60話 やっぱこのギルド舐められてるわ。
いつの間にか60話いきまきた。
進行遅いですがよろしくです。
「はぁ。めんどくさいなぁ」
「そんなこと言わずに、お願いしますよ、迅さん。」
そう言って慰めるのはジュリア。
今日はギルドの昇格試験の日ということで珍しくジュリアも宿の外へと出ている。黒ローブをしっかりと被っているのはやはり王女とバレないようにするためだろう。
隣で周囲へ警戒の目線を送っているシュア。それが逆に目立っているということには気づいていない。
あ、ほらまた通りすがりの人に振り返られた。
「はぁ。疲れた…。」
「全然疲れが抜けないわ〜。」
トボトボと後ろを付いてくるアリアスたちの足取りはなかなか重い。
そんなに厳しく昨日はやっていないんだけどなぁ。
アリアスは元女神なんだから体は頑丈なはずだし、レイナも冒険者だったんだから死線ぐらいいくつも乗り越えてきたはずだろうしなぁ。
『いやいや、何言っちゃんてるんですか御主人。昨日御主人がやった訓練をお忘れですか?』
ん?昨日やったのって軽くランニングしてあとは実践あるのみだから、魔法を使うこと禁止して体力の続く限り魔獣とひたすら戦わせただけだぞ?全方向から。たったそれだけだろ?
『御主人の軽くランニングっていうのは2時間全力で走らせることをいうんですか。』
『当たり前だろ?』
そう言った瞬間、リリィから、だめだこの人みたいな感情が流れ込んでくる。意味わからん。
対人戦だとそこにフェイントかかってくるから余計に頭使うが魔獣だと基本動きに忠実だからべつにそこまでだろ?
ちなみにだが、アリアスたちが狩った魔物はしっかりと解体してギルドへと売り払わせてもらった。懐が少し潤ったな。
「おい、お前ら。大丈夫か?あとアリアス。後で武器買いに行くか。」
「え?それって…。」
驚いた様子のアリアス。それも当然か。寝耳に水の話だもんな。
「それってデートってこと〜?」
ニヤニヤとした様子のレイナ。
微妙にウザい。
「何故そうなる……。」
「ってことは違うんだ〜。」
若干嬉しそうにしている。対してアリアスはなぜか少し不機嫌そうになっている。
「それでなんでいきなり?」
ぶっきらぼうに言い放つ。
まぁ、俺は気にしない。
「昨日の模擬戦をやっていて思ったんだがな。小刀だけだとリーチも短くて攻撃にも不便だと思ってな。それにアリアスの特徴を生かしきれていない感じがしてな。」
「そうね。若干の動きにくさはあるわね。」
「何を買うかは武器を見に行った時にでも考えるとしよう。
それよりほら、着いたぞ。」
そう言って、見上げると他とは違う大きな建物で看板にはギルドと書かれている。
前回、ここに来た時は全く意味不明の文字だったが秘書さんに教えてもらったおかげで少しなら読めるようになった。まあ、このギルドという単語しか今は分からないのだが......。
そんなことを考えながらギルドののれんを潜る。
そうしてギルドへと入ると結構な視線を向けられる。
そこらかしこから、「あいつがゴブリをのしたやつだってよ」とか、「今日ぶっ倒されるやつだ。」、「なんだ、あのちっこいのは。」とか色々聞こえてくる。基本的に友好なものが少ないのはしょうななお。
こうやって見てくるのはゴブリと仲良い奴らか同類の奴らなんだろう。いくつかのグループは興味深そうに見て来ているがそれはやはり少数派だ。
「あ、迅さーん。」
そんな空気には気づかずに手を振りながら受付の方からやってくるのはたしか...ゴブリに突き飛ばされていたやつだ。確か名前は……
「おー、スズルじゃないか。」
「違います!スズリですよ!!」
「あ、また名前忘れてる。」
「ガロンおじちゃんの名前も覚えていなかったし。ほんと、ダーリンは他人に興味ないよね〜。」
「そうなんです。まず御主人覚えようと思ってないんですもん。」
アリアスとレイナの会話に俺の感情を知っているリリィが混ざって、さりげなく感情を暴露している。
やめてくれリリィ。俺はそんなことは思っていない、決してどうなってもいいなんて思っていない。あれ?
