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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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編み紐

 ザイン達の話は、おかしな住居から、ルコーンを除く5人が目撃した圧倒的な「フジムラ」の“力”の説明に移っていた。


 まず「飛翔蜈蚣フライングセンチピード」を呆気なく倒してしまった、説明できない魔法のようなものについて説明が始まる。

 何故かこの時には、サムに双子も身を乗り出してきた。


 そして、何処か楽しげに「飛翔蜈蚣フライングセンチピート」が、一方的に攻撃を受け、あっという間に倒されてしまった顛末を語り始めた。

 どうやら、その強さに憧れに似た感情を抱いているらしい。

 それについて3人の中ではクラリッサのみが、好意的な反応を示していた。

 

「賢者とばかり思っていたが、やはり相当な実力の持ち主だったのだな」


 と感心しきりであったが、メイルとアニカはなんとも受け取りがたい表情を浮かべていた。

 それも無理もない。

 2人にとっては「フジムラ」はひたすらに戦いを避けて、自分たちのパーティーへの誘いも拒否した程なのだ。


 ――最悪、別人の可能性もある。


 とまで考えていたところに、次に説明されたのが、あっという間に密林を切り拓いた――やはりよくわからない“力”の説明。


 どうやって切り拓いたのか、さっぱり見当が付かないために、先ほどよりもさらに説明出来ていない。

 だが、とにかくとてつもない“力”で為されたことだけは確実だ。


 この“力”についても、メイルたちが思う「フジムラ」とは乖離している。


 だが「ガーディアンズ」がその後“力”を求め続けて結果として、最高位冒険者ハイエンドに至るまでになったという話は――ある意味「フジムラ」らしい話だと、今回はクラリッサを含めての3人の共通認識となった。


 ここで今度はメイルたちの番、となる。

 どこから話すべきかと思ったが、勝手な判断で取捨選択するのも問題があると判断したメイルに促されるようにして、それこそ「フジムラ」を見つけたところから始めた。

 すると、早々にルコーンが「フジムラ」の行動を聞き咎めた。


「順番が……おかしいですね」

「おかしい?」


 オウム返しに聞き返すクラリッサに向けて、ルコーンが説明する。

 彼女が「フジムラ」から聞いた説明では、


 ――自分のスキルがおかしいせいで登録カードが作れなかった


 という順番のはずだ。


 しかしメイルたちの説明では「フジムラ」は最初から登録カードを作ることを拒否している。

 その後、確かに「フジムラ」のスキルが不具合を起こしたわけだが――確かに順番がおかしい。


「彼は自分のスキルがおかしいのを知って、最初から登録を拒否……」

「それはおかしい」


 ザインの言葉に、またもクラリッサが声を上げた。


「それなら『鑑定:スキル』が自分に使用されるのを座視するような人物では無いぞイチロー殿……『フジムラ』殿だったか」


 そう言われてしまうと「フジムラ」に助けられた形になるこの場のほとんどが、反論のしようが無い。


 “ほとんど”とはつまり、クラリッサ除く全員となるわけだが、そのクラリッサだけが迷い無く「フジムラ」に敬意を払っているのがなんとも皮肉な形だ。


 直接関わると、どうも「フジムラ」の“胡散臭さ”にあてられてしまうらしい。

 この傾向は「ガーディアンズ」にも見られる。

 サム達は、胡散臭さを感じてはいるが、それは軽度と言っても良いだろう。


 パーティーに対して責任を持つザインと、情報収集担当のロームが警戒を心がけ――要するに「フジムラ」はやはり“胡散臭い”のである。


 だがそれでも、無為に非道を行う人物では無い、という事も確かなようだ。

 時系列的に順番が違ってしまったが、クラリッサはさらなる「フジムラ」弁護のために、姿を消す直前彼が被害者を見舞ったという話を披露した。

 これは確実な情報だったようで、メイルもアニカも頷いた。


 そうなると、どうにも――「フジムラ」について納得できる説明が構築できない。


 それならそれでルコーンには素直に経緯を説明……そもそも「フジムラ」が“大密林”に居たことすら説明出来なかったことにザインが思い至る。

 やはりどこまでいっても“胡散臭い”という結論に到達してしまう。

 

