34話 ハイアルベロ
拙い文書ですがお願いします。
敵の方向を向くと、レイナはマナを練り始める。
アリアスはマナを練っているレイナの前に立って小刀を構え直す。
そんな2人に向かってさっきの数倍の量で太さは変わらない枝が襲いかかる。
だが、アリアスもレイナも全く動じることはない。
「その程度で倒せると思ってるのかしら〜?風魔法。エアーヴェステイラー。」
レイナが魔法を唱えると、金の風が生み出される。
それはアリアスたちを通り過ぎ襲おうと向かってきていた木の枝へと向かう。
そうしてその金の風がハイアルベロの枝へと当たるときりもみ状にさり粉々になっていく。
そしてあたりには大量の木屑が舞い散る。
しかしレイナの魔法はそこで終わらない。
すぐさまマナを練って、アリアスへと魔法を唱える。
「風魔法 エアーエンチャント。」
風の魔法がアリアスの小刀にかかる。
それによってアリアスの小刀の周りに高密度の風の刃が作られる。
風の刃がキイイイインという甲高い音をかき鳴らす。
またリーチも20センチほど伸びる。
「おい、あれって。」
「そうですね。御主人がよく使っているウォーターエンチャントの風魔法版って感じですね。
名前をつけるとしたらエアーブレードってところですかー。」
レイナの魔法を見ていた迅が擬人化して隣にいるリリィへと話しかける。
「エアーブレードか。斬れ味も上がってるなあの感じは。あの魔法って結構この世界じゃ使われるのか?」
「んー。ものに魔法を付与するのは結構難しいことですが。まあ、中級者。ギルドのC級冒険者ぐらいから使うようになりますわね。」
「ギルドか。まだよくわかんねーんだよな。ギルド。オケアスで入ろうと思ってたが結局入れなかったし。」
「まあ、大丈夫ですよ。ウィルシスにもあるはずですから。
それよりも今はアリアスさんたちの戦いを。」
思考がずれそうになった迅をうまくリリィが引き戻す。
「ああ。そうだな。アリアスは剣は使えるのか?」
「さあ。私もそこまでは...、とりあえず様子を見ましょう。」
そんなことを後ろで話しているとは気付かず、2人はハイアルベロの攻撃を警戒しながら作戦を練る。
「攻撃が止んだわね。」
「ええ。相手も出方を伺っている感じなの〜。」
「闇雲に突っ込んでくるアルベロとは違うのね。」
「魔獣にしては頭がいいの〜。ま、魔獣にしては〜だけど〜。」
「だからと言って私たちがあそこに向かうのは危険ね。何とかしておびき出さないと。
何かいい手はあるかしら?」
アリアスの問いにレイナがうーんと悩みながら答える。
「さっきのエアーヴェステイラーはもう一回撃つとか?」
レイナがこくんと首を傾げて可愛らしく言う。
レイナのその答えにアリアスが当然のように否定しようとする。
「そんな大きな音出したら前にいるヒューマンたちに....いえ、ちょっと待って。」
アリアスは途中まで言いかけて、そこで止め下を向いて考え始める。
その間も当然警戒は怠たらない。
(彼らはハイアルベロの事を認識しているはず。もし私たちが魔法で出した音とかにもし気づいてもハイアルベロが暴れていると思う可能性が高いわね。だったら多少音を出しても問題ないわね。レイナのエアーヴェステイラーを撃てば木と一緒にハイアルベロも倒せるかもしれないし。これは結構ありね。だったら...)
アリアスが顔をあげるとそこには久し振りにみる黒い笑顔があった。
レイナはアリアスのその顔を見て顔がひきつる。
(このアリアスの顔、絶対ろくなこと考えていないの〜。この辺りそれとなく迅に似てきたわね〜。)
そう思いながら見ていると、アリアスがその視線に気づく。
「どうかした?」
「ん、んーん。なーんでもなーい。」
「まあいいわ。レイナ。エアーヴェステイラーあの方向に撃ってくれない?」
そう言って、アリアスはハイアルベロが攻撃してきた方向を指差す。
「え?本当にやるの?」
自分の案が採用されると思っていなかったのか、キョトンとした表情となるレイナ。
「ええ。こんなところで時間をかけたくないからね。あなたがマナを練っている間、私があなたを守るわ。だから早くなさい。」
そう言って、アリアスはウインクする。
「元女神に言われると心強いわ〜。」
レイナはキョトンとした表情をすぐに切り替えて、アリアスへと軽口を言い返しながらマナを練り始める。
「なっ。あなたね〜。私は今も女神よ!!力がないだけ!!!」
アリアスがレイナの軽口にムキになって応戦する。
「はいはい〜。ほら私のマナに反応して攻撃してきたよ〜。」
いつも通りの呑気さを感じる声音でハイアルベロからの攻撃を伝える。
そのあい
レイナが言った通り、森の茂みの中からいく筋もの木の枝がアリアスとレイナに向かう。
その一本一本がアリアスたちの動きを奪えるだけの威力を持つ。
「わかっているわ。ちゃんと守ってあげる。ハァァァァァ。」
そう言うと、アリアスはエアーブレードで全ての攻撃を弾いていく。
「アリアスさん。すごいですね。」
それを後ろから見ていたリリィが感心したように言う。
迅もまた内心で感心しながら。
「ああ。なかなかだな。」
「アリアスさんは剣術もできたんですね〜。いえ、どちらかというと御主人の動きとどことなく似ていますので御主人の動きから学んだってことの方が有力ですね?御主人?」
