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48話 身分

なかなか進まない...

「鬼畜」

「非道」

「トラブルメーカー」


その後にも次々と出てくるあられ容赦ない言葉の数々。


「お前らなぁ。」


こめかみに青筋を浮かべながらプルプルとし出す迅。しかしその顔は何故か行動とは裏腹に笑顔を浮かべている。目は全く笑ってはいないが。


「あ、ちょ、ちょっと?」


アリアスが、言いすぎたと気づいたのか、落ち着くような声をかけるが迅の耳には全く入っていない。アリアスも当事者なのではあるが。

迅の中では自分が人格者だと考えており、その衝撃はかなりのものだったのである。

自分ではこう考えていたのではあるが、アリアスたちから見れば異世界に来てすぐに全くためらわずにヒューマンや魔物を殺し、尋問までしているのを知っているし、あわよくば殺さなくとも腕を斬り落としたりまでしている。それをみてどう人格者といえるのだろうか。2人ともその分、迅が身内に対しては優しいことも知っているのではあるが。



しかしそんなことが裏にあるとはわかる訳が無い。


「ちょっとお話をしようか?お・はなしを!」

「だ、ダーリン。言葉が変に丁寧になってるよ〜??」


レイナはいつもの間延びした口調ではあるが、その声には若干の緊張がこもっている。


「そうかそうか。そりゃ鬼畜だの何だの言われればそれを治そうと言葉が丁寧になるのは当然だろ?」


食べていた手は既に止まり、迅はゆらりと立ち上がる。


「ひっ。」


笑顔を浮かべながら、にじり寄ってくる。

しかし元々、食事用に作られており、個室の中はそこまで広いという訳では無い。それこそ手を伸ばせば届いてしまうようなそんな距離。


いざ、制裁を下そうとしたその時。


「御主人?」


リリィから思わぬ横槍がはいる。


「ん?なんだ?リリィ。」


若干不機嫌そうにしながらも反応する迅。このあたり、迅がリリィに基本的に逆らえないことを表しているだろう。


「誰かさんをお忘れではないですか?」

「ああ。そう言えば...。」


その言葉で迅も思い出したのか、


「悪いな。リリィ。

それでお前は俺をどんな風に思ってる?」


リリィへと向き直りながら聞く。

自分もこれに一瞬のってもいいのではと考えなかった訳では無いが、それだと誰も止める者がいないことに気が付く。その結果は、


「はぁ。御主人。いい加減にふざけるのは辞めてください。違いますよ。こちらの方です。」



「はぁ。分かってるよ。」


今度は迅がため息をはく。迅は視線を外し、別の方向へと目を向ける。その視線の先には、黒ローブの女が一人座っている。こちらは迅とは違い、食事も取らずにちょこんと座っている。さっき声を掛けてから迅たちがまた言い争い始めたのでタイミングを窺っていたらしい。

迅もまたその事にはきづいてはいたのだが、その話を聞くと、今でさえも面倒なことに巻き込まれそうなのに、それが確定的になりそうで、気が進まなかったのである。


「んで、えーとまずはお前誰だ?」


ここに来て、名前を聞いていなかったことを思い出し、会話の始めは挨拶からだろうと聞いてみる。


「......ジュリーです。」


一瞬の間があった。それをまず見逃す迅ではない。そして、それが本当の名前ではないことも。それもそのはずである。元々、迅とリリィはこの黒ローブの人物がどのような者なのか最初にぶつかった時に半ば当たりをつけている。


「ただのジュリーか?」


だからこれは確認の意味での質問。

今度は間髪入れずに、ジュリーは答える。


「ええ。ただのジュリーです。」

「ふーん。そうか。」


この答えで迅は逆に一つの疑問が確信を持つ。だが、まだ確かめなければならないこともまだある。


「今の答えで分かったよ。

なぁ、下手な嘘は止めなよ。第一皇女のジュリアさん?」


そう言いながら、迅はジュリー、もといジュリアが未だに被っている黒ローブのフードへと手をかける。迅のその行動があまりに自然だったために、ろくに抵抗もできずにフードを下ろされてしまう。


