41話 王女のエスケープ
今回は早く仕上がりました
「いやーーーー、お風呂気持ちよかったーーーーー!!!」
「え?どうしたの?」
「だ、ダーリン?」
「御主人...」
え?みんな何その反応。
本当に久しぶりに入ったんだよ?
そういえば、こっちに来てから1回も入ったことなかった気がするな〜。
もしかしたらここは俺のベストプレイスなのかもしれない。
「ま、まあ確かに気持ちよかったわよね。」
アリアスが頬に手を当て、思い出すように喋る。
そうなのである。しかも露天風呂のためお風呂からは外の自然の景色も見えて最高であった。
どうやらここは通ってきた道の反対側にあるようで、景色が露天風呂から見えたのである。
これはもうひとえに角部屋の特権だな。
え?お風呂では何も無かったのかって?アリアスたちと?
ええ。それはもう何も無かったですよ。
男女別でしっかりと入りましたよ。しっかりとね!
女性陣が先に入って俺が後。
覗きに行こうとしても、窓はカーテンで閉められていたし、俺の心はリリィと繋がっているから覗いてエッチな気持ちになったらバレるという完全な包囲網が出来ていたのだよ。
「修学旅行かよ。」
俺のそんな呟きを歯牙にもかけず女性陣は内輪でとても盛り上がっている。
はぁ。前はありさ姉さんと入ってたんだけどなぁ。
「よ、よし。ま、まあその話はまた後でゆっくりとするとしてだ。これからどうするか?湯治に来た訳だけど別に部屋にいなきゃいけないやけでもないしな。町でもぶらついて見るか?ん?」
「そんなの決まってるでしょ?」
アリアスが答え、レイナとリリィの顔を見る。
あ、全員同時に頷いた。
今度はこっち向いてにやっとしてる。
「お。お手柔らかに頼むよ?」
町に行こうなんてなんで行ったんだろ...。
「ここの名物は温泉卵と溶岩魚のガルスタって確かタニアが言っていたな。」
「ええ。そうなの〜。もうちょっと進んだら露店がいっぱいある所に出るからそこで見られると思うよ〜!」
「じゃあ早く向かいましょう!」
アリアスが目をキラキラさせながら急いで行こうとする。
「ちょ、ちょっと!アリアス!まちなさーい。」
続いてレイナもアリアスを止めようと追い掛ける。
おいおい、やっぱ修学旅行じゃねーか。
はぁ。
追いかけようと十字路を渡る...はずだった。
「おい、レイナ。お前までいくなー。って聞いてないし。ちょっと待て、え?」
「え??」
ーーードンッ
何かとぶつかった?
しかもなんか声もした。女っぽい声で。
視線を下へと落とす。
女がおれにぶつかっていた。
かなりのスピードで。
出会い頭に女が曲がろうとした時にどうやら俺がちょうど出てきたようである。
「っと。すまん。大丈夫か?」
倒れた女へと手を出す。
「っ。いたたぁ。」
「」
「おーい、ほんとに大丈夫か?」
座り込んで、女の様子をうかがおうとする。
しかし黒のローブを目深に被っているため、女の表情はそれでもうかがえない。
ちなみに、アリアスたちの様子をうかがうことが出来ない。いや、見ることはできるんだ。見る勇気がないだけで。なんか冷たいオーラがヒシヒシと伝わってくるんだもん。
なんて、女からアリアスたちに意識が向きかけた時。
「すいません。ぶつかってしまって、急いでいたものでして。私なら大丈夫ですのでお気遣いなく。
本当にすみません。では。」
後ろを何度も振り返りながら、言い切ると俺に一言も言わさずにその場を去っていく。
「っと、おい待てって。おーい。」
迅の話も聞かずにどんどん遠ざかっていく黒ローブの女。
それをただ見ながら見送る迅。
「何も起きなくて残念でしたね御主人。
出会い頭にぶつかったそのまんま、「助けてください。悪い人に追われてるんです!」みたいなの期待してたんじゃないですか?」
「いやいや、流石にそんなにラノベやアニメみたいな事を信じている訳じゃねーよ。俺は。」
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「ハァハァ。」
まずい。追っ手がもうそこまで来ている。
やはり私の派閥の誰かが、寝返ったとしか思えないわね。
でなければ、私がウィルシスに行くことがあんなに早い段階でバレるわけがないもの。
追って来ていたのは多分第一皇子派閥のものね。
そこの暗殺部隊かしら
今はとにかく、逃げなきゃ。
確かゴーシュがメインストリートを曲がって裏道に入った所に隠れる場所を取ったといっていたわね。
てことはこの先を曲がるってことか。
ジュリアはウィルシスのメインストリートを走っていた。
もうすぐそこには曲がり角が迫る。
ここを曲がれば、ひとまず敵の視界から隠れられるはず。
後ろを度々、振り返るがそこにはジュリアが通って来たメインストリートとそこを行き交う通行人しかいない。
多分、何かの魔法を使っているのね。
私のマナがキレかかっているのが、悔やまれるわ。
まあ、魔法を使わなければ切り抜けられなかったから、悔やむならもっと前。王城にいた頃にマナを増やすために努力しなかったあたりからかしら。いえ、それよりも....。
いえ、違うわね。王女として今すべきなのは生きること。過去は変えられないのだから。
そう考え、前を向いて十字路を曲がろうとした時だった。
え?だれかいる?
