3 War Game
訓練は、さらに実戦を想定したシビアなものになってゆく。
洋上の筏を標的としたスコーピオンやフォコンの模擬発射。実弾を搭載したままでの、格闘戦訓練。四機すべてを使った、二対二のACM訓練。
シミュレーターの訓練も、空対空モードを使用したフォコンでフルバックを撃墜するミッションや、ファイアドッグに護衛されたフラットフィッシュを撃墜するなど、具体的なものに変わった。それらすべての訓練を、瑞樹ら六名は精力的にこなしていった。
最早、瑞樹にとってF−2A時代は遠い過去のものとなった。パイロットになってからずっと、ベローナに乗ってきたような気がするほど、この機体に馴染んでいた。
「NAWCへの派遣日程が、決定した。二週間後だ。ワシントン州のマッコード空軍基地を拠点に、実戦テストを行う。期間は、十五日間を予定している」
アークライト中将が、告げた。
「そこで、今日から定期的に派遣準備として座学を行う。まあ、君たちは全員北米での実戦経験があるから、重複する学習内容がほとんどだとは思うが、復習を兼ねて謹聴するように。講師は、司令部付き情報班のクルーズ中尉だ。と、その前に」
アークライトが、一枚の紙を取り出した。
「急で悪いが、日本の航空自衛隊が行う演習に、フレイル・スコードロンが協力することが決まった。三日後から、二日間にわたって行われる。詳細はあとで知らせるが‥‥実戦感覚を養うにはいい機会だろう。楽しみにしていてくれ。‥‥では中尉。後を頼む」
「イエス・サー」
アークライトに呼ばれて登場した中尉は、三十代半ばと思えた。浅黒い肌と、きらきら光る黒い瞳。背は低いが、なかなかの男前だ。
「アーロン・クルーズ中尉。合衆国空軍所属です。これからしばらくのあいだ、北米派遣に備えて皆さんに講義を行います。では早速、現在の北米の状況をご説明しましょう」
クルーズ中尉が、手元のキーボードを操作した。ディスプレイに、鮮やかに色分けされた北米の地図が現れる。カピィ占領地区が赤、周縁部がオレンジ、競合地区がアンバー、危険地域がクリームイエロー、人類側地域がライトグリーンだ。
「ごらんのように、カピィ占領地区は徐々に広がりつつあります。NAEC担当区域では、メイン州の大半が制圧されました。合衆国北東部が完全にカピィの占領下に置かれるのは、時間の問題と思われます。カナダでは、ケベックとオンタリオの分断を目論んでいたと推測されるカピィ地上部隊がジェームス湾に到達しています。NASCでは、いわゆるジョージア・コープスの奮戦が続いています。アトランタの戦いは、すでに三週間目に突入しました。増援の西アフリカ協同軍一個師団と、アルゼンチン陸軍第9および11機械化歩兵旅団が到着しましたので、今しばらくは持ちこたえられるでしょう。西側では、アラバマ川を挟んで戦線は膠着状態です。テキサス方面では、テクサカーナは落ちましたが、ダラス−アマリロラインの手前で合衆国陸軍とメキシコ軍が踏みとどまり、一部ではカピィを押し返しつつあります」
瑞樹はディスプレイを凝視した。最近訓練が忙しくて、ろくにテレビのニュースを見ていなかったが‥‥人類はじわりじわりと押されている。
「では、みなさんが派遣されるNAWCの状況を。カナダの情勢ですが、ウィニペグ防衛作戦は順調です。この地区ではカピィが攻勢を控えているようです。ロシア軍が主に担当するノースダコダでは、ビスマークをめぐって激しい攻防が展開されています。中国軍が担当するサウスダコダでも、激戦が展開中。州都ピアは、先週陥落しました。合衆国陸軍と日本軍が担当するネブラスカは、グランド・アイランドが落ちた後小康状態にあります。その南、カンザスではカピィが大攻勢を掛けており、ヘイズの東で激戦が展開中です。どうやらカピィは、コロラド市侵攻を狙っているとの見方が多勢を占めるようです‥‥」
クルーズ中尉の講義は続く。
「カピィの占領地市民に対する対応ですが‥‥以前と変わりありません。占領地内の人員の移動および物資の移動に関しては、完全に自由です。武装はもちろん禁止で、発見しだい無差別な攻撃の対象となっています。占領地外縁部では、非占領区域への移動は全面的に禁じられており、逆らえば攻撃の対象となる場合があります。競合地域では、市民の行動に一切制約はありません」
カピィと人類のあいだに、今までのところ意思の疎通はない。CD直後に、国連各機関、各国政府、報道機関、有名無名のありとあらゆる団体、さらには個人までもがカピィと通信を試みたが(電波、音波、口頭、置き手紙、光の点滅、手話、絵文字、手旗信号、テレパシー、パントマイム、詩の朗読などが試されたといわれている)いずれも空振りに終わった。
その後、個人あるいは特定の団体が和平交渉や休戦提案、さらには限定的降伏を行うためにカピィ占領地区に赴いたケースも多く見られた。しかしながら、その種の企てはすべてカピィに無視されているのが現状である。
カピィ軍勢の急激な侵攻で、合衆国とカナダで推定一億八千万人がいわゆる占領地区に取り残されている。今のところ、カピィは市民に対し積極的に危害は加えていない。しかしクルーズ中尉が述べた通り、カピィは産業活動に対しては妨害しないが、市民が安全な地域へ避難することを許してはくれない。
「もし仮にカピィ占領地域に取り残された場合の手順ですが‥‥まずすべての武器を手放し、軍服を脱いでください。武装している場合、確実にカピィの攻撃対象となります。軍服を着用している場合も同様に危険です」
カピィは市民に対しては、そのルールに従っている限り危害は加えないようだが、軍人に対しては容赦なかった。武装していれば問答無用で殺害されるし、武器を捨てるなど降伏の意図を明白に示しても同様であった。カピィの辞書に戦時捕虜という文字はおそらくないのである。生き延びるためには、市民のふりをするしかなかった。もっとも、カピィには軍人と制服を着用した公務員の区別がつかないらしく、CD直後は各所で警察官や消防士が集団殺害されるケースが多発したという。それ以降、占領地区からは制服というものが消え去った。
このカピィの習性(?)を逆手に取り、かつてUNUFにおける軍服の廃止が提案されたことがあった。しかしながら、一般的な服装と軍事行動をカピィが結びつけて理解した場合、占領地域における一般市民を戦闘員と認識させるおそれがある。この提案は、即座に却下された‥‥。
「オレンジ・サイドってことは、悪役ですね」
アークライト将軍が配った紙を一目見て、ダリル。
「仕方ないだろう。この演習の主役は、あくまで自衛隊だ」
アークライトが言う。
「見ての通り、フレイル・スコードロンはオレンジ・サイドに属する。要するに、カピィの空戦兵器をシミュレートするわけだ。第一日目のシナリオは、ブルー・サイドの基地である航空自衛隊松島基地にオレンジ・サイドが航空攻撃を掛けるところから始まる。二日目のシナリオは、ブルー・サイドの反攻作戦だ。航空自衛隊築城基地への航空攻撃が行われ、フレイル・スコードロンは迎撃に協力する」
