56話 護衛
「ってことで、冒険者とまた戦うことになった。」
「ってことでじゃないですよ!!」
宿へと戻るととジュリアへと状況を説明する。
ジュリアは表情を変えず?にそれを聞いていたが、話が終わると頭が痛いというようにこめかみを抑えている。
ちなみにもちろん迅が説明するはずも無く、いつも通り今日のこともリリィが説明していたりする。
「頭痛いのか?ならもう休んだ方がいいんじゃないのか?」
こめかみを抑えているジュリアに迅が珍しく気を利かせる。
「ええ。痛いですよ!誰のせいだと思ってるんですか。身分証を取ってくるだけで騒ぎを大きくして来てるんですからね!!」
「ははは。まあまあこれでも飲んで。」
迅がそれを意にも介さず、水をぽいっと放り投げる。
空を受け取りごくごくと喉をならす。
「ふー……。
少し落ち着きました。」
「それは良かったな。」
「ありがとうございます。
……じゃなくて!!」
「なんだよ。」
「私が言いたいのはですねぇ。」
「あ。」
迅が何かを思いついたかのようにポンと手を叩く。
「ジュリア、その冒険者との戦いの時、直接見に来いよ。」
「はいぃ!?いきなり何を言い始めるんですか。」
「いいアイデアじゃないか?なぁリリィ。」
「ええ。そうですね。ジュリアさんが外に出て行って敵が襲ってくるようならまた捕まえて尋問すればいいですし、手を出してこないなら問題ないですしね。その場に相手がいて冒険者に圧勝するのを見せ、ジュリアさんと話していれば知り合いがこれだけの力があるとも見せつけられますし。」
秘書のリリィも迅の提案にゴーサインを出す。
アリアスとレイナも特段異論はないのかうんと頷いている。
結果的に納得できていないのはジュリアだけということになってしまう。
「なんでみんな納得しちゃってるんですか!!私の護衛は誰がするんですか?迅さんとアリアスさんは戦っているんですよね?」
「ああ。だからレイナがいるだろ?」
「そうですが....。」
その言葉が意図するのはやはり不安ということなのだろう。
そういえばレイナの戦っているところをジュリアは見ていなかったかもな。というか絶対見ていない。こないだも基本俺が殺したし、今日はいなかったし。
「まあ、大丈夫だろ。今日もレイナ、冒険者の男何人かに泡吹かせてたから。」
「泡!?なぜそんなことに!?というかどうやって!?」
レイナの能力を知らないジュリアは面白いように驚く。
「あー、まあね〜。」
ぽりぽりと頰をかいて照れくさそうにしている。
「だからまあ、大丈夫だろ。」
そう言ってジュリアへは説明しない。
理由は簡単!面倒だから!!
一応、保険はかけてくが。
『リリィもジュリアの様子を気にしておいてくれ。
町中で仕掛けてくるなんて暴挙はしないと思うが確約もできないしな。後、多分だが相手の方にかなりの実力者が混ざっているはずだ。』
『ええ、分かっています。』
そういえばジュリアなら相手のことがわかるかもな、実際に見ているはずだし。聞いてみるか。
「なぁ、ジュリア。お前ここに来るまでに護衛のものがいたはずだよな?」
「ええ。ここに来るまでに全滅してしまいましたが。」
悲痛そうな表情をうかべるもあっさりと事実を告げるジュリア。
感情と事実をごちゃ混ぜにしないあたりさすが王女なだけあるだろう。
そんなことは知らんとばかりに迅は続けるが。
「それで襲撃された時に相手は誰かとか分かったか?」
「ちょっと迅。」
流石にアリアスが咎めるように言うが、それを本人が遮る。
「いいのです。これは必要なことですから。それにこれぐらいなら正式な依頼の前でも話せますから。」
ほお。ただの理想主義のあまちゃんというわけでもないようだな。涙ひとつ見せていない。自分のせいで死んだようなものなのに。
『ええ。強い子なんでしょう。だからここまで来れたんです。』
迅の中でのジュリアの評価が少し上がる。それを表情に出したりはしないが。
「相手が誰かは残念ながら........。私は襲撃の最中に護衛のものに逃がされましたので。遠くで私が乗っていた馬車が燃えていましたし、ちらっと後ろを振り返った時には既に大半のものが……。」
「そうか。」
部屋に微妙な空気が漂って誰がなんて言おうか悩み始めた時、それは唐突にぶち壊される。
バン!!!!
