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一枚に二人の思いを乗せて  作者: ほん和花
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第二話 疑惑

この作品の主人公は交通事故で右手を失っています。そのような内容が苦手な方はページを閉じるよう、よろしくお願い致します。

咲妃と出会って5日が経った。彼女は毎日、私の元に現れた。私は正直疲れていた。今は悲しみで涙があふれそうなのだ。しかし、咲妃は毎日来る。その度に涙をこらえているのだ。だが、限界はある。毎晩、誰もいない時間に耐えきれなくなって私は大泣きするのだった。

彼女は毎日、9時きっかりに来る。しかも不思議なことに、毎日同じひだが消えたスカートをはいて、似たようなよれよれの靴下と毛玉でいっぱいのベストを来てやって来るのだった。そして今日も同じように9時に病室の扉が開いた。

「彩音。これ、教えてよ。」

もう私たちは呼び捨てをしていた。“ちゃんづけ″では何だか親友らしさがないと咲妃が言ったからだった。まだ、親友でもないと思うのだが…。しかし、彼女は親友だと思っているらしい。入ってもいいかきかないでお構いなしに病室に入ってきた。咲妃が私の元に持ってきたのは数学の問題集だった。どうやら高校のものらしい。厚そうだ。

「私、この問題がずっと解けないの。何でこうなるかわからないの。教えてくれない?」

咲妃はそう言って私に計算問題を見せた。なになに…?12a+9-6b+50…?簡単ではないか。これは問題集を見る必要もないなぁ。そう思って問題集を閉じようとしたとき、私は驚いた。問題に関してではない。その問題集が異様に黄ばんでいたからだ。表紙から裏表紙まで、全体が黄ばんでいる。少し気味が悪かった。思わず私はきいてしまった。

「これ、ずいぶん使ってるの?」

「そうだよ。」

咲妃は笑顔で頷いた。それにしても、黄色すぎないか?私は気味が悪いのを押さえ込んで、問題を教えた。

「ここが、9+50で59でしょう?それから、aとbは違う文字だから、足せない。だから答えは?」

「59+12a+6b?」

「そう、正解!」

咲妃は教えなくても良いのではないかというくらい、すぐに答えられた。無論、簡単な問題だから当然なのかも知れないが…。

「そういえば、彩音は高校の数学は楽しい?」

教え終わると、咲妃と私は互いの学校についての話をした。

「いや、数学はあまり好きじゃないんだ。」

「じゃあ、何が好き?」

「部活かな…。私の写真部は、すごいんだよ!この前、先輩が区長さんから賞をもらったの。」

「いいなぁ。うらやましい。私、ギターが弾けるんだ。前に軽音学部でギターを弾いたんだ。大盛況だった。」

「そっか。一度きいてみたいなぁ、咲妃のギター。」

「うーん。今度ね。」

「何の曲が好き?好きなアーティストは?」

「私はRevillusionっていうアーティストが好き!」

「全然知らないなぁ。私はfightreeっていうアーティストが好きかな…。」

しばらくして、咲妃はこれから医師と話さなくてはいけないと言い帰っていった。咲妃は幸せそうだったが…。咲妃が帰ってから私はまだ手のない悲しみを強く感じて、何もやる気が起きなくなっていた。ああ。何だか…もう嫌だな…。事故が、事故が、なけれは…。右手は…。

ドン、コツ、コツ、ドン、ドンッ!!

その時だった。廊下でものすごく大きな足音が聞こえた。走っているようだ。ずいぶん迷惑だ。もう少し静かにならないものか。その音はだんだん近づいてくる。そして、止まった。と思った瞬間だった。ガタガタ、がたん。急に病室のドアが勢いよく開いた。

「ああ、彩音…。良かった。助かって…。心配していたんだよ!」

音の主は知也だった。知也は病室に入るなり私の左手を強く握った。そして大粒の涙を流し始めた。

「心配したんだ。君のこと。遅くなってごめん。」

「知也!来てくれたんだ!」

「当たり前だろう。心配で心配で。」

それから知也は私をもう一度しっかり見つめた。よほど心配してくれていたのだろう。知也は少し落ち着くと、目に涙をためながら話し始めた。

「クリスマスの明け方、彩音のお母さんから電話がかかってきてな。彩音のことを聞いたんだ。どうしようと思って即日に行こうとしていたんだ。でも、手術中で命は大丈夫だと言われたから、緊急性はあまり高くないし、きっと疲れているお母さんに気を使わせてしまうからと思って時間を空けてきたんだ。会いたかったよ。」

知也らしい気遣いだ。私は素直にうれしかった。

「ありがとう。」

「良いんだ。気にしないで。それより、クッキー。買ってきたよ!北海道では有名なんだ。」

それから、私たちは知也が買ってきたクッキーを食べた。北海道のバターが使われているとかで、とてもおいしい。このごろ、元気がなくて、菓子類は食べていなかったから、なおさらおいしく感じられるのだろうか。なぜか食欲が止まらず、私は半分以上食べてしまい、知也に笑われた。