「司令。質問よろしいでしょうか」
アリサが、すっと手を上げた。
「なにかね、中佐」
「どこまで本気を出してよろしいのでしょうか」
「どういう意味かね、それは」
片眉をあげるアークライトに、アリサが澄まして答える。
「現在のフレイル・スコードロンがその気になれば、日本空軍の飛行隊ひとつくらい簡単に殲滅できるでしょう。しかしそれでは、向こうの訓練にはならないかと‥‥」
「全力を出して構わん。日本人が腰を抜かすくらい暴れまくってやれ」
「先鋒って言えば聞こえがいいけど‥‥要するに弾除けよね」
通信回線をオフにして、瑞樹はつぶやいた。
サンディのゾリア、スーリィのヴァジェット、ミギョンのネメシス、そして瑞樹のベローナは、フールド・フォー編隊を組んで太平洋を低空を維持したまま北上していた。その長大な航続距離を活かし、いったん襟裳岬南方まで北上してから反転、北東方向から松島基地を襲う作戦だ。フレイル・スコードロンが空襲した数分後に、第304飛行隊のF−15に護衛された第6飛行隊のF−2が、第二撃を加える手筈になっている。
迎え撃つのは、第7航空団と第2航空団のF−15である。基地はもちろん百里と千歳だが、一部は松島でアラート。CAPに上がっている機もいるだろう。
フレイル・スコードロン側でもそれを見越して、ゾリア、ヴァジェット、ネメシスは空対空装備しか搭載していない。ベローナのみ、ウェポンベイにCBU−87クラスター爆弾4発、パイロンにARMタイプのフォコン8発を積んでいる。むろんすべて模擬弾だ。
「フレイル1より各機へ。EMCONを解く。AWACSに捉まった」
サンディから連絡が入る。
「1、AWACSの位置は?」
訊いた声はスーリィだ。
「0−2−0。180nm」
瑞樹は転送されたデータが表示されたMFDを見た。襟裳岬の南南東50nmほどのところだ。
「罠かな?」
瑞樹はそう発言した。
「かもね」
サンディが、応ずる。
ブルー・サイドも、フレイル・スコードロンが最大の脅威であることは充分承知しているはず。そして、その対抗手段が多数機を一気に投入して乱戦に持ち込むことしかないことも、判っているだろう。松島基地周辺で網を張っているだけでは、フレイル・スコードロンを捕らえることは不可能だ。だが、懐深く飛び込んでくれば‥‥。
「でも、AWACSはおいしい獲物よね」
嬉しそうに、スーリィ。
「罠だな。だが、日本人はフレイル・スコードロンの実力を甘く見すぎている」
ずっと黙っていたミギョンが、ぼそりと言う。
‥‥あのー、わたしも一応日本人なんだけど‥‥。
瑞樹は心中で突っ込みを入れた。
「とりあえず、不意打ちされるのだけは避けたいわ。フレイル各機、エンジェルス5まで上昇。1のみレーダー・オン」
サンディが告げる。瑞樹はサイドスティックを引き、ベローナを上昇させた。高度5000フィートで水平に戻す。四機は、ゾリア−ネメシスの組と、ヴァジェット−ベローナの組に分かれた。
「1、0−2−0、166nmにAWACSを含むマス・トラック」
サンディが報告する。E−767と、それを護衛するF−15の編隊だろう。
「罠に嵌りに行きますか。どうせ、近くまで北上する予定だったし」
気楽そうに言うのは、スーリィ。
「第二波のことを忘れないでね」
瑞樹は釘を刺した。
「時間制限を設けましょう。時間が来たら、各自バグアウトして、ベローナを援護しつつ、松島を目指す。いいわね」
サンディが、指示を出す。
「2、了解」
「3」
「あの〜。わたし、ASRAAMしか積んでないんだけど」
瑞樹は、すっかりその気になっている三人に呼びかけた。
「適当に逃げ回っていればいいのよ。あたしたちに任せなさい」
スーリィが、言う。
「来た来た。2−7−6にマス・トラック。千歳からのアラート機ね。3、後方をレーダーサーチ」
嬉しそうな声で、サンディ。
「3」
ミギョンが短く答え、ネメシスを編隊から離脱させた。ほどなく、瑞樹のMFDにサーチ結果が転送表示される。‥‥南西からも、一編隊が北上しつつある。三沢から上がったのだろう。
「やっぱり罠だったのね。囲まれちゃった」
うきうきと、スーリィ。
「フレイル1より各機。予想より敵の数が多いので、戦術を変更する。戦闘空域をA編隊の位置に限定。主目標を、AWACSとHavCAP(高価値目標護衛戦闘哨戒)機に絞る。B編隊、C編隊は当該空域に吊り上げる。プレイタイムは1025まで。事後は洋上を高速で南下し、松島基地攻撃は東方海上より行う。4は1020にバグアウト。単機で南下すること。以上」
サンディが、てきぱきと命ずる。
前方のF−15が、散開を始めた。BVR(視程外射程)ミサイルの発射準備だ。
「それじゃ、こちらも戦闘開始といきましょうか」
サンディが、言った。
AWACSに乗っている演習統制官が、F−15編隊によるAAM−4の発射を告げる。
四機のNT兵器は、チャフ撒布とコンベンショナルな航空機ではありえない機動と急加速でこれに対抗しつつ、F−15の編隊に接近した。AAM−4の命中は、一発も認められなかった。F−15が編隊を解き、ペアに分かれて数でNT兵器を圧倒しようとする。
「みんな勝手なんだから‥‥」
ぶつぶつとつぶやきながら、瑞樹はベローナを操り続けた。
サンディもスーリィも、そしてミギョンまでもが、狩りに夢中になっている。F−15のリーサル・コーン内にぴったりと張り付き、FOX3をコールすれば、ほぼ確実に撃墜が認定されるのだ。わずか数分で、F−15の数は半分以下となった。
「おっと」
瑞樹の前に、二機のF−15がヘッドオンで現れた。この状態でFOX2をコールされたら、撃墜とまでは行かないが被弾くらいは宣告されそうである。瑞樹はサイドスティックを引き、ほぼ垂直上昇に入った。急激に高度を上げてから、機体を裏返し、急降下する。
「え」
目の前に、AWACSの灰色の巨体が見えた。
本能的に兵装スイッチをガンに切り替え、ピッパーを合わせ、トリガーを引く。もちろん、弾倉は空だから弾は出ない。HUDの残弾表示だけが、激しい勢いで減ってゆく。
瑞樹はトリガーを離すと、これまた本能的に兵装スイッチをミサイルに切り替えた。AWACSの後方をかすめ、急降下を続ける。
瑞樹の耳に、AWACS撃墜をコールする演習統制官の声が届いた。
「なんで攻撃機のあんたが一番おいしいとこ持ってくのよ‥‥」
スーリィが、嘆く。
「だって、目の前に急に出てきたから。出会い頭の事故みたいなものよ、事故」
瑞樹は言い訳した。
「2、4。まだ作戦中よ」
サンディが、たしなめる。
四機のNT兵器は、戦闘空域を離脱し、太平洋上を高速で南下していた。F−15が追尾してくるが、燃料の関係で追いつくことは不可能だ。
