表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
108/334

届かず、成らず

 ――“効率的な鍛え方”


 そう言われて「ガーディアンズ」の面々が思い出すのは、ゴードンが導入した方式だ。

 「ガーディアンズ」は、ほとんど関わっていないが、かなり積極的に動いていることは知っていた。

 それ以上に“大密林”を切り拓こうとしていることに驚愕したわけだが――


「まずノウミーって街は……ご存じないですよね? ギンガレー領でも北の方なんですが」

「うん」


 メイルの言葉に、無慈悲にブルーが応じる。

 続けてキリーが、


「その話、関係ある?」


 と、追撃を繰り出す。


 この双子にしてみれば、光る板、についてもっと話を聞きたいという望みがあるのだろう。

 その話題は、なんだかんだと後回しにされっぱなしだ。


 メイルとアニカも、それについて話をするのもやぶさかでは無かっただろう。

 元々、アレがきっかけで、こういうことになっている。


 だが、わざわざそれを話しても、次に繋がらないし、パーティーリーダーのザインを始め、年かさの面子の興味はさほど無いらしく、それよりも優先順位が高い話があると判断しているようだ。

 

「……ごめんなさい、キリー、ブルー。この話を私が聞いておきたいの。もうちょっとだけ待ってくれる? そうだ!」


 それでも気の毒になったのか、双子を慰めるルコーン。

 そして続けて声を上げたのは、暢気とも思える提案をするためだった。


「この後、ご飯も一緒にどうかしら。どちらにしても――」

「――お三方の話を聞いてしまおう。どうにも脇道にそれてばかりで、一向に進まない」


 苛ついたようにザインがそれを遮った。

 リーダーであるザインの焦れた様子に、部屋の中の緊張感が増す。

 双子も、さすがにヤバさを感じたのか、口を噤んだ。


「それで、君たちの出身地について話が何かしら前提条件として重要なんだな? 残念ながら俺たちは行ったことがない。誰か――」


 念のためザインが確認してみるが「ガーディアンズ」の誰もが首を横に振った。

 そこまで確認したところでメイルが頷きながら先に進めた。


「説明したのは、地形と気候が重要だったからです。まず基本的に深い森があって……」


 メイルの話はそこでのモンスター討伐の話ではなく、そこで地形を利用してのトラップを仕掛けて、モンスターを無力化する方法についての説明を始めた。

 ある程度は、それを当然のこととして受け止めていた「ガーディアンズ」だったが、話を聞いていく内に、その規模が尋常では無いことに気付く。

 もはやそれは、無力化というより……


「――牧場?」


 ブルーが首をひねりながら口を挟んだ。

 だがそれでは報償がどうなるのかわからない。


「……息のあるものにとどめを刺してゆけば報償は手にできます。これは確認してますか間違いないことです」


 控えめでありながら、アニカが揺るぎなく言ってのける。

 それに思わず顔を見合わせる「ガーディアンズ」の面々。

 彼らは、その報償を求めて危険なモンスターを狩り続けていたのだ。あの“大密林”で。一年間も。


「……勝手に死んでしまうモンスターもいますが、それよりも安全に報償が手に入る方が有益です」


 アニカは「ガーディアンズ」の複雑な想いを知ってか知らずかとどめを刺しに来た。

 あまりに冷徹な言葉に「ガーディアンズ」も若干引いている。

 “効率的な鍛え方”とは、やり方よりも前に心構えが必要なんだと、アニカは言外に主張しているようだった。


「それで……ギンガレー領の冒険者が強くなった、というわけなの?」


 圧倒されつつもルコーンがそう確認すると、メイルが首を傾げた。


「ちょっと違うんです。私たち、っていうのは私とアニカのことなんだけど、そういうやり方をみんなに勧めたわけじゃ無いんです。なんというか……引いてるでしょ?」


 そう言われて「ガーディアンズ」も苦笑を浮かべた。


「でも、結果として短期間でレベルが上がるわけで、どうしてなんだ!? って事になったところで、ロランが、気付いて……」

「ロラン?」

「先ほども話に出た“フジムラ”にジャイアント討伐の時に、メイルたちと一緒にでた――」

「ああ」


 サムの確認で、人間関係がスッキリしてきた。

 メイルたちは、あまり触れ回りたくなかったが、結果としてロランが大々的に喧伝してしまったらしい。

 そこに「フジムラ」へのどんな気持ちがあったのかわからなかったが、かえって危険なことをやり始めてしまった。その上――


「ギンガレー伯か」


 ザインの呟きにノウミー組は揃って頷いた。


 どうもこの辺で、ノウミーの冒険者ギルドのマスターであるレナシーが日和ったらしい。

