53話 え?普通じゃないの?
ちょっと短めです。
「どこ見ているんだ?」
ゴブモヒカンの後ろから声が聞こえてくる。
バッと音が出そうなほどの勢いで振り向くゴブモヒカン。
「動きもトロいなぁ。ゴブモヒカンよぉ。言い得て妙だったかもなぁ。おい。」
ハハハと笑いながら煽るように言い放つ迅。
「このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
さっきの余裕のこもった表情はゴブモヒカンの顔には既になく、パンチを何発も連続して振っていく。だがその拳当たらない。どころかかする気配すらない。
その様子に焦れたのか、仲間からゴブモヒカンへと野次が飛んでくる。
「おーい、何やってんだよぉゴブリィ。さっさとのしちまえよぉぉ。」
「あん?飲みすぎたんじゃねぇのかぁぁ。」
「シャッキっとしろやぁぁ。女共は俺らがもらうぞぉぉ。」
酒を呑んで赤い顔をしながら呑気に言い放ってくる仲間たち。
しかしそれを受けたゴブモヒカンもとい、ゴブリはというとそんな野次に構う余裕もない。
おい、嘘だろ。なんだこいつ。本当に今日来たばっかりのやつか?新人なのか!?あり得ないだろ。今日はそんなに呑んでねぇはずだぞ!一体どうなってやがるんだよぉ!!
当たらない怒りを晴らすようにゴブリの拳は段々と大振りになり雑になっていく。
普段のゴブリならそんな大きな隙をみせることはあり得なかっただろう。しかし、酒を呑んでいたこと、仲間たちの前で恥をかかされていること、迅によって散々挑発されたことなど様々な要因が折り重なって冷静さを失われせているのだろう。
もっとも、通常の状態でも同様の結果になるだろうが。
「はぁ。ざっこ。もういいや。さっさと当ててみろや。今度は避けないでいてやるからよぉ。」
指でクイクイっと更に挑発していく。
額に青筋をたてながらも拳に力を込めていくゴブリ。
「ああ。そうかよぉ。調子に乗ったことを後悔するんだなぁ。」
ゴブリはその拳にマナまで込めていく。
頭悪いのか?こいつは。
そんな、隙だらけで力を込めなきゃ勝てないならもう実力で負けてるようなもんだろ。気づいてないが。
薄ら笑いを浮べながら、力を込めるゴブリを観察していく。
五秒経過。
まだか?
ゴブリは力を込めている。
十秒経過。
まだなのか?おっせえなあ。
ゴブリは力を込めている。
その割にさっきより少ししか込められているマナは増えていない。
脅威も感じない。
三十秒経過。
......え?おそくね??めんどくさくなってきた。
未だに脅威は感じない。
一分経過。
..................
さすがに野次を飛ばしていた奴らも焦れてきたのかゴブリに対してヤジを入れ始めている。
そしてとうとう、下を向いていたゴブリが顔を上げる。その顔は力を込めた影響か顔が赤くなっている。
拳はほのかに暗いオーラを纏っている......気がする。
闇魔法の一つなのかもしれない。
「覚悟しろやァァァ。ダークデストロイ!!!」
そんな恥ずかしい技名を言いながら迅へと向かってくる。
一方の迅はというと。
おっそ。
てかダークデストロイって......プッ。
痛すぎる...。訳すと暗闇の破壊だぞ。
てか普段その技使わないだろ。お前の武器戦斧じゃね?え?