ACMの戦果は、E−767一機。F−15十七機。こちらの損害ゼロ。ただし、各機ともスイフトはほとんど使い果たしている。
「フレイル1より各機へ。フォーメーションを組み直す。2、3。組んで制空を担当。1は4の直援にまわる」
各機が了解する。元々ミサイル搭載量の少ないゾリアは、すでにスイフトを撃ち尽くしているから、妥当な判断である。
スーリィとミギョンが、向かってきたCAP機を早々と撃ち落す。
松島基地から上がってきたアラート機が、瑞樹の方に向かってきたが、サンディがこれを妨害する。すぐに引き返してきたスーリィとミギョンも加わり、八機のF−15が一機ずつ屠られてゆく。ファイアドッグには非力なASRAAMも、F−15相手ならば充分すぎるほど強力なAAMだ。
前方空中に障害なし。
瑞樹はECM全開で松島基地に突っ込んで行った。
ベローナに与えられた任務は、SEAD(防空制圧)である。瑞樹はパイロンに吊ったフォコンをアーミングし、兵装パネルのスイッチを自動に入れた。これで、機載コンピューターが捉えた電波発信源の脅威度を勝手に評価し、高いものから順にフォコンの目標に設定し、データをロードしてくれる。
‥‥やりにくいなぁ。
瑞樹は心中でそうつぶやいた。松島基地は、第4航空団に二度にわたり長期所属していた瑞樹にとって、いわばホームベースである。そこを襲うという行為に対して、違和感が生ずるのは無理からぬことであった。
演習や訓練においては、何度も模擬攻撃をかけたことはある。しかし、いつも乗機はF−2だったし、所属は航空自衛隊だった。
今は身分的にはUNUFAF。操っている機体は、従来の飛行機の定義からはみ出したような化け物。しかも、そのパワープラントは異星のテクノロジーが生み出したものだ。
違和感ありまくりである。
HUDに、フォコンの発射キューが出る。瑞樹はウェポン・リリース・ボタンを叩くと、発射をコールした。機体を滑らせて、南側へといったん逃れる。
松島基地の演習統制官が、被害状況を判定する。短SAMは沈黙したようだ。脅威となる敵機がいないことをサンディに確認した瑞樹は、ふたたび低空で松島基地に突っ込んだ。VADSによる対空砲火回避をシミュレートするために左右に針路を振りながら、ウェポンベイを開く。滑走路手前で、瑞樹はクラスター爆弾投下をコールした。そのまま高速を保ち、浅い角度で滑走路と交差するコースを突き進む。姿を晒す時間を少しでも短くするのが、対地攻撃における生存性を高めるもっとも効果的な方法である。
被弾判定はなかった。洋上に出た瑞樹は、僚機と合流した。
「ほう。AWACS一機。F−15二十九機撃墜。ブルー・ベース爆撃成功。損害なし。第二波の攻撃も成功」
あきれた様に、矢野准将。
「まあ、順当な結果だな」
満足げに、アークライト中将。
「明日の報復が怖いですな。少し、手加減させますか」
「ふむ」
アークライトが、顎に手を当てる。
「そうだな。シナリオをぶち壊しにしてはまずい。明日はコルシュノワ中佐とシェルトン少佐のみ出撃させよう。ゾリアとネメシスでいいかね?」
「よろしいと思います。早速そのように手配します」
矢野が、うなずく。
翌日の演習は、比較的平穏無事に終わった。
築城基地攻撃本隊に先行したF−15二個飛行隊は、突如低空から急上昇で襲ってきたアリサのゾリアとダリルのネメシスに攻撃され、七機の損害を出した。混乱したところへ、第304飛行隊のF−15と第6飛行隊のF−2に襲い掛かられて、大きな損害を蒙る。
いったん離脱したアリサとダリルは、後続する本隊のF−2に襲い掛かった。立ちはだかった護衛のF−15を振り切り、あるいは叩き落して、F−2の編隊に割り込む。AAM全弾を撃ちつくした後、二機はメイス・ベースへと帰投した。
演習そのものは、シナリオどおりブルー・サイドの勝利に終わった。莫大な損害を出しながらも、最後は爆装F−15まで繰り出したブルー・サイドが、築城基地を壊滅させたと判定されたのだ。航空自衛隊の面子は辛うじて保たれた。
「結果発表!」
高らかに、ダリルがメモを片手に発表する。
「今回の演習におけるフレイル・スコードロン所属パイロットの撃墜戦果! 第一位! ダリル・シェルトン少佐! 撃墜総数十四機! 内訳はF−15五機、F−2九機!」
サンディが、やる気のない拍手を送る。
「続いて第二位! シァ・スーリィ大尉! 撃墜総数十二機! すべてF−15! さすがスーリィ!」
スーリィに向け、ダリルが親指を立てる。‥‥当のスーリィは、迷惑顔だ。
「第三位! これは同数。十機ずつのアリサ・コルシュノワ中佐とホ・ミギョン中尉! 内訳はアリサがF−15四機とF−2六機。ミギョンが全部F−15」
「まあこれはミギョンの勝ちね。制空装備のF−15と爆装したF−2じゃ、難易度が違うわ」
アリサが微笑む。ミギョンは、ポーカーフェイスのままだ。
「第五位、七機のサンディ・ローガン中尉! すべてF−15!」
「はいはい。どうせあまり活躍できませんでしたよ」
サンディが、大げさにため息をつく。
「第六位、たったの一機。サワモト・ミズキ大尉! しかしその一機がAWACS! そのうえ主任務は対地攻撃でこれに成功! したがって‥‥」
ダリルが言葉を切り、サンディを指差した。
「事実上のビリはあんただ。‥‥なんか奢れ」
「どうしてそうなるのよ?」
「瑞樹の戦果を認めない気か?」
ダリルがサンディに詰め寄る。
「そっちじゃない! なんでビリだからといって奢らなきゃならないのよ! そんな約束した覚えないわよ!」
サンディが、反撃する。
「まあまあ。司令にお褒めの言葉ももらったし、いいじゃない」
瑞樹は二人のあいだに割って入った。もちろんダリルもサンディもふざけているだけなのだろうが、怒鳴り合いは周囲に迷惑である。
「しかし‥‥凄い戦果だな」
ぼそりと、ミギョンが言う。
「そうよね、あたしたちって、やっぱ凄い‥‥」
得意げに、ダリルが言いかける。
「いや、それよりもポイントは人類側の弱さだ」
ミギョンの言葉に、一同の動きが止まる。
「新鋭兵器とはいかないが、F−15はいい戦闘機だ。日本空軍のパイロットのレベルも高い。それにひきかえ、こちらのNT兵器はまだ試作段階。パイロットは、腕はいいもののまだベテランとは言えない。しかもNT兵器を与えられてから、長い者でも一ヶ月程度。それなのに、戦えば一方的に勝てる」
「こんな化け物を何百と繰り出してくる相手が、本当の敵なのよね」
スーリィが、しみじみと言う。
「F−15相手に完勝したくらいでいい気になってちゃだめなのよ、ダリル」
サンディが言って、すっかり気勢をそがれたダリルの肩を抱いた。
「だから、奢れなんて言わないでね」
「‥‥それとこれとは話が別な気がするが‥‥」
ダリルが、つぶやく。
「では本日は、我々の敵であるカピィについて、UNUFHQが掴んでいる最新情報をお知らせしましょう。もっとも、大して判ってはいないのですが‥‥」
