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47話 食堂

町の中が完全に夜の闇へと沈み、メインストリートを歩くヒューマンの数も減ってきた頃。アリアスたちが宿へと戻ってきた。正確に言うなれば、宿の前まで、戻って来ていた。何故彼女らが中へと入らないのか。それには理由がある。


「遅くなっちゃったわね。」

「うん、そうだね〜。」

「迅、怒ってるかしら。」

「......」


そう、迅の様子が分からず、どうすべきか決めかねているからである。


「んー、どうだろー。たぶん大丈夫だとは思うけどね〜。でもそれはそれで〜。怒ってたらそれは心配してたってことが暗に分かるわけだしな〜。でも怒られたくもないしな〜。」


複雑な乙女心である。心配はされたいけれども怒られたくはない。

そんな会話をする2人の様子は門限を初めて破ってしまった時の娘の様でもある。 今回は親父役が迅という訳である。


「でも行くしかないわよね。いつまでもこんな所にいる訳にもいかない訳だし。」


アリアスもその事を感じてはいたが、いつまでもここでいてもどうしようもないと思ったのか、意を決したかのようにが言い、それにレイナも心を押される。


「そうだね〜。もし怒られるんだとしても、2人なら怖くないよね〜。心配してくれたってことの裏返しだし。それにお土産も色々あるしね」

「そうよね、じゃあ行くわよ。」



そう言ってアリアスが青空亭の入口のドアへと手をかける。


「フゥ。」


一度深呼吸してから心の不安を吹き払うかのようにドアを思い切り開ける。


ガララ。


「ってあれ?」


意を決して開けては見たのだが、そこにあるのはロビーとこの宿の女将であるサラの姿だけである。そのサラにしてもちょうど通りがかっていただけでそこで待っていた訳ではない。ドアが開く音に気づいき出迎えただけである。実を言うと当のサラは内心では若干緊張していた。それはアリアスが意を決してドアを開いた結果、必要以上の音が出ていたため何者かの襲撃か、貴族の方の急な訪問ではないかと考えたためである。それは結局どちらにしてもこの宿にとってはいいことではないため警戒して当然だろう。前者であれば余計なものが壊れ、後者であればより良い待遇をしなければ、不敬罪など持ち出されかねないからである。


「お帰りなさいませ。」


そんな内心のサラではあったが長年、女将をやってきたからか表情には全く出さずに、アリアスたちを出迎える。


「迅たちはもう帰ってるかしら。」


これは半ば独り言に近いものではあったのだが。


「ああ。お連れのお客様をお探しでしたか。お連れのお客様でしたらお食事を今されていらっしゃいますよ?ご案内致しますか?」

「お願いするわ。」


若干苦笑しながら言うサラを少し疑問に思うアリアスたちだったがその理由をすぐに思い知る。




アリアスたちが食堂へと入ると、そこは他の宿の食堂とはかけ離れていた。そこは、食堂ではあるのだが、他の宿のように長机に椅子がざっくばらんに置かれているこのポラリスではありふれていると言ってもいいものとは違く、一つ一つの机が区切られており、椅子もただの木を重ね合わせて造られたようなものではなく、素朴ではあるが一つ一つ丁寧に造られたと分かるような代物であり、それこそ見るものが見れば分かるというものである。まあ、仮に分からなかったとしても、普通の食堂や酒場のようなものとは違うということは理解することが出来るだろう。現代で例えるならばちょっと高級なファミレスと言ったところか。そこにさらに一つ一つの個室の入り口となるところにはカーテンが取り付けられており、簡単には顔が見えないようにっている。これも貴族などが泊まるときなどのために配慮して取り付けられている。食堂には白いカーテンがかかっているところとかかっていないところがやはりある。中のものが面倒だと思ったためだろう。


「これはなかなかね...。」


そんな風に、少しの間食堂の前で固まっていたアリアスだったが、そこまで思うこともなかったのかレイナにいつも通りの間延びした口調で急かされる。それもこの宿のことをレイナも知っていたためでもあるだろう。大抵初めての時は驚くものなのだから。


「早く行くわよ〜。」


女将のサラは少し先まで行っており、アリアスの様子に気がついて止まっていた。そのことに気がついたアリアスは、軽く謝るとサラへと追いつく。

サラの後を追って歩くが、食堂がそこまで広いというわけでもない。一番角の席まで行くとそこで止まる。そこにはきちんと入り口に白いカーテンがかけられている。


(ん?ダーリンならこんなカーテン邪魔だから使わなそうなものだけどな〜。)