よしスルーだ。スルーしよう。話が進まない。
「あ〜、スズリだったか。すまんすまん。それでどうしたんだ?」
「軽っ...人の名前を忘れておいて軽っ。まあいいです。いえ、ギルド長に迅さんたちが来たら部屋へ案内するようにと言われまして。ちなみに今日の試験は奥にある訓練場で行われます。」
スズリが指し示した先には体育館ぐらいの広さの場所があり、そこで何人かのものが訓練というか模擬戦をしている。だが、実力差は遠目から見てもわかるほどで、多分初心者の手ほどきをしているとかそんなところなのだろう。
「それでは行きましょう。」
そう言って、スズリはこの前スヴェンと話をした場所まで案内ししてくる。案内なくても分かるがここは従っておこう。そうきて部屋の前にたどり着くとドアをノックし中からどうぞと声が聞こえてくる。
「失礼します。迅さんたちを連れて来ました。」
「そうか。ご苦労さん。」
スズリに促されて中へ入るとスヴェンと見知らぬ男が4人と女が2人いる。
冒険者ギルドに入って迅たちは間もないので、知っている者がいないため実際全員見知らぬものとなるのだが...そこは考えないこととする。
男の内3人は一様に入った瞬間に俺らを睨んできている。1人は興味深そうに見て来ているが…。
女たちは特に何も思っていないのか一瞥してそのまま視線を外す。
「来たか。まあ座れ。」
スヴェンにそういわれ、彼らとは反対側へと座る。
「こやつらが今日お主らのランクアップ試験の相手となる冒険者たちじゃ。
右からDランク冒険者のイヌゥ、サルゥ、キジィ、...サイじゃ。
女の冒険者の方はキリとクリじゃ。」
「桃太郎か!!」
「?」
おっと、みんなから一様に何言ってんのこいつみたいな視線を頂いてしまった。
しかし名前がイヌゥ、サルゥ、キジィ、ってほぼ一緒じゃん!そして着ているのもなんかの魔獣の毛皮ものっぽいし、もう完全に名前から笑い取りに来てるよね?ツッコミ待ちだよね?
な、わかるよな?リリィ?
記憶を読んで知っているはずのリリィに助けを求める。
『ええ。確かに似ていますね。』
と笑いながら言ってくる。
うん。肯定してくれて嬉しい。ならなぜそれを念話で言ってくるのかな?口に出して言ったらよくないかな?ねぇ?
あ、プイッと視線を逸らした。
めんどくさくなりそうって感じが伝わってくるぞ。
はぁ。もういいよ。
ていうか、スヴェン最後の男の時、間があったな。何かありそうだなぁ。
スヴェンが逆にDランク冒険者の者たちに俺たちのことを紹介している。
ほぼ誰も聞いていないが...。耳をほじったりあさっての方向を見ている。
そしてスヴェンのこめかみがピクピクしている。
こりゃ相当舐められているね。うん。キレそうだもんスヴェン。
「まあ、細かいことは省いてだ。早速訓練場に行って試験を始めるぞ。」
あ、投げ出したねうん、聞いてないしいう必要も無いとおもったんだろう。
ドアをスヴェンが開けるとまず先にDランク冒険者の者たちが出て行く。全員が出て行くと、スヴェンがこちらを振り返って笑顔を浮かべる。
そして手を首まで持ってくると一気に親指で横に引くようにする。
口パクでキルとかまで言ってる気がする。
うん。殺せってことね。
ギルド長としてそれはどうなんだと思うが、そしてちょっと怖い。アリアスたちも若干引いてるし。
まあ、スヴェンのも一理はあるが。やつらの礼儀はなっていないな。半殺しは確定だろう。
それよりも気になるのは桃太郎じゃない男、真面目に聞いてた感じのあいつだ。飄々とした剣士みたいなやつだったが。
スヴェンに軽く聞いてみるか。
「真面目そうなやつ、あいつはなんだ?他のやつと気色が違ったが。」
スヴェン的にはてっきり懲らしめてほしいという感じだと思ってたんだが、あいつは横暴そうな感じはしなかったが。
「あの男はここの冒険者なのか?」
「......ここの冒険者ではない。それしか言えん。」
苦虫を噛み潰したような顔をする。
ほう、だがそれだけて十分なヒントになってるがな。
「じゃいあいつはDランクか?」
見た感じあのゴブリ共なんてのとはレベルが違うように感じたが。
「今はDランクということらしい。」
今はねぇ。
スヴェンもなかなか優しいな。やはり倒して欲しいんだろうな。こっちのやつは別の意味でだろうが。
上手く行けはスヴェンを...。
スヴェンはそれ以上何も言うつもりはないのか、早くいけと促してくる。
「じゃあ、行くか。」
「上手く潜り込ませられた?」
「はい。ギルド長のスヴェンはいい顔していませんでしたね。」
うんうんと満足そうにベッドの上で頷く白髪の少年。
「そうだろうねぇ。彼を戦力にしたいみたいだし。みすみす潰されたくはないだろうからね。」
「それにしても何故彼だったのですか?私が出てもよかったんですが。」
「捨て駒の中で一番強いのが彼だっただけだよ。所詮は偵察だし、あの逃げ回る王女さまに絶望を与えたいしね。
楽しみだねぇ。どんな風に歪むのかなぁ。」
恍惚とした顔を浮かべる少年。それは少年が浮かべるようなものではなく醜悪な笑み。
「あははは。せいぜい楽しませてくれよ王女様」
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