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異世界も、俺は俺だし、そうボッチ。  作者: 司弐紘
王宮に
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作り目

 すでに陽はとっぷりと暮れていた。

 ここは冒険者ギルドの一室である。

 基本的に王都の冒険者ギルドが平屋であるのは、


「偉そうな奴は上にいる」


 という不文律に従って建て増ししていった結果、VIPの居場所がバレバレになってしまったからだ。

 特に魔法を使う相手には、階を重ねる構造は襲撃の手間を省く意味合いしか無い。


 王宮のように、そもそも侵入者を制限する形が整っているならともかく、基本的に冒険者(ならず者)が出入りする場所である。

 さらに隠れてではあっても貴族も出入りするとなれば、その安全対策も必要だ。


 それでも外に知られぬように会合する場所は必要で、結果として地価が安いことも手伝って、平屋のまま薄くのばしたような構造になっている。

 もちろん地下室もあるが、あまり好まれてはいない。

 いざというとき脱出が面倒になるからだ。


 大きなホールをあとにして、中庭を横目で見ながらさらに進んでいくと、職員が立ち番している一画にたどり着く。

 そこから先がVIP専用の区画で、功績を認められたパーティーあるいは冒険者しか入ることは許されない。

 この区画に直接通される“やんごとなき”方々は別の入り口から、この区画に入り込むわけだが、今回はそれは考えなくて良いだろう。


 このギルドで一番奥まった区画にあり、この部屋専門の給仕が控えている最高品質を誇る部屋。

 物理的、魔法的に保護されており念の入ったことに窓も無い――というより窓が設置できるような、造りにもなっていない。


 しかも壁紙は暗色が配置されており、備えられていた洋灯ランプの光量もごくごく抑えられたもの。

 洞窟の中で、よからぬことを企てているかのような雰囲気になるが、この部屋に入った瞬間に、ルコーン、アニカによる持続光コンテニュアル・ライトで、容赦なく闇は打ち払われてしまった。


 そう。


 この部屋には「ガーディアンズ」の6名と、メイル、アニカ、クラリッサの3人が詰めていた。

 リナはもちろんこの場にいない。

 その代わりにロームが合流した形だ。


 目的は今現在、王宮で好きなように振る舞っている男の情報を整理するため。

 何しろ、真っ当に名乗ることすらしない相手だ。

 認識している名前が、それぞれ違うのは当然のこととして受け止め、謂わば傍証を比較していった結果、


 イチロー=フジムラ=ムラヤマ


 の等式はまず間違いない、とその場にいる全員が納得した。


 もっとも最初から特に反対者がいたわけではなく、全員が“恐らくそうだろう”と考えていた事実に、肉付けしていった形だ。


 何しろ“胡散臭い”という点では、ほぼ全員が一も二も無く同意に至った男である。

 あるいは、その印象が「同一人物」であるという心証をさらに確信に推し進めた原因だろう。


「そうだろうか? イチロー殿は立派な方だと思う」


 と、1人気を吐くクラリッサだったが、これまたほとんどの面子がクラリッサを胡乱な眼差しで眺めることとなった。

 メイルだけは、苦笑を浮かべながらクラリッサを見ていたが、ここで男が胡散臭いか否かで口論になっても仕方がない。

 いや、それ以前に――


「結局どうするよ? 俺たちは別に依頼を受けたわけでも無し、用があるわけでも無し、復讐したくなるほど因縁があるわけでも無し」


 サムが寝椅子に身体を預けながら、投げやりに総括した。

 洞窟の中のようであるのは雰囲気だけで、実際のところこの部屋は広い。


 ほぼ中央にかなり大きな丸テーブルがあり、その周りに腰掛けているのは、ザイン、ルコーン、メイル、アニカ。サムは扉から一番離れた寝椅子に陣取り、その足下に毛足の長い絨毯に座り込んでいるキリーとブルーの姉弟。