「あの動きは俺の動きに似ているな。たしかに。だが、まだまだだな。
ほら。」
そう言って、迅がアリアスたちを戦っている先を指で示す。
見るとハイアルベロの無数にある枝の先端の一本がアリアスの防御を超えてアリアスの腕をかする。
「くっ。」
それを皮切りに段々とアリアスの防御をハイアルベロの攻撃が抜けていく。
「まだまだだな。今度教えてやるか。」
「ええ。それがいいですね。
それよりいいんですか?アリアスさんを助けに行かなくて。」
「いや、たぶん大丈夫だろ。」
迅がそう言った瞬間、レイナの魔法が完成した声が聞こえる。
「風魔法 エアーヴェステイラー!!!」
魔法によって金の風が生み出される。
エアーヴェステイラーはアリアスたちを攻撃していた枝の先端も同時に切り刻みながらハイアルベロが潜伏しているであろう森の木も切り刻んでいく。
「ギャアアアア。」
エアーヴェステイラーがハイアルベロのいる森へと当たり、樹木をを切り刻んでから何秒かしてハイアルベロの叫び声が聞こえる。
「どうやら当たったみたいなの〜。」
レイナが一安心といった様子でほっと一息つこうとする。
その瞬間。
レイナの横でガサッと音が鳴る。
レイナが振り向くと、そこには先端の尖った木の枝が猛然と向かってきていた。
咄嗟のことでレイナは反応することは出来ない。
レイナが当たると思い、目を閉じる。
「ダーリン。」
ガキイイイイイイイン。
目の前で聞こえるものとものとがぶつかり合ってできる音。
うっすらと目を開けるとそこには両手で、エアーブレイドを持ったアリアスが枝に抗っている。
「アリアス!!」
「ごめんねぇ。迅じゃなくて。ハアッ。」
アリアスが冗談交じりにそう言って、気合を入れて枝を弾きそのまま切り刻む。
それで、その枝はスルスルと引き下がっていく。
「あ、ありがとアリアス。」
レイナが驚いた様子でアリアスへと礼を言う。
「お礼はいいわ。それよりも見てみて。」
そう言って、アリアス厳しい視線を向けながらが指差す。
レイナの指が指した先にはエアーヴェステイラーによって更地となった森が。
その奥に佇む大きな一つの物影が。
そこには3メートルはゆうに超える大きさのハイアルベロが。
しかし、エアーヴェステイラーによって大きなダメージを負った気配はない。
「やっと姿をあらわしたね〜。」
アリアスがニヤリと微笑む。
その姿は妖艶でありながらその中に静かな威圧感を秘めている。
「私、あなたたちみたいな闘い方好きになれないのよ。後ろからちまちまと安全な所から狙い撃ちするそのやり方がね〜。」
それを見た迅は思う。
「「怖....」」
どうやらそれは一緒に戦っていたレイナも思ったようで同時に呟いてしまう。
アリアスは一瞬、迅たちの方を睨みつけたが、すぐに思考を切り替える。
「レイナ」
「な、なに〜?」
レイナが怯みながらアリアスへと返事をする。
だがアリアスはそのことには触れない。
「さっさとこのデカブツをやるわよ。」
「ええ。そうね〜。パパッと倒すの〜。」
そう言って、改めて気を引き締め直した瞬間。
ハイアルベロが叫ぶ。
「ギャァァァァァァァァァ。」
ハイアルベロは怒りのためか思い切り叫ぶ。
そしてみるみるうちに全身の色が黒色になっていく。
ハイアルベロの身体の真ん中にある眼がギョロリと動き、アリアスたちを視界に入れる。
その瞬間。
「「なっ。」」
アリアスとレイナの身体が固まる。
「あれは金縛りみたいなもんか?」
「ええ。そうですね。幻覚によってそれを意図的に起こしているんでしょう。レイナさんのように相手の意識を奪ったりはできなそうですが。さらに怒りで、身体の色も変化するんですね。でもあれなら並みの敵たちなら余裕で倒せます。」
「ああ。あいつらが並みだったならな。」
そう言って、視線を戻すと、ハイアルベロが間髪入れずに黒色の枝を2人に向かって高速で放っていた。
二つの枝のスピードは先程能登は段違いになっている。
アリアスとレイナも黙って見ているわけはない。
アリアスとレイナが動きを止められたのはほんの一瞬。
アリアスは女神の耐性で一瞬で金縛りを解き、レイナも自分に幻覚をかけることによってハイアルベロの幻覚を打ち消す。
しかし戦いではその一瞬が大きな隙となる。
アリアスとレイナが金縛りを解けたのは枝が眼前まで迫った時。
黒色の枝が2人を後方へと吹き飛ばす。
ドガァァァァン。
2人は後方の木に激突し、大きな砂煙が上がる。
そこにハイアルベロが今が好機とばかりに枝をどんどん放っていく。
何本もの枝がアリアスたちがいるであろう砂煙の中へ。
ある程度打ち込むとハイアルベロは攻撃の手を止める。
そうして砂煙が徐々に晴れていく。
その中から二つの人影が。
「危なかったわ。」
「これまで使わされるなんてな〜。」
そう言って、レイナは龍の意匠が刀身に象られた双剣を持ちながら出てくる。
2人が出てくるのを確認した瞬間。
ハイアルベロは黒色の枝をまたもや放つ。
それをアリアスが弾こうとした瞬間。
横から鈍色の枝が飛んでくる。
だが、アリアスは一切動じない。
アリアスと枝のあいだにレイナが入り込み双剣で切り刻む。
そうして全てを2人は切り刻む。
そして一言。
「さあ、続けましょうか?」
評価、ブックマーク、感想お願いします。