クルーズ中尉がキーボードを叩く。机上のディスプレイに、CGのカピィが現れた。
「これが、おなじみのカピィです。四足歩行の恒温動物。全身を覆う毛、乳腺など、その特徴は地球上の哺乳類との類似点が多い。最大の差異は、人類の手に相当する四本の触腕を持つことにあります。よく知られているように、触腕は左右に二本ずつ、上下に組になって付いています。上にある太いものが主触腕、下にある細めのものが副触腕と呼称されています。いずれも柔軟で、物をつかんで持ち上げたり保持する能力に優れています」
触腕のアップが映った。薄茶色の柔毛に覆われており、細長いその先端にはやや短めの白い毛が密集している。どう見ても、猫の尻尾だ。
「先端にある白い毛は感覚器官も兼ねており、人間の指先以上に詳細な触感を脳に伝達することが可能です。感覚は主触手よりも副触手の方が鋭敏なようです。道具を使う場合などは、主触手がその重量を支え、副触手がそれをサポートすると共に、道具の細かい動きのコントロールや制御を担当すると思われます。右利きの人間に例えれば、主触手が左手と右腕、副触手が右手の親指と人差し指というところでしょうか。‥‥では、カピィの骨格から見て行きましょう」
ディスプレイ上にカピィの全身が映り、その外皮と肉が徐々に半透明になり、骨格が現れた。脚部や肋骨などは、地球上の生物とよく似ている。頭蓋骨は、犬のそれを思わせる形状だ。触腕は哺乳類の尻尾と同じく、尾骨に相当する小さな骨がたくさん連なっている。
クルーズ中尉の、カピィの骨格に関する講義が続く。瑞樹はおもわず眠気を催した。隣を見ると、ダリルが早速居眠りを始めている。
ディスプレイが、カピィの筋肉組織に切り替わった。さらに講義が進む。神経系、循環系、消化器系、排泄系、生殖系‥‥。
「頭部で注目すべきは、頭骨の下顎です。ここが非常に発達している。筋肉組織も厚く、咀嚼能力に優れていることがわかります。さらに歯の形状から言って、彼らが草食動物であることは明白であり、少なくとも進化の途上で‥‥って、みなさんずいぶんとお疲れのようで」
クルーズ中尉が言葉を切る。
瑞樹ははっと顔をあげた。一瞬、意識が遠のいていたような気がする。
「ねえ、中尉。眠気覚ましに、もう少し刺激的な講義をしてもらえないかしら?」
アリサが、そう提案した。
「刺激的、ですか。具体的には‥‥」
「カピィの弱点とか、どう?」
スーリィが、言う。
「いいね。もしこいつらと正面切って戦わなきゃならなくなったら、どうすりゃいいの?」
あくび交じりに、ダリル。
「銃器を持ってるのであれば、頭部を撃つ事ですね」
いささか困り顔で、クルーズ中尉。
「脳は地球上の多くの生物と同様、そこにありますから。胴体への射撃は、お勧めできません。心臓はふたつですし、胸部の筋肉組織は厚いので、致命傷にならない可能性が高い。少なくとも、カピィは人類より頑健であると言えるでしょう」
「素手じゃ勝てないの? たとえば、格闘家とか連れてきて、勝負させてみるとか‥‥」
「またゲーム中毒の戯言が‥‥」
ダリルの質問に、サンディが突っ込む。
「そうですね。カピィは反射神経も優れていますから、難しいのではないでしょうか。その身体形状からして、カピィの最大の武器は担重性に富んだ足を使った踏みつけ攻撃でしょう。地球上の動物で言えば、象や犀、あるいは水牛のようなものですね。触腕の筋力は人類の腕よりも弱いので、その打撃力はそれほど恐れることはない。距離をとって戦うのが良策ですね」
「ふんふん」
クルーズの言葉に、眠気の吹き飛んだダリルが熱心にうなずく。
「そう‥‥もし格闘家に勝ち目があるとすれば‥‥」
クルーズが、不意にキーボードに手を伸ばした。机上のディスプレイに、カピィの頭部骨格が表示される。
「この、頭骨側面を見てください。ちょうど、耳の付け根の下辺り、垂れ耳に隠されている部分ですね。頭骨の継ぎ目があるのが見えるでしょう。ここの骨は、非常に薄いことが判っています。おそらくここに強い打撃‥‥例えば、空手家の足蹴りなどが決まれば、骨が砕けて脳を傷つけることができるでしょう。‥‥カピィが絶命するとは思えませんが、少なくともKOできますね」
「ふうん」
瑞樹は大きくうなずいた。‥‥カピィと素手で戦う機会はないだろうが、敵の弱点なら知っておいて損はないだろう。
「他に弱点はないのかしら? 肉体的な急所ではなく、例えば夜目が利かないとか、人類より嗅覚が鈍いとか」
アリサが、訊く。
「夜間視力は人間より良いようですね。嗅覚も、人間より鋭いと思われます。感覚器官で弱点と思えるのは聴覚でしょう。可聴範囲は人間よりも周波数の高い方に偏っているようです。おそらくは、低い周波数の音は聞こえないでしょう」
「じゃあ、バスで喋ったりすると、聞こえないとか?」
ダリルが、訊く。
「たぶん、聞こえないでしょうね」
クルーズが、無理矢理に出した低い声で答える。全員が、笑った。
「また載ってるよ‥‥」
スーリィが、新聞を片手にリビングへと入ってきた。
「どれどれ」
ダリルが受け取って、眉をしかめる。
「ひどい書かれようだな」
「読めんくせに‥‥」
サンディが、ダリルの手から日本語の日刊紙を奪い取る。
「はい、瑞樹」
瑞樹は、手渡された新聞の見出しをざっと眺めた。
「あ〜、たいしたこと書いてないわ。衆議院‥‥日本の下院議会で、野党の質問に対し首相が、例の新型軍用機はUNUFAFの所属であって、航空自衛隊機ではないと言明した‥‥ってのが内容よ」
フレイル・スコードロンの存在は極秘事項、とされている。‥‥建前では。
しかし飛行中の姿は隠しようもないし、離着陸するところは熱心なベース・ウォッチャーの手によって撮影され、国内外の動画サイトにアップされていたし、テレビや新聞、雑誌等のメディアにもたびたび「謎の新型機」として取り上げられていた。
そして、先日の航空自衛隊演習に参加したことで、その知名度は一気にアップしてしまった。メイス・ベースの周囲で脚立を立て、望遠カメラを手に待っているマニアの数は飛躍的に増えたし、ネット上ではすでにファンサイトまでできているらしい。UNUFHQを通した取材要請も、頻繁にあるようだ。むろん、すべて門前払いだろうが。
「まあ、いずれにしてもいつまでも秘密、ってわけにもいかないだろうね」
スーリィが、言う。
「NAWCに派遣されたら、秘密でもなんでもなくなっちゃうしね」
瑞樹は新聞の社会面を開いた。‥‥異星人と戦争中だというのに、日本国内はいたって普通のようだ。兵庫の信用金庫で強盗未遂。久留米市のアパート火災、二人死亡。墨田区のマンションで若い女性の他殺体。常磐道で十一台玉突き衝突。釧路沖で漁船転覆、一人行方不明。能登沖で地震、輪島で震度3。
実際のところ、NT兵器に対する機密区分は以前よりも若干緩和されている。基地への出入りの際のチェックも、ずいぶんと緩くなったし、いきなり銃口を向けられるようなこともなくなった。
