43話 介入
花粉つらい...
「いや〜、久し振りにあんなに食べたな。」
時刻は夕刻。
あれから迅たちは露店をふらりと寄っては食べまくっていた。
なぜか。
そんなのきまってる。
ステルベンでのストレス発散のためのやけ食いである。
そんなことをしているにも関わらず、アリアスとレイナは食べながらも品位を失わないのだから不思議である。
え?なんでリリィの名前がが出てきてないかって?リリィはそのへん(食事)、特にストレスが無かったようである。
まあ、元々は最上位精霊だしなぁ。コートに宿ってるけど。
「何か問題でも?」
即座にリリィに指摘される。
「いえ、ないです。」
「ならいいんですけどね?」
俺たちは他愛もない会話をしながら、青空亭への帰途へと着いていた。
「また明日もいこっか!!
今日回れなかった所もあるしね〜。」
アリアスが、そんなことを言い始める。
「え?また明日も今日と同じペースでいくわけ?」
「何言ってるのよ。同じじゃないわ。今日は午後から動き始めたでしょう?
明日は、ちゃんと午前中には出て、ちゃんと隅々まで回り尽くすわ!!!」
なぜけ自信満々に答えるアリアス。
「いやー、そ、それはアリアスだけだろ?
レイナとかは無理なんじゃないか?明日は。それこそ、もう少し日にちが空いてからにしないか。」
別にこれ、レイナを心配して言っているわけではない。
レイナならいけてしまいそうとも実は思っていたりする。
だが、しかし迅は信じていた。
「ダーリン大好き〜」と言っていつも抱きついてくるレイナなら迅の意図を汲み取ってくれるのではないかと。
そんな期待に満ちた眼をレイナへと向ける。
「ダーリン。」
うるっとした目で迅の方を見てくるレイナ。
これは俺の意図が伝わったな。この戦い勝った。
ニヤッとする迅。
しかし、アイコンタクトなんて往々にして通じえないもので、
「心配してくれてありがとなの〜。でも、私は大丈夫なの!
どちらかと言うと、私も明日も行きたいな〜とか考えてから、アリアスの意見には賛成なの〜。
それでも心配してくれたのは嬉しかった〜。」
そう言ってぎゅっと抱きついてくるレイナ。
レイナの豊満な二つのたわわに迅の右腕が埋没する形となる。
迅の腕は特段太いという訳では無いが。だからと言って細いわけもない。
それを余裕を持って、挟んでしまうのだからレイナのにはまだまだ可能性が見受けられる。
これは傍から見たらとても羨ましげな光景であり、実際、通りを行く人々から、主には男性であるが、とても冷たい視線が集中していた。
(なにこれ、つら。片腕は幸せなのになぜか心は優れない。
どちらかと言うと宿とかでやって欲しい。)
ただ、こんな光景を近くで見せられてただ黙っている残りのメンバーではない。
してやられたとばかりにレイナに続いて、アリアスももう片方の腕へと絡みついてくる。
そのせいで、いやおかげと言うべきか。
アンバランスでいった腕の幸福度がもう片方の腕も二つのたわわに挟まれたことにより釣り合いが取れた状態となる。
「べ、別に特に意味は無いんだけどね?
そ、そう。迅がはぐれないようにしてるだけなのよ?」
と、元女神のツンデレ付きである。
「御二方はまだまだ甘いですねぇ。」
このように仰るのは迅と血の盟約を交わすリリィさん。
実体化しているリリィは後ろから俺の首へと腕を回してくる。
さながらおんぶのような形になっているが、足はぶらぶらとひめいる。
そんな状態のリリィは迅の片側から首をひょこっと出してくる。
「や、やめなさい。リリィ。迅が潰れちゃうじゃない!?」
そこに制しに入るのはアリアス。
「いや、アリアス。実はこれ全然重くないんだよ。」
「え?」
「ふふふ。アリアスさん。私は最上位精霊ですよ?私、浮けるので御主人には迷惑掛けてないんですよ?」
リリィが少し得意げな顔をし、アリアスはくっと噛み締めるような感じになる。
なにか反論できないかと考えているらしい。
ちなみにレイナはそのへん気にしないのか、俺の腕にすりすりしている。
しかし実際それは違うんだリリィ。それは間違っている。
これ、俺にはがっつり迷惑かかっているぞ。
レイナの時に浴びた冷たい目線は男の半分くらいからのみからだったが、今はそれが8割ほどに達し、さらに女の半数ぐらいからもなんだあの男はみたいな目線で見られている。
何が言いたいかというと、さっきよりも俺は気まずいんだ!!!
(知ってますよ?)
おい!?
これだよ。これ。
他のふたりは特に気にしていないのは分かってるし、もしかしたら気づいてないのかもしれない。いや、そう思いたい。
だがしかし!!リリィは違うのである。
リリィとは心が通じあっているため分かってしまうのである。
俺が、2重の意味で、周辺の反応の対応とアリアスたちの対応に困ることを分かっていてあえて、あえて!!事態を複雑にしようとしているのを。
え?なんでそこまで分かるかって?