「それで牢に入って――それから?」


 黙り込んだザインの代わりにロームが先を促した。

 それに大きく頷いたのはクラリッサだった。


 ここから先はクラリッサのターンと言っても良いからである。

 メイルとアニカは、この時ジャイアント迎撃のために、街を離れており「フジムラ」の行動は伝聞になってしまうからだ。

 

 クラリッサは頼りになる語り手とは言い難かったが、ロームの適切なツッコミと、メイルたちのフォローで、その全容が見えてきた。


 「フジムラ」はジャイアントを直接叩くのでは無く、地形を利用し、魔法を攻撃以外に活用し、安全にジャイアント――それも特異種を手玉に取った戦い方を指示。

 それもその場に居なかったのに、である。


 これではクラリッサが「フジムラ」を信奉するのも無理は無い……ように思われたが「ガーディアンズ」に取っては、その手法やりくちに覚えがあった。


「これって……“アレ”だよね?」


 ブルーが恐る恐る確認のための言葉を口にする。

 それにつられた様に「ガーディアンズ」の面々が頷いていった。


「“アレ”とは何でしょうか?」


 話を遮られた形となったクラリッサが、たまらずに尋ねるとザインがそれに応じた。


「俺たちがしばらくの間“大密林”に籠もっていたことはいっただろう?」

「ええ」

「だけど、ずっとは籠もってられないから補給のために、街に戻る。その戻る街はリンカル侯の領地にあるんだが、そこがな」

「どうかしましたか?」


 話が見えてこないクラリッサがさらに促す。


「……少し前に、おかしな事をやり始めたんだ。言ってしまえば“効率的な鍛え方”になると思うんだが、それがどうも……」


 歯切れの悪い言葉だったが、それだけでメイルたちは顕著に反応してしまった。


 ――“効率的な鍛え方”


 それがまさに“イチロー”がもたらした最大の変化でもあり、3人がこうして王都にやって来た間接的な理由でもある。

 

「どうかしたか?」

「実は――」


 特に隠そうともせずメイルがそれに応じようとしたが、それに待ったを掛けたものがいる。

 クラリッサだ。


「待ってくれ。話がそこに行く前に話しておきたいことがある――わかるだろう?」


 と、メイルとアニカに同意を求める。

 すぐに思いたる2人は、確かに、と頷いてそれを受け入れた。


 それに今からクラリッサが話そうとしている部分は、ある意味、制止させられた部分にも通じるものがある。

 まとめて説明しておいて損は無い。


 2人の反応に「ガーディアンズ」も頷きクラリッサを促した。


 クラリッサはそれを受けて、大きく頷くと、ジャイアント討伐のための指示を出したあと、その功を誇ること無く、冒険者達に手柄を譲る形でノウミーをあとにした事を語った。

 クラリッサの様子は間違いなく誇らしげであったが、その理由まで聞いてしまうと、確かに人に自慢したくなるような「フジムラ」の行いに思える。


「う~ん、他の色々を知らなければ素直にスゲーってなるけどな」


 サムがなんとも難しげにコメントした。


「色々とはなんですか?」

「偽名を使うのが当たり前で、細かな嘘もつき、人を食った態度――この辺りだな」


 ムッとなったクラリッサに、予想以上に的確な言葉が返ってきた。


「……そうだな。何か裏があるように感じてしまう」


 ザインもそれに乗っかる形で、サムに同意した。

 だが、それではクラリッサは納得しない。


「先ほども話しましたが彼が自分に無礼を働いた冒険者を見舞ったのは事実。確かに偉そうだったことは認めますが――彼が善人である事は疑いようが無い」


 何か熱に浮かされたように、そう主張するクラリッサ。

 それに軽く頷いておいて、ザインはメイルとアニカにも水を向ける。


「う~ん、悪い人じゃ無いと思うけど、善人とまでは……」

「……善人じゃ無い、と思います」


 すぐに返ってきた2人の連れない言葉に憮然としてみせるクラリッサ。


 このやり取りは3人の間では何度も行われており、お互いに不毛であるという結論がすでに出ているのだ。

 そんな3人がパーティーを組んでいることに興味を覚えたザイン。


 それは恐らく、先ほどメイルが話しかけた事が関係している気がした。

 

「じゃあ、さっきの話の続きを――」

「待って」


 そのザインを、今度はロームが止めた。

 皆の視線が集中する中、空っぽになった酒瓶を足下に転がして、ロームはこう告げる。


「これも先に報告しておこう――盗賊ギルドからの情報だ」 


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