カフェ『Lantern』のスチルはいかが?
お読みくださりありがとうございます_○/|_ 土下座
乙女ゲー要素はあまり出てきません
「お前みたいのが嫁さんだったら、毎日が楽しいんだろうなぁ」
「っば!何言ってんのよ急に!!」
「いや、なんか今ふと思った」
「.......馬鹿じゃないの」
天然でふわりとした雰囲気の平凡な男の子とその幼馴染のツンデレな美少女。
「......っ」
「...泣くなよ、あんたに泣かれるとどうすればいいか分からなくなる」
「っ泣いて、ないしっ!」
「あー...やめてその顔、我慢きかなくなる」
少し意地っ張りな平凡な女の子と少しチャラめで緩い雰囲気のイケメン。
「お待たせいたしました、ご注文のブレンドコーヒーとカフェオレ、そして当店スペシャルデザートでございます」
「えっ、これ」
「二人はよくお店に来てくれるからね、私からのサービス。これからもよろしくね」
「うわぁ、可愛い!ありがとうございます!」
「すげぇな、うまそう」
「...蘭ちゃん、壮馬は鈍感だからちゃんと素直な気持ち伝えなよ?」
「...うん。ありがとう、マスター」
「こら、店の中でいかがわしいことするなよ綾斗」
「いてっ」
「お待たせいたしました、ご注文のカフェラテとブラック、そして二葉ちゃんには当店スペシャルデザートでございます」
「マスター...ありがとう」
「ちょっとマスター、今いい雰囲気だったのに邪魔しないでよ、しかも俺にはデザートない訳」
「二葉ちゃん、いつも来てくれてありがとうね、これは私からのサービス」
「無視かよ」
「.....綾斗、まだ焦るな。私からみて二葉ちゃんは脈ありだ。でもまだ怖がってる。ゆっくり距離を縮めろ、分かったか」
「....アイアイサー、師匠」
皆さんこんにちは。突然ですが、この世界ゲームの中なんです。しかも、二つの。
ここは、世界観が同じというか作者が同じギャルゲーと乙女ゲーが混在している世界。
この場所は、その二つのゲームに出てくるカフェというかイベント場所。
そして私は、そのカフェ・『Lantern』のオーナー兼マスターの井坂 志穂と申します。
何故そんなことを知っているかというと、まぁ、単純に思い出したからだ、前世の記憶を。
ずっと夢だった自分の店が完成した時、感動ともうひとつ、妙な既視感がした。そこで思い出したのはゲームのことだった。
私は前世普通の女の子だった。勉強はまぁまぁ、運動はちょっと苦手。読書が趣味。そんな私はあるものにはまっていた。それはゲームの背景だ。私は綺麗な背景見たさに中身を流し、綺麗なスチルをバンバンとっていた。そんな中で私が一番好きだったのが、『青空』という乙女ゲーのカフェ・『Lantern』のスチル。繊細で綺麗で切なく描かれていた店内のスチルは、もう号泣ものだった。そしてこのゲームのギャルゲー版が出ると言っていたので即買った。
中身は二つとも普通の青春恋愛ものだったか。美麗なスチルに心を奪われていたので、中身の事をほとんど覚えていない。
まぁ、それは置いとこう。
そのあと私は色々思い出して混乱すると思いきやただただ、憧れの場所を見れた、というか私が作ったという事実に号泣していた。
そのあとは早かった。
何年かして、見知った顔を見るようになった。ああ、ゲームが始まったのかと。
私は常連さんとはすぐ仲が良くなれる。ゲームのキャラたちも例外ではない。あっという間にキャラたちと仲良くなり、恋愛相談にのったり、慰めたり、励ましたり、アドバイスしたりしている。まぁ、私自身は恋愛経験はそこまでないんだけどな。
そして、今のところ、乙女ゲーの方は主人公ちゃんと緩い雰囲気のチャライケメンといい感じである。
ギャルゲーの方はツンデレ系幼馴染ちゃんといい感じある。青春っていいよなぁ。
あと蛇足だが、キャラクターであるイケメン、美少女見たさにお店も大繁盛。ゲーム様々である。
と、まぁ、これはそんな私の日常のお話、だと思う。
* * * *
私のお店はアットホームな雰囲気のカフェ・バースタイルの店である。