しかしいまだ、フレイル・スコードロンの任務内容はおろか、部隊としての存在すら秘中の秘である。瑞樹が父親‥‥現役の航空自衛隊幹部である‥‥に宛てた手紙さえも、現在の任務に触れることはできないし、ご丁寧に一度松島基地まで運ばれてから投函されるという念の入れようだ。もっとも、返事の行間を読む限り、父親は娘が松島基地にいないことに気付いているようだが。
瑞樹は新聞を斜め読みした。プロ野球キャンプ情報。今年はゲーム数が減らされるようだが、一応ペナントレースは行われるらしい。外電はモントゴメリー陥落のニュースを大きく伝えている。フィリピン大統領がNAWCに師団級の陸軍部隊を増派すると発表。モロッコの外相が辞任。インド陸軍上層部の権力闘争激化か。中国の中央政治局常務委員姚氏、依然病気療養中。失脚の噂広まる。経済欄は相変わらずだ。金価格は連日のように最高値を更新、じわじわと上昇中。防衛関連株は堅調。CD以来対米輸出が激減した自動車産業も軍需転換で復活の兆し。
一時期混乱した経済も、だいぶ持ち直してきたようだ。急騰した小麦や大豆も、いまだ高値だがかなり落ち着いてきている。原油価格など、かえって下がったくらいだ。カピィも北米など攻撃せず、クウェートあたりに着陸して西アジアの産油国を占領してしまえば、人類はとっくに降伏していたはずだ‥‥と思わずにはいられない。
「日本食が食べたい!」
唐突に、ダリルが宣言して、箸を握ったままの拳を宙に突き上げた。
「食べてるじゃない」
隣に座るサンディが、フォークの先でダリルのトレイを指す。米飯、味噌汁、千切りキャベツ添えの豚肉生姜焼き、ほうれん草のおひたし、漬物が並んでいる。
「いや、こういうんじゃなくて‥‥ほら、スシ、テンプラ、スキヤキ、テリヤキ‥‥」
ダリルが、指を折る。
「とにかく、日本食が食べたい! せっかく日本にいるんだから、食べたい!」
力説するダリル。スーリィは、知らん顔でチャーハンを口に運んでいる。
「食べに行こうか」
サンドイッチをかじる手を止めて、瑞樹はそう言った。
「奢りか!」
勢い込んで、ダリルが訊く。
「それはちょっと‥‥。お寿司なら、おいしいお店知ってるのよ。以前、演習で来たときに教えてもらったの。そこでよければ、連れてってあげられるけど‥‥」
頬を掻きながら、瑞樹。
「充分だ! ありがとう、瑞樹」
ダリルが、瑞樹の手をはっしと握る。
「サンディ、スーリィ。おまえらもこい」
「‥‥面白そうね。外出許可も問題なく下りるだろうし、行くわ」
「たまには日本食もいいね。付き合うよ」
「よし、決まりだ」
ダリルが、親指を立てる。
「外で食事?」
「そうだ。瑞樹が旨いスシを食べさせる店に連れて行ってくれる」
ダリルの誘いに、アリサが微笑む。
「いいわ。ご一緒しましょう」
「アリサも行くそうだ。ミギョンはどこ行った?」
「食後の休憩でしょ」
ダリルの問いに、そっけなくサンディが答える。
「じゃ、リビングルームだな。誘ってくる」
勢い込んで、ダリル。
「‥‥どうせ断られるんじゃないの?」
こう言うのは、スーリィ。
「スシ?」
「ああ。瑞樹が旨い店に案内してくれるそうだ。サンディもスーリィもアリサも行く。一緒に行かないか?」
「そうね‥‥」
ミギョンが、おとがいに指を当てた。
「行くわ。スシは好物だから」
「アリサもミギョンも承諾した。六人お揃いでお出かけだ」
子供っぽいと思えるほど得意げに、ダリルが宣言する。
「たまにはいいわね」
サンディが、微笑む。
「あ、そうそう」
ダリルが、人差し指を立てる。
「制服は不可だ。せっかくのお出かけだからな。私服限定だ。いいな」
「私服ねえ‥‥」
瑞樹は唸った。
もともとワードローブは充実している方ではない。しかも、私物の大半は東松島市内に松島基地の友人たちと共同で借りている週末用アパートに置きっぱなしである。寿司を食べに行くのにフォーマルというのもおかしい。ここはやはりカジュアルに決めるべきだろうが、サンディやスーリィ、アリサといった美人がいる以上あまりラフな格好では見劣りしてしまう。
迷った挙句、瑞樹のスタイルは無難なものに落ち着いた。ベージュのストッキングとカーキのキュロット、ブルーのストライプが入ったフリルシャツ。その上に、グレイのジャケットを羽織る。最後に太いベルトが可愛いブルーグレイのドレスコートを着込む。‥‥南国宮崎とは言え、まだ二月。この時期夜はやはり寒い。
「お待たせ〜」
瑞樹はそう言いながらリビングへ入っていったが、集まっていたのはサンディ、ダリル、アリサだけだった。
「うわ」
アリサの装いを眼にして、瑞樹はおもわず呻いた。
黒尽くめである。黒のプリーツワンピースに黒のストッキング、黒のパンプスと丈の短い黒のジャケット。黒い毛皮のショートコート。‥‥白い肌と金色の髪が映えるファッションだ。
「凄い毛皮ね。高そう‥‥」
おもわず瑞樹は手を伸ばし、毛皮に触れた。
「安物よ。ムートンだから」
アリサが、微笑む。
「アリサが着るとクロテンに見えるから、不思議よね」
サンディが、くすくすと笑う。
そのサンディの装いは、かなりラフだった。デニムのパンツに、胡桃色のブーツ。タートルネックのサーモンのセーター。その上に、毛皮襟のボマージャケットを羽織っている。‥‥そのままウェスト・サイド・ストーリーの舞台に立てそうな雰囲気だ。はっきり言って、むちゃくちゃかっこいい。
「何着ても似合うからね、この娘は」
諦め顔で、ダリル。
そういうダリルの格好も、なかなかおしゃれだった。デニムのハーフパンツに、太いボーダーのサイハイソックス。セーターは、ノルディック調だ。ハーフコートはオフホワイトで、毛皮の襟付き。
ほどなく、ミギョンとスーリィも現れた。
ミギョンの装いは、意外と少女趣味だった。シンプルな水色のブラウスと花柄のフレアミニスカート。黒のスパッツ。厚めのピンクのカーディガン。濃紺のキャップ。コートは、トレンチだ。
一方のスーリィは、緑系迷彩柄のカーゴパンツに、長袖Tシャツと半袖Tシャツの重ね着、その上にライトグレイのフード付きパーカといういでたちだった。
「全員揃ったね。じゃ、行こうか」
ダリルが言って、瑞樹の背中をぽんと叩く。
「全員揃ってお出かけとは、珍しいですな」
警備隊の当直士官は、ホーキンス大尉だった。アメリカ陸軍出身の、身長2メートル近い逞しいアフリカ系である。
「たまには息抜きもしないとね」
六人分の外出許可証を提示しながら、瑞樹。
NT兵器に関する機密区分が引き下げられたとは言え、まだまだメイス・ベースの機密保全はハイレベルだった。女性下士官に、財布の中身までチェックされる。ようやく開放された六人は、メイス・ベースの正門から外へと繰り出した。
「まずはタクシーね」
瑞樹は携帯を取り出すとタクシー二台を手配した。
「遠いの?」
サンディが、訊く。
「宮崎市内だから、ちょっと時間はかかるね」