「え?」


そこから現れたのは、ストレートな茶色の髪にそれと合わせたような茶色の目。顔立ちは整っており、それこそアリアスやレイナ、リリィにも引けを取らないだろう。

その顔を見たアリアスが声を上げる。もちろん、美人だからとかそんな理由ではない。

慌てて、フードを被りなおそうとするが、もう今更意味が無いと悟ったのかフードを直そうとしていた手を止める。


「はぁ。もうバレているようですし、意味無いですよね。」


そう言って、またフードを下ろす。


「でも、なんで私が第一王女のジュリアだと分かったんですか?」


それはジュリアにとっては聞いておかなければならない事である。迅と同様の方方法で、自分の身分がバレる、それはつまり自分自身の危険に直結するからである。


「うーん、なんていうか、感?前見た王女の姿と雰囲気に似てた気がしたからだな。」


もちろん、真っ赤な嘘である。

ジュリアもそんなことは百の承知で、


「大事なことなんです!本当のことを教えてください。」


そんなジュリアの真剣な瞳に、迅は引く気が無いことを悟る。面倒くさそうに本当にめんどくさそうにため息を吐いて、


「はぁ。分かったよ。説明するよ。」

「ありがとうございます!」


迅のその言葉に、あからさまにではないが、だがたしかにほっとした様子になるジュリア。

しかし、迅の言葉はそこで終わらない。


「リリィがな。」

「「やっぱりか。」」


迅が言った瞬間、アリアスとレイナの声がはもる。


「はぁ。分かっていましたよ。御主人がそんなことするとは思えませんよね。」


若干貶されていて迅も分かってはいるが、丸投げしているので、何も言えない。

リリィもそんな風に言いながらも、なんだかんだ自分たちが何故ジュリアを王女かもしれないと考えたのかを説明していく。その間に、迅は、止まっていた手を動かしまた食べ始める。また、遅れてきたアリアスとレイナも良いタイミングと考えたのか、それとも余程の空腹のためか食べ始める。



「ていうことは、一瞬ちらっと見えた短剣と、これまでの様々なことから導き出されたという訳ですね?なるほど、それなら他の人に同様の手段でバレることは無いでしょうね。」

「なるほどね〜。あの一瞬でそこまでとかみてたのね〜。」


アリアスやレイナにはその事を言ってなかったため、というか言い忘れていたため初耳の彼女達は感心しながら食べている。


「それであなた方のお名前を教えていただけませんか?」


あ、そう言えば人に聞いておいて自分は名乗ってなかったな。忘れてた。


「俺は、迅だ。で、こっちのがアリアス、レイナ、リリィだ。」


そう言って、迅は軽く説明していく。


「何か、身分を証明出来るものはありますか?一応、私もただ言葉を信じる訳には行かないので。実は犯罪者でした。とかなったら笑えないですしね。」

「それもそうか。じゃあ、身分証はっと......。ん?ちょっと待っててくれ。」


そう言って迅は急いでアリアスたちを近くに呼んで、ジュリアに聞こえないような声で話し始める。


「な、なあ。俺たちってさ、身分証といえるもの持ってたっけ?」

「......私は持ってないわね。」

「え、私は、一応ギルドから発行されてる冒険者カードは持ってるけど〜。ほら。」


そう言ってレイナは自分の冒険者カードを見せてくる。

そこにはレイナの名前とCという大文字が書かれている。


これは多分Cランクとかの意味なのか?まあ、今はそんなことを考えている場合ではない。今は目の前に大きな問題があるのである。


「つまり、俺とアリアス身分証明できなくない?ははは。」


乾いた笑いまで出てくる始末。


何故こんなことに気づかなかったんだぁぁぁぁ。街入る時とかに気づけたはずだろう、おれ!!

いや、これも今は後だ。

今はジュリアだ。


「どうするの?」


アリアスが小声で聞いてくる。特に名案は無いらしい。ほかの面々も同様の様子である。


「オーケー、任せろ。」


ジュリアに向き直る迅。迅が向き直ったことによりほかの面々もジュリアの方を向く。


「悪かったな。緊急ではなしたいことがあってさ。で、身分証だっけ?分かったよ。ほら、レイナ、それ見せてやれ。」


その言葉に従い、レイナが冒険者カードをジュリアへと渡す。

それを見て、ジュリアが軽い驚きの声を上げる。


「れ、レイナさん。凄いですね。その若さでもうCランクなんて。Cランクって言ったら世間でいう熟練者と呼ばれる人たちがなれるランクですよ!?驚きです。」


ジュリアの部下にももちろん、Cランク相当の部下はいる。だが、その若さでそこまで行ってる人は知らなかったのである。早くても20代後半、30,40が、普通であった。


「まあ、昔のことだけどね〜。」


ジュリアの冒険者カードに、興味を示したことで迅は内心安堵をつく。


ジュリアはレイナのランクに驚いていたし、話を聞く限りなかなか高いっぽいなわ、ならそのレイナと一緒にいるから最悪身分証を見せなくても...。

そんな風に考えていた時期が俺にもありました。


レイナギルドカードを返すと、俺達の方を向く。


「一応あなた方のも見せていただけますか?」


ですよねぇ。やっぱそうなりますよね〜。

ちゃんと他の人のも確認する。腐っても王女であった。


どうしよう...


お読みいただきありがとうございます。

感想など頂けたら幸いです。

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