46話 追跡
タイトル変えました!!
旧題「俺には異世界は向いてない」
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新題「簒奪無双の利己主義者」
太陽はもう落ちかけ、辺りには暗闇が蔓延り始めている。
そんな薄暗い中走る二つの影。
メインストリートには未だに多くのヒューマンが通りを行き交い、走る2人の姿を物珍しそうにみる。そんな視線も気にすることはなく2人は追跡を続ける。
時刻は少し前へと遡る。
アリアスとレイナは迅が裏路地へと入った時にはメインストリートで裏路地で待機していた。
「待てって言われても、私達でもあの程度の男たちなんて余裕なのに〜。」
レイナが若干ふてくされた様につぶやく。しかしそれは返事を求めてのものではなく、ただただ心の声が漏れたといったところであろう。
「そんな風に言わないの〜。別に迅は私達の実力を疑ったわけじゃないわよ。多分もっと別のことでここに待たせたんだ思うわよ。」
アリアスが苦笑気味に迅のフォローをする。
「別のこと?」
「ええ。これは多分だけど、迅はあんなチンピラみたいな連中に私たちが好奇な視線に晒されるのが嫌だったんじゃないのかしら。それ以外にあんまり理由が見つからないのよね、そうじゃないと。まあこれは私の想像でしかないけど。まあ迅に聞いたら絶対違うと言うでしょうしね。路地が狭いからだとかなんだとか言ってね。」
「ふふ。そっかぁ。そう言われてみたら、そうかもぉ。ていうか〜、うん。そう考えた方が嬉しいわね。」
フフフとレイナが嬉しそうにしながら迅の様子を伺う。裏路地の中ではアリアスたちの女子会的な雰囲気とは真逆の様子なのではあるが。レイナが中を除くと、2人の男が迅によって斬り殺されていた。
「ありゃりゃ〜。ダーリン派手にやってるの〜。」
「え?そんなに?」
アリアスもレイナにつられて裏路地をのぞき込む。アリアスは迅なら余裕であろうと全く心配もせずに今まで通りを見ていたりしていた。この辺も以前より変化した所である。だが、レイナの言葉にどこまでやったのか少し不安になったのである。
「うわぁ。ほんとだ。穏便に気絶させたりするだけとか出来ないのかしら。前のオケアスでも衛兵の腕を斬り飛ばしていたし。」
アリアスはぁとため息をはく。
「まああの時は衛兵で、街でもある程度権力あるから殺したら流石にまずいと思ったんじゃないー?
基本的にダーリン、自分の邪魔になるものには容赦ない...ん?」
レイナが言葉を途中で止める。
「どうしたの?」
「ちょっと待って〜。」
いつも通りの間延びした口調だが、その顔は先程までとは違って少し真剣味を帯びている。
アリアスもレイナのその雰囲気を察してか静かにレイナの様子を伺っている。
レイナは迅が戦っている裏路地とは反対の方向を向き、さらに右の方向にも目を向ける。
数秒ほどして、レイナがアリアスへと目を向ける。
「どうしたの?」
「いやー、なんかダーリンたちを見てるおかしな視線が二つほどあったから〜。」
「おかしな視線?そんなのあった?」
アリアスが周囲を見回すがやはりそんな視線は感じられない。
「うん。そりゃ普通は感じられないからね〜。ほら、私はさ、このオッドアイのせいでさ、った今は幻術でオッドアイではないけど〜。まあそのせいで他人の敵意や観察するような目線には人一倍敏感なのよ。んで、今は迅たちの方を注視している視線が二つあったからさ〜。しかも巧妙にそれを隠しながらね。」
「でもさ〜チンピラが人を襲ってるんだからそりゃみんな見るでしょ、違う?」
「うん、まあそうなんだけどね〜。でも、建物の上から見てるってのはちょっとおかしくない?うまく偽装して闇に紛れるようにはしてるみたいだけど。」
「ふーん。それはおかしいわねたしかに。」
「あ。」
そんな風に会話していると突如、レイナが声を上げる。
「今度はどうしたの?」
「なんか逃げ出したみたい〜。」
「え?まだ戦いは終わってないわよ?」
アリアスの視線の先ではまだ半数の敵が迅の前に立ち塞がっている。まあそれも時間の問題ではあることは明白ではあるのだが。
「ってことはそいつらはそこのチンピラと仲間という訳では無いんじゃないー。それに、ちゃんとそこのチンピラとダーリンの実力差がわかるみたいだし。そうじゃなきゃこんな早いタイミングで逃げ出さないよね〜。」
