71話 ジュリアの決意
迅たちがレータたちのアジトを急襲する6時間ほど前まで時は遡る。
「御主人、ここ二日間で多くのものが動きを見せ始めています。」
「というと?」
リリィのいきなりの報告に思わず聞き返してしまう。
でもしょうがない。この二日間はあんな話をして疲れたから寝て過ごしていたんだ。身体的な意味では疲れはほぼない、疲れたのはもっと大事な部分、精神だ。
これは一回消耗すると回復するのに時間がかかるんだ、うん。
「何を自信満々に言ってるんですか。ただ、だらけてただけじゃないですか。私は必死に情報を探っていたというのにですよ?全く。」
あれ?なんか怒ってませんか?リリィさん、口調が平坦だから分かりづらいけど言葉がいつも以上に突き刺さってくる。
「てことは普段から私の言葉がきついと言いたいんですか?そうなんですか?」
全部心が読まれるからもう何にも言えない!
「話を戻そうか。それで何が動いたんだ?」
「唐突に真面目になるわね。」
いや、俺はいつでも真面目なんだが?一体何を言っているんだアリアスは。
「いつもふざけているの間違いじゃないかしら。」
なんでお前まで俺の心を読んでいるんだよ。リリィは分かるよ、まだ。血の盟約の効果だからさ。でも君違うよね?違うよね?
「元女神だから?」
あ、さいですか。もういいです、聞くのも嫌になってきましたよ。勝てる気がしません。
「それで?」
「そうでした。主に冒険者たちや町の人たちなどに私たちのことを詳しくそしてそれとなく聞いて回ってるようです。相手に誰と悟られないようにはしているみたいですが……。まあ今誰がそんなことをするかなんて考えなくても分かりますよね。」
「レース……アラバスタしかいないな。」
「誰ですかそれは。レータ・アクセラです!」
ジュリアからツッコミが入る。どうやらやっと彼女も俺たちに打ち解けてきたようだ。ここ数日こんな感じの会話が増えてきた。良かった良かった。
「レータ・アクセラな?うん知っていたよ。もちろん。ジョークだジョーク。異世界ジョーク。
それよりも疑問がある。いくらリリィが優秀とはいえ、奴らは基本は暗殺部隊のはずだろ?そんなに簡単に尻尾を出すとは思えないんだけどな。」
「わざとやっているのかもしれないですね。ジュリア王女の焦燥感を煽るために。お前たちは袋の鼠だとでも言いたいんでしょうか?」
「それかもしくは私たちが歯牙にもかけられていないのかもね〜。」
「リリィの案でもレイナの案でも結果的に俺たちを煽っていつことに変わりはないわけだ。」
アリアスは俺の顔をみてなにかを察したのだろう。
「ちょっと何するつもりよ?」
「いや特に何も?
それよりもリリィ?相手が動いてきたって分かってんだよな?てこととはお前のことだ。もう大体の情報は掴んでいるんだろ?奴らのアジトはどこだ?」
「街の外れのスラム街の辺りですかね。」
やっぱりこの秘書さんは情報を掴んでいたよ。できる秘書だねほんと。そのうち、御主人の邪魔になりそうだったので処理しておきましたとか言いそうで怖いよ。
とりあえず場所はわかったなら後はやるだけだな。
「それで相手の戦力は?」
「大体ですが、騎士が40〜50ほど。こちらは対人戦もできるようですね。そしてそこに魔法師も20ほど加わっているようですね。それと偵察の兵たちです。」
「そうか。なら問題ないな。今日の夜にでも落とすか。」
「なんで!?」
ジュリアからまたツッコミが入る。本当に元気だなぁ。
「で、なんでとは?」
「いまの話聞いていましたか?敵は大体多めに見積もって100ほどの兵士がいるんですよ。それに対してこちらは5人程度です。一人頭20人は倒さなければいけないんですよ?その上レータまでいるんですよ?」
「だから?」
「だ……だからって。」
言葉をなくすジュリアの肩にアリアスがポンと手を乗せる。
「無駄よ、話を聞くようなやつじゃないわよこの男は。」
やれやれと言った感じで頭を振るアリアス。その仕草がどことなくムカつく。
「そうです〜。ダーリンに常識を期待しても意味ないですよ〜。」
もう何も言うまい……。
「御主人は何も言わないそうです。もっと言っちゃいましょう。」
ちょっと。俺の心の声をカミングアウトするのは反則じゃないですか?リリィさん。
そしてここぞとばかりに悪口言いはじめるのやめようねアリアス、レイナ、シュア。ん?シュア?君まで俺に悪口があるのか。もう気にしない。話を続けさせてもらう。
「ちなみにだが、行くのは俺とリリィとアリアスとレイナだけだぞ?シュアとジュリアは待機だ。」
「な、なぜ。」
「足手纏いだから。」
ジュリアは反論しない。できない。
というかなんでお姫様が戦いに行く気になってんだ。大人しく守られてなさい。
「大丈夫だ、俺たちだけで。だから待ってろ。」
「で、でも……。」
納得できないか。
「お前の役目はなんだ?戦うことか?違うだろう。今はまだ出番じゃないんだよ。だからそれまだ力を蓄えとけ。それでもまだ納得できないんなら次戦いがあったら戦力になるように努力することだな。」
ジュリアは歯を食いしばって俯いている。葛藤しているのだろう。
やがて顔を上げる。
「分かりました。今は待っています。しかし今度機会があったら参加しますからね。」
目に決意を超えて笑顔で言い放ってきた。
「ああ。その時は期待してる。」
言ってから思った。 でももしそうなったら戦う王女とか呼ばれることになるんじゃないかと。
しかし やっぱりやめたらとは言えなかった。
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