とか考えていた。
そして、とうとうゴブリの必殺技ダークデストロイ(笑)が迅へと叩きつけられる。
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁ」
「はぁ。」
パシンっ。
「へ?」
ゴブモヒカンもとい、ゴブリの必殺の一撃、ダークデストロイはは迅の片手によって普通に掴まれていた。
掴まれるとは思っていなかったのだろう。腑抜けた声を出すゴブリ。
「へ?じゃねえんだ......よ!!」
パンチを受け止めた手に力を込める。
ゴブリの顔が苦痛に歪む。
「ガアァァァァァ。」
「何、魔獣のように叫んでんだよ。うるせーなぁ。あ、魔獣か。」
そんな失礼なことを言っても返答する余裕もゴブリにはない。
更に掴んでいたゴブリの右腕を逆側へと捻る。
ボキっ。
子気味いい音がゴブリの右腕から響く。
「アァァァァァ。お、おれの腕がぁぁぁ。」
「チッ。うるっさ。まだ切断していないだけいいだろ。」
近くで騒がれるのが目障りなのか、ポイっとゴミでも捨てるかのようにゴブリを床へと放り投げる。
迅が離した瞬間、腕を押さえて辺りを転げ回る。
「ったく。こんな所で転がり回るなんてマナーがなってないやつだな。動き回らないように地面に剣かなんかで突き刺しとくか。うん、それはいい考えだな。おい、受付嬢。なんか剣ないか?」
迅の戦いの様子を呆気に取られた様子でみていた受付嬢はまだ放心状態から抜けられていないのか答えない。
「おーい。」
迅がヒラヒラと呆気に取られた様子の受付嬢へとやるとようやく目の焦点が迅へと合う。
「はっ。意識がいつの間にか飛んでいたわ...。夢でも見ていたんのねきっと。そうでなければゴブリさんに勝てるはずがないもの。」
どんだけゴブリはこのギルドで強かったんだよ...。こんなのが強いと思われているようじゃたかが知れるなぁ。まだオケアスの騎士団の女...なんて言ったか。レベッカだっけ?の方がマシだったぞ。
はぁ。とため息まで出てしまう。
「おい、よく見ろ。これだろお前が言ってるゴブモヒカンはよ。」
受付嬢の方へとゴブリを蹴り飛ばして確認させる。いつの間にか転がるのが止んでると思ったら気絶しているようだ。
「ひっ。ゴブリン?」
その様子を見た受付嬢が軽く悲鳴をあげる。
それもそうだろう。いきなり気を失ったゴブリンに似た巨体が白目を向いてころがってきたのだから。
そんな怯えた様子の受付嬢をアリアスが宥める。
「ちょっと、迅。女の子が怯えるようなことしないの!ていうか、さすがに剣で地面に突き刺すのはやりすぎよ!確かに目障りではあったのは確かだけどね。」
「ってもなぁ。それでも生温いと思うんだが...。
ってん?なんか静かだな。」
いつの間にかギルドの中はヤジが止み、迅たちが普通の声で喋っても聞こえるほどになっている。
というか、迅たち以外喋っている声が聞こえない。
辺りを見回してみると、ヤジを飛ばしていた連中はみなゴブリ同様、ギルドの床に倒れ付している。
というか、何人かは泡まで吹いている。
あれ?ってこんな事が出来る人物はこの中に一人しかいないか。
全く音を出さずに倒れさせることが出来る人物.........
「これやったのはお前だよな?レイナ。」
「えへ。バレちゃったー?」
視線の先にいるレイナの瞳はいつもの様に幻覚で隠している左右同色の眼ではなく、紅と蒼の瞳になっている。
それはつまり、幻視の瞳を発動したということで......。
「バレないわけないだろ。それで、こいつらは今どんな夢を楽しく見ているんだ?」
「んーとね、今はねぇみんな仲間に少しずつ自分を食べられる夢を見ているはずだよ〜。でも今回は軽くそれを100回繰り返してるだけにしといたよ〜。」
「ああ。それはホントに軽くだな。それは。」
「「どこがよ(ですか)!!」」
受付嬢とアリアスの声がハモる。
「え〜、変な目で私たちを見てその上さらに侮辱したんだから当然じゃない?」
「ああ。当然だな。」
「はぁ。もういいわ。」
アリアスに呆れた視線を向けられる迅とレイナ。
しかし、それをいつまでもやっているわけにもいかない。しかしそのことを既に忘れかけている3人。
はぁ。
今のため息は誰のため息であろう。
もちろん、あの人しかいない。
最近、何かと苦労が多く秘書という立ち位置になってしまったあの方。
リリィである。
「ほら、御主人。いつまで遊んでいるんですか?本来の目的をお忘れですか?」
表情は笑っているが目は笑っていない。
この目には御主人様であるはずの迅も太刀打ちすることは出来ない。
「あ、ああ。そうだないつまでもストレス発散してる場合じゃないよな。うん。な、レイナ?」
え?私にふるの?言った顔のレイナ。
速攻で仲間を巻き込むあたりさすが迅である。
「う、うん。確かに、もう誰も起きてないしやることやろっか〜!!アリアスその子に言って〜。」
今度はアリアスへと話をふる。
誰も自分に話の主軸を置いておきたくないのだ!
「今度は私に来るのね。はぁ。あの、こんな時に言うのも何なんだけど...。
私たちを冒険者にしてくれない?」
「私には対処できないです!!」
あ、速攻で拒否された。
アリアスが落ち込んでいる。
うんどうしようこの状況。
頼れる秘書様を見てみる。
はぁ。
何度目か分からないリリィさんのため息。
「とりあえずこの子より上の階級の方が来るのを待ちましょうか。」
さすが頼れる秘書様。
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