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49話 日本

いつもより長いです。

気づけば50話目...。(実質49話なんだけど...笑)



「......」

「......」

「えーっと?あの〜身分証を見せていただけませんか?っていったんですけども...」


ジュリアが聞こえてなかったのかと訝しみながら再度質問する。もちろんそんなことはない。しかし、迅たちはおいそれとジュリアの質問に頷くことはできない。

だが、ジュリアも王女をやっているだけあって迅たちの中に漂った微妙な空気を鋭敏に感じ取れる。


「何か問題でも??」


そこまで難しいことを聞いたつもりはないというのだろう。というか、ほかの人に聞けば答えられるだろう。異世界とかからやって来ていなければではあるが。迅が生まれた日本でだって身分など証明するのは一部の者を除き容易な事であった。しかし迅は、持っておらずなんだかんだここまで来れてしまった。


ここはいつも通りにするしかないか。王女だから余計なことはしたくないんだけどな、そう思いながら迅はレイナに目配せをする。

それだけで迅の考えていることは伝わったのか、レイナが幻視の瞳を発動する。

これだけで記憶操作しちゃおうとか考えるのだからかなり物騒な一行である。


「ねえ、王女さーん?」

「はい?」


ジュリアが呼びかけてきたレイナの方を向く。その時点で、レイナの幻術がジュリアへと発動される。否、されたはずだった。


「私に何か御用ですか?」


キョトンとした様子でレイナを見るジュリア。逆に幻視の瞳が効かなかったレイナもキョトンとしている。

それは傍から見たらシュールな光景ではあるが、当事者たちはそうもいかない。


マジかこの反応。...。レイナの幻視の瞳が効いてないってことだよな?効いてたらそんなこと聞くはずもないし。


「そ、そ、その......料理がろ、ローブにつきそうよー?大丈夫ー?」


嘘、下手か!!!!


以下にも棒読みなセリフを読み上げるレイナ。

思わず迅が何もかを忘れて突っ込む。


確かに、レイナの幻視の瞳が、完璧に発動したはずなのに幻術にかからないというのは驚くべき事柄だろう。しかし、もう少しなにか上手い言い訳をして欲しかったとも思うわけで...。


もちろんジュリアもその言葉を信じておらず、というか引っかかるはずもない。


「あら、お気遣いありがとうございます。それでで?」


さすが王女。さっさと切り上げて再度迅へと問いかけてくる。その目には先ほどよりも強い意志が秘められている。もうおちょくられたりしません!みたいな感じの意志が。

それを見た迅はというと、


ま、諦めもたまには必要だよな。

どうせ異世界から来ましたとかいっても、信じられないし最悪、頭のおかしな連中で終わるだろう。


「悪いな、正直言うと俺とアリアスは身分を証明できるような類のものはあいにく持ってないんだよ。」

「ちょ、え、ダーリン!?」


まさか迅がそんなふうに考えて素直に事実を言うとは思わなかったのだろう。レイナからは驚きの声が漏れる。


「理由を聞いてもいいかしら?大体の人は持ってるはずなんだけど。」

「ああ。まああんまり信じてもらえないから話さないんだけど、俺はこの世界の者じゃない。この世界とは別の世界にいた。それで、まあ色々とあってこっちの世界に飛ばされたんだけどここまで来るのに身分証とかは案外なくてもなんとかなってな。だから持ってないんだよ。ま、信じられないとは思うけど。」


言ってみてからそっと気づかれないように流し目でジュリアをみる。その表情は驚きに満ちていあ。しかし、それは迅が予想していた表情とは違う。迅はてっきり、嘲るようなそれか同情するような表情を向けられると思っていたからだ。

ジュリアが驚きから復帰するまで少しの間、迅は待っていた。

思考のループから帰ってくると、ジュリアは、


「あなたはなんていう世界から来ましたか?」

「地球だな。日本ていう国。」

「日本...。」


日本と聞き、また考え込むジュリア。

その間に、事情を知っていそうなアリアスへと迅は小声で尋ねる。


「なぁ。」

「なに??」

「このジュリアって娘の性格は実際上から見た感じはどうだったんだ?」

「んー、基本的には素直でいい子だったわね。王女として、ちゃんと考えられるようにはなってるけど、狡猾さとかは1枚も2枚もほかの面々の方が上手ね。ちなみに......」


言葉の途中でアリアスがしゃべらなくなる。


「どうした?」

「これ以上は喋れないみたいね。めんどくさいものを付けてくれるじゃない。我々のことについては話せなくなってるわ。それに関わることもね。」


アリアスが、小さくだが舌打ちする。それは心底むかつくとでも言いたげで。


「落ち着け。」


普段は見せないようなアリアスの様子を肩をポンとたたき諌める。隣を見ればレイナもどうした?という視線を送ってきていふ。あいにく、ジュリアは思考に没頭していて気が付かなかったようだ。

自分が考えながらもこっちの様子もさりげなく気にしていたのか、


「お話は大丈夫ですか?」


どうやら律儀にも待っていてくれたらしい。


「悪いな。それで?」

「あなたの話は信じさせていただきます。」


迅は驚きで目をパチパチとしてしまう。


「自分で言っておいてなんだが、なぜこんな荒唐無稽の話を?普通なら戯言と切り捨てるところじゃないか。」

「いえ。それはあり得ません。」

「なぜ?」

「あなたが日本と仰られたからです。」

「......」


ジュリアのその簡潔すぎる答えに、唖然としてしまう。そしていつの間にかジュリアの口調が先程よりも少し、畏まったものとなっている。

そして、説明が足りていなかったと迅たちの表情をみて悟ったのか、頬を少し赤らめながら説明を重ねていく。


「私たちが日本という国を知っているのには訳があります。ですがその前に、迅殿たちは勇者という言葉を聞いたことはございませんか?この世界で。」


勇者?うん、この世界では聞いたことないな。日本では創作のもの、特にラノベなんかではよく出てきていたが。

こういう時はあいつに聞こう。


『リリィはどうだ?』


『もちろんありますよ。』


ですよね。信頼してたよ。さすが俺の頼れる秘書!


