51話 何で今まで気づかなかった。
迅たちへ遅い朝食を軽く済ませると宿を出る。別に遅めに家を出たのは迅たちは寝坊したという訳では無い。レイナによると朝に行くと、良い依頼を受けようとする冒険者が多く、混雑しているらしく、そんなごみごみとするだろう瞬間にギルドカードをつくるためにわざわざ行く必要はないだろうと考えたためである。
ちなみにジュリアはついてきていない。わざわざ外に出て不必要に危険に晒す必要は無いためである。一見、ジュリアのためのように言っているが、というかそう提案をした時のジュリアは自分のためだと感じて、若干感激していたのだが実際には別に理由がある。
それを聞かされていた、アリアスたちとしてはジュリアが感激しているのを見た時はなんとも言えない表情となったものである。その理由というのが、迅曰く、
「あいつがついてきたら、また余計なことに巻き込まれそうだろ?俺は何事もなく平和に過ごしていたいんだ。」
ということらしい。
どの口がそれを言うんだ!とか、ダーリンが冒険者ギルドに行ったら絶対何かしら問題を起こすだろうとか御主人...など内心で全員がそれぞれに思ったのだが、ジュリアの安全もそこには考えられていたため、皆、余計なことは言わなかったのである。
「で、どこにあるんだ、ギルドは。」
いつも通り、どこにあるかも全く把握していない迅。
そこで頼りになるのはやはり元冒険者であった、レイナだろう。
だからか迅も目線がレイナの方を向いている。
「んー、わからないな〜。」
テヘッという擬音まで飛び出してきそうな良い笑みを浮かべるレイナ。首をコテンッと傾けるおまけ付きである。
「まじか。じゃあどうするか。」
んーと考え始める迅。
しかしこの場合、迅が取れる選択肢というものはそこまで多くはない。
自分たちで地道に聞き込みでもしてギルドを探し求めるか、あるいは..........
「よし、決めた!」
「どうするの?」
「ああ。ここはいつも通りにいこうと思う。」
迅が、そう言った時点で皆何となく察したのだろう。
視線が一斉に1人に集中する。
「やっぱ私になりますよね。」
3人の視線を感じからか、それとも迅の思考が流れてきたからか、それは定かではないが、リリィが諦めた様な、それでいて少し抗議の意思がこもった視線を迅へと向ける。ちなみに今はリリィは擬人化している。というか、戦いの時以外は結構擬人化している。
「御主人。」
「ん?なんだ?」
迅も、もちろんそのことに気づいているが、スルーする。
「はぁ。もういいです。」
今度は完全に諦めたらしい。さすが秘書だ。なんだかんだと言いながら、俺の要望にきちんと答えてくれる。
ちょっと、未だに不貞腐れてはいるが。
リリィもさすがに大通りで擬人化を解く訳には行かないため、路地裏へと入り擬人化を解除する。
『じゃあ軽く見てきますね。』
念話で迅へと伝えてくるリリィ。
酷く事務的な会話である。
『ああ。分かった。後でなんかしてやるよ。』
迅が念話で暗にご褒美あげるよ〜と言ってご機嫌を取ってみると、リリィから嬉しそうな感情が流れ込んでくる。
『ふふ。期待してますね。』
そう言うと、空へと飛んでいく。少し感情が念話にこもっていた。
「あ〜。」
「ん?どうしたレイナ。」
ご褒美のことがバレたか。なんて感が鋭いんだ。と考えた迅が、レイナへと過剰ともいえるスピードで反応する。
なにか隠し事がある人がやってしまう典型的な例である。
「う、うん。リリィに多分だけど町の真ん中とか領主の家らへん2大体あるからその辺まず見てみて〜っていうの忘れた〜と思ってさ〜。」
迅の様子に若干引き気味になりながらもきちんと答えてくれる。
てか、それならリリィが行かなくても良かったんじゃないか。
内心でそんなことが頭に過ぎる迅だったが、確実性を期すために見にいかせたのも無駄ではないかと思い直す。
「あー、まあ気にするな。今伝えるから。」
迅は即座にリリィへと念話で伝える。
それから数分して、リリィが擬人化を再びして、裏路地から戻ってくる。
「どうだった?」
「ええ、やはりレイナの言っていた通りですね。この町の中心ぐらいの所に少し大きめの建物がございまして、そこに武器やら防具やらをつけた方々が入っていきましたから、多分そこがギルドでしょう。」
「どのぐらいでつく?」
んー、と少し思案顔となるがすぐに顔を上げて迅の質問に答える。
「徒歩ですと10分ぐらいじゃないでしょうか。それほど規模の大きな町という訳では無いですしね。」
