3 休息 刈谷かなえ視点 - 2
見慣れた洋風の屋敷に足を踏み入れ、ほづみを私のベッドに寝かせる。
「今、お茶を淹れるから」
「うん。ありがと」
なるべくほづみから離れたくない私は、台所に走った。
無駄に広い家だが、ベッドと台所とダイニングが一つの部屋にあるため、非常に便利な造りになっている。
戸棚からポットとカップを取り出し、熱湯であたためる。紅茶の茶葉をポットに注いで、熱湯を勢いよくポットに流し込む。ティコーゼーで覆い、三分間待つ。その間に、風呂自動のスイッチを入れておく。
ほづみとこんなにも近い。ひとつ屋根の下で一緒にいる。はじめての体験だった。でも、どうしてほづみがこんなにも遠く感じるのだろう。私のこころに、ぽっかりと穴があいてしまったような気分だった。
私が魔物を呼び込んだせいで、ほづみの父と母が亡くなってしまった。こんな偶然があるだろうか。いや、そんな、偶然でないなら、最果ての魔女のせいだというの? いいえ、あいつがわざわざほづみの両親にまで干渉してくるとは思えない。だとしたら、私は、私がほづみと一緒にいるために、ほづみの両親を……。
嫌! そんなこと、私は望んでいない。いないのに……。
ほづみはこう思っているのかもしれない。『ねえ、かなえちゃん。その、変なこと聞くようだけど、かなえちゃんは、絶対、パパとママを、殺してなんか、いないよね』と。そう思われても仕方がない。なぜなら、まだ歳若いほづみは、なし崩し的に私の家に居候することになるのだから。
私は、ほづみと毎日一緒にいたいがために、ほづみの両親を殺してしまおうとこころの底で思っていただろうか。そんなこと、思うわけがない。ないはずなのに、どうして、こんなにも自分のこころが不安になるのだろう。
ほづみは私だけのものではないのに。
私は、こんなことで幸せになってはいけない。漁夫の利を得た鬼や悪魔や魔物の類である私には、ほづみを本当に幸せにすることなんてできない。
私の家でなくとも、栗原美月や坂場朱莉の家でもいいはずだ。私はほづみを自宅に連れ込んで、何をしようというの。
今すぐにでも、ほづみを誰かほかの家に移したほうがいいだろう。
「かなえちゃん、一緒にお風呂入ろう」
~舞台裏~
刈谷かなえ「ティコーゼーは、紅茶のポットにかける覆いのことよ。熱が逃げないようにする効果があるわ。もし、ティコーゼーがなくても、濡れたタオルでも代用できるわよ。それよりも最後のセリフは本気なのかしら」
賀茂川家鴨「まあ……そうですね」
刈谷かなえ「歯切れが悪いわね。何のつもり」
賀茂川家鴨「いずれ明らかになります」
刈谷かなえ「入浴シーンに興味がないなら、『4 記憶 刈谷かなえ視点 - 1』にとぶといいわよ」