6話 名前
私はドアを閉めた。一応話を聞かれないようにドア付近半径1メートル内に入った時に音が鳴るセンサーを付けておいた。これ実は防犯対策のやつなんだけどね。
人の物を物色しようとしたティハーレーに向き直ってある確信を持って質問をぶつけてみる。
「ギムレット、だろ」
肩をピクつかせて、振り返るティハーレー。
やっぱり、ビンゴ。こいつはゴブリン時代の相棒で、名前の通り妖精王。しかも誰が転生したのか見分けをつくことができるのは、王族レベルの妖精だけ。他の妖精は名前くらいしか知らない。
「性別、話し方を変えても無駄だ。口の周りについた食べカスやソースを拭かずに舐めたり、人の物を物色する癖が相変わらずといったところだ。それにそのレイピアは[俺]が作ったやつだ」
彼は、ふぅ、と息を吐いた。
「アンタも相変わらずだね[ヨスタニフ]。やはりバレてしまったか。このレイピア50年使っても錆びないんだよねぇ。やっぱ[アタシ]が持って来た素材がよかったのよ、あとアンタの腕も」
ヨスタニフはドワーフの時の名前だ。
「そんなイケメンな顔して女子みたいにくねくねするな、オカマか!ってか褒めても何もでねーぞ」
とか言いつつ机の上にある菓子箱に入っていた飴玉を1つ渡す。ここだけの話ちょっと嬉しかった。
「それを言うんだったら、アンタだってオカマみたいなもんじゃない?」
と言い終わり、受け取る。そして、食べる。
思い出すなぁ、ゴブリン時代の頃のこと。
ってかこんな口調だって両親が知ったら、ビックリさせてしまうからな。
自分の娘が有名な鍛治士から転生しただなんてね。ビックリしすぎて漫画とかみたいに目玉飛び出すんじゃないかと思う。
「偽名がティハーレーで真名がギムレット?」
私はベッドに腰を落とした。
どっちで呼べばいいか分からんやつは飴玉を口の中で転がしながら頷いた。真名ばれたらめんどくさいしティハーレーにしよう。しっかし、ティハーレーってか、どうせティターニアとハーレクインから取った名だろ。わかりやす過ぎる。どんだけ、エルフ好きなんだよ。ちなみにティターニアとハーレクインは妖精王の名前じゃん、と思うかもしれないけど、2代目のエルフの王女と、王様が妖精大好きだったらしく、自分の子にティターニア、もしくはハーレクイン、と名付けたそう。王や王女が亡くなればその名前を子が受け継ぐのがエルフ王族の伝統なのだとさ。今の王子はスランドゥイルって言う名前なんだって!
「ってかどうして男なの?」
ティハーレは手で顎を触って考えるそぶりをして、暫くすると、さっきのママのように閃いた。そして、私を指差してからぶりっ子のポーズをする。自分が頭いいと思っているのかドヤ顔してうんうん頷いてる。
解釈するとこんな感じだろう。
『うーん......。あっそうだ!アンタが女の子だからじゃない!?うんうん、絶対そうだ』
その答えは絶対に違うと思う。というか妖精って性転換するのか。彼自身はどうしてそうなったか知らないようだけど。
だいたいどうしてこんな阿呆そうな奴が王様になれるわけ?
妖精の王様になるには他の妖精達からたくさん票を集めなければならない。つまり選挙制度。一年に一度である。つまり、立候補すれば誰にでも可能性はある、ということだ。
誰だよこんな阿呆に票入れた奴?遊び半分で入れないだろ、普通は。大切なことなのでもう一度言おう。
普通は。
ちなみにこいつはここ70年くらいずっと王様だ。王様なうなのだ。結構年寄りだ。じじいか。ん?いや、ばばあか。
「おい、今変な事考えてたな?」
てへ☆っと自分の頭を少しコツッとしてウインクすれば、エルフ好きのこいつには効果抜群だ。
予想通り、目の前の奴は顔を真っ赤にして、鼻血をぼたぼたと垂らし、倒れてしまった。
「5歳児舐めんなよ」
捨て台詞を吐き捨て、私は一階へと踵を返した。
称号【妖精王の加護】が追加されました。