「じゃた今逃げ出した相手を捕まえてみる?なんで監視するように迅たちの戦いを見ていたのかってことをね。もしかしたら私達に、アルベロをけしかけたのが誰か分かるかもよ?」
「なら行こっか〜。」
軽く散歩にでも出かけるかのようなノリである。その会話は少し物騒ではあるが。
「比較的近い偵察者の方行かない?。2人とも捕らえたいところだけどね〜。」
アリアスが若干申し訳なさそうに話す。
実際、アリアスには偵察者の存在を確認出来ないため個別に移動することが出来ない。それを申し訳なく思ったのである。
「しょうがないの〜。気にしないの〜。まあ距離は近いといっても300メートルはあるんだけどね。」
そうレイナが言って2人は走り出す。
そして時は元に戻る。
2人が走り始めて数分が過ぎていた。
そこでレイナが口を開く。
「んー、残りの1人を捕まえられるかも微妙かも〜。というかぶっちゃけるとかなり厳しい〜。」
「え?」
それはさすがにアリアスも予想出来なかった。それも無理はない。アリアスはレイナも自分もかなりの実力があると、自意識過剰とかではなく客観的にみて考えている。元女神だったり幻術操るから当然の事ではあるのだが。そのためその自分たちが追いつけないとは思わなかったのである。
「言葉が少し足りなかったわね〜。」
苦笑しながらのレイナの言葉。
「実力的には私たちの方が強いとは思うわよ。ただ偵察に出てくる人材というのは基本的にはかなり優秀で頭がいいのよ。だから引くべきときには引くことができるし、周囲への警戒も怠らない。それに身体能力も普通に高いわ。それに比べて私たちは表立っては行動しにくい。このウィルシスの街をまだあまり知らないからそれこそ裏道とかに逃げられたらどうしようもないからね、
バレないようにやるしかないしー。それにー、あっちは偵察が専門だろうけどこっちは追跡が得意というわけでもないじゃないー。あまり経験はないからその差よね〜。今はまだ屋根の上を走っているからまだ見えるけど〜。
まあそれでも普通の優秀なら追いつけるんだけどね私たちなら。」
それは暗に自分たちが追っているのは普通ではないという意味であり、アリアスもその意味を悟る。
「今私たちが追っているのは優秀なもの達の中でも優秀なもの達。つまり超優秀ってことね?」
「そうなのー。私たちにとっては嬉しくない事実だけどね〜。その証拠に通りを歩いている人が全く偵察者に気づかないでしょ?普通屋根の上を誰かが走ってたら誰かしらは気づきそうなものなのに。なのに誰も騒いだりしてない。それどころか私たちが走ってるのが何事だって感じを出してるもの〜。」
そのままレイナ達は追跡を続けるが数分して、レイナが止まる。
「どうしたの?」
「今までは屋根の上を伝っていたから追跡出来たけどここの上で下に降りたのよ〜。」
その先には裏路地がまたあり、しかし今度は迅たちがいた中程で行き止まりになっているものとは違い、道が幾多に別れている。その先の道もまた幾つもの分岐の道となっている。下手にその道に入れば、もう追跡どころではないだろう。それどころか迷子になるのが目に見えている。
「どうやらここまでみたいね。」
「そうね〜。」
そんな言葉とは裏腹に2人とも表情は、かたく、悔しげである。明確な証拠はないが、迅たちの様子を監視していた正体ぐらいは掴みたかったのが本音である。
「でも手がかりは得たわ。」
アリアスがそんなマイナスな考えを振り切るように言う。
「レイナの言う通り、偵察者がここで地上に降りたってことはここから偵察者たちの本拠地というか、拠点にかなり近くなってことなんじゃないかしら?優秀なもの達だからこそ一応念には念を入れて、迷路のような道を通ったんじゃない?フリードもそうしてたし。」
そこで思い出されるのはオケアスでのフリードの行動。
あの騎士団長も同じようなことをしているのである。
「そう言えば、そうだったの〜。まあそれも今とは少し状況が違ったけどね〜。」
「たしかにね。まあ、これ以上ここにいてもしょうがないし戻らない?迅たちのところに。あれか結構時間経ってるから、迅も戦いを終えてるでしょうしね。」
「案外ダーリン、助けた女の子の対応に困ってたりしてね〜。」
「ありうるわね。」
さっきまでの話は嘘のように冗談を言いながら、元来た道さっさと戻っていく2人であった 。次は捕まえるとそうここらの片隅に考えながら。
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