「そんなもんか。じゃあ行くか。」
リリィが先導して、町の中を進んでいく。
リリィの言った通り、十分ほど町の中心部に向かって歩いていくと、一際大きな建物が見えてくる。看板には、何かしらの文字が大きく書かれている。
異世界の文字なのだろう。
てかあれ、よくよく考えたら異世界の文字わからないとかって結構致命的なんじゃないのか。文字とかもはやギルドに登録するときでも必要になるよな。代筆とかできるんだろうか。あ、でも待てよ。依頼とかは掲示板とかに張り出されてるわけだよな。となるとやっぱり文字読めないとやっぱり辛いな。ハァ。
いつのまにか、文字のことで四苦八苦し始める迅。ちなみに依頼の掲示板云々などは迅が地球にいた時に読んでいたラノベなどからきていたりする。要は、迅は自分自身の想像でここまで苦しんでいるのである。
………………よし、決めた。
迅はそう決意すると、3人に気づかれない様に、景色とかを見る振りをしながら徐々にスピードを落としていき、3人の後ろに一取った瞬間、さらっとUターンをする。
否、するはずだった。迅の軸足は完璧に回転するために力強く踏ん張る準備も完璧にしていた。あとはもう一方の足を回転してきた道を引き返すだけであった。
あの方の声が迅にかからなければ。
「御主人?何をなさっているのですか?」
にこりと微笑みかけてくるリリィ。
しかも今回は念話ではないため、当然その声にアリアスとレイナも反応して後ろにいる迅へと注意を向ける。
そう、今まさに回転しようと腰を捻っている迅へと。
「な、何をしているの?」
「どうしたの〜?ダーリン。」
「そ、その、これはだな。そ、そうだ!宿に忘れ物したからさ。取ってこようと思ったんだよ。」
はははといかにも嘘ですと言いたげな迅の様子に訝しむ2人。
迅自体、そうだ!と今思いつきました。というのを全身で表現していることにも気づいていない。
「実はですね...........。」
そういうと、リリィはさっき迅が考えたことを包み隠さずアリアス達へと話していく。それを聞いたアリアスたちの様子はというと、
「......................プッ。」
「......................ふふっ。」
無表情............を装っていたが、笑いが漏れてしまう。そこからは取り繕うことを諦めたのか2人して笑い始める。どうやら相当面白かったらしい。見れば暴露したリリィもクスクスと笑っている。
「ハァ。帰って寝よう。」
迅はその様子を観るとそのまま今度はきちんとUターンしてトボトボと宿への道を引き返していく。
「ちょっと待ちなさいよ。」
アリアスは一通り笑って満足したのか、引き返していく迅を引き止める。
迅はというと、完全にふてくされていた。
「何ですか。」
言葉遣いまで完璧に他人行儀となっている。
そんな迅に対して、呆れた様な笑みを浮かべながらなだめるアリアス。
「ごめんごめん。迅はなんでおそつなくこなしていたから、ついね。面白くって。」
そう言って、思い出したのかまた笑い始める。
「そ、そうだよ〜。そりゃ誰だって最初は文字なんて読めるわけがないよ〜。ふふっ。」
レイナが励ましてくれるが、笑いを堪えながら言っているため、言葉に全く説得力がない。
「もう、いじけてないでいきますよ。」
リリィは何故か満足気な様子をしながら、迅を引き戻しギルドへと向かわせる。いい様に使われて、完璧に秘書といった立場になってしまったことに不満があったのかもしれない。なんかしてあげるだけでは秘書様は満足しなかったらしい。
迅は不本意ながらもギルドののれんを潜って中へと入る。入らされる。
いつまでも現実を見ないような愚かなことは迅はしないのである。……しないはずである。だから、隙あらば宿へと帰ろうとしているのは気のせいの筈だ。絶対に気のせいなのだ!
「はぁーあ。入ちゃった。」
深いため息を吐く迅。それはそれはふか〜いため息である。
迅は文字のことで頭がいっぱいで一つのことを失念していた。
「おーい、そこのガキぃ。ここがどこか分かってんのかぁ?テメェの様な奴が女連れてくることじゃねぇんだよぉ。さっさと、その女達を引き連れて帰りなぁ。」
酷く下品な笑みを浮かべながら迅たちへと近づいてくるモヒカンの男。
迅が忘れていたこと。それは、迅の周りにいるのは超がつくほどの美人たちであったことだ。
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次回は木曜日を予定してます。