「お嬢!!大丈夫ですか!?」
部屋の扉が開けられジュリアが最初に着ていたのと同じ黒いローブを身に纏った者がいきなり飛び込んで来る。ジュリアが着ていたものより質が落ち、もっと薄汚れていたりするが。
本人はそのことに気づいた様子もなく部屋の中へとズカズカ踏み込んで来てジュリアへと向かっていく。
「変な連中といたという噂を聞いて飛んできました。こいつらがお嬢を...」
ジュリアの様子を確かめると、今度は迅たちの方を睨んで来る。ギリとでも音が出そうなほど歯を食いしばり腕は腰に提げてある剣へと伸び、今にも抜いて切りかからんとしようとした寸前、
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい。シュアってば!!この人たちは味方よ!!!」
ジュリアが制止の声をかけて、抜きかけていた剣をシュアが止める。
それによってシュアが止まる。
フーと息を吐くジュリア。
もしジュリアが止めるのがもう少し遅ければ危なかっただろう。主にシュアがだが。
迅の手は自身の愛刀へと手をかけているし、アリアスとレイナも腰を軽く下げいつでも動けるようになっている。
そんなシュアはそんなことには気付かず胡乱気な瞳を迅たちに向けており、迅たちも突如入ってきた女に警戒の視線をおくる。
まさに雰囲気は一触即発とでもよべるものである。
「どっちも武器から手を話して、そんなんじゃ落ち着いて話せないでしょ。」
唯一どっちとも面識があるジュリアが割って入る。それでシュアが渋々といった様子で剣から手を離す。
「ほらあなたたちも。」
迅たちもそれでようやく臨戦態勢を解く。
「で、誰だこいつは。」
不機嫌そうに言い放つ迅。それもそうだろう。いきなり自室に飛び込んできて喧嘩を売り始めたのだから。まだ我慢しているだけのはひとえにジュリアの知り合いっぽいからだろう。これが違ったら速攻で叩き伏せるつもりでもいるのだが.....。
その言葉にピクリと反応したのはジュリア.........ではなくシュア。
「おい、おまえ。なんだその口の聞き方は。」
「あ?なんだと?」
「なんだその口の聞き方はと言っているのだ!!」
高圧的に言い放ち、近くにあるテーブルをガン!とたたく。
もちろん言われっぱなしで黙っている迅ではない。
「お前こそなんだその態度は。いきなり部屋に飛び込んで来る方が大問題だろうが。」
冷静に迅が指摘するがなんのその。
「王女様に敬意を示さない問題と部屋に飛び込むなど比べる意味もないわ。どちらが重要かなどわかるだろう!?」
「ほう...お前にいちいち態度について言われる必要ないと思うが?これは俺とジュリアの問題だろう。それに問題があったらジュリア言うと思うがな。」
「お嬢はお優しい方なのだ!言えるわけないだろう。」
「はぁ。」
話が通じないタイプのやつだな。レベッカみたいだ。
『そうですね。お灸をすえますか?』
『いいかもな。ていうかお灸なんてポラリスにないだろ。』
『まあまあ。』
「もうお前の話はいいや拉致があかない。」
「それはこちらも同じだ。」
お互いまた武器へと手がかかる。
バン!!!!
「いい加減にして下さい!!」
ジュリアがさっきシュアが叩いた時よりも力強くテーブルを叩く。
その音で武器に手をかけようとしていた2人の手が止まる。
「何してるんですか!私が気にしてないんですからあなたがいう意味がないでしょう!!私があなたにそんなことを一度でもお願いしましたか?」
詰問するようなジュリアの声音に先程までのシュアの異性は何処へやら、途端にたじろぎ始める。
「し、しかし、お嬢…それでは王族としての示しが…「私の質問に答えてませんよね?」」
ジュリアはシュアに言い訳をさせる気はないらしい。
凍るような笑顔でシュアに問いかけている。
対してシュアは顔から滝のような汗を流している。十中八九冷や汗であろう。
うーわ。こわ〜。
「め、命じられたことはないです。」
絞り出すかような声のシュア。
「そうですよね。命じていませんよね。ここはプライベートで権威なんて木にする必要はありませんし、そもそも今の私に威厳も何もないでしょう。逃亡中で護衛も全滅してるんですよ!?」
「そ、それはそうですが。しかし....。」
「あなたが私のためを思って言っているのはわかりますがここは公の場ではありません。公の場では迅さんも気を使ってくれるでしょうし。それに私はそんな堅苦しいの好みません。プライベートで逃亡中の今は私の意向を尊重してくれてもいいでしょう?相手はこれから運命共同体となるだろう人ですしね。」
そこでニコッと笑いかけるジュリア。
最後は優しく諭すように締めるジュリア。
さすが話術も中々上手い。
しかし看過できない部分が一つあった。それは他のものも同様で・
「「「う、運命共同体?」」」
呟いたのはアリアス、レイナ、シュア。
「それはどういう意味かしら?」
「ふふ。」
代表してアリアスが頰を引きつかせながら質問する。それに対して悪戯ぽい笑みを浮かべるだけのジュリア。
「「「どういうことよ」」」
今度は迅に向かって聞いてくる。もちろん迅が答えられるはずもない。
いや、俺に聞くなよ。俺が聞きたいんだから。
『あらあら。大変ですね。御主人。』
「はぁ。」
迅にできるのはただため息をつくだけ。
ちなみにこの後、シュアも含めて30分ほど会議が開かれた。会議の内容は……察してくれ。
「さてと、じゃあ残りの時間どうするかな。」
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