27 終幕 刈谷かなえ視点 - 4
空間の裂け目から、戦車や戦闘機が触手と戦闘を繰り広げているのを眺める。
「さながらパニック映画だね」
異空間は雨宿りの代わりになった。
「ねえ美月。どうしてそこまで、のんきにしていられるの?」
「んー? いや、ちょっと、ね」
美月は私の目をじっと見つめている。
「まさか、また何か、腹の底で考えているの?」
「ぎくっ」
私は美月のリアクション芸を見て、気持ちがなごんだ。
「そう。でも、無理はしないで」
「それがさ、無茶しないと上手くいかないんだよね。主にかなえちゃんが」
「ちょ、私?」
「ねえ、かなえちゃん。ほづみんの呪いって、吸い出せる?」
「へ? そうね、考えたこともなかったわ。やったことはないけれど、できると思うわよ。でも、そうすると、今度は私が呪われてしまうけれど」
「えーと、それは、ほづみんにかぶりついて吸う感じ?」
私は、自分がほづみにかぶりついている光景を思い描いた。
妄想を振り払うために、私は髪の毛を弄り回す。
「何が言いたいのか知らないけれど、おそらく、そんな感じになるわね」
「もう、かなえちゃんったら、エロいなあ」
「撃つわよ?」
私は拳銃の安全装置をおもむろに外してみせた。
美月は目を見開いて、ぺこぺこと頭を下げた。
「ごめん、ごめん! 撃たないで! そうじゃなくて、かなえちゃんがちょっとずつほづみんの呪いを吸い上げて、それをあたしが浄化するっていうのはどうかな、と思って」
「ねえ。それって、私がやらなくても、美月なら一度で済まない?」
「残念ながら、あたしはそういうこと、できないんだよね」
「じゃあ、私ができないと言ったら、どうするつもりだったの?」
「あたしがほづみんの身体の代わりになって、ほづみんの魂を引き受ける。厳密に言うと、ほづみんと精神を交換するんだけど、そうすると、あたしは消えてなくなっちゃうから、これは最終手段だね」
「美月、あなた、そんなことができたの?」
「んー、まあね。試したことないけど、ルナークはできるって言ってたし」
実は、私もルナークから最初に契約の説明を受けたとき、精神交換ができるようになるという話をされた。だから、やろうと思えばできるはずなのだけれど、怖くて一度も試したことがない。もし魔力が肉体に宿るのなら、魔力のない身体で、どうやって元の身体に戻ることができるのだろうか。あるいは、一時的なものなのだろうか。はっきりしないことが多すぎる。
「あ、見て。やっこさんが引き上げていく」
「賢明な判断ね。あいつらが消えたら、突入するわよ」
私と美月は自衛隊と取材ヘリが完全に視界から消えるのを待ってから、ほづみの元へと駆け出した。