61話 昇格試験1
拙作ですがお願いします。
「先にアリアス殿の昇格試験を執り行う。その後に迅殿の試験だ。」
スヴェンがそう宣言し、それから細々とした説明をしていく。どうやら今回の昇格試験の審判はスヴェンがやるらしい。ギルド長がやるようなこととは思えないが…。まあ、何か理由があるのかもしれない。
試験が行われる訓練場にはかなりの数の観客が来ており、その中には冒険者も多数含まれている。まあ、その目的は俺たちが倒されるところを観たいからだろうな。実力が本物かどうかとかもあるんだろうが...。それよりも問題は奴らが来るかどうかだな。十中八九くるだろうがいかんせん誰がそれかわからないんだよなぁ。悪意に満ちた視線なんて俺たちには結構向けられているし、心当たりはないが。
『はぁ。』
なんかリリィがため息を付いている。
『リリィ。この中で俺たちよりもジュリアの方に視線を送っている奴を試験中に見ておいてくれ。』
『かしこまりました。』
ジュリアの守りはシュアとレイナがいるから大丈夫だろう。
とりあえずそっちの警戒も一応して置くとしてだ。とりあえずこの試験をクリアすることだな。
アリアスの相手は...っと、女2人キリとクリ、それに桃太郎のうちの1人、キジィみたいだな。そいつらを三連続で倒せば無事昇格か。これが昇格試験で中々使われない理由だろうな。
普通に考えて、三連続で格上冒険者と戦うなんて無理に等しいものなぁ。それこそ出来るのは天才とか人外みたいな連中だろうなぁ。
『それでは、もし無事この試験をクリアできたら御主人も無事、人外ということですね。』
離れていても心が繋がっているということが改めて証明されましたね。はい。
そして僕は人外ではないです。だって異世界人ですから。元々、この世界の枠組みに入っていないので!そこには入らないのです!はい。
『それ結局......。』
ん?なんも聞こえないぞ。っと、おおっと、そうこうしているうちに対戦相手が訓練場の中央へと来ているなぁ!
じーっと視線が感じるが気のせいだろう。
どうやらアリアスの最初の相手はキリらしい。魔法をメインで使うんだろう、杖みたいなものを持っていてローブも着ていてる。うん、如何にも魔法士って感じだ。
「おい、アリアス。」
「ん?」
「まあ、程々にやれよ。」
本気でやったら殺しそうだからね。
一瞬ぽかんとした表情となるアリアス。次にはふふっと笑い始める。
「ここは頑張れとかそういった類の励ましの言葉をかけるところではない?」
「何言ってんだ。それは頑張らなきゃいけない時に使う言葉だろ?まあ、軽くやってこい。」
アリアスの背中をパンと軽く叩き、押し出してやる。
「はぁ。まぁいいわ。」
そう言って、訓練場の中央へと進んでいく。
「最終確認だ。さっきも話したが今回の昇格試験は実力を測るものである。よってこの戦いでは殺傷性のある攻撃は禁止とする。異存ないな?」
さっきも話していたのか。聞いてなかった。危うく相手を半殺しにするところだったな、俺が。でも、スヴェン俺に向かってさっき思いっきり殺せぇぇ、てアピールしてたけど?え?そこは上手くなんとかしてみたいな視線を俺に向けるのはやめて。
「ええ。分かってる。」
「ん。」
「それでは両者位置につけ。」
これは戦い方の差を考えた結果だろう。魔法は詠唱をしなければならないから初動においてはどうしても遅れてしまう。無詠唱を使えれば話は別だが、距離を取ったところからみるにこのキリって奴は使えないんだろう。
そのための措置だな。
お互いが位置についたのをスヴェンが確認し、手をあげる。
そしてそれを振り降ろすと同時に…
「ファイ!!!!」
試験が始まる。
スヴェンの試合開始の合図とともに両者ともに動き出す。
キリは魔法の詠唱を開始し、アリアスはキリとの差を詰める。
(速いっ。)
キリが目を見開く。ここまでとは思ってなかったのだろう。
アリアスのスピードは中々だが、最初に距離を開けていた為にキリにもギリギリみることができていた。もし、近くで向かい合っていたのなら一瞬でこの戦いは終わっていただろう。
(でも、これなら私の魔法の方が速い。)
アリアスがキリに詰めきる前にキリの魔法が完成し、キリの持っている杖が青白く光る。
「光魔法 フラッシュバインド」
魔法を放った瞬間、カッと眩いばかりの光が杖から放たれ、辺りを覆う。まあ、目眩しだな。アリアスはそれでキリを見失ってしまう。
