編み上げる
盗賊ギルド――と、この場で言い出すからには“王都の”という部分が省略されているに違いない。
ということは、王都でも「フジムラ」は何かしら活動しているらしい。
穏当に暮らしていれば盗賊ギルドもわざわざ……チェックだけはする可能性は否定できない。
何しろ“異邦人”であることは間違いないし。
ノウミーでの「イチロー」の行動は提出された。
“大密林”での「フジムラ」行動も提出された。
その両方ともが、無難とは言い難い様相を示している。
であれば「ガーディアンズ」から別れて1年あまり。何も起こしていないと考えるのは逆に不自然だ。
しかも、今現在、王宮で“やらかして”いるのは間違いが無い。
となれば、そこに至るまでに王都でも活動していたに違いない。
そこまで予測するのはハイエンドであれば常識の範疇であるし、ノウミー組も経験を積んでいる。それになより彼女たちは「フジムラ」を直接知っているのだ。
この部屋の全員が、ロームから報告される「フジムラ」について強く関心を引いても無理からぬところだろう。
その空気を敏感に察したのかロームは突然、
「……ごめんなさい」
と、初手謝罪から報告を始めてしまった。
ガクン、と体勢を崩すノウミー組。
「ガーディアンズ」の面々は、やれやれ、というように肩をすくめた。
「え、え、あれ? もっとこう……」
「クールな感じだろ?」
戸惑うメイルに、サムが肩を落としながら答える。
それに頷くアニカとクラリッサ。
「まぁ、基本的にはそれで良いんだと思うんだけだよ……」
「ちょっと想定外になるとな……」
「お酒のせいでは無いのですか?」
言い訳じみた言葉を重ねるサムとザインに、クラリッサが首を傾げながら尋ねる。
ルコーンがそれに短く答えた。
「違うと思います」
そう言い切られると、ノウミー組も強くは出られない。
正直飲み過ぎだと思っていた3人だったが、真面目そうなルコーンがそう言うからには、多分そうなのだろう、と受け入れるしかない。
恐らくロームは“ザル”なのだろう。
とすれば、この変化は一体何なのか?
「……想定外? 何が違うんですか? 何の話も伺ってませんよね?」
アニカが尋ねるとザインが頭を掻きながら答えてくれた。
「……多分、ロームとしてはあまり良い情報を掴んでこれなかったのだろう。それで、話の山場になりそうなそちらの――“効率的な鍛え方”だったか?」
その言葉でアニカの表情に、納得の色が浮かんだが、他の2人はピンときてないようだった。
ザインもそこで説明を止めたりはしない。
「その話が本格的に移行する前に、自分の報告だけは済ませておこう……って事で良いんだよな?」
ザインの確認にロームがこっくりと頷いた。
“当たり”だったようだ。
「だけど、報告するべきだと思うことはあるんだな」
「う、うん」
「大丈夫だ。別に責めたりはしねぇよ」
粗野っぽく感じていたサムがフォローに徹している。
同じパーティー内だが、それぞれ来歴が違うのだろう。
同じパーティーでも仲間になるタイミングが違えば、このぐらいの差異は普通に考えられる。
ノウミー組にしてもクラリッサは遅れて参入した形になる。
よくあることと言えば、良くあることだ。
それに今、肝心なことは“そこ”では無い。
「……ギルドで“フジムラ”の情報を買おうとした」
ロームも体勢を立て直したようだ。
「それで買えなかったんでしょ? それとも“フジムラ”がギルドでもわからなかった?」
キリーがそう尋ねると、ロームはさらに続けた。
「一応、知った顔もいるから、そっちも訪ねてみた。そうしたら幹部だったはずなのに、今は干されているようだ。そいつに金を握らせようとしたけど、受け取らない。ただ無闇に調べるな。ギルドは“知らないふり”をするからと――これは多分、少なからず私への“誼”だと思う」
「これが――良い情報でない?」
思わず反論してしまうクラリッサ。
彼女にとっては十分有益に思えたとしても無理は無い。
だが、ロームは頭を振った。
「ギルドが口を噤む相手だ。必ずそこに至るまでの痕跡があるはず。それなのに、それを売ろうとはしない……統制も出来ている。それに――」
「それに?」
言葉を添えたのはルコーンだ。
「それに、ギルドに変化が見られたのは僅か一月前だ。知った顔がいつからあんな感じなのか調べてみたら、変わったのはごく最近だとわかった」
「つまり……僅か一月で“フジムラ”は盗賊ギルドを変化させた?」
疑問符付きのザインの言葉。
それに、ほとんどの面子が頷く中、
「……もしかしたらギルドの中に“フジムラ”と組んだ人がいるんじゃないですか? 現在も組んでいるのかも知れませんけど」
アニカが、別の可能性を指摘した。
一瞬、虚を突かれる形となった中、それに一番に同意したのはロームだった。
「――有り得る。それは私の感触に一番しっくりくる説明だ」
「マジか……」
と、言葉を漏らしたのはサムだった。
確かに、その可能性が正鵠を射ているということになれば「フジムラ」は、盗賊ギルドにも影響を働かせることができるということになる。
こうなると最高位者の冒険者としても油断は出来ない。
「その上に……言い方を選べば“知恵者”だったな。こうなるとルコーンの心配も大袈裟では無いのかも知れない」
ザインが苦々しげに呟いた。
「でも……」
何かを言いかけたブルーをザインは目で制した、
そして、ノウミー組に目を向けると、
「お待たせした。そして改めてお願いしたい。そちらの話を伺いたい。“効率的な鍛え方”について、だ」
最高位者のパーティーリーダーから真っ正面からの要請だ。
――思わず、メイルの喉が鳴った。