 この部屋に入ってきた時はいささか興奮していたが、早速飽きが来ているらしい。

 元々、この姉弟の目当ては“謎の男”ではなくて、その男が関係している謎の機械である。


 最初はメイルたちが、有効な伝手つてだと考えていたようだが“彼女たちも知ってはいるが持っていない”という点では、この姉弟と変わらぬ状態だ。

 先ほど、昼食を摂った後に集中力を無くし、この状態である。


 昼寝が必要な年でも無いが――サムが指摘したとおり、この話し合いを試合を不毛だと感じているのだろう。


 ロームは部屋の片隅に椅子を持っていき、酒瓶を足下に置いて籠城しているように見えるが、その双眸に変化は見られない。


 残るクラリッサは――丸テーブルの側で立ったままだ。

 自分と同意見の者が1人もいないことで、少しばかりすねてしまったらしい。


「あの……今さらですけど、どうして王都に?」


 本当に今さらながらの質問がルコーンから発せられた。

 “謎の男”――便宜上、彼らは「フジムラ」と呼ぶことに決めた――の情報をすり合わせを行う前に、簡単に自己紹介は済ませてある。


「まぁ、待てルコーン。そこのところを聞きたいのなら俺たちから先に言うべきだろう」

「あ、そうですね。すいません」


 ザインの取りなしに、素直に頭を下げるルコーン。

 ハイエンドの冒険者とは思えぬほど腰が低いが……それがメイルたちは「フジムラ」のことを思い出させるらしい。

 特にアニカの表情は優れない。


 その辺りも微妙な変化に気付いているのはザイン――それとローム。

 だがその点を追求したりはせず、自分たちが知る「フジムラ」の情報を開示した。


 とは言ってもいきなり、何故王都に自分たちがいるのか? という部分だけを話しても仕方がない。

 ザイン達は“大密林”で経験したことから話し始めることにした。

 もちろん、これにはメイルたちから情報を引きさすための“呼び水”としての意味合いもある。


 だから丁寧に、まずルコーンが経験した謎の住居の説明から始まった。

 摩訶不思議としか言えない内容であったが メイルとアニカには身に覚えのあるものばかりだった。

 それはもちろん「フジムラ」が用意したとしか思えない、便利すぎる道具についてであったがそれ以上に2人の記憶を刺激したのは……


「あれ? それも同じですね」


 突然、メイルが告げる。

 慣れているアニカは、うんうん、と突然のメイルの言葉に熱心に頷くがルコーンは――というより「ガーディアンズ」の面々にはさっぱりわからない。


「あの“それ”とは?」


 素直にルコーンが尋ねると、メイルはわたわたと手を動かしつつ、


「あ、え~っとですね、立ってる場所? というか部屋での位置? とにかくそれが端っこなんですよ」

「あ」


 メイルの落ち着きが無い返事に、ルコーンが声を上げた。

 それは他の「ガーディアンズ」の面々も知らなかった――というよりルコーンが初めて言及した情報でもある。

 そもそもがメイルたちの相づちが無ければ、引き出されなかった情報だ。

 

「それは……ルコーンも含めてだが、君たちを警戒している風だったのかな?」


 不意にロームが言葉を発した。

 すでに紹介を受けたとは言え、今まで沈黙していたロームの突然の発言にアニカ達は驚くが、慣れているルコーンは即座に答える。


「うん……言われてみれば警戒していたんでしょうか?」


 小首を傾げながら応じるルコーンに引っ張られるように、メイルたちも牢屋での「フジムラ」の様子を思い返す。


「……ああ、そうですね。あたしはそんな感じが当てはまると思います。アニカは?」


 そんな風に屈託無くメイルが応じ、アニカに振る。

 だがアニカの方は、眉をしかめるだけでメイルの言葉に頷くわけでは無かった。


「あれ? 違う?」

「君は――クラリッサ?」


 戸惑うメイルはスルーして、クラリッサに水を向けるローム。

 クラリッサは緊張した面持ちで、まずこう答えた。


「そもそも私は2人と一緒に彼と接していたわけでは無いですし……」

「構わない」


 ロームは先を促した。

 そうまで促されては相手もハイエンドの1人からの要求だ。

 クラリッサにしても、冒険者の中では上位に入るだろうが、それだけにいい加減な答えは出来ないとでも考えているのだろう。

 熟考の果てに、


「――やはり私には警戒しているように感じられませんでした」


 と、しっかりと答えた。

 ロームはそれに頷くと再び黙り込む。


「いいのか?」

「この後、そちらからあの男の説明があるのだろう? それからでも良い」


 ザインの確認に、ロームは酒瓶を呷りながら応じる。

 いよいよハイエンドのよる尋問じみた様相になってきたが――


 ――1人、アニカの瞳だけは深さを増す。


 

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