44話 裏路地
裏路地へと入った瞬間、男達の1人が迅の姿に気がつく。
「なんだてめぇぇ。」
その声に反応して、黒ローブの女に集まっていたチンピラたちの視線が迅の方に集まる。その目はこれから始まるはずだったお楽しみを邪魔されたためか、殺気立っている。
「何だこの男は、ああん?」
現代日本の昭和の下っ端のヤクザかと言いたくなるような古典的なセリフを言い始める長髪のチンピラ。
さっきからこの男が結構喋ってるし、こいつがこいつらを束ねてるのか?
「あ〜。もういいから。俺が出てきた理由?別にたまたま目に入ったからだな。」
「はあ?カッコつけてんじゃねぇぞボケェェェ。この人数が見えねえかぁぁ。頭いっちゃってんじゃねてのか?」
チンピラ共は人の事を笑いながらこれでもかと言うぐらいに自分たちが持っている剣やハンマー、小刀など多種多様な武器を見せつけてくる。
迅がそれをみてビビったと思ったのか口々に好き勝手なことを言い始める。
最後に長髪のチンピラがまとめるように、
「もうビビったっておせえんだよ。やっちまえぇぇぇお前ら。その後にはお楽しみが待ってるぞぉぉ。アイツをやったやつが一番に遣わしてやるよ。」
互いの顔を見合わせるチンピラ共。どうやらおこぼれを貰おうと思っていたのが、女を真っ先にいただけると知り、信じられないためかお互いに確かめ合っているらしい。
全部で10人か。
チンピラたちがお互いに確かめあっている間に迅も相手の戦力を確認する。後ろで黒ローブの女を拘束している男を除けば9人か。
だが、すぐに確認は終わったらしい。しかもその顔に下品な笑いを顔を貼り付けている。
「ふへへ。」
そんな不気味な笑い声をあげながら我先に女の身体を手に入れんと迅に向かって襲いかかってくる。
だが、すぐにその歩みは止まる。
それもそのはずである。今迅たちがいるのは表にあるメインストリートとは違って裏路地である。横幅はそこまで広く作られてはいない。そのため1度に横になって通れる人数は2人が限界なのである。それを欲に駆られたチンピラ全員で襲いかかろうとしたら通れるわけがないのである。
バカかこいつらは。
すると、少しして二人の男が前に出てくる。どうやらチンピラ達の中で誰が先に行くか決まったらしい。
「良かったなぁ、おまえ。ここが狭いおかげで集団で囲まれなくてすむぞ〜。あ〜はっはっは。」
何がおかしいのか爆笑し始める最前列の丸坊主のちんぴら。隣の奴も何も言わないが同じようにニヤニヤとしている。
はぁ。もう俺に勝った気らしいな。
そんなチンピラの気持ちを代弁するように着ているズボンが少し膨らんでいる。その先のことまで想像しているらしい。
辟易とした気持ちでチンピラを見る迅。
まあ、そんな風に見る目もなく、恥も知らない、実力差も何もわからないからこんな所でチンピラみたいなことをしてるんだろうなぁ。
めちゃくちゃ毒舌である。心が繋がっているリリィですら「うわぁ」とひくほどのいい方である。しかしだからといってリリィがチンピラ共に同情する訳でもないのだが。
迅が何の反応もしなかったことが気に食わないのか、
「なんかいえやこらぁぁぁ。」
と怒鳴りながら、手にした鉄の棒で襲いかかってくる坊主の男。
その隣の男も同様に鉄の棒を手にしている。
はぁ。しかし、これはなんというか...。
武器が鉄の棒って、もうちょい何かあるだろ、一応俺刀持ってるんだけど...。刀を知らないのか?いや、でもまさかそんなことは...。ありうるか?こいつらの頭悪そうだしな。いやでもまさかそこまでアホではないか。なら俺が見せかけだけとタカをくくってると思った方がいいか?まあ、もしそうならそれが命取りだが。
あ、でもここで殺したら結構めんどい事になったりするんじゃね?実は俺ら身分証とかなかったりするしな。
(御主人。しかしあちらの方はたぶん第一王女ですよね?なら何とかなさってくれるんじゃないですか?)
