4.5話 マキロイ討伐!後編
最初の4話を二つに分けました
村人達が各々の声を上げながら雑兵共に襲い掛かっていく。
そこらかしこで戦いあう音が聞こえ始める。
雑兵1人に対して2〜3人でか。案外冷静だな。いやこれはギルバートの指示か。
さて、雑兵は何とかなるだろ。後はマキロイだけか。
「さーて、あっちはあっちでやり始めたしこっちはこっちで始めるか。マキロイ」
マキロイは何も答えず,魔法を使うための呪文を詠唱し始める。
「アリアス、あれはなんだ?」
「あれは水魔法ね。種類までは分からないわ。」
しゃべっている間に魔法は完成したらしい。
マキロイの周りに水の手裏剣をしたようなものが空中にうかんでいる。
「クチャクチャ喋ってる暇はあるのか?ウォーターカッター」
五つのウォーターカッターが迅に向かって放たれる。
それを身体を最小限動かすだけでウォーターカッターを避ける。
迅が避けたウォーターカッターはそのまま進んで行き、洞窟の壁を手裏剣の形に削る。
なるほど。高速回転していて切れ味が鋭いのか。しかし1本だけならさほど脅威ではないな。
しかも魔法を放つには呪文みたいなのも唱えないといけないらしい。
「これだけか??」
迅が余裕の表情でマキロイへと問いかける。
「そんな訳ないだろう!まだまだ行くぞ!!」
マキロイはまた呪文を詠唱していく。
「今度は連続でだ!!!」
マキロイは三つほどのウォーターカッターを発動し今度はそれが様々な軌道を描かせながら迅を襲う。
同じ轍は踏まないってことらしい。
だからなんだという話なわけだが・・・。
それを迅はまたもや僅かな体捌きだけでかわす。
「バカの一つ覚えなのかお前は。この魔法しか使えないのか?」
「ほざけ!」
マキロイがまたもや詠唱を始める。
これで確定だな。こいつ詠唱しないと魔法を使えないのか、隙だらけなんだが。うーむ。しかし奪えるものは奪っておきたい。もう少し泳がせるか。
迅が考えているうちにマキロイの詠唱が終わる。
「行くぞ!フレイムアロー!」
今度は炎の矢のようなものが続けて五つほどマキロイの空中に浮かぶ。
迅がそれを避けていく。フレイムアローの1つが逆に味方のはずのヘイカーズの雑兵の1人にあたってしまう。
フレイムアローが当たった場所から熱が体内に入り込み雑兵の体内を徐々に焦がしていく。
「ぐぁぁぁぁぁぁ、団長ォォォォォォォ」
マキロイは、戦闘に集中していてるのか周りの声が入っていない。
このままいくとまずいな。使えるものが燃やされるのはあまり嬉しくない。しかもこんな狭い所で酸素を消費されたくもない。魔法の火だから酸素とか関係ないかもだが、念のためにだ。
マキロイ自身が今度は突っ込んでくる。
それから逃げるように迅はバックステップで後ろへと飛んで逃げるようにみせかけマキロイを洞窟の外へと誘導する。
「どうした、どうした逃げたいのか。若造が!そうはいかんぞ。お主に殺された部下の仇、取らせてもらう。」
単純なやつは扱いやすいな。
その間にもマキロイはフレイムアローを迅向けて撃ってくる。
その内の1本が迅の腕をかする。
「くっ。」
痛みで迅の顔が歪む。ようにマキロイには見えただろう。
マキロイは気を良くしたのか一層スピードをあげて迅に向かってくる。
「どうだどうだ。わしのフレイムアローは!!」
「全く痛くねーよ!!」
肉が焼かれてるな。しかし直撃しなければそこまで脅威ではないな。
迅はマキロイの魔法を避けながら洞窟の外に出ることに成功する。
「よし、第2ラウンドといこうか。今度はこっちから行くかせてもらおうか。」
迅がマキロイに向かって突っ込んでいく。そのスピードはマキロイよりも明らかに速い。
「はっ、しくったな。魔法だけで俺が接近戦が出来ないとでも思ってるのか!!」
マキロイもまた迅に向かっていく。
先にマキロイが迅に向けて右のパンチを打ちこむ。
「はあっ!!」
「おらぁぁ!!」
マキロイが放ってきたパンチに合わせて迅がカウンターを放つ。
それをマキロイが顔を動かしパンチを避けるが僅かにかする。
そのまま乱打戦をしていく2人。迅の攻撃が徐々に当たり始め、逆にマキロイはずっとかわし続けられている。
このままいけば迅がどんどん優勢になっていく。
「このままじゃ決まらんな。奥の手を使うか。」
まずいと思ったのだろう。一度距離をとるマキロイ。