ていうかぶつかっーードンッ。
「イタタ...。」
尻餅をついてしまった。
追っ手のことを考えすぎて、前にあんまり意識が向いてなかったのね。
全く、誰ですか。私にぶつかったのは。
そう思って王女たる私にぶつかった者の顔を見上げようとするが、そこでハッとする。
まずい。今、私は第一王女のジュリアとしてバレるわけにはいかないのです。。
追手には私の姿がバレていても、余計なものの介入を防ぎたいのか、イタズラに騒ぎ立てることはしませんがもし、仮に王女ジュリアがここにいると他の者達にバレてしまったら、第一皇子、忌まわしきズールに取り入ろうとする者達が格好の獲物とばかりに私に襲いかかってくるはず。
今でさえ、ギリギリなのにそうなったら完全に詰みになってしまいます。
なら、私の顔を見られるわけにはやはりいかないですね。
「すいません。ぶつかってしまって、急いでいたものでして。私なら大丈夫ですのでお気遣いなく。
本当にすみません。では。」
顔も見れずそそくさとその場を去る。
後ろから制止する声が聞こえた気がしたが、そんなものに振り向いていられるほどの時間の余裕はない。
ろくな謝罪もできず申し訳ありません。見ず知らずのお人よ。
そう考えながらも、ジュリアは冷静にすべき思考もしていく。
ぶつかってはしまいましたが、ここから先はあそこの裏路地を入ればいいのね。
ジュリアもまた、向かっていく。迅たちが荷物を置いて出かけていったあの旅館に。
そう、青空亭へと。
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「もう。何やってんのよ迅。」
アリアスが若干不機嫌な様子だ。
さっき女の子とぶつかったのがまずかったかな?
「早く行かないと、ウィルシス特有の溶岩魚がなくなってしまうかもなのよ?」
あ、君はそこに焦りを覚えていたんだ。
うん。きっと大丈夫だよ。それ、特産物だから。
そんなすぐに無くなるようなものじゃないはずだから。
「それに〜、
早く露店みたいの〜 !!溶岩魚に〜、温泉卵に〜、あ〜、後着物なんかも着てみたいな〜。」
「着物かー!私も着てみたいな!」
「あら?着物ですか?」
あらら。みんな同調?してきた。
どうやらお祭りに来た時のようなテンションになっちゃっているらしい。
女性はいつでも露店みたいなのに惹かれるようだ。
ありさ姉もそうだったなぁ。そういえば。
思い出すのは、地球でのありさ姉と過ごした期間。
一緒に行った夏祭りでの露店を巡った時の記憶。
揺れる草花、香る花の匂い。遠くから香ってくるイカ焼きの匂い、突如鳴り響く、花火の火薬が弾ける音、漆黒の夜空に咲く一輪の花、それを見て目を輝かせ、満点の笑顔を咲かせたありさ姉さん。
あの時はただただ花火を見るありさ姉さんの顔を見てたな。
そしたら、何見てんのよとか言って、怒られたっけ。
なぁ、今どうしてる、ありさ姉さん。
あの時とは違う空を眺めながら考えてしまう。
そんな風に歩きながら過去に思いを馳せていると。
「ほら、だから迅!
やらなきゃいけないことはいっぱいあるんだから!
行くわよ! 」
るんるんと手を引っ張ってくるアリアス。
俺も、思考を停止せざるを得ない。
ていうか普段手を握ったりしないだろお前。キャラがぶれてるぞ。
ステルベンを抜けられたことで、気分でも高揚してるのか?
まあ、俺も人の事は言えないか。ぼんやりこんなこと考えてるし。
「はあ。それもまあ、そうだな。それじゃあ、行くか。」
アリアスの歩みに合わせるように俺も露店へと向かっていく。