ちなみに俺にはあのフラッシュバインドという奴は効いていない。だから解説ができるわけなんだが…。これは単純な話でリリィのおかげだ。正確に言えば、コートの、おかげだな。ある程度の適性のある魔法は弾けるからキリのフラッシュバインドはある程度に入ったんだろうな。
だが、一部を除いて観客のほとんどは視界を失ったらしい。「何も見えねぇ」とか「何じゃこりゃ」とか、「め、目がぁぁ」とかどっかの大佐さんが言ったような言葉が聞こえてくる。これで視力を奪われるということはないだろが...。
魔法を放ったキリはというとアリアスの前から移動し別の魔法を放つ為に詠唱を開始している。このまま目が見えなくなっているアリアスへと攻撃の魔法かなんかを浴びせるつもりなのだろう。
だがうん。全然甘いな。
目が見えないからと言ってそれだけで止まるようなアリアスではない。
詠唱が聞こえて来た方向へとさっきと同様のスピードで突進していく。
「なっ。嘘でしょ。」
流石に目が使えない状態のまま動いてくるとは思っていなかったのだろう。魔法の詠唱を中断してしまう。
しかも最初の時よりも2人の距離は近い。キリの魔法の発動スピードとアリアスのスピードどちらに分があるかといえば、それはもちろんアリアスのスピード。
バキッと鈍い音が辺りに響き渡る。
あれ?とアリアスが首を傾げる。感触がなんか違うなと思ったのだろう。その通り!君が破壊したのはキリが咄嗟に出した杖です。叩き折ってます。
気を取直してアリアスの拳がキリへと振り下ろされる。キリにはもはやガードもできないだろう。
アリアスの拳がキリの顔面に当たる寸前。
「勝負あり!!」
スヴェン審判の声が轟く。
ブンッと音を立てて停止するアリアスの拳。もし、一瞬でもスヴェンが止めるのが遅ければキリの顔面は目も当てられないこととなってただろう。
「ありがとうございました。」
キリの方へと向けてアリアスがきちんと挨拶する。もう視界も戻りはじめたらしい。相手の顔をきちんと見て挨拶している。
対するキリはというと反応がない。
「あら?」
アリアスがキリの顔を覗き込むと、白目を剥き意識をすでに手放していた。
「えーっと。」
どうしようというように視線を向けてくる。
いやいや俺に視線を向けられてもどうもできねぇよ。
でも、スヴェンがいるしなんとかするだろ。ああ、ほら。やってるよ。
「おい、早くこいつを医務室かどっかに運んどけ。ああ。ついでにその折れた棒切れもな。」
何故か指示を出すスヴェンの顔が嬉しそうだが。嬉しそうに指示しているからそのギャップが半端ない。職員も若干引いている......気がする。
「よし、次は2人目だな。次の相手はクリ!」
キリを職員がすぐに運び出すと、今度はその相方クリが中央へとやってくる。キリが運び出されるのを心配そうに見つめていたが運び出されるとアリアスをキッと睨みつける。
「よくも、うちのキリをやってくれたなぁ。落とし前はきっちりとつけさせてもらうからな。」
どっかのチンピラみたいなことを言い始める。
というか、やったって言ってもアリアス攻撃当ててないんだが。
アリアスもどう反応したらいいか困ってるし。
クリはキリとは対照的に接近戦向きらしく武器はバトルアックスらしい。その性格を表しているとも言えなくないが.......。
今回に限って言えば、相性がアリアスとはいいとは言えない。
あ、ほら。始まったと同時に突っ込んでくるクリに対してアリアスも突っ込んでいき、クリの突きをステップで横へと回避する。
それを、待ってましたとばかりに突きを途中で無理矢理止めて横へと斧を薙ぐ。
しかしそんな攻撃がアリアスに当たるはずもない。
それをかがんで避け、クリの首筋に小刀を突きつける。
「勝負あり!!」
アリアスの勝利を告げる声が響く。
うん。やっぱり瞬殺だったな。
この2人は消して弱くはない。2人で組むと相性も良さげだ。個人としてもいい。だが今回は相手が悪かったな。
アリアスはさっきと同様に挨拶し、次の相手キジィを待つ。
クリは茫然自失とした様子で戻っていく。キリの元へといくのだろう。
ちなみにスヴェンは非常に満足そうな表情をしていた。
「俺が鍛え直さなければ」
とか呟いていたからあの2人はなんとかなるのだろう。
ちなみに最後の相手、キジィは鎖鎌というなかなか特殊な武器を使っていた。それで相手を捉えたりしていくという戦法だったようだが、あっさりとアリアスの力押しで瞬殺されたとだけ言っておこう。
うん。酷い負け様だったな...。
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