたのだ。


 であるのに、ムラタからは積極的な動きが見られない。

 いや、それ以上にギンガレー伯に対して無関心であるようにさえ見えた。

 

 マドーラは小首を傾げて、傍らのムラタに話しかける。


「……どうします?」

「仕方ない。打ち合わせ通りに」


 そう答えるからには、ムラタもギンガレー伯をまったく無視するつもりもなかったようではあるが、同時に積極的に話しかけようとする意志も乏しかったことも判明してしまった。


 しかも“打ち合わせ”と来た。

 そうなると、先ほど交わされたマドーラとのやり取りも“打ち合わせ”である可能性があり、つまりは、


 ――本当は話したくないが、仕方がなく話をすることにした。


 という態を見せつけていることになる。


 そして、周囲がこう考えることも計算の内なのだろう。

 だが、それをはじめて接したはずのギンガレー伯がどう受け止めるか……


 伯は変わらず、髭面に笑みを貼り付けたままだ。


「……それでは紹介します。こちらは私の料理番のムラタさんです」

「ご紹介にあずかりましたサンデー・ムラタです。ああ、名前はどうぞお好きなように」


 そしてムラタ達は伯をやはり気にせずに、自分たちのペースで自己紹介を進める。

 

「私はこの世界の“埒外”ですので、お気になさらず」


 何か脅迫にも聞こえるような言葉で、ムラタの自己紹介は終わってしまった……ようだ。

 しかもマドーラと頷き合って、この場を立ち去ろうとしている。


「お、お待ちを」


 さすがに慌てたギンガレー伯が声を上げた。

 ムラタとマドーラは同時に首を傾げ、最終的にムラタが相手をすることになったらしい。


「……伯には何かご要望があるでしょうし、それは要求されて当然だと思いますが、如何せん現状では会議も開くことも出来ない有様です。何しろ出席者が揃うかどうかわかりません。何とも無責任な話ですよ」


 話し始めたらこの畳みかけるような長口上。


「それで3日後に出席厳命の会議が開かれる予定です。伯もそちらに出席……になってるんですよね、メオイネ公?」


 そしていきなり、メオイネ公に振る。

 傍若無人である事は間違いないのだ。


「む、確かにな。だがそれは――」

「ああ、すいません。当然、通知済みですよね」


 自分で振っておいて、メオイネ公をすげなく扱う、

 言葉遣いだけは丁寧である分、慇懃無礼の見本、のような状態だ。

 だがそれも――


「――してみると、ギンガレー伯は俺にいかなる用事が? お目にかかるの初めてですよね?」


 この台詞に繋げることで、効果的にマウントを取るためだったと気付かされる。


 だがギンガレー伯も自らの不利を悟ったのか、突如笑い出した。

 その様子を見てムラタも笑みを浮かべながら、マドーラに確認し伯に立つようにと話しかけた。


「その体勢では笑うのにも一苦労でしょう。それでお話は?」

「これは失礼しました。まさにお目にかかるのは初めてでしたから、何かお話があったのでは? と早合点してしまいまして」


 立ちながら、ギンガレー伯はそう応じた。

 カウンター気味に“お目にかかるの初めて”と告げることで、話だけは聞いているぞ、と返したわけだ。

 だが、それで恐れ入るムラタではもちろん無い。


「そうでしたか。俺も当然、伯は情報も集めずにこの場に顔を出すような無能では無いと思っておりましたから。だからこそ会議に顔を出してもらえるように手配しておいたんですが――これも早合点ですか?」

「これは……」


 さすがに二の句が継げないギンガレー伯。

 だが、すぐに、


「……これは今日の式典が楽しみになってきましたよ」


 と、不敵な笑みを見せるギンガレー伯。

 だが、これにムラタはあからさまに表情を変えてみせる。


「何を仰っているんです? マドーラは子供ですよ。出席させるはず無いでしょう。酒の宴というのも教育に悪い」


 今度こそギンガレー伯は慌てた。


「ち、違います。ムラタ殿とお話を――」

「ああ、これは申し訳ない。俺とそこまでお話を望まれているとは……だが俺は酒が大嫌いでしてね」

「いやお酒ばかりが、楽しみでは無いでしょう?」

「確かにその通りかも知れませんが、俺はこの通りの“狼藉者”ですから。人質たるマドーラの側から、現状では長い間離れる事も難しいんですよ」


 そのままムラタは、だから式典にも出ません、と朗らかに言い切った。

 呆気にとられるギンガレー伯と、頭を抱えるメオイネ公をあとにして、マドーラを立たせて椅子を元に戻すと謁見の間の奥にある扉から、2人で退出してしまった。


 後に残されたギンガレー伯の心情を思いやって、メオイネ公は胸の内でむせび泣いた。

 少し前までは、新たなる政敵となるはずであったのに――僅かの間にすっかり様変わりしてしまった。


 ――たった1人の男の出現で。

 

 

 

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