やってきたタクシーの一台目に、瑞樹は近くにいたサンディとスーリィとミギョンを押し込んだ。運転手には、行き先をあらかじめ告げておく。
二台目にアリサ、ダリルと共に乗り込んだ瑞樹は、行き先を告げた。
タクシーが走り出す。
「スシなんて久しぶりだ。アリサ、あんたはスシを食ったことがあるのか?」
ダリルが、訊く。
「モスクワでね。高くて、自腹じゃ食べられなかったけどね」
「なんと、奢りか。さては、男だな」
ダリルが、したり顔でうなずく。
くすくすと、アリサが笑う。
「男だけど、あなたが想像するような男じゃないわ。叔父よ。母方の叔父は成功した外科医でね。ソビエト崩壊後、モスクワで富裕層相手の開業医として成功したの。スシ以外にも、いろいろとご馳走になったわ」
「瑞樹。あんたは男にスシを奢られたことはあるか?」
ダリルが、瑞樹に話を振る。
‥‥なんでそういう話になるのか‥‥。
「もう、ダリルったら。なんでそんな話になるのよ‥‥」
「いらっしゃい」
暖簾をくぐったとたんに、威勢のいい挨拶に迎えられる。
それほど大きな店ではない。カウンター席は十二人掛け。その奥に座敷が数部屋ある程度だ。
「お座敷、空いてます?」
瑞樹は出てきた女将にそう尋ねた。愛想よく、女将が奥へと案内してくれる。
カウンターの奥で、若い寿司職人が呆然と六人を見送っている。見とれている対象は、サンディかスーリィか、あるいはアリサか。
座敷に落ち着くと、瑞樹は上寿司を六人前頼んだ。それほど高い店ではないが、皆の懐具合からして、特上には手が出せない。
「えっと、今頃訊いても遅いと思うけど‥‥みんな、生の魚食べれるよね?」
お絞りを使いながら、瑞樹は訊いてみた。
五人全員が、何をいまさら、といった表情で瑞樹を見る。
「はは。聞くだけ野暮だったね」
瑞樹は頬を掻いた。
「うん。いい店だ。気に入った」
お茶を飲みつつ、ダリルが言う。
「あんたに寿司屋の良し悪しがわかるの?」
すかさずサンディが突っ込む。
「馬鹿にするな。フェニックスにも、寿司屋はあったぞ。‥‥ニューロンドンには、あったのか?」
ダリルの反撃。サンディが詰まる。
「‥‥なかった」
「そうかそうか」
勝ち誇るダリル。
「ニューロンドンにはなかったけど、アップルトンまで行けば寿司屋はあったわよ!」
サンディが反駁する。
「どうせ日本食レストランの隅でやってるスシ・バーか、メキシカンがアボガド・ロール握るような怪しげな店だろ? あたしがひいきにしていたとこは日本人オーナーで、握ってたのも日本で修行した日本人だった。いやあ、旨かったねえ。高かったけど」
サンディなど眼中にない、といった感じで、ダリルが言う。
「不毛な争いだな」
ぼそりと、ミギョン。
「まあ、一番寿司に縁がないのは、あたしでしょうね」
大人しくお茶をすすりながら、スーリィが言う。
「中国人は、寿司を食べないのか?」
ダリルが、訊く。
「そういう訳じゃないけど‥‥あたしの生まれ育ったところは、ひどく田舎だったからね。寿司どころか、外国の料理を食べさせるところなんてなかったし」
「へえ。どこの生まれなの?」
瑞樹は訊いた。
「カンスー省のずっと西よ。トンホアンの近く。実家は、食堂よ。労働者向けのね」
「へえ」
それからしばらくは、父親の職業の話題で盛り上がった。サンディの父親は不動産業者(いまは失業中だけどね、とサンディが寂しげに言った)、ダリルの父親は高校の化学教師、ミギョンの父親はサムスンの下請けをやっている電子部品メーカーの技術者、アリサの父親はロシア空軍の軍人‥‥。
「へえ、そうなんだ。わたしの父さんも航空自衛隊なんだよ。今は北海道の基地にいるけど」
瑞樹はおもわず声をはずませた。
「そう。わたしの父は国防省でデスクワークをやっているわ」
アリサがそう応じる。しばらく話すうち、瑞樹はアリサの父親が空軍大佐であることを知った。
「負けた‥‥」
瑞樹の父は三佐である。
そうこうしているうちに、寿司が運ばれてきた。各人の前に、握りがきれいに並んだ桶が置かれる。
「はは‥‥足りない人もいると思うけど‥‥」
瑞樹は頬を掻いた。日頃のダリルやスーリィの食べっぷりからすると、とても量が足りるとは思えない。
「いや、日本人が少食なのは知っている。ここは日本の食文化に馴染むためにも、甘んじてこの量を平らげよう」
ダリルがわけのわからない理屈を述べつつ、割り箸を割った。
「ふう。やはり、美味ね」
トロを口に運んで、アリサ。
「やっぱりサーモンはおいしいよね」
「素人が」
サンディの感想を、ダリルが一蹴する。
「‥‥素人で悪かったわね」
「寿司の本領といえばツナだろ。ツナ。瑞樹、ツナは日本語でなんて言うんだっけ?」
「鮪」
「そう、マグロ。寿司はマグロに始まりマグロで終わるんだよ。うん」
ダリルがひとりで納得しつつ、マグロの赤身を頬張る。
「ツナぐらいわたしでも判るわよ‥‥で、瑞樹。この隣の魚はなに?」
サンディが、鮪赤身の隣の白身魚を箸の先でつつく。
「鯛ね。英語でなんて言うか判らないけど」
「シーブリームを知らんのか! 日本では、魚の中のキングと呼ばれる魚だぞ!」
ダリルが、箸の先をサンディに突きつける。
「‥‥静かに喰えんのか、あんたは。じゃあ、この魚は?」
サンディが、別の白身魚を指した。
一見鰤にも見えたが平目のようにかなり薄く切ってあるし、脂もそれほどあるように見えない。
「えーと、鰤じゃないよね。なんだろう‥‥」
瑞樹は自分の桶からその握りを取って、食べてみた。鰤よりも脂ははるかに少ないが、身が締まっている。旨みも程よく、酢飯に良く合っておいしい。
「‥‥よく判んない。でも。おいしいね」
瑞樹は頬を掻いた。寿司は好きだが、回る寿司ばかり食べているせいか、魚の種類に関して瑞樹の知識は乏しい。
「カンパチだ。英語で何と言うかは、知らぬが」
ぼそりと言ったのは、ミギョンだった。
「ほう。詳しいな」
やや懐疑的な表情で、ダリル。
「‥‥寿司はよく食べに連れて行ってもらったからな。舌が、覚えている」
お茶に手を伸ばしながら、ミギョンが言う。
「羨ましい。誰に連れて行ってもらったの?」
唇のあいだから、甘海老の尻尾を覗かせながら、スーリィが問う。
「夫だ」
「へえ」
瑞樹は反射的にそう応じ‥‥数瞬後に凍りついた。
「夫!」
数名の声がハモる。
「き、既婚者だったの?」
最初に立ち直ったのは、ダリルだった。
「ああ。もっとも、死別したが」
お茶をすすりながら、ミギョンが答える。
「あ‥‥悪いこと聞いちゃったわね、ごめん」
サンディが、すかさず謝る。
「別に謝ることじゃない。気にしないでくれ」
ポーカーフェイスのまま、ミギョン。
「そうだ、このお店、甘味も出してるのよ。あとであんみつでも、頼もうか」
場の空気が悪くなったことを察した瑞樹は、ことさら明るい声でそう提案した。
「甘いものか。いいわね。ところで、あんみつって、なに?」
