11話 牢獄での見計らい
「クラス全員が嘘をつくなんて、凄いや」
牢獄に閉じ込められた白髪の子供は資料の束を捲りながら呟く。
《牢の中の彼には罪がない》
彼の髪は格子窓から溢れる明るい光に反射し、毛先だけは病気のせいでエメラルドのような色になっている。
牢屋には沢山の本棚や本、机、椅子、トイレ、布団など牢獄にしては設備が整っていた。
目を閉じて、何かを愉しんでいた。
「僕もあの子達の様に外へ行きたいものだ」
牢屋の外のドアから大剣を持った大男が息を切らせてやってきた。
「ーーー様!ーーー様!……っはぁ、はぁ…ネズミ族軍が1000匹以上の大軍で押し寄せてきました!如何致しましょう?」
男は深呼吸して、息を整えた。子供はこれでもかというくらいに溜め息をはいた。そして、先程までの様子をガラリと変え、軽蔑した目で男を見た。
「その名で呼ぶな‼︎‼︎何度言ったらわかるんだ。僕は、僕はッッ‼︎」
一瞬、空気が揺れた。
子供は可愛らしい顔を顰め床に資料をぶちまけた。男はハッとし、冷や汗をかいた。
「すみません‼︎王が至急で指示を願いたいと!」
子供は憎悪に満ちた顔つきで言葉を吐き捨て、机に乗り、足を組んだ。
「どうせまた女遊びだろう!腹立たしい!………今回は上級魔術師3人だけで済ませろ」
「さ、3人だけですか?」
男は口を半開きにしたまま問いを投げかける。子供は長い睫毛を伏せ、足を組むのをやめた。怒りが鎮まったのか小さく答えた。
「そう。最上級ではなく、上級を王城前通りの3つの道に1人ずつ、だ」
まだ何か話していたがその声は男に届くはずがなかった。
「わかりました、お伝えしておきます」
男は頭を下げ、そしてドアノブへと手を掛けた。その時、
「さっきは…すまなかった。ただ名前が嫌なんだ…ごにょ」
子供は罰が悪そうに言葉を濁した。男は勿体無き御言葉です、と言い残し牢獄を後にした。ドアが閉まって暫くすると子どもはまた溜め息をついた。蜘蛛の巣がちらほら見える古びた本棚から綺麗な本を一冊取り出した。格子窓に立てかけておいたインクが切れそうなペンを白紙の頁に走らせた。そして、書くことがなくなったのか、辺りを見回すと自分が落とした紙の山から1枚の紙みつけた。摘んで凝視する。
「これ……使える」
数時間後、場内は混乱の渦に飲み込まれた。