25 忘却 刈谷かなえ視点
25 忘却 刈谷かなえ視点
私、刈谷かなえは、ベッドで仰向けになって寝ていた。
目を覚ますと、誰かが私を覗き込んでいた。
「かなえちゃん、よかった!」
その誰かは、私の額を冷えたタオルで拭う。
「どなたか存じませんが、ありがとうございます」
「えっ? ええっ? かなえちゃん、わたしだよ、ほづみ!」
誰かは、私の名前を強く叫んだ。
「ほづみ……?」
私は記憶を手繰り寄せる。
こころが拒否反応を示すけれど、頑張ってみる。
少しずつ、大切なほづみのことを思い出してきた。
ああ、そうだった。私は魔物になり、ほづみを殺し続けたにもかかわらず、ほづみの傍にいる。私は、ほづみを、殺し続けていた……。
ほづみがこの世の終わりのような顔をしている。早く、安心させてあげないと。
「うっ……ほづみ、ごめんね。私、倒れちゃったのよね」
「うん、そうだよ」
「どれくらい寝ていたの?」
「一時間くらい」
「そう。心配させたわね」
私がほづみの頬を撫でると、ほづみの不安な表情は、ぱっと明るくなった。
「ねえ、ほづみ。私、ほづみを……どうしちゃったの?」
「かなえちゃんは、わたしを救ってくれたんだよ」
「本当に?」
「うん。かなえちゃんがいたから、いまのわたしがいるんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。昔のことで深く悩む必要なんてないんだよ、かなえちゃん。いまのかなえちゃんがここにいて、いまのわたしがここにいる。それだけだよ」
「ほづみ……」
私が感傷に浸っていると、ほづみの後ろにトランクが山積みになっているのが見えた。
「ちょ、ちょっと、何よ、あれ」
「みんな、いったん家に帰って、荷物を持ってきたみたい」
「えーと……みんな?」
私は苦笑いする。ほづみは満面の笑みである。
「うん、みんな。あ、ご飯あっためるね」
「ちょ、ほづみ、待って……」
ほづみはうきうきしながら、ぱたぱたと足音を立てて冷蔵庫へと向かった。
「まさか、全員、私の家に居候する気?」
「そうだよー」
ほづみの声が台所のほうから響いてくる。
「え、え? 私の意思は?」
私は、ころころと寝返りを打った。
そこへ、美月があくびをしながら通りかかる。
「あー、おそよう、かなえちゃん。身体、大丈夫?」
「まあね。それはともかく、これ、どういうことよ」
「うん? ほづみが『冬休みは、みんなで一緒にかなえちゃんの家に泊まろう!』って言うから、遠慮なくそうすることにしたんだよ」
「ちょ、ほづみ!」
「あったまったよー」
電子レンジの音とともに、緊張感のない返事が返ってくる。
「もう、ほづみ……」
私は軽く頬をふくらませた。