「よく食べるなぁ。そうだ!北海道に帰ったら、また送ってあげるよ。何箱必要かな?彩音なら、100箱ぐらい送らないと、な。」

「いらないよ!そんなに…。太っちゃうじゃない!!」

「良いじゃないかよ、痩せてるよりは。」

「意味分かんない!!」

私と知也は笑い合った。やはり、知也と話すのは楽しい。気を使わない、というか話していて自然と笑顔になれる。知也に会う前は本当に涙が出そうだった。でも今は全然悲しくない。嫌なこと何でも忘れられそうだ。

そのあと、私たちは病院の中を歩いて回った。知也は忙しくて、すぐに帰らなければいけないという。知也を見送るついでに、私は、病院を案内した。まだ、私は病院の外を歩けない。だが、私はどうしても知也と手をつなぎたかった。どうしても。

「ここはキッズルーム。子供がいっぱいいるんだよ。可愛いよね!!」

「本当だね。元気いっぱいだよね、子供って。」

「あと、ここがナースステーション。どう?」

「どうって言われても…。たくさん、看護師さんがいるね。皆、忙しそうだね。そんなに患者数が多いの?」

Гうーん。多分。この病院、少なくとも7階まであるらしいから、結構多いはずだよ。」

「7階まであるの?確かに6階までしかないと思うけど…。エレベーターは6階までしか行けなかったような…。」

「あっ!そんなことより、中庭。見て!!たくさん花が咲いているわ!!」

私はとにかく、たくさん知也と話したくてより多くの話題を作った。

「えっ、ここ?とてもきれいだね。病院とは思えないなぁ。」

「クリスマスローズがきれいに咲いているね。」

「本当だ。きれいだね。」

その時だった。私たちがよそ見をしていた時だった。知也が誰かとぶつかったのだ。かなり勢いよくぶつかった。

「きゃあ!」

女の子が倒れ込んだ。足から血が流れている。

「いて…。」

よく見ると驚くことに咲妃だった。咲妃は血が流れているのを気にせず、すっと立ち上がった。血が流れているのにどうして平気なのか。入院しているのに、ぶつかってしまい、大丈夫なのか。私は心配して咲妃に言った。

「咲妃、大丈夫?」

だが、咲妃は何も言わなかった。そして笑いもせず、逃げてしまったのだ。どうしたのか。何かあったのか。何だか違和感を感じる。もしかしたら、私に気を使って彼氏に気づかないふりをしていたのかも知れない。でも、ごめんくらい言ってくれても良いのに。まあ、仕方ないか。きっとそれが咲妃なりの気遣いなんだ。そんな風に咲妃のことを考えていた私の顔を知也がのぞきこんだ。すごく心配そうな顔だった。

「おい、おいっ!大丈夫か?頭は怪我してないだろう?」

「え?いや、何言っているの?あなたこそ大丈夫?かなり勢いよく、ぶつかったよね?!怪我はない?」

私は知也が言っている意味がわからなかった。何もおかしいことはない。随分失礼だ。恋人でも酷すぎる。

「彩音、俺、ぶつかっていないよ?」

知也はきょとんとしていた。ますます意味がわからない。確かに今、咲妃と知也はぶつかったはずだが…。何だか不安になってきた。何が起きているんだ?

「病室に戻った方が良いんじゃないか?きっと疲れているんだね。ゆっくり休みなよ。」

知也はそう言って私に病室に帰るように催促した。でも、私が納得するわけがない。

「え…。でも、私、まだ知也と…。」

「今は体調が最優先だ。僕は君にいつでも会える。時間さえあれば。だから、また会いに来るから、今はしっかり休むべきだよ。」

知也は私の左手を強く握った。

「何か、不安なことがあったら、電話くれよ。必ず出るから。」

そう言うと知也はじゃあ、と手を振って行ってしまった。私は待ってと叫ぼうとしたが、ここは病院の中だ。無駄に大きな声は出せない。出したら迷惑だ。それはわかっている。だが、私はまだ知也と一緒にいたかった。左手に残ったぬくもりが寂しさを増させる。同時に、急に何だか悲しくなってきた。涙が私の頬をつたった。もう、知也が行ってしまった今、希望はない。手のない悲しみと知也が帰ってしまった何とも複雑な二重の悲しみで私はぼろぼろだった。歩く気力もないまま、私は階段を上り病室に戻ろうとした。しかし、相当悲しみに溺れて、気力がなくなっていたからだろう。知らぬ間に屋上に来てしまっていた。風が冷たく頬に当たったところでやっと私は気がついた。

「何やっているんだろう、私。全く、病室の階を間違えるなんて。」

私は一つ下の階に降りた。6階だ。まだあと2階分階段を降りなくては行けない。ため息が出た。その時だった。私はあることに気がついた。屋上の下が6階ということはこの建物は6階建てだ。知也の言う通りだった。だったら…おかしいな?咲妃?咲妃は…?7階の病室にいるんじゃ…。あっ!7階、制服、黄色い問題集、ぶつかったのに気づかない…。あれ…?ん?私の中で思考回路がどんどん組み立てられていく。なるほど。ということは…まさか。私がたどり着いた最終的な予想はあり得ないが信じるしかないものだった。私はきっと気づいてしまったのだ。咲妃は生身の人間ではないことに。

どうでしたか?感想を教えて頂けるととても励みになります。また、謎の少女、咲妃の正体は何か、皆さんの意見を教えてくださると嬉しいです。よろしくお願い致します!

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