『説明求む。』

『やです。』


おおっと。まさかの反応だ。


『なんで?』


『めんどくさいからですね。てかそこの王女様が説明してくれるはずですし。補足があれば付け加えます。それに何も知らないと言っといた方が誠実に話してくれているか分かるでしょう?』


絶対めんどくさいのが一番だろう。


『その程度で騙そうとするならたかが知れるがな。勇者の事なんて案外有名なはずだからわかるだろうし。』


とりあえずは...


「知らないな。」

「他の方はどうですか?」


ジュリアはアリアスたちに視線を向ける。


「さすがに知ってる〜。勇者は有名だからね〜。」

「私もね。」


レイナ、アリアスと順に答える。

そして、再び迅の元へと目線が戻ってきて、


「との事ですが?」


言外になぜ知らないの?といいたいのだろう。


「はぁ。俺は常識に疎いところがあるからな。しかもかなり。それにこんなことで嘘をついてもしょうがないし。」


ふむと顎に手を当てて考えるジュリア。しかし、すぐに顔を上げて、


「確かに。こんなことで嘘をついても意味は無いですね。余計に怪しまれるだけですし。

それじゃ、軽く説明しますね。」


ジュリアが勇者についての説明をしてくれた。簡潔に言うと、


ヒューマンたちは勇者召喚というものをすることが出来、それにより異世界から勇者を召喚することが出来る。それを行うためには莫大な魔力が必要で、100年ほど魔力を貯めてから再度使うこととなる。そして20年前に1度それを使っている。この勇者召喚のは転生召喚のことであるらしい。転移召喚もすることが出来るが、それは人道的な意味で無理やり連れてくるのはどうなのかという問題と、別の問題として転移召喚だとこの異世界に執着がないため、魔人を倒してもらえるか分からないということがあるらしい。それならば生まれた時からこの異世界に住まわせてしまえば愛着を持たせられ救ってくれる確率も上がるという実利的な意味も含まれているらしい。しかし、どこに勇者が産まれるかは分からず大体数人いるためそのメンバーでパーティーを組むようになっていたらしい。

どこで産まれるかは分からなくても、王国では産まれた報告する義務があるらしく、報告すれば報奨金なども貰えるため大体がすぐ見つかるらしい。しかも逆に報告しなかった事が分かると、罰として村や街が潰される可能性さえあり、このことからもどれだけ王国が重要視しているかが分かるだろう。

勇者には皆、産まれた時からある種の紋章入っているらしい。これにより勇者であると村の者達が分かるらしい。それだけでなく、強力な無属性魔法を持っており、一騎当千の力を素の状態で発揮するらしい。それを更に鍛えれば軽い軍隊なんて目じゃないという事になるのである。


「ふーん。なるほどな。勇者召喚については大体わかった。それで、それがなんで日本と関係あるんだ?」

「案外、冷静なんですね。大体の者は驚くのですが......。」

「まあ、気にするな。内心では驚いているから。表情に出ないだけで。」


腑に落ちないという表情のジュリアだが、さして重要でもないと考えたらしい。


「それで、昔の勇者が日本という国に、元々はいたと語ったんですよ。それも何人も。」


その言葉に迅は、一つの疑問が浮かぶ。


「てことは転生者たちは記憶を持ったまま産まれたってことか?」

「いえ、それがそうとも限らないんです。覚えている人もいれば覚えていない人もいるんです。ですが転移召喚の場合ですと確実に覚えてたらしいです。」


ジュリアもそれを体感した訳では無いのだろう。だからかどこか他人から聞いた話のように聞こえる。だが迅はそれを聞いていてそりゃそうだと思う。


もし、転移してきて記憶すっからかんの人間がきたらそれこそ、大変だろうと。


そんな風に考えながら料理へと手を伸ばすが。


カキン。


フォークが皿の底に当たった音がした。

ん?と思ってみてみると、皿は既に空となっている。テーブルにはモグモグと口を動かす2人。アリアスとレイナである。

どうやら話を聞きながらもしっかりと食べていたらしい。


やられた。ここは戦場であったのだ。



それを理解してからの迅の行動は速かった。


「この料理追加で!」


シュバっと手を上げて料理を頼む。

料理が届いてからはジュリアとの会話も後回しにし、料理に集中する。一瞬でもスキを見せれば取られるらしい。そんなバトルがいきなり卓上で繰り広げられ始める。


その様子にジュリアはポカンとするしかない。

それもそうだろう。さっきまでは勇者だなんだとこの国の存亡にかかわる話をしていたのに、今では卓上で料理を取り合っているのだから。


しかも、話を聞いてる時よりも真剣にだ。

これでため息をつくなという方が無理であろう。

そんな様子をみて、リリィは内心でジュリアに同情するのだった。


ブクマ、評価など、ありがとうございます。

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