74話 増援?
「それじゃ待つか。隊長のレータさんが戻ってくるのをな。」
「その必要は無いよ。」
副隊長が座っていた椅子に腰掛けようとした瞬間部屋の窓側から何かが飛んでくるのに気づく。
「ちっ。」
首を捻ってギリギリで避ける。後ろの壁に刺さっていたのは白い物体。
「骨……か?」
「よく避けたね、上手く隙を突いたと思ったのになぁ。」
そう語りかけてくる声は中性的なものだ。かろうじて風貌から男だと分かるがそれでも華奢な体型だ。声だけを聞いたら確実にどちらか分からなかっただろう。
「誰だお前」
まぁあらかた予想はついているが。こんな状況で現れる奴なんて1人しか想像できない。
「誰だは酷くないかい?僕、傷ついちゃうなぁ。君が待とうとしていた者だよ。」
「レータアクセラ……か。」
「この子が!?本当に。」
アリアスが驚いたように声を上げる。事前に説明されてたとはいえ実際に目にするまでは信用できなかったのだろう。対してレータアクセラもまた何かに驚いたような顔をしている。
「お前は……。
そうかこれはラッキーだね、あははは。」
ついで本当に嬉しそうにそしてさも意味ありげに笑みを浮かべる。
「あら、私を忘れないでよ〜?」
そんなレータアクセラにあえて話しかけるレイナ。もちろんただ話しかけた訳ではない、レイナの眼は既にオッドアイになっている。
つまり戦闘状態に移行しているということだ。
「うん?」
そしてレイナの眼とレータアクセラの眼が合った、幻視の瞳を発動状態のレイナと。
これで終わりか……。いくら戦闘力が高いとは言ってもいきなり幻視の瞳で幻術状態にされたらどうしようもない筈だった。
「どうかしたのかな? 僕を見つめて……。」
「な、なんで!?」
「なんでって……。何でだろうね。因みにいきなり幻術を仕掛けてくるのは僕的にどうかと思うよ。」
幻術は効かないってことか……、厄介なことで。
「う、嘘……。」
レイナは茫然自失……とまではいかないが明らかに動揺している。
一瞬アリアスに目配せをする。
「奇襲をいきなり仕掛けてきたお前が言える立場じゃねー……よっ。」
一息で窓際まで接近し村正で斬りかかる。
「おー怖い怖い。」
ことも投げにレータアクセラは自身の武器の白い刀で受け止められ鍔迫り合いのような形になる。
「危ないじゃない……かっ。」
「げっ。」
このままじゃ押し負ける、 なら……。
あえて力を武器に込めていた力を抜きレータアクセラの押し込みに合わせて後ろへと飛ぶ。
「おっとっと。」
俺が力を抜くとは流石にレータも予想していなかったのかつんのめっている。
こいつ今までこの街で戦ってきた奴より明らかに強い、これがAランクの力って訳か。しかも相手は本気をまだ出していないようだし。
「私たちも戦うわ。」
「あまり使いたくはないけど使わなきゃいけないよねー。」
アリアスは小刀をレイナは龍の意匠が彫られた双剣を既に手に臨戦体勢だ。
レイナも冒険者をやっていただけあって既に立ち直っている。
どうやら2人とも俺と一緒にこのレータアクセラと戦うつもりらしい。
「3人で戦えたらそりゃまぁ楽なんだけどな……。お前らには他のやつの相手をしてもらわなきゃならん。」
「え?」
2人同時に声がハモる。
「周囲をよく探ってみろ。」
意識を周囲へと向け、次いで驚愕する。
「これは……。」
「ああ、囲まれたみたいだな。」
この家を中心に多数の存在が出現しているのだ。
「あーあ。気づいちゃったんだ。 僕の仲間は間に合ったようだね。」
『御主人、残念ながらレータアクセラの言う通りです。200人ほどが武器を各々手に持ちこちらへと向かってきています。しかし……。』
何かあるのか?
『ええ。なぜか軍が進軍しているというわけではないのです。まとまりが感じられないというか……。多くの者は一般人のようですし。 生者というよりは死者みたいな感じで生気が感じられないのです。』
『何?』
そこである考えにたどり着く。
『一つ聞くがこの世界にはアンデッドとかゾンビのような者は存在しているのか?そしてそれを操るような魔法も。』
『アンデッドなら……。なるほど、つまりどこかにアンデッドを操るものがいるかもしれないという事ですか。』
『ああ。いきなり大量のアンデッドが偶然現れて偶然ここに向かってくるなんて有り得ないしな。』
「チッ。アリアス、レイナ。今向かっている奴らはアンデッドの可能性が高い、お前らはそっちに迎え。こいつらは俺だけで十分だ。」
一瞬逡巡する2人だったがすぐに動き出す。
「分かったわ、直ぐに戻ってくるから。」
「ちょっと待っててね〜。 」
2人はそのまま部屋を飛び出して行く。
「律儀だなぁ。待っててくれるなんて。」
「いえいえ、紳士ですから。」
額面通りに受け取るわけにはいかない。何かを今の間でしていたはずだ、何かはわからないが。
こいつはまだまだ隠し玉があるなぁ。 表情から余裕も垣間見るし。
レータはそんなことを考えている間に魔法を発動してくる。
「ここは見通しが悪くてよくないですね、ちょっと広くしましょうか。 光魔法 拡散光弾」