マキロイがまた魔法の詠唱に入る。
「お前の詠唱はもう待ってやらねーよ?!!」
「そんなことは分かっとるわ!!保持者」
迅の拳がウォーターカーテンによって受け流される。
「へぇ。さっきの洞窟で攻撃している時にストックしていたのか。」
「よくわかったな。ははは。そして詠唱は終わった!!お前の負けだ!フレイムエンチャント」
ボォォォォォォォ
マキロイの両腕が燃え上がっていく。が不思議とマキロイに痛がる様子はない。
「あまり長くはこの技は使えんのだがな。お前を倒すには十分だ。おらぁぁぁぁ!!!」
マキロイが迅に向かって攻撃を仕掛けていく。
「おっ。」
なんだこいつ。パワーもスピードも上がっている。
今度はマキロイの攻撃が迅にかすり始める。
「ハッハッハ、どうしたどうしたさっきとは別人のようだぞ!」
迅は何も答えない。それをマキロイは余裕のなさと感じたのか一層マキロイの攻撃は苛烈さを増していく。
そしてとうとう・・・・・・迅の体勢が軽く崩れる。さらに石につまづいて体制を完全に崩す。そこにマキロイが渾身の一発を打ち込む。
「これで終わりだァァァァァァァ!!!」
マキロイは自身の渾身の右ストレートが迅に当たると確信する。
迅も体勢が崩されていて避けることも受け流すこともできない。
やべ。
そこに突如後方から聞こえるアリアス声。
「絶対障壁!!!!!」
ガキイイイイイイイイン
拳と障壁が当たると辺りに甲高い音が響き渡る。
「なっ誰が!?お前はアリアス!?」
「おい、よそ見なんてしてていいのか?」
マキロイが驚いた一瞬で迅はマキロイの後方へと回り込む。
「これで終わりだ。エアーファング」
「待て待て待て。話し合おう。」
マキロイの言葉を迅は無視してそのままさっき奪ったエアーファングを放つ。
「や、やめろおおおおお」
迅の右ストレートとベアーから奪ったエアーファングが合わさりマキロイの体へと打ち付けられる。
ドゴオオオオオオオオン
凄まじい轟音があたり一面に響き渡り、土煙が舞う。
土煙が晴れると20メートル以上吹っ飛ばされたマキロイの変わり果てた姿が。
「やべ、死んだか??かなり手加減したんだが。ま、まあ死んだとしてもベアーの肉を勝手に食ったんだ。自業自得だな。」
アリアスが慌てて近づいていき、マキロイの生死を確かめる。
アリアスの肩から力が抜ける。
どうやら生きていたらしい。
そしてこちらに向けて非難の目線が飛んでくる。
「生きてはいます。生きては!!!!文字通り半殺し状態です全身骨折ですが!」
「生きているのか。悪運の強い奴め。」
轟音を聞きつけたのか村人達とギルバートがヘイカーズのアジトからでてくる。
「こちらも大体は捕縛しました!!そちらもお倒しになられたようですな。」
ギルバートの声を聞いてると横から叫び声が。
それは迅に向かって刀をもちながら走り込んでくるマーサだった。
「よくも団長をォォォォォォ。」
女が刀を振りかぶる。
「さっきあんなにしたのにもう俺に向かってこれるんだな。」
迅は一瞬驚くがそれだけだ。迎撃をしようとすると突如として動きを止めるマーサ。
「ん?」
「や、やめろなんだこれは。そ、そ、そんなぁぁぁぁぁ
ウワァァァァヒギイイイイイイイイイ」
と叫ぶと泡を吹いて倒れてしまう。
「「なっ」」
ヘイカーズのアジトの外にいた一同が皆驚きの顔を浮かべる。
「余計なお世話だった〜??」
声のする方を見ると村人に忌むべきものと呼ばれている者がこちらに近づきていた。 それを見た村人達が明らかに動揺する。
忌むべきものと呼ばれたものはそんなことは全く気にせず迅の前に立つ。それでようやく迅にその顔が見える。
「自分でもなんとかはなったな。ていうかかお前、女だったのか。」
「ええ、まあ。いつもはフード被ってわからなくしてるわね、この眼と一緒に。」
「さっきのはおまえだよな?」
さっきのとはいきなりマーサが発狂して倒れたことに他ならない。
「ええ、まあ。その事は後で話しましょ。」
そいつはあっさりとそのことを肯定する。
「んー、そうだな。今日はさすがにもう疲れたしな。」
辺りは血の匂いが充満し、この戦いに参加したもの全員が血で染められている。
それを上ってきた朝日が照らす。
それはルーン村の戦いが終わった瞬間でもあり、迅の長い異世界初日が終わった瞬間だった。