都会の喧騒とは少し離れた隠れ家のようなカフェ。二階建てのログハウスで店内は一回は普通のカフェスタイル、二階は個室で、まるでリビングにいるような部屋というのがコンセプトになっている。
これが夜になるとバ-になる。二階も宅飲みしているように音楽も照明も変えている。
これが私のお店だ。ずっと憧れていた背景。スチルでは一部分しか見れなかったあの、大好きな背景を私はすべて見ているし、私のものだ。思い返すたび、涙が零れそうになる。
生きてて良かった。
「おいおい、俺と話してるのに違うこと考えてんのは失礼じゃねーか?」
今、目の前にいる男は鮫島 徹。乙女げーの方の攻略対象だ。主人公の担任で現代文の先生。歳は31、私の三つ上。だが、とても31には見えない色気と男前さを持っている。なる職業を間違えてんじゃなかろーか。
「すみません、お席へご案内いたします」
「その敬語もやめろって言ってんだろ」
「いえ、今は業務中ですので」
「.....生徒にはタメで話してるのに?」
「...仮にもあなたは年上ですし」
「それに業務中って言っても、今日は俺が貸し切りにしただろ。なんだったらこの店ごと買い取るぞこら」
「.......横暴だ」
そのうえこいつは大財閥の息子。
度々こうして夜に来ては店を貸し切りし、何かにつけて店買い取るぞと脅してくる。私は負けじと色々応戦してはいるものの、店を出されちゃ敵わない。
「じゃあ、席まで案内するからついて来い」
「相変わらずその見た目と中身のギャップはすさまじいな」
私の見た目は可愛いとか美人とかではないがまぁなんだ、癒しというか落ち着く感じの見た目である。それに反して性格というか口調は大分男勝りで、いままでギャップに関してはずっと色々言われていたのであるのだろうということは自負している。
「あと、酒でできるまでは案内しなくていい。お前と一緒に飲むからな、従業員も帰していいぞ」
「またか」
「ああ、そのために貸し切りにしてるからな」
「...注文は」
「ウイスキーとなんか適当につまめるやつ。部屋はいつもんとこで」
「了解。この辺で待っててくれ」
私が厨房に入ると従業員はほぼ全員もう帰る準備をしていた。
「だってあの人来るとすぐ帰っていいっていうじゃないすか」
「まあそうだが」
「じゃあ、お先でーす」
「ああ、気を付けて帰れよ」
ここの従業員はほぼ友人を雇っているので、みんな気やすい仲だ。後輩や先輩なんかもいるが。
「俺は待ってるぞ、志穂」
「拓馬さん」
「掃除もまだ残ってるし、あいつが帰った後の片づけもある」
その中で毎回私があの人の相手が終わるまで待っててくれる人がいる。それが、この佐々木 拓馬その人である。この人はギャルゲーの方の登場人物で、幼馴染ルートのライバル役兼主人公のお兄さんである。この人は私とこの店で会ったあと、いきなり自分を雇ってほしいと今までやっていた仕事を辞めてきた強者である。入りたい理由がこの店の外装と店内の雰囲気が魅力的でぜひ入りたいとのことだったので、即オーケーした。やっぱりわかる人にはわかるのだな。
ちなみに鮫島さんとは小学校からの腐れ縁らしく、たまに会うと悪態や軽口をたたいてる。
「でも毎回拓馬さんだけ残すのも悪いですし、片付けくらいなら私だけでもできるので帰っても大丈夫ですよ」
「....あいつにはタメで話すのに、俺はまだ敬語のなのか?」
「えっ、いやそれは、なんというか癖というか」
「何回も言ってるけど俺にもタメで話してくれと言っているだろう」
「うう」
「志穂」
「...分かったから、離れてくれないか。近い」
「さっさと終わらせて、帰ってきてくれ」
私にそう言うと、拓馬さんは片付けに戻っていく。
全く、あの人は本当に心臓に悪い。声は物凄く何というかイケボである。それを耳元で聞かされる私の身にもなってほしい。距離感がないのか天然なのか、ともかくどうにかしてほしい。私は恋愛経験が皆無なのである。男の人にも慣れてないのだ。
「遅かったなぁ志穂、またあいつと話してたのか」
