77話 2つの覚悟
「倒しても倒してもキリがないわねぇ、本当に。」
「それがアンデッドでしょー? というかさっきも同じ事言ってたよー?」
「……分かってるけどっ。もうっ!」
「まあアリアスの気持ちも分かるけどね〜。」
レイナも目の前の光景を見て思わず苦笑する。
既に最初にいたアンデッドの二百体は優に倒している。だがその勢いが一向に収まる気配はない。むしろ勢いが強まってる感まである。
アリアスは近場にいる敵を愛用の小刀で二体一瞬で切り裂く。 しかしそのアンデッドの穴を埋めるように直ぐに別の三体のアンデッドが周りを囲んでくる。
「あー、ほんっとにもう。
レイナ、準備はできた?」
別の場所で戦っているレイナへと向かい声を張り上げる。
その答えは魔法の発動を持って返される。
「風魔法 エアーヴェステイラー。」
だが最初ほどの効果は出ない。
もう同じ魔法を既に何回も撃っているためか対応され始めている。
せいぜい倒せたのは2〜30体程。
アンデッドが1箇所に集まらなくなってきた。
「もう最初に見えた分はとうに倒しているはずなのに……。」
やはり誰かがアンデッドを操っているのだろう。そうでなければスラムの物陰から次々に出てくるはずはないのだから。
問題は操っている本体、指令者をどうやって見つけるかという事だ
アンデッドを倒していけば何かしら反応すると思ったけどそこまで甘くはないようね。これだけの数のアンデッドを操るのだから近場にはいるはずなんだけど。
「ねえ、レイナ。 あなた探知系の魔法って使える?」
「探知系の魔法は残念だけど使えないのよね〜。」
「そう……。 幻視の瞳ならいけるかもと思ったんだけど。」
「ごめん〜、そんなに幻視の瞳は万能じゃないからさ。 でもアンデッドを操っている術者を見つければいい訳でしょ? それなら出来なくはないよ、ちょっと覚悟が必要になるけど。」
「覚悟?」
「そう、覚悟。二つの覚悟。」
嫌な予感がするわね、なんかレイナ怪しげにニッコリと笑ってるし。
絶対ろくなことじゃない、そんな気がする。
「ちょっと詳しく……ってもう聞いてないし。」
レイナはすでに詠唱を開始している。
こうなったら私もレイナを守るように立ち回るしかない。
しかしアリアスの予想に反してレイナの詠唱はすぐに終わる。
「風魔法 サイクロン」
レイナとアリアスを中心として小さな竜巻が出来上がる。 竜巻はレイナたちをすっぽりと覆いアンデッドたちからアリアスたちの姿を見えなくする。 外の様子とは裏腹にサイクロンの内部は静かで無風状態だ。台風の目に近いものらしい。
サイクロンの外からはアンデッドのうめき声とサイクロンに向かって攻撃する音が聞こえてくる。まぁダメージを受けているのはアンデッドだけだが。
「これで多少の時間は稼げたかな〜? まぁもって2分ってところだけど。」
「なんでこの魔法を?時間を稼ぐなら私が前線に出れば……。」
「いえ、次の魔法を使うならサイクロンはかけておかなきゃダメなの〜。」
「……一体何の魔法を使う気なの?」
「そんなに訝しまないの〜。それより確認だけどこの辺りにはもう生きているヒューマンとかはいないよねー?」
「……ええ。残念だけど生者の気配は感じないわね。」
「ってことはいるのはアンデッドを操ってる術者だけね、りょーかいっと。風魔法 空中浮遊。」
サイクロンに魔法がかかりアリアスとレイナを巻き込んで宙に浮き始める。
「ちょ、ちょっ……なんで空を飛んでんのよ。」
「これが1つ目の覚悟、空に立つだよ〜。自由自在には飛べないけど……。でもまだ次があるからね!」
ニコリと一瞬だけ振り向いて笑うレイナ。それまでの余裕のある表情から一転して真剣な表情へと切り替わる。
それほど集中力がいる魔法なのだろう。込められているマナと詠唱の長さからもそのことは推し量れる。
「おーおー。 派手な魔法をぶっ放そうとしてんじゃん、なぁジャギ?」
「こりゃ危ないねぇ。 止めるしかないねぇ、ねぇザキ兄さん。」
不意にアリアスたちの下から声が聞こえた。
「「水魔法 アクアビーム」」
水の光線が下の二人から放たれる。二人で放ったため最低でもアクアビームの威力は2倍以上にはなっているはずだ。
サイクロンカーテンと2倍アクアビームが正面からぶつかり合い、ギィィィィィィンという鉄を切る時のような音を辺りに響き渡らせる。直線攻撃のアクアビームに対して回転しながら防ぐ防御のサイクロン。サイクロンの回転によってアクアビームは威力を減衰させしまいには消えて無くなる。
だがサイクロンもただでは済まない。 サイクロンの防御力は弱まりもし後1発でも同じ魔法を撃たれたらサイクロンは持たないだろう。だがレイナには新たに魔法をかけ直すような余裕はない。
なら私が行くしかないわね。
「レイナ、ちょっと行ってくるね。」
アリアスはレイナの反応も確認せずに地上へと飛び降りた。
今日19時頃にもう1話更新します。