 登録している冒険者が、ドンドン力を蓄えているのだから、それを喜ぶのは自然な反応と言えるだろう。

 それに対して領主からの言葉に舞い上がるのも仕方がないといえば仕方がないだろう。

 だが、その変化を喜ばない冒険者も当然いるわけで、


「端的に言って、見損ないました」


 クラリッサが、苦々しげにそう評する。

 誰も彼も、曖昧な笑みを浮かべているところでロームが呟いた。


「――気候はどう絡む」

「それはですね……」


 メイルが答える。

 モンスターを罠に掛け“効率的な鍛え方”を、ギンガレー領全体で実践するようになって、皆が安易に同じやり方で、モンスターに対処していた、

 だが、ある時急に天候が崩れて、ドカ雪が降り……


「トラップが埋もれたと。そちらは大丈夫だったのかな?」

「……そもそも、雪を甘く見たりはしません。それに雪は凶悪なモンスターが潜みます」

「アニカは、その辺りの見切りも上手かったな」


 ザインとアニカのやり取りに、クラリッサが割り込んだ。

 

「“も”?」


 それを聞き咎めるローム。

 アニカは渋い顔になったが、上手い具合に語り手がクラリッサに移った。


 その時、全滅しかかっていたパーティーを助けるべく指示を出したのがアニカだったのだ。

 それだけでは無く、命からがら逃げ出すパーティーを助けるために……


「雪崩を利用しただぁ!?」


 サムがクラリッサの説明に、思わず叫ぶように声を発した。


「は、はい。それで、生き残ったモンスターにとどめを刺していった結果……」

「これ以上無いほど“効率的な鍛え方”を実践する形になった、というわけか」

「でもさ、それって……」


 キリーがそこまで口に出した段階で、その額に冷や汗が滲む。


 ――「フジムラ」みたいだね。


 などという、感想はアニカは嫌と言うほど聞かされていて、吐きそうなほど辟易していたのだ。

 それだからアニカはキリーを睨みつけ――その思いが、ほとんど物理的な圧力で以てキリーを制したのだ。


「……で、今ギンガレー伯が王都ここに来ることになって、ほとんど無理矢理連れてこられたんです。わかると思いますが、アニカは事実上、ギンガレー領の知恵袋なんです。もしもの時に備えて……」

「……同行するように言われたというわけか」


 ザインが口元を覆いながら、ため息と共に結論づけた。


「断ることも出来たのでは?」


 それでもルコーンが重ねて尋ねると、


「……凄くイヤらしくて……」


 消え入りそうな声でアニカが呟く。

 それを見て、今度はメイルとクラリッサが苦々しげな表情で頷き合った。


 ルコーンも、それ以上尋ねることはしなかった。

 ここにいるのは、あくまで緊急避難に因るもの。

 あらゆる意味で、イヤらしい伯爵から逃れるために、伯爵の申し出に乗った――そういうことらしい。


「――よし! 取りあえず飯でも行こうぜ。せっかく知り合ったんだしな。ギルドの飯にこだわらなくてもいいだろ?」


 サムの提案に、てんでばらばらにではあったが全員が頷いた。



                    □


 お互いに馴染みの店があるわけでは無い。

 それでも、広めの個室がある店を、と求めていった結果的に顧客単価の高い店となってしまったが、それでビビるハイエンド達では無い。

 それはノウミー組としても同様で、冒険者ギルドでのすり合わせと違い、比較的和気藹々という雰囲気となった、


 それは店が提供する料理と酒が値段に見合ったものである事に加えて「フジムラ」の被害者という点で、通じるところがあったからだろう。


 そこから始まって、双子がこだわる“光る板”についての話題。

 サムとメイルによる、使いやすい得物談議。

 アニカに“効率的な鍛え方”については誰も尋ねないという節度を保ちながら――


 そして、一番馬が合ったのはルコーンとアニカだった。

 夜の深まりと共にどんどん酔いを深めていく。

 お互いに、不埒な男性について愚痴を言い合い、それは最終的に……「フジムラ」に及んだ。


「……でも、聞く限りまったく逆じゃ無いか?」


 2人に付き合っていたロームが“ザル”のままに、それでも座った眼差しで尋ねる。

 それにルコーンとアニカがかぶりを振った。


「今、アニカさんと話して気付きました」

「……私も」

「あの人は――」


 そこでルコーンの言葉が止まる。

 それと同時にアニカも。

 気の合うことに同時に酔いつぶれたらしい。

 肩をすくめるローム。


 そして、彼女たちが真実を手にしかかっていたことに気付いたものは誰もいない。


 ――目覚めた時、2人が手に残っていたのはただただ頭痛だけだったのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