27 終幕 刈谷かなえ視点 - 1
27 終幕 刈谷かなえ視点
「ほづみ?」
部屋にほづみがいないことに気づく。
「城井さん、ほづみがどこにいるか知らない?」
「さあ、どちらに行かれたのでしょう」
城井智子は滝沢小百合に目配せして、助けを求めた。
「滝沢さんはご存知ですか?」
「五分ほど前に、栗原美月様と坂場朱莉様が葉山ほづみ様を連れてどこかへ向かわれました」
「そう、ありがとう」
しかし、それから十五分ほど経っても、ほづみは戻ってこなかった。
「ほづみ、どこに行ったの?」
私は、あちこち探し始める。
「ほづみ、どこ?」
問いかけるが、返事はない。
下駄箱にはほづみの靴がある。洗面所や風呂場にもいない。
「ねえ、ほづみ、どこなの?」
少しずつ、嫌な予感が心臓の中を滴り始める。
「ほづみ、どこにいるの? お願い、返事をして……」
だんだんと駆け足になっていき、まだ探していないところを思い浮べる。
もしかしたら、入れ違いになって、地下室に行ったのかもしれない。
あの部屋は、ほづみには衝撃的な写真が壁一面に貼られている。
ほづみに見られるわけにはいかない。
私は地下室へと駆けていった。
「ほづみ!」
ドアを開くと、そこには結界を開いた痕跡があった。
私は異空間に飛び込み、辺りを見渡した。
そこには、ほづみとの思い出深い花畑が広がっていた。いまなら分かる、花の香りが鼻腔をくすぐる。晴れた空と花畑の稜線に、ほづみと、栗原美月と、坂場朱莉の姿が浮かんでいる。
ほづみ、どうして異空間にいるの?
どうして私の記憶の中が再現されているの?
手の平にじっとりとした汗が滲んでいる。
「……ほづみ?」
おそるおそる声を掛けると、ほづみは勢いよく振り返った。
私がほづみの顔を確認したときには、身体が宙に浮いていた。
花びらが舞い散り、視界が開けると、私は硬い地面に叩きつけられた。
骨が砕ける感触がした。小さくうめき声を上げる。
激しい痛みを伴いながら自然治癒するのを待つ間に、状況を確認する。
空は、夕焼けに似た早朝の空、さきほどまでの花畑はない。強い風に押し流されて、どんよりとした雲が押し寄せてくる。もうじき強い雨が降りそうである。
周囲には柵が張り巡らされ、遠くまでビル群が続いている。
どうやら、ここはビルの屋上のようである。
それから、不思議なことに、私は結界の中にいるというよりは、結界の外にいるような感じがした。