察しのいいサンディが、すかさず乗ってくる。
「えーとね、あんみつっていうのは、日本の伝統的なスイーツで‥‥」
瑞樹は懸命にあんみつを説明した。
「しかし、ミギョンが結婚していたなんて‥‥」
帰りのタクシーの中で、瑞樹はつぶやくように言った。
「まあ、あまり詮索しない方がいいわね。結構、傷ついているみたいだし」
アリサが、言う。
「どういうこと?」
スーリィが、身を乗り出す。今度はサンディ、ダリル、ミギョンが二台目のタクシーに同乗している。
「‥‥あなたたち、口は堅い?」
アリサが、訊く。スーリィと瑞樹は、暗い車内でお互い顔を見合わせた。
「まあ、堅い方だね」
「ダリルよりは、堅いと思う」
「じゃあ、話しておきましょうか。実は、ミギョンの夫は空軍のパイロットだったのよ」
アリサが、言う。
「え」
「あら」
瑞樹とスーリィの口から、小さく驚きの声が漏れた。
「‥‥じゃあ、戦死したの? カピィとの戦いで?」
スーリィがそう訊いた。
「正解。場所はミズーリ。韓国空軍F−15Kの前席。相手はファイアドッグ」
淡々と、アリサ。
「そうだったの‥‥」
ミギョンのポーカーフェイスの理由も、夫を失ったことに起因するのだろうか。
「まさか、目の前で死なれたなんてことじゃないでしょうね」
スーリィが訊く。
「去年の八月のある日、ミギョンの率いる四機のF−16は、F−15K四機編隊を護衛していたの。そこへ、一個編隊のファイアドッグが襲ってきた。ミギョンは一機を撃墜したけど、その時にはすでに二機のF−16と三機のF−15Kが撃墜されていた。残るF−15Kには彼女の夫が搭乗していた。残ったF−16の方には、今日が初出撃の若い女性パイロットが乗っていた。両機ともファイアドッグに後ろを取られて、必死に助けを求めている。しかし、ミギョンのF−16に残っているAMRAAMは一発だけだった」
アリサがいったん言葉を切った。視線が、窓外を流れる街の明かりに向けられる。
「‥‥ミギョンは、F−16の方を救う決断をした。夫の腕の確かさは判っていたから、切り抜けられると期待したのね。結局、その判断は間違っていた。ミギョンのAAMを喰らってファイアドッグが地面に激突しているころ、彼女の夫が乗るF−15Kも、ファイアドッグのレーザーを浴びて四散していた」
‥‥そんな過去がミギョンにあったなんて‥‥。
「‥‥嘘もここまで細かいと感動ものだね」
スーリィが、言う。瑞樹はおもわず前につんのめった。
「ええっ、嘘なの?」
「良く考えなよ、瑞樹。去年の夏の段階で、女性パイロットを戦闘任務に投入したアジアの空軍はどこにもないよ」
冷静に、スーリィが指摘する。
「‥‥そういえば、そうね」
「ふふっ。戦闘のくだりは、わたしの完全創作よ。でも、ミギョンの夫が去年の八月に、ミズーリでF−15Kを駆って戦闘中に戦死したことは事実よ」
悪びれた様子も見せずに、アリサ。
「でも、なんでアリサがそんなこと知ってるの? 特別ミギョンと親しいわけでもあるまいし?」
スーリィが、訊く。
「情報源は明かせないわ」
面白がる口調で、アリサ。
「妙に事情通なのよね、アリサは」
瑞樹は苦笑した。
「明日までに決裁をお願いします、サー」
司令執務室に入ってきたジャミール・チョープラー大尉が、手にしていた一抱えほどもある書類を、どさっとアークライトのデスクに置く。
「多いな。何の書類だ?」
「司令がランス・ベースに要請した兵装備蓄量増加に関する申請に対する書類です」
「ふむ。ならば仕方あるまいな」
アークライトが諦め顔で言って、一番上に載っているフォルダを開いた。
「質問してもよろしいですか、サー」
「かまわんよ」
「なぜ、備蓄を増やそうとなさるのですか? 当基地の管理体制や火器班の人員を考えると、却って面倒なことになりかねないかと愚考いたしますが‥‥」
チョープラーが、首をかしげる。
「君の言うことが正論だな。だが、わたしはこの基地が孤立することを危惧しているのだ」
「孤立‥‥ですか」
「カピィがオハイオに降りたのが気に入らないんだ。なぜあんな中途半端なところに降りたのか。北米の制圧が目的なら、もっと良い場所があったはずだ」
「確かにそうですが‥‥」
「君は陸軍出身だろう? 敵が戦略的に重要でない場所を優先的に占領したとしたら、どう考える?」
アークライトが、尋ねた。
「そうですね。可能性は三つでしょうか。敵にとってその場所は何らかの理由により戦略的価値が高い。あるいはそれは敵の欺騙か。それとも、それはあくまで次の戦略目標を獲得しようとするための予備的な行動か‥‥」
そこまで言ったチョープラーが、元々大きな眼をさらに見開いた。
「司令はさらなるカピィ宇宙船の出現を想定されているのですか?」
渋い顔で、アークライトがうなずいた。
「ありえない話じゃない。もしそれらが東アジアに現れたら、まず間違いなくランス・ベースと当基地の連絡線は絶たれるだろう」
「そこまでお考えでしたか。差し出がましい質問をしてしまいました」
チョープラーが、一礼した。
「いや、かまわんよ。視点の異なる意見は大歓迎だ。特にわたしも春彦も空軍出身だし、この基地の士官も大多数が空軍出身者だ。君のような陸軍軍人の眼は貴重だよ」
「では、握り拳を作って下さい」
サンディが、ぎゅっと眼を瞑っている。
白い腕に、太い針が突き刺さった。
「あうっ」
サンディが、ため息ともあえぎとも取れる声を漏らす。
「動かないで下さい、ミズ・ローガン」
ナース服の中村麻奈美がぴしゃりと言う。すばやくプランジャーを引き、赤黒い血液を抜き取る。
「サンディの弱点が、朝以外にもあったとはね」
あきれた表情で、スーリィ。
「だってぇ。痛いんだもん」
涙目で、サンディ。
「麻奈美さん、注射上手だよ。これを痛いなんて言ったら‥‥」
注射跡に当てたガーゼを抑えながら、瑞樹は言った。子供の頃、下手糞な看護婦に何度も血管注射を繰り返された時のおぞましい記憶が、頭をよぎる。
フレイル・スコードロンのメンバーは、NAWC派遣前の健康診断を受けていた。メイス・ベース唯一の医官は、森伸二少佐だ。黒縁眼鏡の、やや小柄な中年男性である。助手を務める看護師は二人。ひとりは麻奈美という日本人で、瑞樹と同年代の女性。もうひとりも女性で、ウェーブした茶色の髪ときれいな青い瞳を持つアリスンと言う若い娘だ。
「シェルトン少佐! 体重をごまかすのはやめてください!」
そのアリスンが、体重計に乗っているダリルを叱っている。‥‥どうせまたダリルが、体重を軽く見せようと小細工を弄したのだろう。
「全員大きな問題はありません」
森少佐が、診断結果のファイルを矢野准将に差し出す。
「ご苦労様でした。‥‥大きな問題はないということは、小さな問題はあったのですね?」
ファイルをめくりながら、矢野准将。