だって、めっちゃ楽しいって気持ちが伝わってくるんだもん。
(私はただ自分の素直な気持ちに従ったまでですよ?
レイナさんがやってていいなーと思って。
しかもこれ、迷惑さと役得感を考えたらどっちに計りが触れると思います??世間一般的にいって。)
認めないあたりさらに悪い、しかも反撃までしてくる始末である。
俺は最後の抵抗とばかりに、
迷惑さ!!!
と念話で言ってみるが、
(え?ツンデレにクラスチェンジしたんですか?
しかもそれ、心が通じあっている私にはもはや無意味じゃないですか?わかってていうなんてもしかしてM系なんですか?そういう羞恥プレイがお好きになったんですか?ん?どうなんですか?)
とマシンガンように反応が帰ってきてしまう。
リリィに歯向かおうとしたのがミスだったようだ。
これは素直にならなければ終わらない。
否、終わらせてもらえない。
役得です...。
(そうそう。最初から素直にそう認めればいいんですよ。)
完敗である。
はぁ。
しかしこの状態、役得ではあるが、歩きにくいことは歩きにくい。
しかもこの視線の中、宿まで帰るのは辛すぎる。(俺の精神的な意味で!!)
そんな度胸彼には無いのである。
戦闘に必要な度胸とはまたひと味違うのである。
「なあ。お前ら。」
「どうしたの?」
「なーに?」
「はい??」
迅は最後の手段に出ることとする。
「早く宿に戻ろうぜ...。
青空亭のご飯が気になるしさ。」
諦める。であった。
「ちょっと、やめて!」
裏路地から唐突に聞こえてくる拒絶する様な声。
それは、迅たちが、青空亭まであと少しという所で聞こえてきた。
「ん?なんだ?」
迅通り過ぎそうになっていた裏路地を覗き込むと、さっきの黒ローブの女が10人ぐらいのチンピラ風の男達に囲まれ、その1人に手を掴まれていた。
「うるせーな。黙りやがれ。
いや、キャーキャー騒いでて、絶望に沈む顔も見るのもいいなぁ。」
手を掴んだ男は下卑た視線を黒ローブの女へと向けてながら言う。
「あなた、私が誰かわかってこんなことをしているのかしら?」
女は複数の男に囲まれているというのにそれでも気丈に振舞っている。
「ああ。知っているさ。あんたがどんな身分の人かはな。
だが、俺たちにそんなことは関係ねぇ。
あんたを殺さなきゃなんねぇからなぁ。
まあ、でも安心しろ。すぐには殺さなねぇよ。
しっかりと楽しんでからだ。ふへへ。」
男はより一層腕をつかむ手に力を入れる。
「触るんじゃないわよ。」
女は空いているもう片方の手で懐へと手を入れる。
「お、お前もやる気になったのか?」
なぜか勘違いする男。
どうやら脳内は相当なあほらしい。
どう考えても好意的な訳はないと言うのに。
案の定。
「そんな訳ないでしょ。」
女が懐から取りだしたのは、迅たちが気づいていた短剣。
それを躊躇なく、自分の手を掴んでいる男の手へと振り下ろす。
「おお。やるじゃん。」
素直に感嘆してしまう迅。
迅たちは今、絶賛観戦中なのであった。
ただ事態はそこまで弛緩していない。
どちらかと言うと緊迫している。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
不意打ちだったためか男は避けることができない。
短剣はざっくりと男の手を切りつけたため、傷はかなり深い。
「なにすんだお前ぇぇぇぇ」
痛みに苦しんでいる代わりに別のゴロツキの長髪の男が黒ローブの女へと叫ぶ。
「当たり前でしょ?襲われそうになってるんだから、正当防衛よ。」
「よし、決めた。簡単には殺してやらねぇからな。散々使い倒して、ぼろ雑巾のようになるまで使い倒して、最大限の苦しみを与えてから殺してやるからな。
お前ら、まず手足の健を切っちまえ。
そしたら、もう逃げらねぇし、抵抗も出来ねぇ。」
そう長髪の男が言った瞬間、今度は集団で囲もうとする。
同じ轍は踏まないらしい。
「くっ。」
黒ローブの女はなんとかしようとするが、1対多数に短剣1本ではどうしようもない。
陰から見てた迅。
その後ろには当然アリアスたちもいる。
見て見ぬふりは出来ないのか、アリアスたちが行こうとするが。
迅はそれを制止する。
「なんで!?」
理解できないのか、声を上げるアリアス。
「お前が行く必要はない。」
冷徹な声でそう言う迅。
「なら見捨てるの!?」
「別に、俺達には関係ないしな。」
絶句するアリアス。
しかし、迅の言葉にはまだ続きがある。
「ただ、まあ見過ごしたら寝覚めは悪いからな。
お前らはここで待ってろ。」
「私たちも。」
言い終わる前に迅が被せるように、
「あんな下衆どもお前らがやる程もねぇよ。」
それに気になることも言ってたからな。
介入してもいいだろう。
村正を携え、裏路地へと入っていくのであった。
誤字、脱字ご容赦を。