24 頓通 刈谷かなえ視点 - 2
「かなえちゃん、おはよう。ごはんだよ」
ほづみの優しさに、いつも救われる。同時に、ほづみの優しさは、私の罪悪感を膨らませた。
私は、全身に鞭を打って上体を起こす。
私のパジャマは、汗と涙でぐっしょりと濡れていた。
「おはよう、ほづみ。ごめんなさい、また一人で料理させちゃったわね」
ほづみは首を横に振る。
「今日は、みんなが手伝ってくれたんだよ」
ほづみの肩越しから、美月は顔を覗かせた。
「かなえちゃん起きたー? 起きたんなら作っちゃうけど」
「ええ、お願いするわ」
私はほづみの肩を借りて立ち上がる。
トイレと歯磨き、軽いシャワーをそれぞれ済ませる。
「今日は五目チャーハンとシーザーサラダ、それからお味噌汁だよ」
「そう。食材、買ってきたのね。あとで清算するわ」
「えっ、なんでわかったの? 美月ちゃんがスーパーまで飛んでいったんだよ」
「卵を切らしていたからよ。美月には悪いことをしたわね。それから、ほづみと、みんなにも」
ほづみは心配そうに私を見つめた。
私は俯きながら、私服の白いシャツの長袖に腕を通す。
「かなえちゃんは何も悪いことしてないよ」
「さて、どうかしら。みんな、私のせいでまだ朝食を摂っていないのよね」
「う。そ、それは、かなえちゃんと一緒に食べたいから」
「いいのよ、ほづみ。ごめんなさい」
私がほづみの頭を軽く撫でると、ほづみは気持ちよさそうに微笑んだ。
黒のタンクトップとスカートを身につけ、白と黒のボーダー柄の靴下を履く。
ダイニングに戻ると、香ばしい香りが、私の鼻腔と食欲をくすぐった。
台所では、美月がチャーハンを炒め終え、朱莉がキャベツを切り終えたところだった。美月は一口味見をして、満足そうに頷くと、大皿の上へ山盛りにする。
「よーし、できたよー。みんなでよそって食べておくれ!」
「なあ、美月。これでいいのか? 一応、適当に切ったんだけどさ」
「うん、まあ、いいんじゃない?」
美月は朱莉の切ったキャベツを皿に盛りつけようと箸で持ち上げた。
「あれっ、なんじゃこりゃ!」
美月は一本に繋がったキャベツを見て、げらげらと笑った。
朱莉は頬を赤らめながら、目を泳がせている。
「そういや、美月って、左利きなのか?」
「うん? そうだよ。知らなかった?」
美月は右手の人差し指に指輪を嵌め、両手で剣を握っていた。彼女が包丁を左手で握っている。
私は両利きだけど、いつも右手の中指に指輪をはめている。指輪には、精緻な蔦の文様が彫られ、風の魔力を宿した宝玉があしらわれている。
指輪は普段、透明になっている。指輪をつけていることから、私と同じ境遇の人に契約者だと悟られないよう、不可視の魔法を掛けてある。
それに、学校で指輪をしているのを見られたら、校則にうるさい教師に没収されてしまうかもしれない。美月はもう少し危機感を持ったほうがいい。
「かなえちゃん、もう少し寝てる? ふらふらしてるけど」
「いいえ……平気よ」
私は、一歩足を踏み出そうとして、頭の中で死にゆくほづみの泣き顔が流れた。
胸が張り裂け、こころの中で糸が切れたような気がした。
「ううっ……」
あまりの頓通に意識が途切れ、前のめりになる。
「かなえちゃん、しっかり!」
ほづみは細い腕で私の身体を支えた。
ほづみとみんなの驚く顔が見えたきり、私は気絶してしまった。