隣を見て見てもアリアスが少し疑問がありそうな表情をしている。

黒いローブの女が誰なのかを知らない2人としては当然だろう。迅の性格はお世辞にもそういう貴族が使う形式的なものを気にする几帳面さというのは感じられないからである。


「こちらにおられますよ。」


そう言って、アリアス達の心構えなど気にせずサラはカーテンを開ける。


「失礼いたします。お連れのかたがいらっしゃいました。」


「ん?連れ?ああ。アリアスとレイナか。早く入って飯食えよ。」


中から聞こえてくるのは何かを食べるような音とぶっきらぼうに言い放たれた男の声。否、迅の声である。

迅の声に誘われて中へと入ると、まず迅が大量の空の皿に囲まれながらアリアスたちの方を向いている。リリィも今回は擬人化しており、一緒の食卓にいてご飯を、迅とは違い慎ましく食べている。そこには、不思議と気品が備わっている。


「ね〜、アリアス?なんかいま、若干、若干だねも私たちの存在が忘れられてた気がしたんだけど、気のせいかしら〜?」


レイナがアリアスに、しかし迅たちにも確かに聞こえるような声で文句を言う。それはアリアスも同様だったようで、


「確かに私もそんな感じがしたわね。でも、まさかそんな訳ないわよね?迅?」


ニコリと微笑みながら迅へと問いかける。その顔は笑ってはいるのだが、眼は笑っていない。隣にいるレイナもアリアスと同様の様子である。そこには先程まで迅の事を恐れていたとは思えない様子となっている。


「い、いや、そんなことは無いぞ?」


さっきとは違い今度は食べる手を止めて伝える。リリィへと救いの目を求めるがリリィはいつものことと特に相手にしない。その眼は、自分で解決しろと言ってるように見える。


『だからさっきもそういうような事は言わない方がいいですよっって忠告したんですよ。』


あ、今度は念話が飛んできた。


しかし今更後悔しても遅い。この状況をどうしようかと迅は考えるがろくな案は出てこない。

もうどうしようもないのか。


迅が諦めかけたその時一つの案が思いつく。


(そうか!ここまでアリアスたちを連れてきたサラに料理の注文でもして、話題を無理やり変えてその後は知らぬ存ぜぬを通そう。それなら何とかなるはずだ!)


これは名案を思いついたとばかりに早速行動に移そうと目線をアリアスたちから外して入口を見るともう既にカーテンは閉まっていた。


なに!?サラがいない!?


一度は見間違いかと思って再度見るが、やはりカーテンは閉じられている。


迅は知らないが、アリアスたちが冷たい炎を瞳に宿した時、女将のサラはこの場にいてはまずいと考えた。なぜそれがわかったかと言えばそれはもう感としか言えないだろう。長年宿をやっていて少なくない数、様々な現場に居合わせてきた。もちろん、これが本当の喧嘩つまり、暴れ始めるようならば止めたであろうが今回はそんなことは無いだろうと考えたのである。


(どちらかと言うと拗ねているというところでしょうね。なら迅殿が慰めてあげればいいでしょうし。)


そんな判断であった。

しかし迅にとってはできたと思った光明が即座に消えてしまった訳である。迅は再び絶望へとたたき落とされる。


今度こそどうしようもないのか。



そんな二人の様子に答えに窮する迅だったが、ここで思わぬ横槍が入る。


「あのー。もうそろそろ宜しいでしょうか?」

「え?」


聞いたことのあるような声に、アリアスたちは声のした方向を振り返る。だからといって聞き慣れていう訳では無い声。それもここ最近始めた聴いた声のである。そこには、自分が助けるといって、その代わりに迅がチンピラから救いにいった黒ローブを着た女の姿があった。


「何故あなたがここに?たしか迅に助けてもらった子よね?」

「流石にあのまま放って置くわけには流石にいかないだろ?」

「「え?」」


アリアスとレイナの声が同時にはもる。


「は?お前ら...俺をなんだと思ってるんだ。」


抗議の声を上げるのはもちろん迅。自分としてはそこまで酷い人だとは思っていなかったのである。

そんな迅に対する返答はというと


「鬼。」

「悪魔。」


身も蓋もない答えであった。



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