ああ。それもそうか。もし無理でも死体かなんか燃やしてバレないようにすればいいしよな。
(御主人...。いえ、何でもないです。)
ん?ならいいが。 一瞬、リリィから呆れた視線を感じたのは気になるが....。まあいいか。とりあえずは目の前の奴らだ。にしてもだ。
はぁ。それにしてもこいつら遅すぎだろ。溜息が二回も出てしまった。
迅たちが考えている間はほんの数秒程度であり、その間にこの距離を詰められるものは普通のヒューマンではあまりいない。そのため迅のため息は見当違いなものだったりするのだが、ただ、迅はここ最近まともなヒューマンとあまり戦っていない、というか戦っても相手に反応させる前に倒してしまったため、基準がおかしくなっていたりする。やっとこさ、チンピラ2人が、鉄の棒を迅に向かって振りかざし始め迅の目の前までくる。
(村正を抜く程までのこともなかったかもな。)
そう考えながらも、鉄の棒を振りかざしてくる2人を一閃する。
「え?」
1拍置いてから、チンピラは自身の胸元の傷に触れる。深い傷がそこには出来ており、1目でそれが致命傷になりうるものだと判断できる。本人たちがそれを知れたかは分からないが...。
そんな疑問の言葉を最後にそのままドサりと崩れ落ちる2人。
「テトー!!!!」
「ザイ!!!!」
チンピラの名前はテトーとザイって言うらしい。どっちがどっち何だか...。まあ、どうでもいいか。どうせそこらの雑兵の名前だ。覚える価値もないしな。
「てめぇぇぇぇ。よくもテトーとザイをぉぉぉぉ。」
「ぶっ殺してやる。ぜったいぶっ殺してやるからな!!」
「このクソやろーーがぁぁ。」
2人が倒れた後ろからほかのチンピラが騒ぎ立てる。怒り心頭といった様子である。
迅はにやっと笑いながら、
「いやいや、何言ってるんだ?俺がくそやろー?それはどう考えても1人の女を集団で襲おうとしてたやつのいうセリフじゃないな?お前らの方がよっぽどくそやろーだと俺は思うんだが?その辺、どう思う?」
そんな論理的な言葉に黙り込むチンピラたちではない。その手は各々の武器を握りしめている。
「黙れやぉぁぁぁぁ。」
そんなチンピラ1人の言葉を皮切りとして次々と迅へと向かってくる。その後ろからは魔法を詠唱する声も聞こえてくる。
「待てお前ら!」
長髪のリーダーの男が静止の言葉を叫ぶが、時既に遅し。
チンピラ共はもう止まることは出来ない。彼らに長髪の男の声が聞こえていたかは疑問ではあるが...。
最初ハンマーを持ったチンピラが迅に向かって振り下ろしてくる。その攻撃が当たれば、並の人間ならただでは済まないだろう。骨が折れるだけならまだ良い方、下手したら内蔵までダメージが及ぶかもしれない。
「そんなのろい攻撃に当たるとでも?」
迅が振り下ろされる前にハンマー男に向かう。
だが、そこに立ちはだかる小刀を持ったチンピラ。
「こいつが鈍いのは知ってるんだぜェ。だからそれまで俺の相手してくれやぁ。」
小刀で突くように攻撃してくる。その刀身には何かが塗られているのか、怪しげな光を纏っている。
迅にとってその程度の攻撃を見極めるのは容易なことであり、村正で易易とその小刀をはじく。
しかし、それでも数秒はロスしてしまう。
「今だ!」
どうやら簡単に自分の獲物を手放したのは、迅に弾かれたためというだけでなく、一刻も早くハンマーの攻撃圏から脱出したかったらしい。
「おう!」
ハンマーが迅に当たるまでもう距離はない。
だからといって焦るような迅ではない。いくらハンマーを持っているとはいってもその力は所詮、人間、しかもチンピラのもの。
村正でどうとでもできる。
「ウォーターエンハンス。」
水の補助魔法を村正へとかけ、その切れ味が上がる。そのまま村正をハンマーにあろうことか、ぶつけていく。否、村正でガードするように身体の前へと立てる。
「はっ。バカが。」
それをやけっぱちのものだとでも思ったのだろう。その目にも嘲りが見て取れる。
そしてとうとう、ハンマーと村正が触れるハンマーがものの見事に村正をたたきおる。そのチンピラの予想に反して村正はハンマーへと当たるとすっと包丁が豆腐を切るようにまっぷたつにする。
「なっ。うそだ...ろ。」
チンピラは目の前で起こったことが信じられないのか、目を見開いている。それは、戦いにおいて言えば致命的なものとなる。他の仲間もまだ反応できていない。
「もう死ね。」
村正で一閃する。ハンマー男はそのままドサと二つに分かたれる。しかし迅の攻撃はそこでは止まらない。ハンマー男を一閃したその勢いのままにハンマーでの一撃を作るための時間稼ぎをした小刀の男まで到達する。
「くっ。」
小刀を咄嗟に身体を守るように出してくる。その仕草に迅は内心ほぉと感心する。
「ま、関係ないけどな。」
ハンマー同様、小刀と一緒にチンピラも両断する。
「ノダ!バトン!」
そう叫び声が聞こえたのと同時に後ろでチンピラの魔法師が詠唱していた魔法が完成する。
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