「従業員と話して何が悪い」
「従業員、ねぇ」
「ほら、酒とつまみの用意はできてる。行くぞ」
一つ、誤解を解いておきたい。
こいつは別に私目当てで店を貸し切りにしたり、従業員を返したり、私と二人で酒を飲むのではない。
こいつが貸し切りにして私と飲む理由は、
「さて、今日も聞いてもらうか、俺の話を」
鮫島さんが口角を上げる。
「俺の生徒愛と同僚に対する愚痴を」
ああ始まった。
もうこうなると手が付けられない。
この人は私とこの場所を見つけるまで、誰かに愚痴を言ったり、自分の持つ生徒に対しての愛を誰かに語ることが出来なかったという。
この場所で、私がいるときに世間話をしているときに、初めて口から愚痴が零れたそう。いった本人がものすごく驚いて、それ以来、定期的にこの人は私の店のこの部屋で私に愚痴と生徒愛を語っている。
私もため込んだら辛いだろうと思い、話に付き合っている。
「あ、そういえば」
珍しい、話を途中で途切れさせるなんて。
「お前の店、うちの学校ですごい人気があってな。職業体験をここでやりたいという要望がたくさんあるんだが、受けてくれねぇーか?」
「ああ、別にいいぞ。うちの店の事ももっと知ってもらえるし、そこまで厳しい環境下ではないし。丁度いいんじゃないか?」
「そうか、助かる」
「うむ、よきにはからえ」
ふにゃっと表情が崩れる。私は酒に強い方だが、さすがにウイスキーのロックを三杯ともなると酔ってくるな。そこはかとなく眠いし。
ん?鮫島さんの顔が心なしか赤い。鮫島さんも酔ってきたのか?いつもより早いな。
....ああ、やばい、眠い。片付けあるの、に。
* * * *
俺の方にこつんと何かが乗った。
もちろん志穂の頭だ。どうやら、酔って寝てしまったようだった。
「長かったなぁ」
俺はさっきの微笑み思い出し、今の無防備な寝顔を見ながらそうつぶやく。
何が長かったって、もちろん今俺の肩に寄りかかってるこいつの警戒心を解くのにだ。
俺は、こいつの事が好きだ。
出会いは今年度に入って少し経った後だ。
学校の近くにすごく綺麗なカフェが出来たと生徒から聞いた。俺もカフェは割と好きな方なので、次の休みにでも行ってみようと思った。
その休みの日、生徒に言われた店に行ってみるとまず、感動した。
何に関しての感動かはよくわからなかったが、こんな綺麗なものがこの世の中にはあるのか、と思ったのは覚えている。
店の中に入ると、また一段と綺麗な光景が広がっていた。
「お客様、一名様でよろしいですか?」
玄関付近で立ち止まっていると、俺より年下であろう従業員の女性がそばによってきた。
「二階の個室と一階のどちらがよろしいでしょうか」
「ああ、じゃあ個室の方で」
「かしこまりました」
生徒からここに来たら一度は入った方がいいという個室に案内してもらった。
その個室の中は、また格段と綺麗だった。ふかふかのソファにセンスのいい机に窓。あの生徒があそこまで熱心にここを進める理由が分かった。
ふむ、ここは夜はバーらしいし、今度は夜に来てみるか。
「店員さん、この店はほんとに素晴らしい。見事なほど綺麗だ。そうオーナーさんに伝えといてくれませんか?」
「えっ、ほんとですか!ありがとうございます!」
「えっ?」
「あ、申し遅れました。オーナー兼マスターの井坂と申します。」
普通に驚いた。どうみても俺より年下なのに、ここのオーナーとは。
「この店は、私の誇りなんです。お褒めいただきありがとうございます」
「いえ」
もちろん俺はここの常連になった。
ここは料理もうまいしコーヒーも酒もうまい。店内も俺好みだし、もういうことがない。
そしてここのオーナー兼マスターの子とは世間話するくらいには仲良くなったある時。
「ここの従業員たちはほんとにいい教育が施されてるな」
「ありがとうございます」
「それに比べて、俺の同僚は」
俺はそこまで言いかけて止めた。
今、俺は何を言おうとしたんだ。人には愚痴を零したことのない俺が、愚痴を零しそうになった...?
