78話 3人の副隊長
「おっ、誰かきたぞ?」
「ああ、誰だろうね。」
なっ、ヒューマンですって? さっきこの辺りには生存者はいなかったはずなのに。つまりこいつらがアンデッドを操っている術者の可能性が高い……。
「何か用かしら?」
「何か用ってのはあまりに酷いんじゃないか? 勝手に俺達の玩具を壊したくせによぉ?」
「そう玩具…………玩具って……アンデッドのことかしら?」
「それ以外なんだと思うの?逆に聞くけどさ。 大変だったんだよ?この数のスラムのヒューマンたちを殺すのは。 だからさぁ、僕たちは今とてもイライラしてるんだ。」
そんな言葉とは裏腹に顔は二人とも笑っている。明らかにこの状況を楽しんでいる顔だ。
「快楽殺人者……ね。話すにも値しないわ。」
「そんなこと言うなよぉおい。聞いてくれよ、あのスラムの奴らが泣き叫ぶ時ったらそりゃ笑わせてもらったぜぇ。子供を殺そうとしたらヨォ、やめてくださいって懇願してくるんだ。だからよ俺がそいつの目の前で懇切丁寧にその子供を……っとあぶねーじゃねーかぁ。おい。ここからが良いところなのに。」
攻撃を放ったのはもちろんアリアスだ。
「聞くに堪えないって言ったでしょ。 その汚い口を閉じてなさい。」
底冷えがするような声でアリアスは言った。そこには一切の感情を感じさせなかった。
「良いなぁ良いなぁ。 その怒りの表情。興奮させてくれるじゃんおい。」
「また新たな玩具を手に入れられそうだね、ザキ兄さん」
ニヤニヤと気色悪い笑みを二人して浮かべている。 二人とももう戦いが終わってアリアスを手に入れた気になっているらしい。とんだ早とちりだ。
「自惚れも大概にすべきね。」
「なっ。」
2人がにやけている間にアリアスは2人との距離を一気に詰める。 アリアスのスピードがここまで早いとは思っていなかったのか、ザキの反応がワンテンポ遅れ腕を出すだけにとどまる。
アリアスの小刀は既にエアーブレードの魔法がレイナにより付与されていて切れ味も上がっている。だからこそ思った。
まず腕1本。
そう確信して小刀を振り切る。 だが予想に反してアリアスの小刀は振り切ることは出来ずザキの腕に止められてしまう。
エアーブレードで斬れないなんて。これは腕になにか相当硬いものを仕込んでるわね。
一旦距離を置くアリアスに対して何故か2人は追撃を仕掛けてこない。今はひとつのチャンスだったはずなのに……。
「おおーいってぇ。なんだあいつ力も半端ねーぞジャギ。 今ので腕にヒビ入ったわ。それに仕込み防具も使い物にならなくなっちまった。」
「あの女やるねぇ、副隊長である兄さんに1発入れるなんて。」
「まあしゃあねえだろ。元々接近戦は得意じゃねぇんだ。それはお前の分野だろ? ジャギ副隊長?」
副隊長? でも副隊長は殺したはずじゃ……。
「なんで副隊長がいるのかって顔してんな。1発入れた褒美に教えてやるよ、俺らのレータ隊長の隊はな副隊長が3人いるんだよ。んでお前らが殺したやつは事務系、まあ雑用係だ。戦闘自体はそんな強くねぇしなんも知らなかった。隊長の真の姿t「ザキ兄さん?」」
「っと悪ぃ、喋りすぎだな。だがまあこっから俺らもちょっと本気で行くぜ?」
そう言ったのと同時に肉薄してきたのはジャギ。いつの間にか取り出したのか鉤爪を装着している。
「ほらほらぁさっきの威勢はどうしてのぉ? 攻撃しないとさぁ。」
そんな挑発に乗るようなアリアスではない。ムカつきはするが頭は冷静だ。もしやつの誘いに乗り動きを止められでしたらその瞬間ザキの魔法の餌食になるだろう。 さっきから私の動く方向に対して魔法を放ってきているし。
だからアリアスとしても動き続けるしかない。今取れる作戦はヒットアンドアウェイしかない。
「すごく消極的だなぁおい。なら俺は……。」
ザキは視線を上空へと向ける。レイナを狙うつもりなのだろう。
だがそんなに易々と魔法を撃たせるわけにはいかない。 詠唱を始めた瞬間、一転してジャギへと向かう。
「俺一人なら倒せると思っているのかなぁ? 受けて立ってあげるよ!」