「ええ。たいしたことはありませんが‥‥ローガン中尉の最低血圧、シァ大尉の血中コレステロール値、シェルトン少佐の尿酸値‥‥。こんなところですかね。いずれも、平均値よりは多少外れている程度です。相対的にみれば、全員健康体ですよ」
森少佐が、言う。
「わたしなんかの方が、よっぽど不健康だろうな」
矢野准将が、苦笑した。
「確かに、多少運動量を増やした方がいいようですね」
森少佐が、矢野の下腹をちらりと見る。
スライドを引き、銃口を斜め上に向け、排莢口から中を覗いて異物がないことを確認する。いったんスライドストップを下げてから、拳銃を置き、弾倉を手にする。こちらも異常がないことを確認し、右手に拳銃を持ち、左手で弾倉をしっかりとはめ込む。スライドを引き、初弾をチャンバーに送り込む。
脚を開き、左脚をやや前に出して、身体の正面で拳銃を構える。
引き金を引く。初弾だから、重い。
五発立て続けに撃って、やめる。デコッキングレバーを下げ、拳銃を置く。
「‥‥意味あるのかねえ。この訓練」
隣で撃っていたダリルが、愚痴る。
「まあ、面白いからいいじゃない」
瑞樹はイアープロテクターを外した。
「カピィ相手にこんなおもちゃは通用しないよね」
ダリルが、拳銃の弾倉を外した。
SIG P228。使用弾薬は9ミリルガー。たしかに、カピィ相手には心もとない。だが、NT兵器のサバイバルキットに入っている銃はこれである。
「せめて357SIGは欲しいわね。できれば、SW.40くらい。45ACPでもいいかも」
空になった弾倉にカートリッジを込めながら、ダリル。
「これ以上威力のある拳銃じゃ、わたしは扱いきれないよ、たぶん」
瑞樹は言った。撃つこと自体は面白いのだが、音と反動は苦手である。
「おまけに、サンディはめっちゃ上手いし」
装弾し終わったダリルが、少し離れたところで遅撃ちを続けているサンディを見やる。
サンディが、一弾倉撃ち尽くした。空になった弾倉を外し、満足げな笑みを浮かべながらイアープロテクターを外す。
「ねえ、なんでそんなに上手なの?」
瑞樹は訊いた。
「‥‥うーん。才能、かな」
冗談めかして、サンディ。
「本当はベレッタの方が好きなんだけどね。サムセイフティが付いていないと、なんとなく不安で」
「あー言えてる言えてる」
ダリルが同意する。
ふたりのアメリカ人が拳銃談義を始めると、とたんに瑞樹は付いていけなくなった。父親が自衛官とはいえ、瑞樹も平均的な日本人の女の子らしく拳銃とは無縁に育った。拳銃と言えば、犯罪者の凶器か映画や刑事ドラマの小道具、という認識しかなかったのだ。航空自衛隊に入隊してからも、拳銃とは疎遠であった。なにしろ、航空自衛隊ではパイロットが戦闘任務に就く場合においてさえも、拳銃の携行を想定していないのだ。専守防衛を標榜する限り、実戦においても射出や不時着するのは日本の領土内であるという前提ゆえだからなのだが、いささか虫の良すぎる話ではある。
‥‥まあ、拳銃よりもはるかに凶悪な兵器を毎日のように飛ばしてるんだけどね。
イアープロテクターを着けながら、瑞樹はそう思った。拳銃など、ミサイルを満載したベローナに比べれば素手も同然であろう。
「なに読んでるの?」
問われたサンディが、無言のまま読んでいた本の背表紙を瑞樹に向ける。
バイブル‥‥聖書だ。
「まじめねえ、サンディは」
アリサが言って、薄く笑う。
かなり遅い時間であった。もうスーリィとミギョンは寝入っている頃だろう。いつもは宵っ張りのダリルも珍しく自室に引っ込んでおり、リビングには三人しかいない。
「瑞樹。あなた、信仰はなに?」
サンディが訊く。
「‥‥勧誘ならお断りよ」
「しないって」
サンディが、苦笑する。
「わが家は代々ブッディストよ。‥‥まあ、わたし個人は無宗教に近いけど」
瑞樹はそう答えた。実家には仏壇があるし、先祖代々の墓参りもするが、信仰が生きる上での精神的な支えになっているようなことはない。
「あなたは?」
サンディが、アリサのほうを向く。
「表向きはロシアン・オーソドックス(ロシア正教)だけど、無神論者よ」
「‥‥アリサらしいわね」
サンディが、ため息をつく。
「まあ、信仰は個人の問題だしねえ」
瑞樹はそう言った。
「ほかのみんなはどうなのかしらねぇ。ダリルはともかく、スーリィあたりはなにか信仰していそうだけど‥‥」
アリサが、物憂げに言う。
「前に聞いたことがあるわ。ダリルはプロテスタントだけど、この前教会に行ったのは友人の結婚式のときだったそうよ。スーリィの家はタオイズム(道教)だけど、本人は無関心。ミギョンは聞いたことないけど‥‥あの様子じゃ、熱心に何かを信仰しているようには見えないわね」
サンディが、言う。
「まじめなのはサンディだけか」
瑞樹は頬を掻いた。
「私見だけど、戦闘機パイロットには無神論者が多い気がするわね。空での戦いに、神の介在する余地がないということかしら」
アリサが、言う。
「天国に近いところ飛んでるはずだけどね。いろんな意味で」
瑞樹は苦笑しながらそう言った。
第三話簡易用語集/ウォー・ゲーム もちろん「戦争ゲーム」の意味合いもあるが、この場合「軍事演習」の意味である。/フールド・フォー編隊 Fluid Four 四機編隊の一種 一番機の左後方に二番機、三番機の右後方に四番機。この二機編隊が左右に分かれて飛ぶ形。/アラート Alert 警戒待機。/ARM Anti-Radiation Missile 対レーダーミサイル。レーダー発信源へ向けホーミングするミサイル。/EMCON Emission Control 電波放射管制。/マス・トラック Mass Track レーダースクリーン上で塊となって映る軌跡。すなわち密集した航空機編隊。/バグアウト Bug Out 戦闘空域からの離脱。/BVRミサイル Beyond Visual Range Missile 視程外ミサイル。相手を目視できない距離でも攻撃が可能なミサイルのこと。/AAM−4 航空自衛隊採用の中射程空対空ミサイル。アクティブレーダーホーミング誘導。/リーサル・コーン Lethal Cone 戦術航空機にとってもっとも脆弱と言える後方にある円錐形の空間。ここに敵機が侵入すると撃墜されやすくなる。/SEAD Suppression of Enemy Air Defense 敵防空制圧。基本的には敵の地上配備対空火器およびその支援システム(捜索レーダーなど)の破壊。/短SAM 自衛隊配備の81式短距離地対空誘導弾のこと。/VADS Vulcan Air Defense System 20ミリガトリング機関砲M61を使用した対空火器。この場合は自衛隊採用のM167のこと。/触腕と触手 生物学的に言うと、触手は食べ物をかき寄せる、獲物を絡め獲るなどの単純な機能しかないもの。触腕はそれ以上に高度な機能を有するもの、となっている。カピィのそれは明らかに触腕である。触手好きの方ごめんなさい(笑)/P228 SIGザウエルP228。使用弾薬9ミリルガー。装弾数13発。