その事実に俺は、驚きを隠せなかった。
「?どうされました?」
「今夜、店を貸し切りにしてくれ。金ならいくらでも払う」
俺は理由を今夜探すことにした。
結果的に、俺はこの子とこの店に恋をしていたようだ。
俺の愚痴や生徒の事を語っても嫌な顔一つせず聞き、俺に癒しをくれる。無防備であるように見えて、少しでも男の顔を見せると警戒心をMAXにする。そんな彼女に少しでも近づきたくて、あの手この手を使った。初めて財閥の息子でよかったと思った。
少し経ち、ようやく警戒がすこし解けた時見せた素の時のギャップにまたやられた。
それでも焦らずゆっくり、慎重に距離を縮めた。
そしてようやく、である。
達成感が胸に湧き上がる。
「こんな頑張ったんだし、ちょっとぐらいつまんでも、いいよなぁ」
俺はそう呟くと、規則正しい寝息をたてている志穂の頬を撫でる。
そして、少しずつ顔を近づけ....
「何をしている」
「チッ、邪魔すんなよ拓馬」
般若のような顔で部屋に入ってきたのは、腐れ縁の佐々木 拓馬だ。
そして、俺と同じ志穂とこの店に惚れた男だ。
「何をしていると聞いている」
「それが客に対する態度かよ、元営業部のエース様」
「お前ッ」
こいつは前に通っていた会社ではエースと呼ばれるほどの実力者であった。
しかも顔も整っているときた。会社では王子様とまで言われてたのを俺は知っている。
「あーあー、そんな怖い顔すんなよ王子様。俺の肩で寝ちゃったから頭なでようとしてたんだよ、それぐらいいいだろ」
まぁ、嘘だが。
「俺より長い時間こいつと一緒にいるんだからよ」
「...」
「それにしても、だいぶ早かったな」
ちらっと顔を覗き見ると、明らかに焦っていた。
「過保護だこと」
* * * *
「いらっしゃいませ、ってあれ今日は一人か綾斗」
「うん、なんてゆーか、今日は師匠に謝りに来たっていうか」
「謝り?」
「いやー...最近さ、鮫島センセってきてる」
「....うん、まあ」
「その顔は、けっこう困ってる時の顔だね」
最近二葉ちゃんと距離が縮まって余裕が出できた綾斗が、深い溜息をつく。
「だけど、どうしたんだ急に」
「いやぁ、なんか最近よく鮫島センセが師匠の事話すようになったんだけど、その話題に乗ったり、ふったりするとめっちゃ睨んでき...」
「誰が何だって?」
「げっ、鮫島センセ」
「いらっしゃいませ、今日は早いですね」
「おー、志穂とこの店に会いたかったからなぁ」
そういうと、鮫島さんは私の近くにやってきた。
なんだか最近、パーソナルスペースが狭くなってきてる気がする。攻略対象だけあって、物凄く整った顔なので、近くに寄られると心臓に悪い。
まさか、男性経験のない私をからかっているのか?
「なんか、ごめん師匠」
そういうと綾人はなんとも言えない顔をして帰ってしまった。
なんだったんだ。
「まじがぁ、鮫島センセのあんな顔初めて見たわ……」
私はそんなことを綾人の呟いたなんて、知るよしもないのだった。
ある日の職業体験
「今日はよろしく頼む、志穂」
「いえ、こちらこそって鮫島さんが引率なんですか」
「もちろん」
「ああ、皆さん、今日は1日よろしくお願いしますね」
(やべぇぞ、鮫島先生がめっちゃ睨んでる)
(こりゃ変なことできねぇぞ……)
(鮫島先生あんな顔もできるのね)
(ありゃあ、前より執着ひどくなってんじゃん)