アリアスの突貫をジャギは嬉嬉として待ち構える。二人の距離がすぐ側まで迫る。 ジャギが鉤爪を振りかぶるのが見える。対してアリアスは小刀を使って鍵爪を受け止めたりはしない。
寸前で地面を蹴って飛び上がり、ジャギの頭上を超える。
初めからアリアスの狙いはザキだった。理由は簡単で遠距離攻撃が得意なザキの方が厄介だから
ザキはレイナの方向を向いていて反対側のアリアスにまだ気づいていい。アリアスは手に持っていた小刀をザキ目がけて投擲。
「ザキ兄さんっ!!!」
「あん…………っとうおっ。」
ジャギの声に胡乱気な反応をしながら首を向ければ既に眼前まで小刀が迫っている。
魔法の詠唱を止め首を必死に動かすザキ。そのおかげで顔を少し切り裂かれるだけですむ。
「っと危ねぇな。」
だがアリアスの攻撃はまだ終わっていない、否ここからが本番だ。ジャンプした勢いそのままにザキへと殴り掛かる。
「はぁぁぁ。」
そんな気合いと共にはなった拳はザキへと吸い込まれその身体を後方へと吹き飛ばす。追撃は仕掛けずアリアスは小刀を回収。
だがその表情は暗い。
今の感触はおかしかった、多分インパクトの瞬間自分から後ろに飛んでダメージを軽減させたんだろう。
案の定吹き飛ばされたザキは既に立ち上がってきている。
「おおーっ、いっててて。おいジャギしっかりしろよおい。」
「ごめんごめん、気抜いちゃって。」
「ったく。俺は俺で遊ぼうと思ったのによ、ならもうこっちから先にやって上のはその後でやるか、うんそうしよう。」
「そうだね。」
どうやら戦術を切り替えたらしい。これでレイナの心配をする必要はなくなった訳だが……。アリアスの内心は安堵感とは程遠い。
今までの戦いで少なくともこいつら2人が遊んでいることは分かった。そして多分この二人、一人だけでも今の私よりも強いことを。でもやらなくちゃ。
そうアリアスが内心で決意し小刀を握りしめた時だった。
「アリアス安心して?あなたもソロじゃなくてドゥオなんだからー。ちゃんと防御してね?」
上空を見上げればレイナが笑顔で浮いている。もう詠唱は終わったらしい。なら今回は……
「私の勝ちね。」
そう今回のアリアスはあくまで時間稼ぎ、倒す必要などなかった、二人の注意を引き付ければ良かったのだ。そしたら後はレイナがやってくれるから。
「ちっ。」
対してザキとジャギはさっきまでの余裕の表情とは一転して不機嫌そうな表情だ。
「あの魔法やばいね、かなり大きい魔法を使うらしいよ流石の僕達でもいま食らえば……。」
「ああやばいな。止める…………のはもう無理か。いつでも発動出来るようになっちまってる。なら……………」
そんな2人の様子にはアリアスもレイナも気づかない。
そしてレイナの魔法が発動する。
「風魔法 テンペスト」
その魔法はまさに天災とでも呼べるものだった。
アンデッドたちに向かって突風が上から下から叩きつけられる。それはまるで乱気流のように不規則に吹き荒れる。
って感心している場合じゃないわね。このままじゃ私まで巻き込まれる。
アンデッドたちに向かうということはつまりその中心で戦っているアリアスも含まれるのだ。つまりのこのままじゃ危ないわけだ。だからアリアスもまた自身が使える数少ない魔法を発動する。1日に一回しか使えない魔法を。
「絶対障壁!!」
テンペストはしかしすぐに霧散してしまう、
上空を見上げればレイナが肩で息をしている。
「やっぱりマナの消費量がやばいねー、この魔法は。5秒しか持たなかったわ……。」
レイナは自嘲気味にそう笑うが、アリアスは愕然としていた。
「何…………これ。」
目の前にアンデッドはほぼほぼ残っていない。アンデッドというよりこの辺り一体に何も残っていない。
建物の残骸と思われるものが残っているだけだ。
「二つ目の覚悟、…………それは後始末が大変になるってことなのね……。」
「そう?もうほぼ掃除し終わってると思うけど〜。」
「上手いこと言わなくていいわよ!」
思わず戦闘中でも突っ込んでしまったアリアスだった。
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